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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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夢幻界の断片
  ヤーンの翼

「これはまた、丁寧な御挨拶を頂戴しました。
 貴方は、私の事を御存知であられる様ですね?
 失礼ながら、何時、お会いしたか思い出せません。
 御褒めの言葉を賜り、誠に恐縮です」
「君は我輩の事を知らなくて当然だね、何も失礼な事は無いと保障するよ。
 我々の経てきた異次元や時空間は、君の世界と交差しておらぬのだからね」
 今度は期待に応えられたと見え、相手の緊張が緩んだ。
 相手は自分の事を何処まで知っているのか、慎重に探る。

「貴方は私より遙かに多くの事を御存知の様ですが、私は貴方の世界について全くの無知です。
 想像を遥かに超えた科学を有する世界と御見受けしました、心底より脱帽致します。
 盟友ヴァレリウスが大導師アグリッパと対面した際も、此の様な心持となったのでしょうか。
 私とは到底比較にならぬ優れた知性を御持ちの賢者様に是非、教えを乞いたいものです」
 眼鏡の奥で瞳が煌き、緊張が解けた。

(雄介と話すより、遥かに面白い。
 何者か解らんが、存分に楽しめそうだ)
 喉の下を撫でられ、ゴロゴロと鳴く猫の様に表情が緩む。
「当然だよ、ワトソン君。
 いや失敬、中原を護り怒涛の流血大河を遮る者アルド・ナリス君。
 君の頭脳、知性であれば理解可能であろう。
 我輩の明智を披露して進ぜよう、何から聞きたいかね?」

 世界生成の秘密、では曖昧模糊に過ぎる。
 ヤンダル・ゾック、いや、グインの方が興味深い。
「そうですね、豹頭王について何か御存知ですか?」
 さて、どんな答えが返ってくるか?

(馬鹿正直に答えるのは、芸が無いな。
 グラチウス準拠の御託宣で韜晦を装い、失望させてから盛り上げるか)
「我輩に知らん事は無い、とは言わんがね。
 パロ聖王家の真珠2粒を救った恩人、『一匹の豹が現れ世界を護る』卦は知っとるさ。
 ルードの森に現れ数々の冒険を経て、ケイロニア王となった。
 星々のエネルギーを秘め、古代機械も操る豹頭の追放者だろう?
 キタイ簒奪者の竜王、ノスフェラス最強の魔物に唯一対抗し得る英雄(チャンピオン)かもしれん」

 ヴァレリウス経由で得た解説、情報から類推可能な事柄ではないか。
 反応を窺い興醒め、失望の表情を露骨に顕す。
「大導師アグリッパ、世界三大魔導師の筆頭に優るとも劣らぬ御明察ですね。
 問題は彼が、何故、何処から来たか、なのですが」
 予想に反し、相手は身を乗り出した。

(これは面白い、実に退屈せんな!
 では、楽しませて貰うとするか)
 煙水晶の様な瞳が煌き、心の奥底まで覗き込む。
 妙に既視感を誘う錯覚、狼狽と戦慄が背筋を貫く。
「ランドックとは惑星ラクラジル、銀河系第1帝国首都の異称かもしれん。
 ファイファ・システム、特A級の表現も共通している。
 時も次元も解明された天上の都とは言えぬが、クローナ・クローネの創造は可能であろう。
 データ不足だが望星教団、ファイアーブラス教団関連の消極的証拠も散見される」

 思いがけぬ不意打ちを喰らい、表情の急変を抑えきれない。
「貴方は調整者、ランドック、グインに纏わる謎を御存知でおられるのか!?」
 動揺を隠せぬ反応に興が乗ってきたと見え、思わず頬が緩むが本人も意識しておらぬ。
 魔界都市の超能力者集団、特殊能力戦略部隊《スペシャル・アベリティ・タスク・フォース》。
 超戦士《スーパー・ソルジャー》の上官、狩賀博士の超《メタ》推理ならぬ仮説が披露された。
 剣の民とも称する禍津神の精神波同調者《サイキック・ツイン》、加賀四郎の声が弾む。

「アグリッパ大導師は豹頭の戦士が超越者、最低でも超越者に直結と推測していたらしい。
 永遠の戦士と同様に英雄の種族を巡る数々の類似性、暗喩は様々な仮説を可能としてくれる。
 エネルギー生命体《先住者》と東海公子リーン、天帝の類似性も興味深いな。
 銀河帝国を統べる調整者一族、西方公子マルスローンの情報が無かったのは惜しい。
 吾輩の叡智を必要としとる《西を鎮める男》、安西雄介と無関係ではなかろう。
 剣の民を統べる黒太陽(ブラック・ホール)生命体、禍津神一族の長は過去の記憶を持たぬ。
 時空超越者ランドック廃帝グイン同様、忘れ物の激しい男だよ。

 種族の限界を突き破り、神の領域に踏み込まんとする君は、我輩と同じ種族に属する者だ。
 北の豹グイン、南の鷹スカール、カメロン提督が同じ英雄という名の種族に属する様にね。
 古代機械と星船の鍵を握る者は南の鷹、北の豹グイン、魔道大公アルド・ナリス。
 竜王も太刀打ち出来ぬ《力の場》、と形容した或る事象の可能性を秘めている。
 吾輩の知る君の分身は東洋の白蛇(オリエンタル・ホワイトサーバント)、みづち一族の若長。
 八岐大蛇《ヤマタノオロチ》、白蛇の大神が蛇神教の国セムリアの守護神かどうかは知らぬがね」


「白蛇族の若長に良く似た魂を秘める神聖パロ聖王、元クリスタル公爵アルド・ナリス君。
 禍津神の弟である竜神ならぬ蛇神、北斗多一郎を雄介は豹頭王と同じ《北の王》と呼んだ。
 グインが数千年後に草原を去った船乗り、ヴァン・カルスの体験を記憶していたのは何故か?
 アルド・ナリスの従兄弟であり、中原の守護者と見込んだ草原の黒太子スカール。
 ヴァン・カルスの字列変換《アナグラム》、南の鷹も《西を鎮める男》であるのかな? 

