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桃の香り

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2部分:第二章


第二章

 そのうえで明久を見下ろしながらです。尋ねてきているのです。
「どうするのかしら」
「それは」
「買わないと取ったわ駄目よ」
「買わなかったら」
「そう。その桃食べたいと思っているわね」
「うん、そうだけれど」
 明久がこう言うとです。お母さんは。
 確かな声で。こう明久に言ってきました。
「食べたいのだったら買うのよ」
「買わないと駄目なの」
「そう、買うのよ」
 そうしないと駄目だというのです。
「買わないで取って食べるのはね」
「いけないことだったよね」
「そうよ。お母さんいつも言ってるわね」
 お母さんは明久にお話を続けます。
「そうしないと駄目なのよ」
「じゃあ」
「そう。今は桃は手にしたら駄目よ」
 こう言うのでした。
「絶対にね」
「うん、じゃあ」
 明久もです。お母さんの話にです。
 静かに頷いて。そうしてなのでした。
 桃に伸ばしていた手を収めたのでした。その明久にです。
 お母さんはにこりと笑ってこう言いました。
「それでいいのよ。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「明ちゃんがいい子のままでいてくれるから」
 ものを取らなかった、だからだというのです。
「カレー以外にもね」
「カレーの他にも?」
「シュークリームも買いましょう」
「えっ、シュークリーム!?」
 シュークリームと聞いてです。明久は。
 それまでの反省していた、悪いことをしようとしていたことを反省している顔をすぐに明るくさせてです。明るい声を出したのです。
「シュークリームもなの!?」
「明ちゃん大好きよね、シュークリーム」
「うん、シュークリーム大好き」
 実際にそうだと答えるのでした。
「お父さんも大好きよね」
「だからね。皆で食べましょう」
「うん、それじゃあ」
「今日はシーフードカレーとシュークリームよ」
「有り難う、お母さん」
「いい子にしているからね」
 だからだと言ってです。お母さんは明久にシュークリームも買ってあげるのでした。してはいけないことを知っていい子のままでいる自分の子供に。


桃の香り   完


                   2011・7・30
 
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