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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第23話 不明レベル値

~カスタムの町~
 
 ロゼが言っていたセリフはとりあえずスルーするユーリ。
 以前はあたふたしていた様だが、ロゼと言う人物像を知ったユーリはもうあの時の彼ではないのだ!! 完全な空元気だが、それは仕方が無い方向で。

「ぶ~、つまんないわね」
「面白がるな! それに、まだ仕事は残ってるんだからな……」

 ユーリは、こめかみに指を押し付けながら 唸っていた。ロゼは、とりあえずその姿を見て満足気味にすると本題に入る。

「ちょっと変な事が合ってね? チサが見つかったの」
「っっ!!」

 突然さらっと重要な情報を言ってくれるロゼさん。
『そっちを早く言えよ!』と、強く思ったユーリだが、今はそれ所では無い。

「彼女、ラギシス邸跡地にいたみたいなのよ。私は偶々通りかかったときに彼女を見つけたから。中に入ってみたら 何かと話してる? 感じがしたんだけど、私を見るなり倒れちゃって、そんなに刺激的かしらね?」
「刺激的か? って聞かれたら格好もそうだが、性格もなと返そう。だが、良かった……、気がかりだったから」
「ま、否定しないけどね。正直な所、マジで一体何と話てたんだろ? とか思っちゃったけど。今は教会で安静にさせているわ。神様とでも話してたのかしら? あ~ら、まあ羨ましい事極まれりってね」
「……1mgも思っちゃいないだろうに、まぁ兎も角教会へ行こう。彼女が心配だし、聞きたい事あるからな」
「本当に良かった……チサちゃん」

 ロゼたちの会話を聞いて涙ぐんでいたマリア。
 内容の半分くらいはぶっ飛んだ内容でもないが、チサが無事だったと言う事実がそれを覆い隠してしまうほどだったんだ。

「マリア、とにかくオレは彼女の所へ言ってくる。後で合流するよ」
「うん。……私も安心できた」

 マリアは強く頷いた。
 後は、親友の志津香を助けるだけだから、心配事が減った今、自ずと力も入るというものだ。

「あ……、ユーリさん。少し気になる事があるんです」
「ん? なんだ?」

 マリアは志津香の事を考えた時にある思い出したようだ。

「町の結界の事、なんです」

 マリアは話だした。

 そう、エレノア・ランを町へ連れて帰った時に町の異変に気がついた。
 町を覆う結界が外れ、外の光。太陽がこの町に差し込んでいたんだ。町の住民は、喜びの声を少なからず上げていた。だが、まだ完全に解決したわけでは無いから、そこまで大々的に喜びを見せてはいないようだったが。

「そうだな。町の結界の解除、解放だった。だが、これで仕事が終わりだとは思ってないぞ?」
「うん。そう思ってくれてるのは嬉しい。でも違うの、皆私達3人が解放されたから、って思ってるみたいだけど……、事実は違う」
「……どういうことだ?」

 マリアは続けた。

 あの結界は、四魔女で仕掛けたものじゃないと。
 あの結界を維持、管理していたのは リーダー格である魔想志津香ただ1人。町の女の子を攫う理由はまだ知らないけれど、間違いないのはランやミル、そしてマリアがいなくなったから、解放された訳ではないと言う事だ。

「……成程、志津香か。一筋縄ではいかない相手だな」
「そりゃ、とーぜんよユーリ。私も彼女の事知ってるけど、魔法使いとしては間違いなく歴史に名を残すくらいの才覚はあるでしょうね」

 ロゼもいつになく真剣にそう言っていた。

「ま、私は私でAL教の歴史に名を刻んでいるから、同等! って事」
「……それ意味が違うだろ絶対。……判った。マリア。貴重な情報をありがとう」
「いや、感謝してるのは私達だからね! ユーリさん達のおかげで私達は救われたんだからっ」

 マリアは、感謝を深くしているようで、ユーリに深々と頭を下げた後、ユーリの手を握った。ユーリも握り返して、そして笑顔になる。……そんな2人を横で見ていたロゼは。

「あ~ら、ユーリったら、女っ垂らしになっちゃったの?」
「違うわ! オレをランスと一緒にするな」
「あー、さっき教会に来たコの事? まあ体力は有り余っていそうだから相手したけど、テクは、まだまだってトコね」
「……何の話だ何の 兎も角、オレは教会へ行くぞ? ロゼもどうせ付いてくるんだろう?」
「当然っ。 なんたって、協会、私の家だし」
「……神の家と言え」
「おや? ギャグかしら?」
「違うわ!」

 楽しそうにジャレ合う2人を見たマリアは、まるでランスとユーリの2人を見ている様な感じもしていた。苦手だといっていたが、これだけ言い合えると言う事はそれなりに信頼はしている様だと判る。真知子と同様に、彼と彼女の過去の出会い……聞いてみたいとマリアも思っていた。

「(あのロゼさんが、こんな感じになるんだからね)」

 町一の変人と称されているロゼ。
 近寄りがたい人とも思われている(主な原因は教会で行われている行為の為)。そんなロゼが、こんなに楽しそうに他人と話をしているんだから。






~カスタムの町 教会~



 ロゼとユーリは、チサが眠っている教会へと戻ってきた。
 幸いな事に彼女は、殆ど同時に眼を覚ましていたようだ。教会の椅子を並べ、毛布を轢いてる簡易ベッド(……にしては豪勢)からゆっくりと身体を起こしていたのだ。だが、まだその瞳は焦点があっておらず、ぼんやりとしている。

「チサちゃん、大丈夫か?」

 ユーリが傍へと駆け寄り、身体を支えてあげた。
 チサは、背中の感触から傍に誰かがいる事が判ったのか、ゆっくりとユーリの方を見る。

「あ、あれ……ユーリ、さん?」
「ああ、オレだ。大丈夫か? いったい何があった?」
「……何が? え、えっと……」

 チサは、考え込む。
 だが、考えがまるで纏まらないようだ。

「貴女は、突然いなくなったの。これだけを残してね」

 ロゼは、チサの買い物袋を差し出した。それを見たチサは少しずつ、思い出していく。

「あ……、そう、私は買物に出ていて……、どうして? どうして、私はここに……? わ、わからない」
「ここに運んだのは私。貴女はラギシス邸にいたのよ。……覚えてる?」
「それが……何も……」
「とりあえず、町長の家に連れて行こう。見たところ大丈夫そうだ。……犯人もいずれは判るだろう。今回の件と無関係とはどうしても思えないからな」

