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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第177話 衝撃の性別


 色々と考えされられたが、どうにかキリトは大会出場の為のエントリーを後少し、ワンクリック程度で終わる所までいけた。そして、丁度その時だ。

「2人とも、終わった?」

 不意に彼女から声が聞こえてきた。
 どうやら、リュウキも彼女もエントリー終了したらしく、まだ終わってなかったのは自分だけだった様だ。そして、エントリー締切時間もまだ後3~4分はある、間に合った事にとりあえず安堵した。

「……その、ごめんね。私がちょっと夢中になったせいで、慌てて 駆け込みになっちゃって」

 そんな時、まさかの彼女からの謝罪の言葉がきた。それを聞いたキリトは慌てて返事を返す。

「そ、そんな事無いですよ。お世話になりっぱなしで……。こちらこそです。昨日の武器の事や今日のことも。ありがとうございました」
「……だよな。それに夢中になった、と言えばこちらにも非が当然ある。時間には気を使ってる筈だったんだが……、正直ぬかったよ。悪かった」

 リュウキもキリトに続いてそう返した。それを訊いて、女の子は小さく微笑んだ。

「じゃあお互い様……って事で、手を打とう。いや、でもバギーで走るのちょっと楽しかったし。貰い物を言えば私の方が大きい気がするわね。……っと、それより、予選のブロックは何処だった?」
「ええっと……」
「ん……」

 キリトは画面を再確認し、リュウキは 脳内保存しているアルファベット・数字を思い返した。

「予選は、Fブロックですね、Fの37番です」
「……ん、同じくF。23番」
「あ……そっか、同時に申し込んだからかな、私もFブロックだよ。12番だから……、良かった。どっちと当たるか判らないけど、当たるとしたら決勝だね」
「良かった、ってなんでです?」

 キリトはそう聞き返した。
 それを変わりに答えるのがリュウキ。

「……説明文は読んでおいた方が良いぞ? 今回から参戦人数が増えるそうだ。上位3名が本戦出場。トーナメント形式だから準決勝からなら1回敗退したとしても、3決で復活出来るって事だ」
「あ、ああ。成る程」
「そ、前回までは予選トーナメントの決勝まで行けば、勝ち負けにかかわらず本戦のバトルロイヤルには出られるって感じ。つまり、予選優勝者と準優勝者の2人だったけど、今回は結構増やした見たいだね。本戦は30人だったけど、15人も増えた」

 苦笑いをしながらそう言う彼女だった。だけど、その後は普通に。

「その分、マップもそれなりには広くなったみたいだから、決着がつく時間はあんまり変わらなそうだけどね」

 人数が多く、フィールドが狭かったら、飛び道具である銃での戦いだから、それなりに決着がつくのは早いだろう。そして、ゲームの腕関係なく、運の要素も高くなる事が考えられる。一大イベントであるBoBをあっさり終わらせる訳にもいかないから、それなりのフィールドを設けられているのだという事は容易に想像がつく。

「それともう1つ、予選決勝で当たったら、予選だからって……」

 次の瞬間、彼女は猫を思わせる瞳をくるっと煌めかせると。

「手は抜かないけどね」
「ああ……成る程。勿論、当たったら全力で戦いましょう」
「同感、だ。……ん、そう言えば」

 リュウキはある事を考える。
 彼女と当たるのは、番号から考えたら、まず間違いなく決勝だ。そして、キリトと当たるのは……準決勝だ。

「……大会系での戦いでお前と当たるのは初めてだな」

 リュウキは、そう言って笑った。
 ALO内でも、腕を競い合う月例大会なるモノが存在するけど、新生アインクラッド攻略の方に力を入れていた為、キリト、リュウキは殆ど参加は、しなかったのだ。エントリー時間に間に合わなかった事もあったが、それは省く。
 アスナやレイナは、1度参加した様だけど……、そのおかげで何やら不名誉な通り名をいただいた様だが……、っと、それも説明を省く。

