狸饅頭
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
3部分:第三章
第三章
そんな彼を見てです。秦平もおりょうも笑顔になります。二人の彼への評価は。
「ほんまええ人が来てくれたな」
「そやな、とにかくお金がいらん」
「ただ満重だけ食べればそれでええ」
「ええ人やな」
「ただ」
秦平はここでふと言うのでした。
「どないなもんやろな」
「どないって?」
「いや、お金欲しがることないし」
言うのはこのことだけではありませんでした。
「それに目の周りが黒いし」
「そういえば。普通そういう人おらへんよな」
「しかも何か匂うんやな」
「匂う?」
「身体からあれや。獣の匂いがするんや」
「獣の?」
「そや、それがするんや」
こう言うのです。
「何でや?あれは」
「お風呂入ってないんちゃうか?」
「それあるかな、やっぱり」
「それ見てみるか?」
「そやな、見てみるか」
こんな話をしてです。二人は店で働いている彼を注意深く見ることにしました。見れば彼は本当にです。お風呂屋に行きません。時々水浴びをするだけです。それだけで済ませています。
「水浴びだけか」
「しかも冬でもやで」
「おかしなことやな」
「ほんまや」
二人はそれについて言います。
「おかしな人やな」
「それだけやないで」
気付けば他のことも見えてきました。それも言うのでした。
「食べるものかて。饅頭やお餅の他は」
「そうそう、揚げ好きやな」
「そやな」
「それやな」
そのことが話されるのでした。
「まるで狐みたいやな」
「けれどあの顔は狐ちゃうやろ」
「狸か?」
秦平は彼の顔を思い出して言いました。
「それの感じやな」
「そやな、狸やな」
おりょうもそうではないかと頷きます。
「あの顔は狸やな」
「そういえば狸も揚げ好きやわ」
秦平はこのことも言いました。
「揚げ好きやろ。そやったら」
「じゃああの人狸かいな」
「そうちゃうか?狸が化けて働いてる」
秦平は腕を組みながらおりょうに述べました。
「それちゃうか?」
「狸がって。ほんまかいな」
「調べる方法はあるで」
こうしてです。秦平はある時揚げにお酒を買ってきました。そしてそれを彼に対して差し出しました。
「御馳走や。食べてや」
「えっ、ええんでっか?」
「ああ、好きなだけ食べてや」
その彼に対して笑顔で告げます。
「酒も飲んでや」
「はい、おおきに」
こうして男は揚げと酒を食べはじめました。もうあるだけ飲んで食べて挙句には酔い潰れてしまいました。そして秦平とおりょうはそれをじっと見ています。
ページ上へ戻る