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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第1章:平穏にさよなら
  第3話「志導緋雪」

 
前書き
今回は緋雪視点から始まります。

 

 


       =緋雪side=





「お兄ちゃん、そろそろ戻ろう?」

「うん?あ、そうだな。」

  私はお兄ちゃんに声を掛け、食事場所だった屋上を去る。

「(...あんな転生者と一緒のクラスなんて、ちょっと嫌だなぁ....。)」

  唐突だけど、志導緋雪()は転生者である。今でこそ今の人生をしっかりと現実として捉えているけど、最初の頃はどこか浮かれていた。転生者になった事で、この世界を現実とは別物として捉えていたんだ。

  そんな中、私がこの世界を現実だと確信させてくれたのは、他でもない、お兄ちゃんだった...。





      ――転生前――







「.....あれ?」

  気が付くと私は、真っ白な空間に突っ立っていた。

「ここ...どこ?」

  見渡す限り真っ白なその空間に、私は混乱した。

「な、なにが起こって....って、うわっ!?」

  キョロキョロと見渡していると、いきなり目の前が光りだした。

「え、えっと....誰..ですか?」

  光が収まると、そこには仙人を彷彿させるような容姿のお爺さんがいた。

「そうじゃな、お前さん達の所で言う、神と言った所かの?」

「えっ!?か、神様!?」

  確かにそんな感じの雰囲気だけど...。

「ほっほっほ、別に信じなくても構わんよ。それに今は関係ないしの。」

「は、はぁ...?」

  愉快そうに笑うお爺さん。...こんな喋り方をする人、初めてみたなぁ。

「まずは....すまなかった!」

「えっ?...ぇええええええっ!!?」

  いきなり頭を下げられて謝られる。

「儂がいるこの世界ではな、下界の...お前さん達の寿命にも繋がる書類があっての、とある事情でその書類を安全な場所に運ぶ時、他人とぶつかった拍子に破いてしまってのぉ...。咄嗟に避難させようとしたのじゃが、お前さんのだけは助けられんかった。」

「...えっと、つまり....。」

「儂のミスで、お前さんは死んでしまったんじゃ。」

  お爺さん(神様)の言葉に少し固まってしまう。

「私...死んじゃったんだ....。」

「お詫びと言ってはなんじゃが、お前さんに縁のある世界に転生させるつもりじゃ。」

「え...?それって、よくある“神様転生”って奴ですか?」

  小説サイトの二次創作である奴がそんな感じなのが結構あった気が...。

「...まぁ、そんな感じじゃの。嫌なら別の事を要求してくれてもよいぞ?」

「...いえ、転生で構いません。」

  元々、ほとんど未練はないようなものだ。どうせなら、転生してみたい。

「そうかの?..ふむ、それだけでは物足りなさそうじゃから、三つまで追加の要求をしとくれ。」

「特典みたいなものですか?」

「そうじゃ。ただ、あまりに強力すぎるのは却下じゃ。」

  そっかぁ...。じゃあ......。

「東方の、フランドール・スカーレットの強さをください。」

「ふむ...ほう、これか。“強さ”というのは、能力も含むのじゃな?」

「はい。」

  これは、ただ単に私が生前に一番好きなキャラクターだったから選んだだけ。...まぁ、強いしいいかな。

「これで一つ目じゃ。他にないかの?」

「えぇっと...あ、優しい家族と、お兄ちゃんをください。」

「ほう?」

  あ、言ってみて少し恥ずかしくなった。

  私が今のを要求したのは、生前では家族にあまり愛されなかったからだ。いつもどこかピリピリしてて、時たま私にストレスをぶつけてきたりもした。それに昔から私は朝に弱くて、学生時代はずっと怠惰な人生だったから、愛想を尽かされたんだと思う。だから、今度の人生は、そんな事がないようにしたい。...と言ってもただの念押しのための願いだけど。

「家族は特に分からんでもないが...なぜに兄が?」

「....えっと、その...そういうのに、憧れてたから?」

  頼りになる兄に甘えるって言うのをやってみたいんだもん!