 スカールと雄介の関連性に話が逸れた、君の呈示した疑問に話を戻すとしよう。
 世界生成の秘密を究明し森羅万象を理解する野望を秘め、天才の種族に属する同志。
 アルド・ナリス殿下に贈る吾輩からの挨拶として、幾つかの情報を提供しよう。
 ヤンダル・ゾックはウォルドリア星系B惑星ヨルグ竜の民、インガルス竜人族の集合意識だね。
 第5次銀河大戦の際に我々の宇宙に侵入した存在、旧支配者を復活させようとしているのだな。
 《西》の地下から次元回廊が通じる地底世界、赤く輝くヨスに棲息する蜥蜴に似た種族。
 数千年後に闇王国パロスのゼフィール王子が、異次元の故郷へ還した精神寄生体と推定される。

 ついでに言えば君が夢の回廊で聞かされた神の種子は、通称ヨーグが遺した存在ではないかな。
 カレナリア星系第3惑星の文明を滅ぼした有害生命体もまた、ヨグ=ソトートの眷属と見るね。
 あらゆる時空に接する門の鍵にして守護者と尊称され、時空を超越する渾沌界の超越者。
 輝くトラペゾヘドロン、黒い石に寄生する生命体が進化ないし分化した姿とも思われる。
 肉食植物の黒い石から分離し宇宙エネルギーを取り込み、時空を超越する存在と化した眼の者。
 眼の位置に在る光の渦に顔の上部が覆われ口から下しか見えない《眼》、結城大和を思い出すね。
 力は大して持たなかった《眼》のなかにも、《天才》が存在したのだな。
 己の無力を呪い種族の限界を突き破り、《力》を得た形態であると推測される。

 孵化した種子のアモンは性格が歪んでしまっているが、当然の結果と言うしかあるまい。
 カナンの無念、怨念、妄執、悔恨を養分として与えられ続けたのだからね。
 『宇宙全体に増え拡がりたい』とは『死にたくない』の裏返し、怨念が転化した姿に他ならぬ。
 ヤンダルが生贄としたキタイの女達の未練、断末魔の思念を取込んで孵化した当然の結果だよ。
 蜃気楼の娘サラーの残留思念『忘れないで欲しい、覚えていて欲しい』の変形でもある。
 『忘れ去られる事の無い様、宇宙全体に己の存在の証を刻み付けたい』との尽きせぬ妄執だな。
 人間も幼少期に負の感情を植え続ければ、邪悪と看做される存在になるのだから無理もないね。
 幸福な感情や優しい思念、美しい思考を養分として与えれば弥勒や菩薩になれたかもしれない。
 南の鷹スカールが見たグル・ヌーの星船内部に漂うフモールも、或る意味では気の毒な存在だ。

 大魔道師アグリッパが封じた極北の荒野、夢幻境カダスに眠る万物の王アザトートもそうだね。
 極冷の荒地カダスとは火星と木星の間を巡る小惑星帯《アステロイド・ベルト》、嘗ての氷惑星。
 氷雪の国ヨツンヘイム地下に封じられた世界を破滅させる力、超時空次元回廊が接続する異界。
 旧神に意志と知性を奪われ黒瑪瑙城に封印されたアザトートは、我輩も対面した事がある。
 巨眼を開き「Ya-n!」と叫び瞳が虹彩も眼球も無い光の渦と化す時、人も神も己の最期を視る。
 神の種子から誕生する存在の存在様式、指向性は孵化する為に取り込んだ養分に左右される。
 種子の状態で与えられた因子により性格を決定し得る精神生命体、であるからね。
 火がクトゥグア、風がハストゥールを形成したとも考えられる。
 蛸がクトゥルー、蛙がツァトゥグァかどうかは知らんがね。

 フモールと幾度と無く出会った豹頭王、グインの激烈な反応は何を指し示しているのか?
 其処には調整者への手掛りが存在すると思うが謎の宝珠、ルルイエの三姉妹も興味深いね。
 ユーライカの瑠璃は妹、オーランディアの碧玉とミラルカの琥珀は姉との言及が見られる。
 宝玉3つを揃える事が星の海を渡る必要条件、ランドック帝王の身分証明とも語られている。
 精神文明の産物レンズ、或いはパターンを裡に秘める審判の宝石かどうかは断言しかねるが。
 幾つかの手掛かりは天上の都ランドックについて、或る仮説の構築を可能としてくれる。
 明白な論理的帰結と思われる吾輩の推測、仮説に物的証拠は無いが君は先を聞きたいかね?」 
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