欲しいものは
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4部分:第四章
第四章
「できたよ」
「そう、できたね」
「僕が作ったんだ」
お父さんとお母さんに対して言います。はじめて自分で作ったものでした。
「このロボットは」
「そうよ」
お母さんはにこりと笑って弘道に言いました。
「ひろ君が作ったのよ」
「そうだよね。僕が」
「欲しかったのよね」
そして今度はさりげなく弘道の欲しがる癖を言いました。
「このロボットが」
「うん、凄く欲しかったんだ」
自分でもそのことを言います。だから買って買ってと駄々をこねたのです。このことは弘道自身もよく覚えていることでした。忘れてはいません。
「これ、とてもね」
「それを自分で作ったのよ」
「僕が」
「そうよ。欲しいものはね」
「うん」
お母さんの言葉を聞きます。お母さんはじっと弘道の目を見て話をしています。
「自分でね」
「僕が?」
「そう。ひろ君が作るものなのよ」
こう教えるのでした。
「自分でね。いいわね」
「欲しいものは自分で作るんだ」
「そうよ」
また弘道に言いました。
「自分でね。わかったわね」
「うん、わかった」
弘道はお母さんのその言葉に頷きました。
「これからは欲しいものは自分で作るよ」
「それでね」
お母さんは弘道は頷いたのを見てさらに言いました。この辺りはお母さんもよくわかっているのでした。
「一つのものを作っている間は他のものはあまり作ったら駄目よ」
「どうしてなの?」
「だって。それを完全にしないと作ってもらっているものが可哀想でしょ」
「可哀想なんだ」
「そうよ」
こう弘道に教えるのでした。
「折角作ってもらってるんだから」
「そうなんだ。可哀想なんだ」
「だから。いいわね」
教える言葉はまだ続きます。
「一つのものを作ったら。ずっとね」
「わかったよ、お母さん」
やっぱり弘道は素直でした。お母さんの言葉にすぐに頷きます。それから自分でもこのことを言うのです。
「僕、自分で作るよ」
「ええ」
「それで作っている間は他のものは作らないよ」
このことも言いました。
「これからは。そうしないと駄目なんだよね」
「そうよ。これは守ってね」
「うん」
お母さんの言葉に頷きました。
「ずっと。そうするよ」
お母さんは笑顔で弘道の言葉を聞いていました。その横ではお父さんも。こうして弘道はそれからは欲しいものは自分で作るようになって一つのものを作っている間は他のものは作らなくなったのでした。
庭先で模型のプロペラの飛行機が飛んでいます。木とビニールのその飛行機は一旦飛ばすとそのまま軽やかに空を飛びます。庭に出る場所に腰掛けてそれを見ている男の子はふとした感じで後ろの畳の部屋で洗濯物を畳んでいるお婆さんに対して言いました。
「この飛行機凄くよく飛ぶね」
「あら、そうなの」
「飛ぶよ。よくこんなのあったよね」
「お爺ちゃんが作ったものなんだよ」
「これもなんだ」
「そうだよ」
お婆さんは洗濯物をたたみながら笑顔で男の子に言いました。
「その飛行機もね」
「居間の人形もそうだったよね」
「そうだよ、あれもね」
「あとこの家の椅子やテーブルも」
「何でもそうだよ。全部お爺ちゃんが欲しいと思ったからね」
「凄いよ」
男の子はその話を聞いて言いました。
「全部作っちゃうなんて、自分で」
「お爺さんは発明家だから」
「それで凄く有名だしね」
「子供の頃からね。何でも作ったんだって」
「ふうん」
「欲しいと思ったら。まず自分で作って」
お婆さんはこのことを男の子に言うのでした。
「一つのものを作ったらそれにかかりっきりになってね」
「それでこの飛行機も作ったんだ」
飛行機はまだ空を飛んでいます。もうかなり長い間飛んでいます。男の子は青く太陽が輝く空に飛んでいるその飛行機を見上げたままお婆さんと話を続けるのでした。
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