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銀魂~Sirius and Antares~

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第2話;小さいときのことってあんまり覚えてない

 
前書き
主人公、平山悠人の目線から始まります。いよいよ本文です。 

 
どうして戦争は無くならないんだろう。
小さいとき、いつの日か父に聞いたことがある。
僕の家は代々幕府に務める幕臣の家だった。だから、物心ついたときには、既に剣術だの砲術だの武術に囲まれていた。周りは当たり前のように、毎日稽古をしたり、難しそうな本を読んだり、とにかく忙しそうだったのを覚えている。
僕の母は、僕が幼いときに病気で亡くなったらしい。だから僕には母の記憶がない。父にお母はどんな人だったの、と聞いたことがあるけれど、父はいつもは気難しい顔を母の話をするときだけは、顔をほころばせて嬉しそうに話してた。


父はまだ小さい僕に、毎日のようにみんなの稽古を見学させてはこう言った。
「お前も彼らのように必死に腕を磨いて、いつか上様をしっかりお守りできるような立派な武士になるんだ」

父の言う『立派な武士』になるために、僕は毎日必死に竹刀を振るった。ときには眠くなるような太い本を読んだり、自分より年上の人と稽古をしたり。
多分僕はこのとき必死だったんだろう。父の期待に応えたい、父を喜ばせたいって。
だけど、あるとき窓から見えたんだ。僕と同じくらいの子供たちが仲良く遊んでいるところを。楽しそうに畑の中を走り回ってるところを。
僕はこのとき思ったんだ。どうして自分は、彼らのように遊んでいないんだろう。どうしてこんなことを続けないといけないんだろう、って。
そして僕は気付いた。自分には、友達がいないということに。周りの人はみんな年上ばかり。もちろんみんな優しいし、いい人だ。だけど、僕みたいな子供は一人もいない。
そう思ったら急に悲しくなっちゃったんだ。涙が止まらなくて、泣いちゃいけないと思ったけど、涙は後から後から出てきた。多分僕はこのときのことをずっと忘れないと思う。
そしてわからなくなった。一体なんのために竹刀を振るのか。一体なんのために立派な武士になるのか。
侍とはなんのために存在するのか。


このとき僕はまだ知らなかったんだ。今、侍たちが国を守るため、天人たちと戦っていたことを。そして、確実に攘夷戦争の影が迫っていたことを。


僕はこのとき14歳になっていた。この頃には僕にも友達が出来て、中でも仲がいいのは大輝と火憐の二人だった。
小さいときに比べて、確実に攘夷戦争の存在は近くなっていた。まわりにも、攘夷戦争に出るために邸内の道場から去っていった人たちがいた。僕がこのときに聞いたことがある攘夷志士の中で最も残っているのは、泥水次郎長と西郷特盛の二人だった。見たこともない人達だけど、とにかく凄いらしい。
攘夷戦争のことは度々聞いていたが、僕にはどうしても理解できなかった。国を守るために戦うってことは凄いことだと思う。だけど、どんな理由をつけようが戦争は戦争だ。
必ず誰かは死んでしまうし、そのせいで誰かが必ず悲しむことになる。
確かに攻めてきたのは天人の方だ。屈服するなんてことは嫌だろうし、腹も立つだろう。
だけど、国を、人々を守る方法は本当に戦争だけなんだろうか。誰かが死ぬことになるのなら、いくら国の為に戦うと言ったって意味ないんじゃないかと思った。本当に天人とは戦争するしかないのか。天人と話し合って仲良くすることは出来ないんだろうか。
この頃の僕はこんな疑問でいっぱいだったが、もちろんこんなことを言い出せる雰囲気なんかじゃなかった。
戦争ってそもそもなんのためにするんだろう。戦争をして何かいいことなんかあるんだろうか。例え人間と天人とはいえども、同じ生き物だ。どうして同じ生き物同士で争わなきゃいけないのかなんてことも考えてた。
武家に生まれたのに何言ってんだ、って感じだけど。

そして答えが知りたくなった僕は、父に思い切って聞いてみたんだ。戦争はどうして無くならないの?って。
父は少し驚いた表情で僕を見たけど、すぐにいつもの気難しい表情に戻って、ただ一言こう言ったんだ。
「お前、人間の敵って一体なんだと思う?」

「え?」
僕は突然の問いに驚いて、答えることができなかった。父はいつになく真っ直ぐ僕の目をじっと見つめていたけど、やがて父は静かに部屋を出て行った。




あれから年月が経って、僕は15歳になった。どうして戦争は無くならないのか、なんて疑問はいつの間にか頭の中からは消え去って、毎日必死に刀を振るう毎日だった。どうにかして天人と仲良くできないだろうかなんて考えはいつの間にか消え去っていた。ただただ強くなることを考えていた。

あれから攘夷戦争の流れは大きく変わり、江戸城が砲撃を受けてから、まだたくさんの志士たちが戦っていたにも関わらず、幕府は天人に弱腰を見せ不平等な条約を結び、幕府は天人の傀儡と化した。今まで国を守るために戦ってきた志士たちは、今や幕府に見捨てられ、幕府にあだ名す国賊とされてしまったのだ。非情にも、各地で攘夷志士討伐命令が言い渡され、国内は内乱状態に陥った。今や国の敵は天人ではなく、攘夷志士となったのだ。
そして僕は15歳となった今、幕府兵として訓練を受けていた。数週間後に永禄山の方で攘夷志士達と僕達幕府軍の戦いが行なわれることとなる。
そして僕は初めて出会うことになる。
あの四人に。


 
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