「...まぁ、いいじゃろう。三つ目はあるかの?」

「うーん...。」

  特に、思いつかないんだけどなぁ...。

「あ、私が転生する世界ってどんな所ですか?」

「それは儂にも分からん。飽くまで儂はお前さんの魂に縁のある世界へと送るだけじゃからの。...あぁ、ただ、他の転生者がいるかもしれん。お前さんを呼び寄せる寸前に、複数の人間が転生しおった。」

「そうなんですか...。」

  他にも転生者が...。

「...そうじゃの。お前さん達の世界にある小説では、“踏み台転生者”なる転生者が、洗脳・魅了系の特典を持ったりするそうじゃの。...と、言っても大抵は意味がないようじゃが。」

「あ、はい。大体そんな感じですね。」

「そうであれば、洗脳・魅了系の無効化でいいかの?」

「それはいいですね。」

  お爺さんの提案に私は賛同する。この特典なら、転生者以外の存在からの洗脳も受け付けないだろうし。...自分の意志が操られるって怖いし、嫌だからね。

「これで三つですね。」

「そうじゃな。....最後に、本当にすまなかった。」

「...いえ、私自身、人生に挫折しかけていましたから、別に許しますよ。」

  そう言うやいなや、私は光に包まれていき、意識が薄れて行った。















「―――おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」

  気が付くと、私は赤ちゃんになっていた。

「(...うわぁ、生まれ変わるって、こんな感じなんだ...。)」

  赤ちゃんになる事なんて普通はありえないから新鮮だね。

「(あ....また、眠く......。)」

  生まれたばかりの体では思考する事もきついのか、また私の意識は沈んでいった。





     ~2年後~





「(....暇だなぁ....。)」

  えっ?時間が飛んでるって?...気が付いた時には、既に2年近く経ってたんだよね...。どうやら、本能だけで今まで成長してきたらしい。

「(...子供らしく振る舞うって、難しい...。)」

  本能だけで育ってきたとはいえ、今までどんな振る舞いをしてたかはうっすら覚えてるし、前世の家庭科とかで習ったりもしたからどう振る舞うのかは分かる。...だけど、恥ずかしいんだよね...。

「ひゆきー?おきてるー?」

「おきてるー。」

  私がいるところに、私より少し成長してる男の子がやってくる。私のお兄ちゃんである志導優輝だ。あの神様は希望通り、優しい家族とお兄ちゃんをくれた。

「ごはんだよー。」

「はーい。」

  今は子供っぽく振る舞わないといけないから窮屈だけど、もう何年かすれば少しはましになるかな?







     ~さらに3年後~





  え?また時間が飛んだって?...窮屈な時間をダラダラ過ごしただけの日々のどこが面白いの?

「うー....やっ!」

  地面に置いている石を握りつぶすイメージで手を握る。だけど、何も起こらない。

「う~ん...やっぱり、魔力とかが分からないとダメかなぁ...。」

  私は今、特典で貰ったフランの強さの一部、“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”が使えるかどうか試していた。だけど、上手く行かない...。