 ユーリはそう言う。ロゼも頷いた。

「そうね。このコの事、頼むわよ? 一応 ヒーリングはかけたけど、少しの間は安静にさせる事」
「……ああ」

 ユーリは、まともなロゼの回答に、やや違和感を覚えたが今はそんなにフザけてる場面でもない。ロゼもいつもがいつも、あんな感じじゃないんだろう。

「チサちゃん。歩けるか?」
「あ……、はい。身体の方はなんともないみたいです。……ロゼさん、ありがとうございます」
「いーえ、良いって事。大丈夫、ちゃんと貴女のお父上様にたんまりご寄付をしていただく予定なので、ああ、ALICE様も私も喜ぶわ。あ~めん」

 ……撤回しよう。
 ロゼはロゼだった。全くぶれないいつも通りのロゼのようだ。

「そんじゃあね~ユーリ。この件、終わったら奢りなさい。酒の1つや2つ。バチは当たらないわよ?」
「あーはいはい、わかったわかった」

 ユーリは手を挙げる。
 確かにロゼの言うとおりだ。その程度でバチが当たるのなら、ロゼはきっともう死んでる。彼女もそれは重々承知のようだ。 そして、チサを連れてユーリは教会から出て行った。






~カスタムの町 町長の家~


 ユーリは、チサを連れて家に戻ってきた。チサは、家を見たその時、慌てて入っていった。今まで、何があったのかははっきりと覚えていない様子だったが、行方不明になってしまっていた事、父に心配をかけてしまった事は理解出来ていた為、早く父に顔を見せる為に慌てていたようだ。

「うぉぉぉぉぉん!! ちぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 あっという間に、父親の感極まるような叫び?声が響き渡ってきた。家の外でも聞こえてくるんだ。病弱な割には声量がハンパない。

「……娘がいれば病魔もなんのそのって事か」

 ユーリはややため息をしていた。
 その叫ぶような声は止む事は一切なく、続いている。今家に入ったら、耳に多大なる被害を受けてしまいそうだから 入るのはとりあえず見送った。チサ自身に、礼も言われたし 彼女から父親に説明も出来るだろう。




 とりあえず、チサを預けた後、町長の家を 後にする。




 チサは、仕切りにお礼を言っていたが、あの父親が離してくれる筈もなく、世話をしなければならない為、ユーリは軽く手を振って出て行ったのだ。

 正直な所、かなりの近所迷惑になってしまっているから、それを抑えてくれた方がありがたい。


「さて……、ランスはシィルちゃんといる筈だし、邪魔するのも野暮だ。町の様子でも見てくるか」

 ユーリはそう言うと、町中へと足を進めていった。まずは、何処へ向かおうかと歩きながら模索している時。

「あっ……! ユーリさん」
「エレナ……さんか」

 扉を開いた先でばったりと出会ったのが、酒場の看板娘、エレナだった。

「本当にありがとうございます! 営業できるのか……と、沈んでましたがあなた達のおかげで町は光りを取り戻し、そして、何よりも店が大繁盛です!」
「はは、太陽の光りより酒場繁盛の方が嬉しそうだな」
「あ~、ま、まぁ 実際 死活問題でもありますから。それよりも、マリアさんに続いてミルやランさんまで。感謝してもし足りませんよ」
「なに、依頼をこなしているだけだよ。……それに、まだ1人残っているだろう? 終わりじゃない」
「そう、でしたね。まだ志津香さんもいます。……宜しくお願いします。信じてますから」

 エレナは笑顔でユーリの手を握った。その時だ。その言葉と笑顔、そして エレナからそう言われた。

 この3条件もあった為か、ユーリはフラッシュバックを起こした。

 目の前が一瞬暗くなり、鮮明に映し出される光景。


 表情は見えない。
 ただ、見えるのは長く淡い青色の髪。


『……約束、だよ』


 そして声も聞こえてくる。まるで、目の前に本当にいるかのように。


『お花……するのが夢。……だから、お……ちゃん、……信じてるからね』


 表情は見えないのに、判る。
 凄く笑顔だって言う事。そして笑顔で答えている自分も判る。

 一体、何があった?

 何故、笑顔で何かを約束した筈なのに、何故この目の前の彼女の記憶が自分には無い?

「……さん?」

 いや……、全くないわけではない。何度も合ったこの感覚。記憶を食い荒らされている感覚。

「(……此処まで来ると人為的なものを感じる。なんだ……? 誰かが俺に……? だとしたら、一体何時、オレに?)」

 記憶を奪う魔法。
 それは決して無いわけではない。相手の人格を変えてしまう魔法アイテムも多数存在するのだから、記憶を操作、奪う物も幾らでもある筈だ。それが魔法大国ゼスであれば特に。
 だが、自分に誰が使った? そして何時使った? それらが一切判らない。

 記憶が曖昧な以上、判らないのも当然だと思われるが。

「……ーリさん!」

 自分の記憶がはっきりしてるのは、8歳くらいから……だろうか。様々な世界を体験し、経験してきた。……そして、魔の世界も 少なからず経験し、様々な世界も見てきた。その過程で、冒険者としての才覚も出てきて。

≪自覚≫も生まれた。

 だが、自分は……いつこうなった?


