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ドリトル先生と森の狼達

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第十二幕その九

「それで、よね」
「充分だよ」
「子供の頃からなのよね」
「そうだね、皆と暮らせていればね」
「もう満足ね」
「充分過ぎるじゃない」
 それこそというのです。
「それに食べるものがあれば」
「もう何もいらないのね」
「ましてや今なんかね」
 日本にいる今は、といいますと。
「大学教授なんていう地位もあって収入もあって」
「いいお家もあって」
「それで本も好きなだけ読めて論文も書けて」
「学問三昧ね」
「美味しい食べものにお酒、それに最高のティーセット」
 先生がお茶の時間には欠かせないそれもというのです。
「これ以上ない幸せじゃない」
「動物の皆もいて」
「王子もトミーもね」
 この皆もというのです。
「じゃあもう何もいらないよ」
「そういうことよね、まあ確かに兄さんは今最高に幸せだけれど」
 ここでまた言うサラでした。
「もっと幸せになるつもりはないかしら」
「今こんなに幸せなのに?」
「さらにね」
「ここまで幸せでもっと幸せになれるのかな」
「兄さんさえ願えばそうなれるわよ」
「どういうことかな」
「兄さんがその幸せに気付けばね」
 それでというのです。
「手に入れられるものよ」
「さて、それは」
「じっくり考えてね、兄さん哲学者でもあるから」
「哲学の話かな」
「ソクラテスのお話よ」
「ソクラテスというと」
 このギリシアの哲学者の名前を聞いてでした、先生はふと思い出した様にしてこんな言葉を出したのでした。
「いい奥さんがいれば幸せになれる、悪い奥さんだと哲学者になれる」
「答え言ったじゃない」
「えっ、今?」
「兄さん自身がね」
「僕は確かに哲学者でもあるけれど奥さんはいないよ」
「自分で言った言葉の意味をよく考えてね」
 サラは呆れたお顔で言うのでした。
「本当にね」
「よくわからないけれど」
「わかったら兄さんはもっと幸せになれるから、ただ」
「ただ?」
「兄さんもう日本でずっと住むつもりよね」
「うん、もうお仕事もあるし日本に根付いた感じがするしね」
 それにと言う先生でした。
「日本が大好きになったから」
「日本にずっと住むのね」
「そうしたいと思っているよ」
「わかったわ、じゃあ私はこうして時々イギリスから来るから」
「大体数ヶ月に一回来てるね」
「だから主人のお仕事の関係でよ」 
 奥さんのサラもついて来ているからです。
「日本によく来て、主人の取引先がね」
「八条グループだから」
「その八条家の本拠地があるここにもよく来るのよ」
「そういうことになるね」
「その通りよ、じゃあまた来た時はね」
「今度はご主人も一緒に来てくれるかな」
「主人も?」 
 先生の今のお言葉にはです、サラはそのお顔を少しきょとんとさせて返しました。
「ここに来ていいのね」
「誰でも歓迎するよ、ましてやね」
「私の夫なら」
「大歓迎だよ」
「意外ね、兄さん小舅になるのね」
「あっ、そうだね」
 サラのご主人からしてみれば先生は奥さんのお兄さん、つまり義兄にあたります。その立場の人を小舅というのです。 
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