「...あー、デバイスがあればなぁ...。」

  欲を言えばインテリジェントデバイス。それがあれば魔力が分かるのに...。

「まさか、“リリカルなのは”の世界なんてねぇ...。」

  ふと目に入る私立聖祥大附属小学校のパンフレット。お兄ちゃんが通っている学校だ。私はこれを見て、この世界が“リリカルなのは”の世界だと分かった。

「....まぁ、別に私は今の家族さえいれば...。」

  原作の事件は他の転生者に任せておけばいいし。...まぁ、能力は使ってみたいけど。

「緋雪ー。そろそろ出かけるよー。」

「あ、はーい。」

  お兄ちゃんから声がかけられ、私達は家族四人で買い物に出かける。







「....あれ?」

  買い物の帰り、お兄ちゃんが通りかかった公園を見て呟く。

「どうしたの?」

「いや...あの子...。」

  お母さんに聞かれて、お兄ちゃんが示した方向を見てみると、

「(...あの子ってもしかして....?)」

  茶髪でツインテールの女の子がブランコに寂しく座っていた。...間違いない。高町なのはだ。

「...随分寂しそうね。何かあったのかしら?」

  お母さんも彼女の雰囲気に気付いたのか、心配になって声を掛けに行く。

「ねぇ。」

「....ふえ?」

  いきなり声を掛けられて、間の抜けた返事を返すなのはちゃん。

「こんな時間に一人でどうしたの?」

「あ..えっと...その....。」

  お母さんの問いに、口籠ってしまうなのはちゃん。

「お母さんやお父さんが心配してるわよ?」

「っ....。」

  “お父さん”の単語に反応を示すなのはちゃん。やっぱり、これは原作にもあった高町士郎さんが大怪我した頃なのね...。

「...おかあさんは、おとうさんがおおけがをしておみせがいそがしいから、なのははめいわくにならないようにここにいるの。」

「....そう...。」

  なのはちゃんのお父さんが大怪我をしてる事に、少し驚いた顔をするお母さん。

「...でも、こうやって遅くまでお外にいたら、それこそお母さんに悪いわよ?」

「っ...それは....。」

「それに、あなたぐらいの子は、もうちょっと甘えるべきなのよ。」

  諭すようになのはちゃんにお母さんは言葉をかけていく。

「で、でも、それだとめいわくだよ...。」

「子供は迷惑を掛けるものよ。...私もこの子達の母親だから分かるのよ。もっと甘えてもいいのに、この子達はあまりにもお利口さんすぎるから、ちょっと寂しいぐらいなのよ。」

  苦笑いしながら言うお母さん。...確かにあまり甘えてないなぁ...。お兄ちゃんも目を逸らしてるし。

「自分の子供が何か我慢してると、親は心配でたまらなくなるわ。こんな時間まで一人でいると、きっと皆心配で心配で、...それこそ迷惑になるくらいだと思うわ。」

「っ....。...だったら、どうすればいいの...?」

  お母さんの言葉にどうすればいいのか涙目になるなのはちゃん。....どうでもいい事なんだけど、今のお母さんの言葉、五歳児には難しいんだけど...。

「...我慢しなくていいの。“寂しい”とか、自分の気持ちをしっかり打ち明けたら、きっと寂しい思いなんかしなくなるわ。」

「...ほんとう?」

「えぇ、本当よ。だって、あなたの母親は優しいんでしょう?」

「...うん。」

「だったら大丈夫よ。ほら、お家に帰りましょう?」

  優しく手を引いてなのはちゃんを帰らせようとするお母さん。

「あなた、子供達を先に連れて帰ってちょうだい。私はこの子を家に送っていくから。」

「ああ、分かった。」

  お母さんはお父さんにそう言って、なのはちゃんを送っていく。私達はお母さんなら大丈夫だと思い、お父さんと一緒に先に家に帰った。

「(...もしかして原作に関わっていくパターン?これって。)」

  フランの強さを願っておいてなんだけど、私ってあまり命懸けの戦いとかしたくないんだけどなぁ...。

「(...いや、まだ大丈夫。ただ単に家族がなのはちゃんを心配して少し関わっただけだから、悪くても友達止まりなはず...。)」

  原作に巻き込まれて行きそうで心配になる私。

「(...まぁ、そこまで心配しなくてもいっか。無闇に悩んでたら逆に悪い方向に向かってしまうだろうし。)」

  そう楽観的に捉える事にして、嫌な事を考えないようにする。

「緋雪ー?どうしたの?早く帰るよ。」

「あ、うん。待ってー。」

  少し立ち止まってしまってたのか、お兄ちゃんに声を掛けられる。私は急いでそれを追いかける。

「(...私には今の家族がいる。それだけで十分なんだもの...。)」

  原作とかがあっても私には関係ない。私はそれ以上望まない。そう、私は考える事にした。

  ...結局、どこか私は今の人生をアニメの世界だからって、どこか現実として認識していなかったかもしれない。どんな事もなんとかなると思ってたのかもしれない。



















   ―――だから、両親がいなくなってあそこまで悲しくなったのだろう。















     ~約11ヶ月後~





   ―――トゥルルルル!