「ユーリさん!!」
「っ!」

 突然、大きな声で呼ばれた為、慌ててユーリは前を見た。

「どうしたんですか??心ここに在らずで。何かあったのですか?」

 エレナが心配そうに顔を覗き込んでいた。どうやら、少し長い間考え込んでいたようだ。

「あ、ああ……悪い悪い。少し考え事をしててな。今後の事とかさ?」
「そうですか……。お身体には十分気をつけてくださいね。私でよければいつでもお相手いたしますから」
「ああ、ありがと……ん? 相手?」
「あ~い、いえ、ちょっといつものアレが出ちゃいまして。私は身体も売ってる娼婦もしてるんです」
「……ああ、そう言う事」

 別にユーリは不思議には思ってはいない。生きる為、金を稼ぐ為、にしている女性も多々いる。そしてこの時代、慰安婦も大切な存在だ。日ごろの労をねぎらって、楽しませる事。不満を溜めずに吐き出すはけ口と言えば聞こえは悪いと思うが、その彼女達がいるからこそ、一般人が襲わる確立を下げているとも言えるのだから。

「オレはいい。ランスなら判らないが……今はシィルちゃんも帰ってきたしな」
「ええ! あのゴッドオブへヤーのコも帰って! これは、また触らせてもらわないと!」
「……そんな事したら、ランスにヤられるぞ」
「その時はお金頂きますので。示して600GOLD」
「その金はオレが払いそうな空気になる。オレがいない時に頼むな」

 苦笑いしつつ、ユーリはそう言っていた。そして、その後の町の事を色々と説明をしてくれた。

 まずマリアだが、彼女は外で新しい町の開発陣頭指揮に当たってるとの事。

「成程な、マリアは開発の技能が高い。適任と言うわけだ」
「ええ、それはもう! 彼女が作ってくれた土木機械が凄くて、人手もかからずに出来てしまうので、小さな町としては大助かりです」

 エレナは笑顔でそう言っていた。
 マリアにはそれが似合うだろうと、ユーリは思っていた。……研究室で篭っている姿も、まぁ似合いといえば似合い、だが 町の為に開発する彼女。笑顔で汗を拭いながら指揮をしている姿が目に浮かぶ。

 そして、ヨークス姉妹。ミリとミルは薬屋を営んでいると言う話は聞いた。

 彼女達の店は、安く、効果のいい薬を売ってくれていると言う事で町の皆が世話になっていると言う事だ。

「……仲の良い姉妹だしな」
「そうですよ! ミルは、最初は泣きグズってたけど、今は一緒に頑張ってくれてます。とても、楽しそうなんですよ。……久しぶりに見れて良かったんです、あのコの笑顔が」
「ああ。無理に幻術で姿を変えて、妖艶な笑みを浮かべていたあの時よりずっといい」

 エレナはミルの笑顔を頭に浮かばせながら涙ぐんでいた。ユーリも、最初は敵として出会っていた時の彼女を思い描き、あの笑みを見ていたから判る。無邪気に家族と一緒に笑っている方が万倍も良いと。

「薬屋の方にもまた、顔を出すか、アイテムの補給も兼ねて」
「ええ、きっと喜ぶと思いますよ? ミリさんもミルも。あ~ミルに会う時はランスさんを連れて行ったほうが良いですね」
「ん? ランスを?」
「あー……その、確か指輪が原因で、それを外す為には処女を失わなければならないんでしたよね?」
「ま、そうだな。そう言う類の呪い系の力は多数あるから。外す為、と言うよりは処女でなければ着ける事が出来ないと解釈してるよ」

 ユーリは、やや呆れつつそう答えた。
 妄りに話すような内容ではない、特に女性の前ならそうだ。だけど、相手から話をしてきたのなら別だ。

「それで、ミルはランスさんが初めての人って事で大層気に入っちゃったみたいでね?」
「………」

 ユーリは、今度は驚いた表情をしていた。
 あの時のミルは破爪の痛みで大声を上げて泣いていた筈だ。痛みの原因であるランスを憎むのではなく気に入るとは……

「ミリの妹って事はあるんだな。そう考えれば、何処か納得できる」
「あ……はは。知ってましたか、そうですよね。一緒に迷宮にいたんですから」
「まあな。……ランスが女だったら、ってイメージだ。簡単に言えば」
「的を射ていると思いますよ。いくら私でも、ミリさん程にはなれないですから」
「別にならんでいいだろ」

 2人は最後には互いに苦笑いをしていた。

 そして、次の話題はランの話になる。

 彼女は役所で外交を行っていると言う事だ。資金不足は否めないカスタム。だから、東の大国・リーザスから復旧の資金を借りる為に尽力を尽くしていると言う事。真面目で優しい彼女ならではの仕事だ。

「ランか。……だが、良かった。彼女が今回の件で一番心を痛めている様子だったからな」
「ふふ。立ち直れたのはユーリさんのおかげだって言ってましたよ? 『頬に受けた優しい痛みが立ちなおさせてくれました』って、言ってました。……後、『まだ、時間はかかるとは思いますが、少しずつ、少しずつ頑張ります』 と言ってました。御自分で伝えれば良いのに、恥ずかしがっているんですね」
「……そうか。それは良かった。ん、リーザスか」

 ユーリはリーザスと言う単語を聞いて考え込む。
 色々と資金不足で援助を依頼しているようだが、あの国も平和とは言え、そんなに直ぐに手助け出来る余裕があるか?と問われれば判らない。……近年、噂ではヘルマンとの小競り合いも良く聞く話だ。
 ランスからの頼みであれば、あの(・・)王女ならば、喜んで協力するとは思うが、正直な所、ランスを出汁にはしたくない。
 
 それがバレて、そしてその引き換えに何を要求させられるか判ったものでもないからだ。

「ん? ユーリさんは、リーザスにも言った事が?」
「ん、ああ。所属ギルド自体は自由都市内だが、依頼で少しな」
「へー、やっぱり凄い。バード冒険団、とは全然違うんですね」
「いや、ただ他人より知ってるだけだ。大層なものじゃない」

