moon light fantasy
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ヴァンパイアの花嫁編
吸血衝動
前書き
旅に早く出たい。
…フォルツ君が変態ぽく見えるのは気のせい。
「…ん。」
眼が覚めると宿の一室だった。するとニナが心配そうに俺の方を見てくる。
…どうやらちゃんとアスモディウスは倒したみたいだった。
「大丈夫?フォルツ?」
「…ああ。問題ない。」
俺は昨日の事を思い出して俯いた。
我を失って一緒に戦ってくれた一人の少女を誘惑して血を飲もうとした事。トランスが解けたにも関わらず、血を結局飲んでしまった事。
後悔しか残らない。
「どう見ても問題アリの顔だよね。それ。」
「…。大丈夫だ。むしろ寝過ぎたくらいだ。」
「寝た事じゃないよ。アリスちゃんの事だよ。」
ニナはくるっと空中で丸まると眠そうな眼でこちらを見てくる。俺はその視線に合わせられない。
「…別に。血だったらランやリナ、それにどこかの安い女から分けて貰える。」
「そういうことじゃなくて。
…あの時アリスちゃんが助けてくれなかったらお前死んでたよ。それについて感謝はしないの?」
「…。」
確かにあの時。ヴァンパイア特有の極限の吸血衝動が俺を蝕んでいた。それはまるで砂漠で1週間水を飲んでいない様な苦しさ。あの苦痛があと1分続いていたら俺は死んでいたかもしれない。
そしてそれから逃れるために俺は本能のままアリスの指の傷、血を舐めた。
…どう見ても化け物やヴァンパイアだ。
「女の子からしたら男から指を舐められるなんて相当な不快感だ。それに感謝なんてしたらもはや傷口をえぐるような物だ。」
「…。」
「だから感謝はしない。
化け物は速やかにここから出るべきだ。」
俺はベッドから降りるといつもの黒い軽鎧を付け、蒼と黒のコートを羽織る。
「その事なんだけどね。
ゼツ君がね。ゆっくりとお話をしたいんだって。」
「…ゼツが?」
「うん。『リナの血は美味しかったか?』だって。」
「…。」
俺はぴたっと旅の支度を止めてニナを見た。ニナはニヤニヤしながらとても面白いオモチャを見つけた様な顔をして。
「あれはね。やばいね。ゼツ君チョーきれてたよ。」
「…切れるさ。そりゃ。大切な人の血を吸われたんだ。蚊でもきれる。」
「フォルツ…。」
「行くぞ。
…こんな辺境の地でウジウジしてる暇はない。」
そう言って部屋のドアを開けた時。そこにいたのは…。
「まだ旅立ってなかったな。」
「ゼツ。」
「…少し話がある。」
そこにいたのは『紅蓮の帝のゼツ』だった。俺ははあ、とため息を吐いて目の前の五強の少年を睨んだ。
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宿隣のいつもの酒場。そこで俺とゼツはカウンターに座っていた。そこでゼツは昼間だというのにウイスキーのロックを飲む。
「…なあ。フォルツ。」
「なんだ。」
「お前…。あの時の事を引きずってるのか?だからソーニャに復讐なんて…。」
俺は黙ってマスターお手製のオレンジジュースを飲む。流石に朝から酒は飲めない。
俺はその問いかけに黙っているとゼツは。
「…それで。どうするんだ。これから?」
「とりあえず…次の目標はこの街の北にある暗黒街を目指す。」
それを聞いてゼツは首を傾げる。
「なんで暗黒街なんだ?あそこは随分昔にゴーストタウンになって人なんていないぞ?あそこに行っても…」
「…。」
「これは?」
俺はとある紙をゼツに渡す。その紙の内容を見てゼツは目を細めた。
フォルツ・レープリカへ。
暗黒街に来なさい。私は逃げも隠れも致しませんよ?
〜ソーニャ・エクス・マキナ〜
「…罠ではないな。」
ゼツははあ、とため息を吐いて手紙を見る。
「ソーニャはいつも真正面から敵の得意な土台にって叩き潰す奴だ。おそらく暗黒街に行けばソーニャはいるだろう。
…あの眠そうな表情で。」
「…。」
「だが、その後どうする?」
ゼツは再びウイスキーに口をつけると少しきつい表情で俺を見る。
「…奴を倒す。」
「出来たら苦労しな…」
「あいつは以前の様な力はない。」
ゼツの言葉を遮って俺は無表情で淡々と話す。
「あいつは…。今、力の半分も使えないはずだ。」
「…。」
「そこに勝機がある。」
ガタッ
ゼツはいきなりフォルツのコートの襟元を掴む。それは半ヴァンパイアのフォルツでも反応出来ない速度だった。
そしてゼツは怒りの形相で俺を睨みつける。
「いい加減にしろよ…。フォルツ。」
「何が。」
「お前…吸血衝動がまた来てるんだろ。昨日…ニナが言ってたんだよ。トランスをしたら数日は半ヴァンパイアでも吸血衝動が続くって。
そんな状態でも勝てるのか?」
「…。」
そう、今の俺は血を飲みたくてたまらない。今にもゼツがグールになってもいいから襲いたいぐらいだ。
飲みたくて飲みたくて飲みたくてたまらない。
あの元気なランを押し倒して無理やりでもいいからその血を飲みたい。
リナでもいい。殺す一歩手前でもいいからあの清楚なリナを滅茶滅茶にして血を吸いたい。
そんな事を考えていると不意にアリスの顔が思い浮かんだ。
あの血は美味しかった。ランやリナの血も美味いけど、あのアリスの白い首元を噛んで血を吸ったらどれだけ幸せなのだろか。
そういえば当分この街に滞在しているってニナが言っていた。
…あの娘の血を飲みたい。
「おい!フォルツ!フォルツ!」
はっと気付くと俺の身体の力が抜け俺の目が熱くなっていた。
…ヴァンパイアの瞳が出かかっていた。その証拠にゼツの後ろにあったワインボトルに移る俺の目が紅く輝いている。吸血衝動が酷いとトランス無しでもヴァンパイアの瞳になるが…。
…今まで以上に凶暴な衝動が襲ってきた。
俺は倦怠感がある半ヴァンパイアの身体を無理やり起こしてコートの埃を払う。
「…少し休む。」
「フォルツ…。」
そう言ってゼツは名前を呼んだがフォルツは返事をしなかった。
その日の夜。フォルツは暴走した。
後書き
伝承のヴァンパイアって血を飲むのを止めると麻薬のように激しい禁断症状に襲われるらしいです。
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