迷子
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2部分:第二章
第二章
「そうか。こっちなんだ」
真史にもわかったのでした。それで何処に行くべきかもどうするべきかも。彼はその人達について行ってそれで何とかおトイレに辿り着くことができました。これで何とか助かりました。
けれどおトイレを済ませてそこから出てからふと気付いたのです。道が全然わからないのです。
「ベンチ・・・・・・何処?」
周りを見回しても何も見えません。何処に何があるのかさっぱりわかりません。見渡す限り車ばかりで横にはスーパーの建物があって人が一杯行き来しているのが見えるだけです。他には何も見えないのでした。
そんな中で真史は途方に暮れてしまいました。どうやってベンチまで行くのか。全くわかりませんでした。
けれどそれでもベンチまで行かないといけません。お母さんとの約束だからです。それにそこには大好きなジロがいます。行きたくて仕方がないといった理由もありました。
だから真史はとりあえず歩きはじめました。そうしてベンチを目指します。けれど行けども行けども車ばかりでやっぱりベンチは見えません。何処に何があるのかさえわからなくなってきました。
「車ばかりじゃない」
本当に見えるのはそれだけです。何処を進んでも何処を曲がってもです。他には何も見えません。
「ジロ、何処なの?」
その車の中を進みながら周りを見回して言います。
「何処にいるの?」
時々今動きだした車に驚かされながら不安になりながら探します。けれどベンチには辿り着けず。真史は完全に迷子になってしまったのです。
その時ジロは真史を待ちながらベンチの側で丸くなって寝ていました。けれど不意に何かに気付いたように顔をあげて。それで少し真剣な顔になるのでした。
「クウ・・・・・・」
そうして立ち上がると手綱を引き摺ってそのうえで何処かに行きました。そのまま車の中に入って行くのでした。
真史は今にも泣きそうな顔になって車の間を進んでいきます。けれどどうしてもベンチは見えず彼はもう歩きながら途方に暮れていました。本当に何処に何があるのかさえわかりません。
その中で誰かに聞こうとも思いましたが。ここでお父さんとお母さんにいつも言われている言葉を思い出してそれを止めてしまったのです。
「駄目だよ、それ」
首を横に振って自分でそれは駄目だと言うのでした。
「知らない人について行ったら」
そのことを思い出してそれは止めるのでした。そうして周囲を見回しながら必死にベンチを探し回っていると。不意に何処からか声が聞こえてきました。
「ワンワン」
「ワンワン?」
その鳴き声は聞き覚えのあるものでした。
「この声って。まさか」
「ワン!」
ここでまた聞こえてきました。
「ワン!」
「ジロ!?」
真史にはわかりました。その声が誰のものなのか。そして何処から聞こえてくるのか。
「こっちだ。ジロ!」
「ワン!」
また声が聞こえてきました。そうして声のした方に行くと。
そこにジロがいました。真史のところに駆け寄ってきます。そうしてそのジロを抱き締めると。
「うわあ、くすぐったいよ」
「クゥ〜〜〜〜ン、クゥ〜〜〜〜ン」
優しい声を出して真史の顔を舐め回すのでした。再会を喜んで。
「ジロ、何で僕のいる場所がわかったの?」
「ワン」
けれどジロは答えず鳴いて応えるだけでした。けれど真史はそれを聞いただけで何となくわかったのでした。本当に何となくですけれど。
「そうなんだ。僕の声とかを聞いて」
「ワウン」
「あと匂いかな」
犬の鼻が物凄くいいことはお母さんから教えてもらっていました。それもとんでもない位に。それだったら自分がいる場所もわかるのだと考えたのです。
「それで来てくれたんだね。有り難う」
「ワン」
ここでも嬉しそうに鳴くだけのジロでした。けれどもうそれだけで充分でした。
後はジロがベンチまで案内してくれました。そうしてそこでまた遊んでいるうちにお母さんが来て。笑顔で言うのでした。
「いい子にして待っていたのね。そんなに仲良く遊んで」
けれどお母さんは知りませんでした。真史とジロに何があったのか。真史がどれだけ寂しく怖く辛い思いをしてそしてジロに助けてもらったことは。それは知りませんでした。
お母さんが知らなくてても真史はこのことをずっと忘れませんでした。ジロだけでなく他の犬も皆大好きになって。犬のことを大好きでい続けました。何時までも何時までも。
迷子 完
2009・4・29
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