普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
103 はじめてのボス戦 その2
SIDE 《Kirito》
――「転落地点でソードスキルをぶちかませぇぇっ!」
ボスの巨体を──《イルファング・ザ・コボルド・ロード》をかち上げていたティーチは、ティーチ自身も跳躍していつの間にか上空へとボスを追っていた。……先程のティーチからの怒号が、レイドの皆を呆気に取られていた皆を現実へと引き戻す。
――ズズゥゥン
ティーチに、地面に叩きつけられた様な風体に《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は、砂煙の様なエフェクトを撒き散らす。HPバーを見れば、最後の1本の10分の1程度となっていた。
「せぇいっ!」
「ふんっ!」
「でぇぇいっ!」
「やぁぁっ!」
俺の、エギルの、キバオウの、ディアベルの──皆のソードスキルが残り僅かとなっているボスの──最後のHPバーを残り数ドットまで追いやる。……そう。追いやるだけで、ゼロにした訳では無かった。
(拙──)
2回目の転倒は1回目よりも起き上がりが早かった様で、ボスが明らかに1回目よりも早く起き上がろうとした時…。……間に合わないかと思ったが──空からの一閃が《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の胸部を貫いていた。
……よくよく見れば、ティーチが槍で貫いていた。
(……やった)
なぜだかは判らないが、そう確信出来た。……その予感──若しくは希望的観測は正鵠を射ていた様で、ボスのHPバー見れば見事にゼロとなっていた。
そして、数秒の内に《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は他のMobと同様にポリゴンとなって消滅していった。
――パァァァァン…!
儚さすらも覚えるその音と共にボスが爆散した数瞬後、[Congratulations!]と──でかでかと記されたその表示は、《イルファング・ザ・コボルド・ロード》を討伐した首級代わりに、システムがティーチを讃えているようにも思えた。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!!』
――「勝った! ……勝てたんだ…っ!」
――「漸く1層か、だがこれで…っ!」
怒号ともつかぬ歓喜の嵐が巻き起こる。……然もありなん。〝たかが1層、されど1層〟。100ある道の1歩とは云え、漸く〝1歩〟を踏み出す事が出来たのだ。その喜び方も一入だった。
(LAはティーチか──)
上空(?)──もとい、虚空に表示された[Congratulations!]から、いざ今ボス戦の立役者──ティーチに視線を落とした時、〝異変〟に気付いた。
「………」
ティーチがその場に倒れ臥していた。ティーチに某かの──〝毒状態〟掛かったと思い、慌てて左上を確認するも、《Teach》の欄のゲージを確認するがティーチのHPバーには異変は見られなかった。
「ティーチっ!」
「ティーチ兄ぃっ!」
ティーチの〝異変〟に、駆け寄る俺とリーファの兄妹。ディアベル達は呆気に取られているのが判るが、実兄の〝よくない異変〟と秤に掛けたら、今は何のそのである。
「……っ!?」
……ティーチは不意に目を見開き凄まじい勢いで起き上がる。
「……大丈夫、なのか…?」
「取り敢えずは、な──っと」
「っ!! 駄目だよ、いきなり倒れたのに急な動きをしちゃあ」
「……悪いな、リーファ。でももう大丈夫だよ。……ところでどれくらい意識失ってた?」
「多分3分くら──」
立ち上がり、〝大丈夫だ〟みたいなポーズを取り、リーファを安心させようと──リーファの頭を撫でようとしたティーチだったが、先程の〝異変〟の名残があるのか軽くよろける。
「あぁっ、もぉっ! だから言ったでしょ?」
「んっん! ……取り込み中のところ悪いけど、〝何が有ったか〟聞かせてくれるかな、ティーチ君」
……リーファがよろけるティーチを支えたところに、ディアベルが〝攻略隊皆が抱いているであろう疑問〟を訊きたかったのか、俺達の中に割り込んできた。
「……それは俺が《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の〝どでかい体〟を打ち上げた方法の事か? ……それとも、俺がいきなり倒れた事か?」
「両方だよティーチ君。それに〝見たことのないスキル〟に対応出来た理由も教えてくれ」
ディアベルはティーチの確認に註釈をいれながら、更に続きを促す。……2、3拍置いてティーチは徐に語り出す。
「……取り敢えず大前提として言っておこうか。……俺がやったのは、広義的にコンピュータゲームに於いて本来とは異なる動作をさせる行為──俗に云われている〝cheat(チート)〟じゃない」
「嘘やっ! ほんなら、なんであんな動きが出来たんや!」
「ちょっと話の本筋がずれてしまうが、まずはディアベルに聞いておこうか。……人間って〝脳〟の何パーセントを自在に使えていると思う?」
「……その言い振りなら100パーセントじゃないんだろう?」
(……あれ…? ちょっと待てよ──もしかして…っ!?)
