新説兎と亀
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1部分:第一章
第一章
新説兎と亀
ある山の中に兎と亀がいました。兎は走ることがとても得意でいつもこのことを自慢していました。
「僕は人参を食べるのと走ることだったら誰にも負けないよ」
「誰にもなんさ」
「そうさ、絶対にね」
胸を張ってこう言います。それである日お池でいつも寝ている亀に対して言うのでした。
「亀さんもそういうのあるの?やっぱり」
「僕にも?」
「そうだよ。亀さんはいつもそうやってお池のところにいるよね」
「うん、そうだよ」
この日もお池の側で日向ぼっこをしています。そうして兎の声に目を覚まして話を聞いています。
「それがどうかしたの?」
「亀さんに得意なものはあるの?」
こう亀に尋ねるのでした。
「やっぱり。それはどうなのかな」
「多分あれかな」
ここで亀は首を少し捻って兎の質問に答えました。
「泳ぐことかな」
「泳ぐこと?」
「うん。僕はいつもお池のところにいるじゃない」
「うん」
兎は亀の言葉に頷きます。それはまさにその通りです。だからここにいます。けれどそれでもです。亀が何が得意かまではわかっていないのです。
「だから泳ぐことかな」
「そんなに得意なの?」
「多分」
亀の返事は今一つはっきりとしません。
「そうだと思うけれどね」
「そうなんだ。亀さんは泳ぐのが得意なんだ」
「あとは寝ることがね」
これも得意だというのです。
「それかな、やっぱり」
「じゃあさ、競争してみない?」
兎は亀の言葉を聞いてこう提案してきました。
「どっちが走るのが速いか。それで」
「泳ぐのが速いのかだよね」
「そうだよ。やってみない?」
また亀に対して提案します。
「どうかな。嫌だったらいいけれど」
「そうだね。いつも寝ていてもいいけれど」
亀はおっとりとした調子で兎に応えて言葉を続けてきました。
「たまにはそれもいいかな」
「じゃあさ、まずは走って」
「それから泳いでだよね」
「うん、そうしよう」
兎が中心になって話を進めていくます。
「それでどうかな」
「いいよ、それで」
亀は相変わらずの呑気な調子です。
「じゃあ明日ね」
「うん、明日競争をしよう」
こうして彼等は走ることを泳ぐことの両方で競争をすることにしました。このことはすぐに村の皆に伝わります。そうして皆集まって彼等の競争を見るのでした。
「頑張れよ」
「どっちも手を抜くなよ」
皆はそれぞれこう彼等に声をかけます。
「気合入れていけよ」
「それで最初はどっちをするんだ?」
「かけっこだよ」
兎が周りにいる皆に話します。
「最初はそれをするんだよ」
「じゃあ兎さんが勝つかな」
「そうだよな」
皆かけっこに関しては兎が勝つと見ていました。
「それじゃあやっぱり」
「だよね」
「手は抜かないよ」
兎はこのことは本当に注意していました。
「絶対にね」
「うん、そうした方がいいよ」
「途中で油断して寝たりしたら駄目だよ」
「わかってるよ」
兎はにこりと笑っていましたけれどその目は真面目でした。
「僕だって負けたくはないからね」
「そうそう、油断大敵」
「若し途中で昼寝なんかしたら亀さんに失礼だよ」
「間違ってもそんなことはしないよ」
兎はこのことは本当に気をつけていました。
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