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戦国異伝

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第二百二十二話 耳川の戦いその十六

「実際に政は励みよきことをしてきた」
「それは」
「たまたまでは」
「殿に気に入れられんとです」
「そう考えていたのでは」
「猫を被っていたか、しかしその割にはじゃ」
 松永の働きぶり、政のそれはというと。
「随分と真面目じゃったぞ」
「だからですか」
「あ奴は邪な者ではなく」
「許される」
「そうされるのですか」
「そのつもりじゃ、とにかくあ奴と話そう」
 こう言ってだった、信長は松永に対してどうするのかをだ。家臣達に話していた。そして船は一路大坂に向かい。
 大坂に着くとだ、すぐにだった。
 一行は船を降りてだ、信長は言った。
「ではすぐにな」
「はい、信貴山にですな」
「あの城に向かい」
「兵で囲んだうえで」
「お話をされますか」
「奇妙も後で兵を率いて来る」
 兵を戻させている信忠もというのだ。
「攻めるとしてもそれからじゃ」
「では暫し」
「話をしますか」
「それでは」
「そうしますか」
「うむ、そうしようぞ」
 こう言ってだった、信長はまずは大坂から信貴山に向かった。そしてそこで松永と向かい合うのであった。
 その頃松永はようやく信貴山城に入った、城には兵はほぼいなかった。皆九州攻めに出ていて残るは僅かな兵達だ。
 しかしだ、松永はその彼等に穏やかな声で告げた。
「御主達は上様のところに行くのじゃ」
「いや、しかし」
「我等は殿の家臣です」
「ですから我等は」
「この城で」
「いやいや、御主達の具足は青い」 
 織田家のその色だというのだ。
「だからな」
「織田家の兵だからですか」
「それで、ですか」
「織田家の下にいて」
「そうじゃ、生きるのじゃ」
 こう告げるのだった。
「若し城を去らねば斬るがそれでもよいか」
「そこまで仰るのなら」
「我等も」
「去るしかありませぬが」
「それでよいのじゃ」
 去って、それでというのだ。
「御主達はな、では達者でな」
「・・・・・・はい」
 こうして兵達にだ、松永は城の女房達にまで暇を出した。そうしてだった。
 何処からか出て来た闇の具足に陣笠、旗に衣の得体の知れぬ者達にだ、今度は強い声で言ったのだった。
「ではな」
「はい、これより」
「この城に籠城し」
「そしてですな」
「織田信長と戦い」
「敵を引き付けるのですな」
「そしてじゃ」
 松永は彼等にさらに言った。
「我等がそうしている間にじゃ」
「はい、今度は」
「御前、他の十二家の方々が動かれ」
「後ろからですな」
「織田家を攻める」
「そうなりますな」
「そして我等も攻めるのじゃ」
 籠城から一転して、というのだ。
「わかったな」
「畏まりました」
「さすればです」
「我等はここで」
「殿と共に戦います」
「そうしてくれれば何よりじゃ」
 こう彼等に言うのだった。 
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