 エレナは、これは謙遜をしていると直ぐに判った。本当に出来る男は自分の事を持ち上げたりしない。……その点ランスは真逆だが、例外として。

「それじゃあ、色々とありがとうエレナ。また、酒場にもよらせてもらうよ」
「はい、是非いらして下さいね。ユーリさん」

 ユーリは、そのまま酒場を後にした。エレナはその後姿が見えなくなるまで見送っていた。

 ……町を救ってくれる英雄の姿を。


「英雄、時代は英雄を欲している。どこかで聞いてた言葉、だよね」


 彼女が世界の状況を知っているとは思えない。本当に、どこかで聞いた言葉をふと思い出したのだろう。


「英雄ユーリ。それはとても強くて、とても優しくて」


 目を瞑り、そして天を仰いだ。最後には、ニコリと微笑み。

「とっても、可愛らしいお姿!」

 そう答えると、エレナは酒場へと入っていった。…酒場へと入る時、どこかで誰かのくしゃみが聞こえて気がしていた。






~カスタムの町 薬屋~

 
 先の戦いでそれなりに、アイテムも消費していた為、ユーリはまず顔を見るがてら ヨークス姉妹の顔を見に来ていた。

「やぁ、ユーリじゃねえか! もちろん、何か買ってくれるんだろうな?」
「ああ、消耗品を補充しておこうと思ってな? 町長のガイゼルから、この薬屋は 良いと評判を聞いたからな」
「はは! あんたみたいに強い男に薬なんざ、必要なのか?」
「……店主の言葉とは思えないセリフだな? 買う前に、それ言っていいのか?」
「ふふふ。最初に、買うと言ってただろ? 撤回なんかしないだろ?」
「言ってたもんね!」

 姉妹2人して、ニコニコと笑っている。
 その雰囲気を見ただけで、助けられて良かったとユーリは思えていた。

「ユーリお兄ちゃん笑ってる!」
「……そうだな。仲良くて良かったと思ったんだ」

 ユーリは、笑っているミルを見ながら、頭を撫でる。

「感謝してるよ。……ユーリには」

 ミリは、ユーリの身体にすっと抱きついた。
 あの時、助けてくれなかったら 恐らく自分もあの場所で息絶えていただろう。そして、ミルもどうなっていたか判らない。魔法の指輪に操られていた、に等しい状態だったから。
 目を覚ました時、たった1人の家族で、姉妹であるミリがいなくなってしまっていたら、一体どうなっていただろう。
 ……甘えたい盛りでもある、ミルには酷な話なのだ。

 だからこそ、ユーリには感謝をしていた。勿論ランスにもだが、何よりもユーリに。

「まだ、終わってないさ。最後まで、責任は持つ。報酬を貰ってるしな」

 ユーリは、抱きしめられたミリの手の上にそっと、自身の手を乗せた。それを見たミリは 苦笑いをしてしまう。

「……ったく、こんなに抱きしめてるってのに、アンタ本当に19歳か? 女としてのプライドも傷つけられちまったよ」 
「……オレは、お前に歳を聞かれたことも、話題を出したことも無い筈だが?」
「風の噂だ」
「嘘つけ!!」
「あははは!!」

 口喧嘩?をしてる2人を見てミルは盛大に笑っていた。

「ほら、それに ランスだったら、即効でおっ勃ててるんだがな?」
「一緒にするなって。それに ランスだったら、今のミリの姿だけで反応してる」

 簡易防具をつけているユーリ。
 勿論下半身にも、装備はしているし、ちょっと抱きついたくらいじゃわからないのだが、ミリは反応が乏しいと言う事で見抜いたようだ。今のミリは露出が多い殆ど下着姿だ。ロゼといい勝負だろう。

「ん~ユーリは童貞じゃなさそうだ」
「まぁ……な。それに、ンな事堂々と聞くことでも言う事でもないと思うが。そこはミリだし」
「そう、オレだからだ。男とスルのも女とスルのも好きなんでな」
「あたしは、ランスと~」
「そんなのまだ覚えなくて良い」

 ユーリはそう言って苦笑いをした。
 悪影響を受けるぞ?とミリに言おうとしたユーリだったが……、既に齢9歳にして性行為をしちゃってる今は無意味だろうと止めていた。

「はぁ……、とりあえず元気そうで良かったよ。ミルも」
「ああ、ありがとな」
「良いさ。それより、商品を見せてもらえないか?」
「おっ!そうだったな!買ってくれる約束だ。ほれ、≪ホレ薬≫≪媚薬≫≪精神破壊薬≫≪精力増強剤≫! 多彩なラインナップがどれにs「帰る」って嘘だよ嘘」

 ユーリは、ミリが説明してる最中に背を向けたが、ミリが引き止めていた

「ったく…、本当に嘘なら何で現物だしてるんだよ」
「いやいや、冒険だけじゃなく、いつかは必要になるかな、と」
「今の所、予定は無い」
「そうか、そりゃ残念。だが、お前さんを好いているコがいたら、譲ろうかね? 簡易的なものもあるしな~♪」
「はいはい、そんなのがいたらな」