 キリトも、リュウキの言葉に、にやりと笑って頷いた。

「……手は抜かないぞ?」
「言っただろ? こっちもだ。……いい思い出になるかどうか、保証しない」

 2人は其々楽しそうに笑いながらそう言っていた。この時、彼女はやや違和感を感じた。

「(2人が話すと……なんだか喋り方が変わる気がする。元々男喋りみたいだし。……それに、同じVRMMOからコンバートしたのかな?)」

 そうなのだ。
 彼は外見に似合わないその言葉遣いもしていた。だけど、別にそれは不思議でも珍しくもない。男なのに、女のように喋る人だって見た事あるから。仮想世界と現実世界とで 自分自身のキャラクターが代わる事は珍しくもない。

「……」

 正直、思い出すのはちょっと嫌だったから、苦笑いをしていた。彼女自身も似たような事、だから。

「それにしても、洋ゲーにしてはこの端末の日本語はしっかりしてますね? 公式サイトは英語オンリーだったのに」

 キリトは、そう口にした。GGOに関する情報を、現実世界で 主にネットでだが 調べた結果 殆どが英語だった。それなりに掻い摘んで 説明をしている翻訳サイトもあったが、圧倒的に少ないのだ。

「ああ……、うん。運営体の《ザスカー》っていうのはアメリカの企業なんだけど、JPサーバーのスタッフには日本人もいるみたいで。でも、ほら GGOって日本でもアメリカでも、法律的には結構グレーらしくて」
「まぁ、通貨還元システムで、私営ギャンブルみたいなものだから」

 リュウキの言葉に、キリトも、『ああ~』と頷いていた。

「だよね? だから、って事が大きいと思う。表向きのホームページとかには最低限の情報しかないし、所在地も載ってないから、随分と徹底してる。キャラ管理とか通貨還元用の電子マネーアカウント入力とか、ゲームに関する手続きはほとんど中でしかできないの」
「……セキュリティが気になる所だけど、一般的な大きな問題は上がってないから、多分それでやっていけてるんだろう」

 2人の話を聞きつつ、キリトは呟いた。

「なんだか……すごいゲームですよね?」

 キリトがそう言うのも無理はない。
 これまではただ、純粋に遊ぶ。役割を演じる。
 それを楽しむだけだったけど、この世界では現実世界でも使用可能である金銭が絡んできたことから、その銃の印象に比例して更に殺伐とした感じがするのだ。

「うん、だからリアル世界とはほぼ完全に切り離されているんだけど……、でもそのせいで、今の自分と現実の自分もまるで別人みたいに……」

 ふと、女の子の瞳を薄い影が横切った気がした。それを正確に感じ取った。リュウキは勿論、キリトも。

「現実も仮想世界も本質的には変わらない。……だから、培われてきたモノは、強さは、精神は、必ず其々の世界に反映されるものだ。……されるものだから」

 不意にそうリュウキは呟いていた。
 そう、ここの様な仮想世界と言う別世界で、自分の精神は育まれたと言っていいから。強くそう思ってしまえば、現実で育んでくれた爺やに申し訳がないけれど、仕方がない。その辺はわかってくれているから。

「っ……、あ、あなたは……っ」

 リュウキの言葉を聞いて、彼女は目を見開いた。

 そして、正面からリュウキを。長い銀髪の彼女に向き直す。

 懊悩が、彼女にも見えた気がした。深い何かを抱えて来んだという事。そして、それを乗り越えてきているんだと言う事も、何故か直感した。

 リュウキは、彼女の声に気づいてそちらを向くが。

「……い、いや、何でもない。ごめん」

 彼女は、リュウキに直ぐにでも聞いてみたい気がした。
 その強さをどうやったて、得られるのか。……そして、乗り越えられたのだとしたら、どうやって、と。

 だけど、これはあくまで自分の直感に過ぎなかった。

 本当に何かを、心の闇を抱えていたのかどうかも、はっきりと判った訳じゃない。それに、当たり障りのないセリフだって、並べたらそれなりの言葉になる。……そんな上辺だけの事を言っているとは思っていなかったけれど、それでも今は聞けなかった。