何の気も無しに語るティーチにキバオウが喚く様に突っかかるが、ティーチはキバオウをスルーしながらディアベルにそんな──全く関係の無さそうな事を聞く。ディアベル当たり障りもなく答えた時、俺の中で〝何か〟が弾けて、〝点〟と〝点〟が繋がり〝線〟となった。
……ディアベルの反応を見れば──どうやらディアベルも同じ答えに辿り着いたらしい。……そんな反応──〝バケモノ〟を見るかの様にティーチを見ている。……俺もティーチと〝現実〟で兄弟じゃなかったら、ディアベルと同じ反応していたかもしれない。
「いや──もしかしてティーチ君は自分の脳の100パーセントを自在に操れるっていうのかい?」
「100パーセントじゃないが、他人より多く──他人より巧く〝脳〟を使える自信はある。……要は──俺は〝火事場の馬鹿力〟が意図的に使えるんだ。《イルファング・ザ・コボルド・ロード》を打ち上げたのは、その〝火事場の馬鹿力〟なんだよ」
「「「………」」」
ティーチの独白にレイドの皆は黙りこくる。……然もありなん──それもそうだろう。いきなり、〝俺、火事場の馬鹿力マスターなんだぜ〟と云われても反応に困るのは仕方ない。
……でも、俺はティーチが──真人兄ぃが、人をおちょくる様な態度は偶に有れど──わざわざ人を混乱させる様な嘘を吐くような人間ではないことを知っている。……そして、俺と同じく〝そんな事〟は知っているだろうリーファは神妙な──〝どう反応したら良いのか分からない〟とな顔をしていた。
「〝火事場の馬鹿力〟──それが俺が《イルファング・ザ・コボルド・ロード》を打ち上げられた理由だよ。……倒れた理由は多分フィードバック。あの〝火事場の馬鹿力〟はこのゲームのシステム的に拙いものだったらしい」
……「二度とこのゲームで〝ストレングス〟を使ったりしたくない」とか「あ。よくよく考えたら、実質的な意味じゃチートかも」──と近くに居た俺とリーファにだけ判る様な声量で呟くと話を句切る。
(〝ストレングス〟…?)
「そんなら、あんボスのよう判らんソードスキルに対応出来たんは何でやねん!」
「そんなもん勘──とは云っても信じないだろうからこう言うが…あの〝謎のカテゴリーのソードスキル〟に対応出来たのは、ひとえに〝経験〟の一言に尽きる」
聞き慣れない言葉に頭を捻っていると、キバオウが俺も聞きたかった事をティーチへと問い掛けたが──ティーチからの返答は全く慮外のモノだった。……それだけではあきたら無かったのか、更に〝常識外れ〟を体現するかの様な言葉を投下する。
「……ちなみに元から〝あのソードスキル知っていた〟──とかは無いからな。〝相手の肩の動き〟を見つつ、〝自分が攻撃されたら一番イヤなところ〟に相殺用のソードスキルを置いておけば、それで相殺できる。……真似するのはオススメしない」
「……っ…」
今、ティーチが嘘を吐いたのが判った。……ティーチは──真人兄ぃは、嘘を吐く時に決まって目を瞑りながら頷くような体をとるのだ。……リーファも、ティーチを驚きの目で見ているあたり、リーファもティーチが嘘を吐いているのに気付いたらしい。
……俺は──俺達は、ティーチが──真人兄ぃが吐いている嘘を知っているので何も口を出さない。……真人兄ぃが──ティーチが抱えている〝傷〟は深い。〝それ〟がバレたらこのデスゲームに於いて、致命的な瑕疵となる。
(……言えるわけ無いよな…。……いや、〝ティーチにそれを言わせるわけ〟にはいかない)
……ある意味でティーチは──真人兄ぃは茅場 晶彦にこのゲーム作成の片棒を担がされたようなものだ。……俺は真人兄ぃが──ティーチがどんな心積もりでレベリングに身を擲っているか、推察出来ている。
ティーチは、〝自分がソードスキルの作成に携わった事〟を今でも引き摺っているのだ。野太刀──〝カタナ〟のスキルを知っているのも、〝カタナ〟のソードスキルの作成に真人兄ぃが携わっていたからだろう。
……デスゲームの初日、俺はティーチとリーファ──真人兄ぃとスグの優しさに甘えた。……3週間以上が経過した今だからこそ判る。……本当に気に病んでいたのはティーチ──真人兄ぃだったのだ。
閑話休題。
「……そろそろ良いか? 割りと疲れてるし、出来ればこのままでも眠りたいんだが…。……くぁ~、やっぱりディアベル達に2層の解放を頼んで良いか? ちょっとここで仮眠を摂って行く事にした」
「……最後に聞かせてくれ。その──〝脳のリミッター〟を他の人が外す方法は在るのかい?」
「……一応在るには在るがオススメはしない。……俺の醜態を今も見ているディアベルなら判ってるだろう? ……くぁ~…」
「……そう、だね。…… 立役者が不在なのは残念だが──皆、行こう! 早く第2層が解放された事を、〝今か今か〟と待ちわびているだろう【はじまりの街】の人達に喧伝しに行くぞ!」
「「「おうっ!!」」」
ディアベルは頷く。……たった十数秒で〝コレ〟である。ティーチの〝アレ〟が攻略に使えない事がすぐに判ったのかもしれない。……ディアベルはレイドの皆を連れて第2層への階段を昇って行った。
「くぁ~。……悪いな、キリト。……少しの間護衛を頼む。1時間もしない内に起きるから…」
「判ったよ」
ティーチは生欠伸をしながらくたくたの身体に鞭打ち、右手を振ってパーティー解散のコマンドをタップしたらしく、[パーティーが解散されました]とな言葉の後、パーティーからティーチ達のキャラクターネームが消える。
「……皆は行かないのか? 俺とリーファはまだしも…」
「俺は待ってるぜ、ただでさえこんな子供にボスを任せちまったんだ」
「ボクも残るよ。……ティーチ君には幾つか話したい事もあったしね」
「皆が残るのなら、私も残るわ。だって攻略隊の皆は男の人ばっかりだし…」
エギル、ユーノ、アスナの順番でこの場に残ると云う意思を見せた。
(詳しい話は、その内にでも聞かせてもらうからな…。……真人兄ぃ)
……デスゲーム宣言から約1ヶ月。第1層ボス──《イルファング・ザ・コボルド・ロード》は斯くして討たれたのだった。
……俺達は知らない事だが、ディアベル達が行った〝2層解放〟の一報は、第1層で留まっている人達にとって希望への発露となったとか。
SIDE END
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