狐のお面
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4部分:第四章
第四章
「それならです」
「それなら?」
「どうぞ」
この言葉と共にです。お面をもう一つ出してきました。そっくりそのまま同じお面を二つ並べてみせています。それを源五郎に差し出してきたのです。
「これでどうでしょうか」
「悪いな、何か」
「いえ、お面は幾らでもあります」
数の問題ではないというのです。
「ただ」
「ただ?」
「その御心、見事です」
感服する言葉でした。源五郎に対して。
「御自身だけでなく奥方のことまで考えておられるとは」
「まあな。一人だけ楽しむってのは人の道じゃないからな」
「それで私達にも油揚げをくれたのですね」
「だから言ってるじゃねえかよ。楽しみってのは皆で楽しむもんだってな」
笑って話すのでした。
「そう思うからよ」
「そうですね。その御心に打たれました」
狐は実際に感銘した顔です。その顔での言葉でした。
「ですから。どうぞ」
「有り難うな」
「いえいえ、御礼を申し上げるのはこちらです」
「あんただってのかい」
「油揚げを頂いただけでなくいいことを教えてもらいました」
だからだというのです。その言葉は実に真摯なものでした。
「ですから」
「そうかい、じゃあ有り難くな」
「はい、どうぞ」
こうして狐からそのお面を二つ頂きました。そして朝になるとです。
枕元に並べられて置かれているそのお面を手に取ってです。そのうえでお通に対して夢のことを話すのでした。
「それでだ、御前もだよ」
「あら、私もなのかい」
「ああ、一緒に化けようぜ」
笑ってこう話すのでした。
「蛙にでも鼠にでも何でもな」
「どっちも蛇に食われるからいいよ」
「ははは、じゃあ犬にでもなるか」
「そうだね。それか猫にでもね」
「一緒にな」
また一緒にと言うのでした。
「化けるぜ。いいな」
「ええ、一緒にね」
「一緒に楽しまないと本当の楽しみじゃねえんだよ」
女房に対してもこのことを言います。
「だからな。それでいいな」
「そんなあんただから一緒にいるんだよ」
これがお通の言葉でした。
「あんただからだよ」
「俺だからかい」
「その心、忘れるんじゃないよ」
そしてこうも言うのでした。
「絶対にね。いいね」
「ああ、わかったさ」
源五郎もです。女房のその言葉に笑顔で応えます。そうしてです。
女房にそのお面を手渡してです。そして化けるのは。
「じゃあまずはこれにな」
「そうだね、これにね」
二人が化けたのは狐でした。それぞれ黒と白の狐になったのです。
そしてその狐の姿で、です。二人で仲良く話すのでした。
「お面をくれた狐にな」
「ならないとね」
狐を立てることも忘れないのでした。源五郎は何処までも他の人と一緒に楽しむことを考えお通はそんな亭主が大好きでした。そんな二人は末永く一緒に、他の人や動物達と共に楽しむのでした。
狐のお面 完
2010・5・6
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