 そして、目の前の彼女を倒す事が出来たその時、知る事が出来ると思えたから。だから、彼女は表情を戻した。

「――そろそろ、予選の会場に行かないと。って言ってもここの地下なんだけどね。準備は大丈夫?」

 キリトとリュウキの2人を見て、彼女はそう言う。
 2人はゆっくりと頷くのを見たら、総督府1Fホールの正面奥へと向かった。その壁際にはエレベータが何代も並んでおり、一番右側の扉脇の下降ボタンをおして地下へと向かった。随分長く感じるエレベータの移動時間。どうやら、この建物は上にも下にも長いようだ。

 そして、漸く到着したと同時に、エレベータの扉がゆっくりと開いた。

 開いたその先を見たキリトは、思わず息を詰めていた。

 そこは1Fホールと同じくらい広い、半球形のドームであり、証明はギリギリまで絞られ、所々に設置された鉄枠に覆われたアーク灯が申し訳程度に光を放っている。床・柱・壁。その全ては黒光りする鋼板か赤茶けた金網。無骨にならぶテーブル、そして天頂部にあるのは巨大な多面ホロパネル。
 そこに表示されているのは《BoB3 preliminary》と言う文字と、残り時間のカウントダウン。

 それだけの演出でも十分雰囲気が出ているが、何よりも緊張感を漂わせたのはこの場でたむろしている多くのシルエットだ。彼らはまるで殺気を放っている様に佇んでいる。この空間で、ゲームだと陽気に騒いでいるものは全くいない。数人ずつ固まって、低くささやきを交わすか、あるいは一人で押し黙っているかのどちらかのものしかいない。

 それだけでも判る。

 彼らは、まず間違いなく仮想世界に染まりきった、ベテランVRMMOプレイヤーだと言う事。そして何よりも、この世界は、互いが殺し合うのを完全推奨している場所でもある。ALOでの世界でも対人バトルは勿論あったし、種族にわかれているからか、推奨もされていた。
 だが、ここまで特化した世界ではない。

 現にキリトは対モンスター専門だ。だが、彼らは対人専門。……それも筋金入りである事。

「(……不味いな。今年の春にALOが現行の運営体制になってから……、示し合わせた決闘ならまだしも、本当の対人戦闘はほとんどしてない。ブランクがあると言っていい。正直、情けないけど、今この雰囲気に気圧されてしまったのがいい証拠だ)」

 キリトは、恐る恐るといった様子で、周囲を見渡していた。その行動こそが、まるで狩られる側の兎の様なモノだった。

「(ううむ……こいつはいよいよ難しい仕事になってきたぞ? 菊岡さん。オレとリュウキの二段構えらしいけど、それでも、一体どうなるか……。 うーん、そう言えばリュウキはどうなんだ?)」

 キリトはこの時漸くリュウキの方を見た。同じかの世界、あのSAOを生き抜いてき、攻略した英雄。ベテランの域にいるプレイヤーだ。その中でも、自分が追い求めている最終地点、最終目標。だけど、そんな間違いなくリュウキもブランクと言うモノは有るはずだ。
 同じ時間を長く共有し続けていたのだから。ALO内でも同じ対モンスターだけだった筈だ。

 だけど、そんな思いも、心配も、その表情を見たら、軽く一蹴された。

 リュウキは、軽く目を瞑っている様だ。
 それは、周囲を見ないようにしている、とか 周囲の視線が目に毒だ、とかそんな類のモノじゃない事は判った。ただただ、その表情には絶対の自信を見た気がした。そう、あの世界でも何度も見ている筈だから、よく知っている。BOSS攻略の前の仕草では特にそう。今の姿形とは到底違えど、その佇まいと雰囲気はいつになっても変わらない、と思った。