 ユーリは、首を左右に振って呆れていた。
 そして、ミルの方へといき、《世色癌2》《元気の薬》《蘇生薬》《竜角惨》を選んでいた。

 随分金が余っているのか?もしくは自分達の祝いに買って言ってくれてるのか?……多分、両方だろうとミリは思っていた。

「……ったく、無自覚じゃないのかよ。ユーリのヤツ」

 軽くため息をするミリ。
 ミルの頭を優しくなでているユーリを見てだ。

「こんな良い男に惚れないヤツがいるとしたら、外見で判断するヤツだけだろうに。いや、外見もよくよく見れば悪くねーしな。って事は、ジェロントフィリアか?」

 ニヤニヤと笑いながらそう呟く。
 今は多分ガードされて、出来ないと思うがいつかは、ヤってみたい、とミリはこの時強く思っていた。
 いや、必ずヤってみせると。

「何をニヤニヤと人の顔見てるんだ? ほら、代金代金」

 ユーリは購入する商品を選んだようで、GOLDを手渡した。

「ああ、まいど! もう行くのかい?」
「ああ、まだ終わってないからな。まぁ、それもランス次第だが」

 ユーリが終わってない、といった時、ミルがユーリの服をきゅっと握り、引っ張る。

「それ、しづかだよね?」
「そうだ」
「たすけてあげてね? お友達だから……」
「……任せろ」

 ユーリは片手を挙げて答えると、そのまま薬屋を出て行った。その後姿を見たミリは、ミルの肩に手を置いて抱き寄せた後。

「アイツなら大丈夫、いや、アイツらなら大丈夫だ」
「うん! ランスはあたしの初めてのおとこだし!」
「ま、それはあんま関係無いが、そうって事にしとこうか!」

 ミリはニヤリと笑ってミルと共に業務へ戻っていった。






~カスタムの町 裏道~


 ユーリは、カスタムの町の状況を肌で感じつつ、町中を歩いていた。皆、来た当初とは比べ物にならない程、目を輝かせて復旧作業をしている。皆が皆、助け合いながらだ。

 ……本当に良い町だと思える。小さな町だからこそ、住民同士の繋がりは強い。エレナが言っていた事だが、確かに間違いない

「……志津香、今何を考えてる? お前は、アスマーゼさんと惣造さんの娘……なのか?」

 ユーリは、地獄の口の方を向いて呟く。
 あの迷宮奥底でまだ、何かをしているであろう最後の魔女の姿を思い浮かべながら。そして、道具袋から1枚の写真を眺めた。

「……原因は《ラギシス》と《指輪》 それは判った。……必ず救う。今、お前は 望んでいないかもしれないがな」

 ユーリは軽く笑うと、背を向け ランスを探しに町中へと入っていった。










~迷宮≪地獄の口≫何処かの部屋~





 この場所は迷宮第5層の最深部。
 岩が立ち並び、灼熱地獄となっているエリア。熱の根源は、下にある溶岩が流れている為だ。生きとし生けるものの進入を 拒むかのようなエリア。そこを越えた先の一室、まるで図書館の様に棚に並べられた書物。 それは、棚をはみ出ており積上げられている程の量。そして、机の上にも大量に積上げられ、散らばっている。

 その椅子に腰掛座っている者がいた。

 緑色の美しく長い髪、薄手の髪と同じ色の服にやや紺が混じっている青、藍色のマントに三角帽子を着けている少女。彼女こそが、カスタム四魔女の最後の一角にして、四魔女最強の魔法使い

≪魔想志津香≫


「……今日は一体何が起きてるって言うの。マリアに続いてミル……それに、ランまで」

 志津香は、軽く苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。マリアやミルは、比較的に負けた事を知るのは遅かった。彼女達は、自分事を熱心にしていたから あまり会っていなかったからだ。

 だが、ランは違う。
 彼女は、魔力を抽出する為に必要な生身の女性、そして 魔力も送ってきてくれている。それが途絶えてしまったから、判ったのだ。

「でも、全ての準備は整った。……永かった。ほんとうに……」

 彼女1人で結界を維持していたのは事実。だが、解除したのには理由があるのだ。もうある準備は完全に整っている。後は結界に回していた魔力をそれに費やすだけでいける。

「っとと、此処からが本番なんだ。……休んでる暇なんか無い」

 志津香は机の上においてあった、元気の薬、そして竜角惨を飲みほす。そして、気合を入れる為に……両手で頬を叩いた。

「もう直ぐ……もう直ぐだからね。待っていて……、お父様、お母様。……ッ! ……ん、また、か」

 志津香は何か背中にちりっ……と電気の様なモノが走った気がし、振り向いていた。
 だが、そこにはこの部屋に入る為の扉が1枚あるだけであり、別に変わったものは無い。

 誰かが侵入してきたのか?と一瞬考えたが、それはありえない。

 なぜなら、入れば仕掛けておいた魔法が発動し、それが伝わるからだ。

「気のせい……かしら。今日は朝から何か胸騒ぎがする」

 志津香は自身の胸に手を置く。

 今日こそ、父と母を助ける事が出来るから? いや、違う。なぜなら、最終的な準備が整ったと判断できたのはつい1時間程前の事だし、この感じは朝から続いているのだから。

「ん。気が入りすぎてるだけか。いや、気合を入れないと。絶対に……絶対に助けるんだから」

 志津香は、得体の知れない胸騒ぎを一蹴する。
 判らないが、もし それが嫌な予感の前触れであったりしたら、不吉極まりないのだから。この日の為に大好きなこの町を巻き込んでまで、準備をしてきたのだから。

 志津香は立ち上がった。

 そしてそのまま、特殊な転移装置の置かれている部屋へと消えていった。











~カスタムの町 酒場~



 ユーリは、マリア達に会って話しを聞いた後、酒場へと戻っていた。
 ここは宿屋兼酒場をしている場所だ。恐らくだが、ランスはここにいるだろう。他の場所に顔を出したがいなかったから。

「ま、迷宮へ行ったかもしれないが、無いな多分」

 ユーリは最初からその可能性は捨てていた。
 なぜなら、ランスであり シィルちゃんが戻ったとは言え、自分が戦う負担が増える。ユーリがいれば極論すれば3分の1だ。面倒くさがりのあの男が行くとはちょっと思いにくいのだ。

「あ、ユーリさん。良い所に」
「ん? オレに何か用があったのか?」
「いえ、お客さんが2階に来られてまして。ランスさんを尋ねにきた見たいだけど、ユーリさんの名前も聞こえてきたので」
「客?」
「はい。なにやらとても高貴なお方々みたいで、……ランスさんの奥様? でしょうか、何度か、ダーリンと言う声が聞こえてきたので」
「………」

 ユーリは誰が来たのか、察したようだ。
 いや、ランスと付き合いが長い訳じゃない。ひょっとしたら、以前にもいたのかもしれない。

「ひょっとして、その高貴な方々と言うのは、3人組で全員女性かな?」
「はい。そうですね。2人はお仕えしてる……って感じでした」
「成程……判った。ありがとう」

 裏が取れた。
 いや、まだ可能性は……とも思ったがさっさと上がって見た方が早いだろう。

 ユーリは、そのまま2階へと上がる。

 すると、扉越しに声が聞こえてきた。

『ダーリン! これを早くっ!』
『だーー、婚姻届を出すんじゃない!!オレ様は結婚なぞせんぞ!!』
『あぁ……リアさま、ご結婚おめでとうございます』
『だーかーらー、せんと言ってるだろう!!』
『あ、あうっ! ランス様、落ち着いてください……』
『はぁ……。……ユーリさん、いないし……』