「あれ?電話?」

  春休み、私がお兄ちゃんと同じ学校に行ける事になったお祝いとして、両親が買い物に行っている時、家に電話が掛かってきた。

「もしもし....。」

  お兄ちゃんが電話に出て応対する。

「........え.....?」

  何を聞いたのか、お兄ちゃんが受話器を持ったまま固まる。

「ぇ...あ....ほん....とう...なんですか....?」

  茫然自失のような状態で聞き返すお兄ちゃん。

「はい....はい......そう...ですか...。....わかりました....。」

  そう言ってお兄ちゃんは電話を切る。

「...何かあったの?」

「緋雪.....心して聞いてくれ....。」

  お兄ちゃんはそこで間を空けて言葉を放った。









「―――お父さんとお母さんが事故に遭った。」







「........え.....?」

  一瞬、その言葉を理解できなかった。

「行きの途中、突然スリップして道路をはずれ、木々に激突したらしい。」

「ぁ...嘘....。」

「...しかも、それだけじゃないんだ。」

  いきなり両親を失った喪失感に頭が真っ白になっている所に、さらに追い打ちがかけられる。

「....死体が、見つからなかったらしい。」

「...どう...いう....?」

  訳が分からなかった。いきなり事故だと告げられて、しかも死体がないなんて。

「車はぐちゃぐちゃ。それなのに、一切血痕や、死んだ証拠となるものがなかったらしい。」

「なに...それ....?」

  聞けば事故の起こった周辺にも痕跡はなかったそうだ。そう、まるで神隠しのように。

「...そして、目撃者の中に不可解なものを見た人がいたんだ。」

「不可解なもの?」

「...曰く、スリップしている時に両親以外の人影を見たとの事だよ。それと、激突する寸前に車内が光っていたように見えたらしい。」

  ...本当に不可解なものだ...。元々、目撃者も少ないらしく、詳しくは分からないらしい。

「...一応、行方不明扱いにはするけど、生存は絶望的だってさ....。」

「そんな....。」

  両親を突然失った喪失感。それは、転生を心のどこかで浮かれていた私を、一瞬で現実に戻すのには十分すぎた。













  しばらくして、両親を弔うために葬式が開かれた。...棺桶は空っぽのまま。

「..........。」

  周りにはあまり人がいない。両親は特に有名って訳でもなかったので、親戚の人達や近所の人がちらほらいるだけだった。

「..........。」

  私は、ただただ呆然と葬式が進んでいくのを見ていた。隣にはお兄ちゃんもいる。でも、私の心はぽっかり穴が開いたようで、目の前の事をしっかりと認識できていなかった。

「....かわいそうに...。」

「まだ6歳と7歳の子供よ?」

「どうやって生きて行くのかしら....。」

  葬式に来ている人の何人かが私達を見てそんな事を呟いている。

「っ.......!」

「.....。」

  お兄ちゃんにもそれが聞こえていたのか、手や足に力が入るのが見て取れた。







「........。」

「...帰るよ。緋雪。」

  葬式が終わり、お兄ちゃんにそう声を掛けられる。小さく頷いて、私達は家へと帰っていった。

「ただいま。」

  お兄ちゃんが家に入ると同時にそう言う。...だけど、返事は返ってこない。...お父さんもお母さんも、もういないんだ...。

「ぁ....ぅ...ぁぁ....。」

  その事に改めて実感させられると、突然涙が溢れて止まらなくなる。

「.....。」

「ぅぁあ....。」

  涙を堪えながらお兄ちゃんに背中を押されてリビングへと向かう。

   ―――「お帰り。二人とも。」

   ―――「今日も二人で遊んでいたのか?」

「っ....!」

  お母さんとお父さんの幻聴が聞こえた。...それだけ、私は両親が大事だった。その事に気が付くと、今度こそ涙腺は決壊した。

「うぁ...ああああああああああ...!」

「.....。」

  ソファーに泣き崩れる。涙が止まらない。声を我慢できない。ただただ、私は泣き続けた。

「あああああ...!お父さん...お母さん....!あぁぁ....!」

「.......。」

  泣き続ける私に、お兄ちゃんは黙って背中を撫で続けてくれた。...それだけが、今の私にとって安心できる事だった...。













   ―――トン、トン、トン