「……どうしたの?」

 そんな時だ。彼女がキリトに声をかけた。何処か好奇心旺盛な瞳を前の彼女に向けている事に気がついた様だ。

「……ふふ、当たるのは準決、ちょっと気が早いんじゃない?」
「え、いや! それは……その……」

 キリトは思わず口ごもった。彼女は、そんな慌てた仕草を見たけれど、……一先ず笑って頷いた。

「まず、控え室に行こう。あなたも。さっき買ってた戦闘服に装備替えしないと」

 彼女の指示の元、キリトはついて行く……が。リュウキは付いていかず、軽く首を振った。

「先に言っててくれ。……ちょっと視て(・・)おくことがある」
「………」
「ん? 何かあった? ここで見るようなのある?」

 彼女は首を傾げたが、リュウキはただ笑っているだけだ。何かある、と思ったけれど、詮索無用だとも同時に思った。戦い前の待機方法は十人十色。彼女なりの待機の仕方があるのだろう、と。

「判った。……でも、時間以内に装備はしとかないといけないよ。そんな裸装備も同然で、予選の戦場に送られたら、正直悲惨でしょ?」
「まぁ……その辺は大丈夫だ。今回は時間はしっかり見てる。……あれだけ大きく時刻表示されてる」

 リュウキは手を軽く振って答えた。彼女に、そしてキリトに。キリトも大体の意図を察した様だ。リュウキが言う視ると言う事が何を意味しているのかも。

 ここに残って意見を交わし合うのも良かったかもしれないが、この場で2人が離れる……と言うのは、僅かに不信感を与えてしまうかもしれない。ここまで親切に教えてくれて、教授もしてくれた彼女に失礼だろう。だから、キリトは彼女と一緒に行く事にしたのだ。

「じゃあ、先に行ってますね? ……その、宜しくお願いします」
「……ああ」

 キリトがそう言うとリュウキも頷いた。

「ん? 何をお願いするの?」
「あ、いや……こっち別に深い意味は……」
「そう」

 そのまま、2人は奥の控え室が備えられたエリアの方へと向かっていった。

 この殺伐とした雰囲気が漂う場に残ったリュウキは、再び周囲を視渡した。
 視ると言う行為、それが最大限に発揮されるのは相手がAIだと言う事が一番であり、対人戦であれば、武器弱点を突いたり、システム上での綻びを見つけたり……etc。システムを丸裸にするのが最大の点だ。確かに、あの世界で使った時同様、それなりに消耗するが、今は構うことはなかった。何か不審なプレイヤーがいないかどうかを視る為に。
 40人以上いるし、あまり注目をし過ぎるとこちらが逆に不審者になってしまう。

「(……怪しまれない程度に、偵察、だな)」

 リュウキはそう思いつつ、付近の状況を見ていた。ここに集った男達は、入って来たばかりの新参者にギラつく様な戦意を向けてくる。膝に乗せた恐ろしげな銃を音高く排莢して見せるものまでいる。
が、そいつらは最初から間違いなく白だ。。探している、この大会で姿を見せるだろうと予想しているあの相手、死銃ではないと判断した。何か大きな事を仕出かすのなら、それなりに周囲に気を配り、その時その瞬間まで息を潜めている筈だから。


「はぁ……」

 リュウキは軽くため息を吐いた。勿論、周囲にバレない範囲で。

「(……仮にも戦い前だぞ? 自分の武器を見せびらかすヤツが何処にいるんだよ。……手の内をバラす様な事をするのは素人も良い所、だな)」

 どんなゲームの大会においても、自分の武器は最後までみせないモノだ。
 別ゲームであれば、あれがフェイクである可能性も捨てきれない、……が、ここGGOでは原則として、メイン・とサブの二種類の武器しか持ち込む事はできないから、まず間違いなく、武器のジャンルから、メインだろうと思える。サブアームと言うのは、所謂 補佐武器だから、突撃銃(アサルトライフル)機関銃(マシンガン)が サブと言うのはありえないだろう。

 プロが蔓延る世界、と現実世界ではよく聞いていたが、現時点では拍子抜けも良い所だった。それは勿論一部のプレイヤーを視て、だけだからまだ結論をつけるのは早すぎるとは思うが。