 随分と賑やかな声だ。
 1階にいても、店の外にいても聞こえてくるであろう声量。

「いやほんと、賑やかな連中だな」

 ユーリはゆっくりと扉を開けて室内へと入った。

 まず初めにユーリの事に気が付いたのが、かなみだった。
 そして、マリスとシィル。遅れてリアとランスだった。

「あっ! おいコラ! 貴様、何処で油を売っていたのだ!」
「……最初にいなくなったのはランスとシィルちゃんだが?」
「あぅぅ……ごめんなさい」

 ランスはここぞとばかりにユーリに突っかかってきた。

 どうやら、話題逸らしだろう。……嬉しくは無いが、大体は理解できるのだ。

「久しぶりだな。マリス、それにリア王女も 元気そうで何よりだ。相手が相手だから、跪いた方がいいか? と思えたが、今は謁見の間でも無ければ、リーザスでもないから普通にさせてもらうよ」
「……ええ、それで結構よ。ユーリさん」
「お久しぶりです。ユーリ様。お変わりの無い様で」
「ぁ……ぅ……///」

 かなみは、何処か恥かしそうにマリスの後ろへとそそくさと隠れてしまっていた。
 だが、マリスは笑顔になりつつ 横へ素早くスライドし、かなみがユーリの正面に来るようにした。それを見たユーリは、軽く笑う。

「かなみも、久しぶりだな。元気そうで良かったよ」
「は、はい。ユーリさんも」

 かなみは赤くなっているのを必至に誤魔化しながら笑顔で話していた。してやったりのマリスだったが、ちょっと物足りないな、とも思っているようだった。

「ダーリンがいつか本当の妻として認めてもらうまで……私はいつまでも待ちます。ああ……私ってば健気! ね? マリス」
「はい。その控えめな態度がきっといつか、ランス様にも通じるでしょう。ああ、なんといじらしい姫様でしょう」
「だー! そんな日はこん! いい加減諦めろ!! それに境遇に酔いしれるんじゃない!」

 ランスとリア、そしてマリスはまたまた、賑やかに騒いでいた。

「……まだまだ、随分と甘いようだな、いや 甘々だ。マリスは」
「ああ……いえ、あれくらいは普通、だそうで」
「だろうな。言いそうだ」

 ユーリとかなみは冷やかに笑っていた。
 主君をそんな目で見るのはどうかとも自分で思うが、ランス事に限っては仕方ないと思えてしまうのだ。それ程の男だから。

「だが、かなみ」
「ひ、ひゃい!!」
「なんでオレ相手にそんな緊張するんだよ……」

 舌を噛みそうなかなみに苦言を呈しつつランスは苦笑いをしていた。誰がとは言わないが、相変わらず、自分ごとには無頓着で鈍感である。

「い、いえ! なんでもないです! それより、なんでしょう?」
「いや……、随分と見違えたな、と思ってな。立ち振る舞いから 身に纏うその雰囲気までな」
「えっ!! ほ、本当ですか!? 本当にそう思います??」
「ああ、判る。この短期間でそこまで上げるのは大した者だと思えるぞ? レベル屋と言う訳じゃないから、はっきりとは判らないが、それなりにレベルを上げたんじゃないのか?」

 ユーリの言葉に嬉しくて仕方ないのか、返答を遅らせているかなみに変わってリアとマリスがユーリの方へと近づいてきた。

「流石ね、ユーリさん。最近のかなみはかなり張り切っていてね? 何が原因かと思ったけれど……理解できたわ。貴方のおかげだったのね」
「いや、オレは何もしてないさ。リーザスに仕えている忍者が優秀なんだろう。頑張ったのも本人だ」
「うぅ……ユーリさぁん……」
「はい、かなみ。ちり紙」
「ぁ……す、すみません、マリス様……」

 マリスは、かなみにちり紙を渡すとかなみはそれを受け取り、涙を拭って鼻を啜った。
 褒めたのがうれしいのは判るが、そこまでか?とユーリは苦笑いを続けていた。

「ふふ、かなみは ユーリさんの言うように短期間でレベルを4つも上げてくれました。かなみの頑張りがリーザスの兵にも伝わったようで、互いに高めあって、もう1人も同じだけあがり、優秀な人材となっています、本当に喜ばしい事限りとなっています」
「ぅ……うぅ~~」

 かなみは感慨極まったかの様に目元にちり紙を当てていた。でも、何処か誇らしげにも見える。勿論、そんな話題が続いたら茶々を入れたり悪戯をしたいと思うのがランスだ。自分の話題が逸れたと見るや否や、がはは笑いを戻しかなみに詰め寄った。

「がはは! リーザスのへっぽこ忍者も少しは強く使えるようになったようだな?」
「すんっ……、一言余計ですっ! 頑張って強くなったんですから、まだまだなりますよ!」
「がははは!! 鼻を噛みながら言っても説得力に欠けると言うものだ! よーし、そこまで言うのならここで確認してやろう!」
「い、いいですよ! どんと来いです!」

 ランスは笑いながら手を掲げた。
 どうやら、レベル神を呼び出すようだ。ランスに専属の神がいる事は知らなかったが、間違いはなさそうだ。

「やれやれ……ランスの挑発にのるなよ。その辺りはまだまだと言う事か?」
「そうですね、お恥かしい所をお見せしました。リア様、止めましょうか?」
「いいえ、構わないわ。かなみのレベルを確認したのは5日前、もう一度確認するのも良いと思えるし、何より、ダーリンのレベルも判るかもしれないから うふふ……」
「成程……承知いたしました」