「......ぅ.....?」

  ふと、気が付く。どうやら、私は泣き疲れて眠っていたみたいだ。

「....お?緋雪、起きたか?」

「...お兄ちゃん...?」

  音のする方を見れば、お兄ちゃんがキッチンで料理をしていた。

「ちょっと待っててくれ。遅めだけど、もうすぐ晩御飯ができるから。」

「晩御飯...?」

  そう言ってお兄ちゃんは手際良く...いや、そう見えるだけで所々ミスしながら、料理を盛り付けて行く。

「はい。完成だ。あまり上手く作れたとは思えないから、味には期待するなよ?」

「あ....うん...。」

  “いただきます”の合図と共に、私は料理に手を付ける。

「...美味しい....。」

「そうか?それは良かった。」

  確かに味は絶品っていう訳ではないけど、十分に美味しく食べれる程には美味しかった。

「....大丈夫だ緋雪。僕が、頑張るから...。」

「お兄ちゃん....。」

  もしかして、私を元気づけるために料理を...?

  ...そういえば、お兄ちゃんは両親を失ってから一度も泣いてなかった。葬式の時だって、私が泣いてしまった時だって、一切涙を流さなかった。

「...今日は、眠れるか?」

「...わかんない。」

  さっきも寝てしまってたし、まだ悲しさは残っているから何とかそれを抑えておかないとまた泣いてしまう。

「...じゃあ、眠れるまで僕が傍にいてあげるよ。」

「本当...?」

「もちろん。」

  私を撫でながらお兄ちゃんは微笑む。

「....じゃあ、お言葉に甘えて...。」

「うん。」

  その後、お兄ちゃんは食べ終わった食器を洗い、ずっと私の傍にいてくれた。眠る時なんかは、安心させるためにずっと手を握っていてくれた。







「....うん.....?」

  ふと目が覚める。時計を見れば、ちょうど12時くらいだった。

「...あれ?お兄ちゃん...?」

  眠る前まで傍にいたお兄ちゃんの姿がない。

「どこ....?」

  静かに部屋を出ると、下の階のリビングの方が明るいのに気が付く。

「お兄ちゃん....?」

  足音を立てないように静かに階段を下りて、リビングへと向かう。...そこで、

   ―――.....ぅぁぁ....

「....泣き声...?」

  嗚咽を漏らすような泣き声が聞こえた。気になった私は恐る恐るリビングを覗く。

「(あれ...お兄ちゃん...?)」

  リビングには、テーブルに突っ伏すように泣いているお兄ちゃんの姿があった。

「ぁあああ....うぁあ....。」

「(....お兄ちゃん...。)」

  ...本当は、辛かったんだ。ずっと、泣きたかったんだ。でも、私に弱い所を見せないように、必死に我慢してたんだ...。

「(ごめんなさい...ありがとう....。)」

  今まで心のどこかで転生の事で浮かれていた自分が恥ずかしくなった。...同時に、この世界を現実としてしっかり生きて、お兄ちゃんの支えになりたいと、心の底から思った。





     ――翌日――





「おはよう、緋雪。」

  眠たい目をこすりながら起きてきた私にお兄ちゃんはいつもと変わらない笑顔でそう言った。

「おはよ~...。」

「顔、洗ってきなよ。僕は朝食を作っておくから。」

  その言葉で目が覚める。両親がいない事を思い出させられたからだ。

「お兄ちゃん....。」

「うん?なに?」

  もう、泣く事はなくなった。これでも前世があるし、なにより、お兄ちゃんが励ましてくれたから。

「....もっと私も頼っていいんだよ?」

「....っ!緋雪....。」

  でも、お兄ちゃんは励ましてくれる人がいない分、まだ悲しさが残っているみたいだった。その証拠に、少し目が赤くなっていた。

  ...だから、今度は私がお兄ちゃんを助ける番。

「....ありがとう。」

「うん。じゃあ、顔を洗ってくるね。」











  こうして、私達は何とか立ち直る事が出来た。そして、お兄ちゃんと一緒に生きて行き、助けになろうと強く心に誓った。











 
 

 
後書き
書いていたら結構長引いてしまった...。
両親を失った所の場面を書いている時、ちょっと心に響いた事は内緒です。

ちなみに、優輝は緋雪の事を転生者だと気付いていますが、緋雪は気づいていません。ただ、もし転生者だと分かっても、突き放す事はしないつもりです。
 
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