「さて……」

 フードをかぶりつつ、見える範囲でプレイヤー達を確認していた。其々、武器を構えている、見せびらかしている様な連中も……一応確認をした。

「(……アサルトライフル。M16A1、M16、AN-94……か)」

 かつて、別のオンラインゲームでそれなりにプレイしていた時の知識だが、銃器関係にはそれなりに詳しい。リュウキは一度興味を持った事は、詳しく調べる癖がある。だから、大体使用した事がある銃は覚えているし、VR世界での使用は最近綺堂のアカウントでプレイした程度だから、武器の感覚までは判らないけど。

「(……それに。……良い銃だ、AK-47。メジャーと言えばメジャーだし)」

 様々なゲームや映画、漫画等幅広く使われているアサルトライフルの1つ。この世界での性能については判らないけど、以前プレイしていたゲームではそれなりに上位プレイヤーが使用していた記憶がある。

「ふぅん……。っとと、そうだ」

 銃の注目はとりあえずこの程度にして、本命探しを開始した。勿論、見える範囲内だけだが。

「……(多分、オレと同じ様に素顔を隠してる奴に注目、だな)」

 フードの影に隠れたリュウキの眼は、180度全体を見渡した。後は集中だけだ。雑音の全てが消え去り、無音の世界が訪れる。

「(……素顔を隠してるのは11人。その中で銃器もみせてないのが9人、か。要注意、だな)」

 その眼が捉えたプレイヤー達に意識を集中させた。
 だが、向こうがこちらの警戒に気づいてしまったら元も子もない。悟らせない程度、それでいて、動きの全てを見逃さぬよう自然に。それをする為に、このフードが大いに役に立ってくれた様だ。これからも重宝しよう、と強く思う。……多分、あの時以上に。

 そして、色々と確認をしている時だった。

〝ばちーーーーんっ!!〟

 と言う乾いた音が聞こえてきた気がするのは。

「……?」

 リュウキも反射的に、身体をくるりと反転させた。聞こえてきた(多分)方向に向いていたのだ。首を傾げ、気のせいだったのか? と再びプレイヤー達の方へと視線を向けようとした時だ。彼女とキリトが出てきた。……戦闘仕様の装備、迷彩服に着替えて。

 だけど、ここで 1つ疑問があった。

 それはキリトの頬、左頬が赤くなっていると言う事だ。ダメージエフェクトであるモノ。
 赤く……と言うより、所謂、掌?の形に赤くなっているのだ。確か、昔爺やから聞いた事で、ああ言う形、手の形から、《紅葉饅頭》とかなんとか言われていたな、とどうでも良い事を思い出していた。……リュウキにとって爺やが言うことに同でも良い事なんて無いけれど、今現在では……やっぱりどうでも良い事だろう。

 そんな時、顔の半分をマフラーに埋め、表情が険しくなっている彼女がこちらの方へと歩いてきた。ツカツカツカ……とワザと足音を立てる様にこちらへ。彼女の走り方も歩き方も、足音を殺した歩法をしていたから、その音を聞いて不自然に感じていた。走ってる時は、見事なストーキングだな、と思った程だ。勿論、あまり言われて嬉しい単語ではないから、口には出さなかったけど。
 
 ストーキングには、ストーカー行為、と言う意味もあるから。日本では割とそちら側の認識が高いから。

「ん? どうかしたのか?」

 丁度、目の前に来た所で、彼女に向かってそう聞いた。彼女は、まったく表情を変えずに、ただ聞き返した。

「アンタ、男?」
「………」

 リュウキは、彼女のその言葉を聞いた後、改めて、キリトの方を見た。
何やら、両手を合わせて拝んでいる。
何かがあったのは確かだろう事は理解出来た。
多分、女装をしていた、と認識されたのだろう。
自分としては、そんなつもりも無く、普段通りの口調だったけど、キリトはどちらかと言うと口調を変えていた気がするから。