 自分の夫となる人の実力が明確にわかる儀式だ。
 知っておきたい情報でもある。かなみのレベルはいつでも知ることが出来るが、ランスはそうはいかないのだろう。

「ユーリさん」
「ん?」

 マリスが軽く耳打ちをする。

「ユーリ様のレベルも知りたいのですが……構わないでしょうか?」
「オレのレベルを……? なんでまた」
「かなみの目標がユーリ様ですから、貴方の実力をかなみが知れば、目標を見定める事が出来れば、更に精進してくれると思いまして」
「……ああ、別に構わないよ」
「ありがとうございます」

 マリスは、表向きはそう説明しているが、実は違う。
 ユーリの戦いぶりはリーザスで見ているし、あれが全力だとは到底思えない。そして、信じていない訳ではないが相手はリーザスの脅威ならないと、100%言えない相手。明確に数値で表されるレベルを計っておきたいと感じるのは参謀ならではの性だろう。

「ふぅ、本当に変わって無いな。マリスは」
「っ……」

 極めてポーカーフェイスを装ったマリスだったが、ユーリがそう言うと同時に、眉をやや上に上げていた。素人には決してわからないほどの反応だが、見逃す筈もない。

「……申し訳有りません」
「いや、良いさ。国を預かる身分に身をおく者なら当然だろう。それに、オレからも頼みたい事があるし」
「頼みたい事……?」
「ああ。無理にとは言わない。出来る範囲で良いんだが……」

 ユーリは、マリスに何かを呟いていた。マリスはその言葉にゆっくりと頷く。

「リア様に進言をしておきます。ユーリ様」
「ありがとう。後、そのユーリ《様》は よしてくれないか? 慣れない」
「そうですか、ではユーリさんで」
「それで頼む」

 ユーリは頭を掻きながら苦笑いをしていた。
 さっきまでのやり取りこそ、潜めていたが、その仕草と姿を見てしまえば、とてもとても……。

「……今、失礼な事、考えてないか?」
「いえいえ、滅相も有りませんよ? ユーリさん」

 腹黒いマリスがそんな笑みをすると言う事は殆ど間違いなしだろう。
 だが、ユーリは言葉にしなかっただけでよしとした。苦笑いを続けているが、その笑みも当然ながら、魅力的だ。マリスは本気で思っていた。

 どれだけ言われても、気にする事なんかない、と今では本気で想っているのだ。……伝わらないとは思うけれど。


「私は偉大なるレベル神、ウィリス。ランスさん、レベルアップをお望みですか?」
「いや、まずはこのへっぽこ忍者を計ってくれ」
「はい。承りました」

 優雅に一礼をするウィリス。

「そうか、レベル神になれたんだな? ウィリス。遅くなったが、おめでとう」

 儀式が始まる前に、ユーリはウィリスにそう言った。彼女には何度か、レベルアップの儀式を頼んだことが有り、面識もあるのだ。そして、試験が近づいている事も知っていた。

「あ、ユーリさん! はいっ! ついに、ついに! 私はレベル神に昇格、合格しました!」
「がーはっはっは! それも当然。オレ様が何度も強くなるから、何度もレベル上げの儀式が出来たんだ。受かって当然。オレ様のおかげだ!」
「それに、何度も下がってますからね!」
「ていっ!!」
「ひんひん……」

 ランスにゲンコツされたシィルは頭を下げて蹲っていた。余計な一言を言ってしまったようだ。

「成程……、レベルの増減がランスは激しいのか。……あんま、無いぞ? そんなの」
「ふん! オレ様は常に計れん男だと言う事だ!」
「それは、自慢なのか……?」

 苦言を呈するユーリだった。常に計れないと言う事は、強さも増減が激しいと言う事。……仕事初めとかにランスと手を組むのは結構しんどそうだと、ユーリは強く思っていた。

「それでは…、儀式を始めますね、見当かなみさん…… うぃりす、ふじさき、しーろーど……うーら、めーた、ぱーら、ほら、ほら、らん、らん、ほろ、ほろ、ぴーはらら!」

 いつも通りの呪文を唱えるウィリス。
 しかし、どんな意味があるのだろうかと、思ったが口には出さなかった。なぜなら、ウィリス以外のレベル屋(厳密には今はレベル神)の呪文は、それぞれ違うのだから。

 自分の力出る言葉なのだろうか、と勝手に解釈していた。

「残念ですが、経験値が足りません。かなみさんのレベルは18のままです」
「そうですか……わかりました」

 かなみは少しだけ残念そうにしていたが、そこまででもなさそうだ。
 そもそも、数日前にレベルが上がったのなら、無理もないと思っていたようだ。

「がはは! へっぽこではないか!」
「なんで そーなるんです!」
「なぜなら、オレ様よりも下だからだ」
「ッ!! い、いくらなんですか! ウィリスさん!!」
「ふぇっ!? え、ええっと、ランスさんは、今朝方確認した所、確か21に」
「うぅ……」
「がーーっはっはっは、やーい へっぽこー、へっぽこー!」

 更なる追い討ちをかけるランスだった。
 そんなにレベルの差が無いじゃないか、とも思ったが、ランスの更なる追い討ちが早く……まだするんかい!!

「因みに、奴隷であるシィルはオレ様より1つ下の20だ。がはは、10代で褒められるなど、片腹痛いわ」
「あ、はい……、畏れながらそうです」

 シィルは恥ずかしそうに俯きつつそう言うが、かなみにとっては、クリティカルヒットだ。

「―――っ!!!」
「いやいや、そんなに変わらないって、あんまり虐めるなよランス。忍者は隠密が主なんだし、戦闘が比較的多いオレ達、冒険者と比べるのは酷だろ?」
「ぅ……ありがとうございます。それにすみません、お気を使わせてしまって。私が未熟なだけですから……」