「はぁ、そうだ」

 リュウキは 別に誤魔化したりせず、早々に白状? をした。
 そもそも、性別を隠していた訳じゃない、話題にするのが嫌だった、と言う事も勿論あるが、もしも聞かれる様な事があれば、その時は言うつもりだったのだ。ネカマと思われるのは何よりも嫌だったから。そして、彼女はそれを訊いて、眉が引き上がっていた。

「そう、なら何も聞かないで、何も言わないで、一発殴らせて」
「は?」
「殴らせて」
「なんでだ」
「殴らせて」
「だから、なんでだ」
「殴らせて」
「………」

 その目は、座っている。アバターだけど、それがはっきりと判った。キリトが女だと、バレた以上、恐らくだが何かがあったのだろう。それは、わかったが、正直、彼女の要求は理不尽極まりない。
 だからリュウキは。

「断る」

 きっぱりと答えた。そもそも、『殴らせろ』と言われて 馬鹿正直に頷く者はいないだろう。この世界では痛みはある程度しか再現されていないから、別に良くても それなりにノックバックが発生するし、良い気分ではないから。

 それを聞いた彼女は不自然に力の込められた手を見下ろした。

「……」
「……そもそも、オレは『女だ』と、公言をした覚えはない、誤魔化したり、別に演技もしていなかった。外見は、妙な、なんたら番型アバターとやらを不幸にも引き当ててしまっただけだ。コンバートだし、時間も無いから変えられない。 ……だから殴られる理由はない。オレとしても迷惑をしていたんだ」
「うぐっ……」

 それを訊いた彼女は、何故だか 悔しそうに歯ぎしりをしていた。

 リュウキの言い分を訊いて、納得をしてしまったのだ。
 逆にキリトに関しては、初めて会った時に さも女性である様に振舞っていた。外見だけじゃなく、仕草から言葉使いもそれなりに女の子だと思えるのには十分な程に。語尾を変えたりは、していなかったけれど、声色もそれなりに高かった。ややハスキーボイスだと思った程度までだった。

 でも、目の前の男はそんな事は一切しなかった。

 声色は……、それなりに高かったけど、今もさっきまでも声質は変わっていない。口調も女の子っぽくなく、あのバギーの時には『お姫様』と言う言葉まで使っている。つまり、勘違いしたこちら側に非があるのだ。

 なのにいきなり『殴らせろ』なんて言ってしまって、正直、いたたまれなくなってしまったのと、行き場のない怒りを抱えてしまったのだ。

 頬を赤く染めながら、震えている彼女を視て、リュウキは再びため息を吐いた。

「……が、一応示しを合わせていたのは事実だ。そこのキリトが、男である事、オレは知ってたし、それなりに キリトが男だ、とバレない様にしてたのも知ってた。……オレはそこまでするのに抵抗があったからしてなかっただけで」
「や、やっぱり!! なら 一発叩かせなさい!!」
「だけど、叩かれるのは嫌だ。……だから、お詫びにもう1つ白状するよ。お前が探していた、《その相手》の事を」
「……っ!?」

 彼女はリュウキの言葉を聞いて、怒りが湧いていたのだが、その感情が縮小するのを感じた。探していた相手、と言う話を聞いて。
 あの初老の男、散弾銃(ショットガン)使いの事を言っているんだろう、と。

「……ほんと?」
「男に二言はない」
「そのアバターでそう言われても、説得力が無い」

 彼女がそう言うのも、正直無理もない。言葉使いこそは 男のそれだが リュウキの姿、顔はもう女の子にしか見えない。美人、と言うよりは可愛らしい、と言う言葉が当てはまるだろう。 
 それを訊いたリュウキ、今度はリュウキ自身が 顔を引きつらせていた。

「……そうか。聞きたくないなら、そう言え!」
「聞きたいに決まってるでしょ!」

 ずいっ! と顔をよせてくる彼女。
 正直ムカついたリュウキだが、さっきまでの表情よりは随分と良くなった、と思いつつ 話を始めようとした時。

「あ、あの……」

 キリトが話に加わろうとこちらへ来た。……だが。

「……向こうで聞く」

 彼女は、リュウキの手をぎゅっ、と掴むとそのまま引っ張った。なんで向こうで?と聞く間もなく、結構強い力で連れて行かれる。この感覚は久しぶりだった。

 所謂、《歯向かっても無駄》だと言う事。

 最終的には連れて行かれる事を。

「ついて来ないで」
「え、ええ! で、でもリュウキは……」
「ついて来ないで」
「た、確かにオレは……、リュウキよりは、その……」
「ついて来ないで」
「で、でも、リュウキも取られたら他に知り合いいないし……」
「ついて来ないで」

 このままエンドレスになりそうだったから、一先ずリュウキは、彼女に手を引かれながらキリトの方を視て。

「……一体何したんだ? キリト。それとも、ネカマが、ただバレただけで、こんなに怒られるものなのか?」
「ね、ネカマじゃないっ!! え、えっと……お、オレが……」
「口、閉じて。……ついて来ないで」

 彼女の言葉は変わらない。
 どうやら、口に出して言われるのが嫌な事をキリトはした様だ。自業自得、とは言えなかった。自分も妙な同盟を組んでしまったのだから。

「はぁ、オレからも謝っておくよ。アイツとは長い付き合いだし。キリトが何したか知らないが、許してやってくれないか? ……その初老の男の事、ちゃんと詳しく説明するから」
「それ、最初の条件じゃない」
「詳しく説明をするつもりは無かった。だから、最初より詳しく、って事だ」
「っ……、へ、屁理屈を……」

 この程度のスキルは、色々と鍛えているのだ。主に、言いくるめる時や、レイナをいじめる? 時に……。 苦笑

 とりあえず、キリトはまだ必死についてくるから、聞きたい情報をこのままじゃ聞けず、そして予選も始まってしまうから、彼女は折れた。何があったかは秘密らしい。ため息を吐いて、キリトを睨む視線は、猫と言うより、豹を思わす肉食獣の目つきだった。捕食対象である、キリトは思いっきり、首を縮めていたが、それを見て どうでも良くなったのか、彼女はかたわらのボックス席に、どすん! と腰を下ろした。

「……座るなら、手、離してくれ」
「っ……」

 ずっと手をつないでいた事を思い出し、やや頬を赤く染めつつ解放した。
 男だ、と判った後でも、この彼と手を繋ぐ事は苦じゃない事に何処か気づいたが……、無理矢理、心の奥へと押し込めた。

「それで、話して。……あの男は此処にいるの? もう この世界に来ないかもと言っていたけど」

 彼女は取り合えず、キリトの事はほっといてこっちの話を始めた。リュウキは苦笑いをしたが、話すと約束もしたし、反故にするつもりも全くなかったから、ひと呼吸を置いた。その時、キリトから声を上げた。

「なぁ、リュウキ。……その初老のプレイヤーって……」
「ああ、その考えで正しいよ」
「……へぇ、そこの変態も知ってるんだ」
「へ……へんたいって……」

 辛辣なコメントをいただいたキリトは、バツが悪そうに肩を竦めた。
 なら、リュウキはどうなるんだ? とキリトは視線をこちら側にするが。

〝めこっ!〟と言う音が迸った。

 リュウキの拳がキリトの顔面に直撃したから。

「今、何考えてた?」

 ニコリと笑うリュウキ。
 笑っている姿、正直に言えば 今の姿で笑えば凄く綺麗、いや可愛い。SAO生還者(サバイバー)達である女性陣や、ALOの古参女性プレイヤー達も真っ青じゃないか? と思える程に。
 ……だけど、今の彼? の笑顔は、笑顔なのに、とてつもなく怖い。何も言えなくなる程に。

「………何でもありません」

 キリトは、左頬の赤いもみじの傷跡が消えたと言うのに、新たな傷、拳の形の傷を顔面に作るのだった。

 2人美少女を敵に回してしまった不幸をしみじみと感じたキリト。



――勿論、美少女?と考えていて、また睨まれた為そうそうに頭を下げるのだった。


 
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