 認めてはいるものの、かなみは涙目であり、本当に悔しそうだ。でも、その悔しさがバネになる事をユーリは知っている。

「まだまだこれからだろう? ……頑張れ、忠臣」
「ッ……はい!」

 ユーリはかなみの頭に軽く手をぽんっと叩いた。俯いていた彼女だったから、丁度良い高さに頭があったから、そうしていたのだ。

 かなみも、顔を赤らめつつ、元気良く返事が出来ていた。

 まだまだ、ランスに弄られているが、大丈夫そうだ。……挑発を受流す事は出来てないようだが。

「さて、ウィリス。すまないが、オレも頼めないか?」
「はい。お安い御用ですよ。ですが、ユーリさん程の冒険者がどうして専属のレベル神をつけていないのですか?」
「ちょっとした諸事情でな……何、深い意味は無い。町にも頻繁に行くしレベル屋でこと足りていたと言うだけの事だよ」

 ユーリはそう言って笑っていた。

 ……深い意味は無いと言っていたユーリだが、意味は勿論ある。

 彼にとって、深く刻まれた記憶が関係しているのだ。この話はまたいずれ、別の機会に……。

「やっぱり、ダーリンはつよーい♪ 素敵!」
「流石はランス様ですね。優秀な冒険者です」

 リアは悶えて、マリスは頷いていた。

 レベルの基準は勿論あり、一般的にはLv10を超えてくると達人と呼ばれる。そして、Lv20を超えると天才と呼ばれてくるのだ。だが、これは勿論、戦えない一般人から見た構図あり、常に訓練をつんでいる軍のトップ等から考えれば、まだ低い為、一概にはいえないが、才能限界値が10に満たない者も数多くいる中、ランス達のレベルは冒険者としてはかなり高位に位置すると言えるだろう。

「……私が気になるのは、次ですね」
「ユーリね。……私も彼の情報は知っておきたかったから、丁度良かったわ。マリス」
「はい。ありがとうございます、リア様」

 リアはこの時は、王女の素顔に戻りユーリを見ていた。彼女もマリスと同じ印象をユーリに受けていたのだから。

 国の裏事情を知っているユーリ・ローランドと言う人物。正直に言えば危険人物には違いないかもしれない。だからこそ、彼の情報は多く持っておく事に越したことはないのだ。



「がはは、笑いすぎたら片腹痛くなってきたわ」
「しつこいですよ!!もう!!」
「ら、ランス様……」

 まだまだ、口喧嘩のやまないこの場所だったが、ウィリスの一言でそれは一気に沈黙へと誘った。


「おめでとうございます。ユーリさんは経験豊富とみなされLv45になりました」
「「「「!!!!」」」」
「なんだとぉ!?」


 静まったのは一瞬であり、数値を頭の中で再生して……一気に騒がしくなったのだ。

「ええっ? あ、あれ? どうしたのですか? みなさん??」
「い、いえ……どうしたって……」
「あ、ひょっとして、ユーリさん、今までご自身のレベルを?」
「そうだ! なんだ、そのレベルは!! 聞いておらんぞ!」
「ん、言ってないからな 言う必要も特に無いと思っていたから……、まあ 冒険者としては少々高い部類に入るくらいじゃないか?」

 あっけらかんと返すユーリ。
 ランスも流石に唖然としてしまっているようだ。かなみは何度も何度も口をパクパクとさせていた。

「しょ……しょうしょう?? 少将ですか!? 何処かの国の軍人さんだったんですか?? ユーリさん!」
「違う違う……、冒険者だといっただろ? なんで階級になってるんだ。少ないが並んだ少々だ」

 かなみのボケに真面目に返答したユーリ。
 普段なら、顔を赤くさせるところだが、まだ驚きを隠せない様子だ

「な、なんで、少ないですか!! よ、よんじゅうを超えてるなんて……。一般的な才能限界値を遥かに超えて……。それに、一国の将軍、いや! 人類最強に分類されるレベルじゃ……り、リックさんと同じ?それ以上?」
「さ……さすがに言葉にならないですね。……コラ! かなみ、余計な事を言わない」
「ぁ……ご、ごめんなさい!」

 マリスも暫く驚いていた様子だ。
 彼女にしては珍しい。少々高いとは思っていたが、よもや此処までとは思ってもいなかったようだ。彼女はランスとは戦ったが、ユーリとは戦っていなかったからこそ、そこまで目測が低かったのだろう。

 かなみが口走ったのは 軍内部の将軍のレベルの話だ。そのつよさは当然機密事項でもあるから、叱咤していた。

 ドンチャン騒ぎになっている皆を見て、ウィリスはゆっくりと口を開いた。

「あの~……ユーリさん、もう1つの情報、儀式結果は言っても?」

 そう、ユーリにはまだあるのだ。いつもは レベルを言った後に、直ぐに言うのだが……今は状況が状況だったし、口を挟みにくかった。だから、了承を得ようと思ったのだ。 

「ななな!! 他にも何かあるんですか!!」
「……ここまでカミングアウトして 言わないのも後で色々と有りそうだ。別に構わない。オレも判ってないしな。だが、間違いなく騒がれる……な。ここに、耳栓あるかな」
「あ、はい。判りました」

 ユーリは、宿屋の部屋に耳栓がないかどうかを確認して、ウィリスは公開の許可が下りたため頷いた。

 全員の注目を集めてしまっているウィリス。レベル以外の情報……、気にならないわけがない。これだけの高レベルの使い手なのだから。

「(レベル屋が、レベル以外の情報を答えるとは思えない。でも、レベルはもうさっき言ってるし……一体、それに うるさくなる、と言う事は相当の……)」
「(これほどの使い手……だったなんて、ぬかったわね)」
「(ゆ、ユーリさん……凄い……)」
「(こんなに強い人と一緒に冒険をしてたんですね……)」
「ふん、その程度大した事無いわ!大体オレ様の強さはレベルじゃ計れーん!」

 ランスだけは声に出していっているから、精神力は本当に大したものだと言えるだろう。

 そんな中で、ウィリスの儀式結果が明らかになった。その驚愕の内容を。


「ユーリさんの不明レベルが《Lv133》となってます。レベルシステム上のバグかと思われますが、多少は上がっていってますので、他の何かの情報かと思われますが……すみません、まだ判ってないようです」

 一瞬。ほんの一瞬だが まるで電源を切ったかの様な静けさが、静寂がこの部屋を包んだ。
 そして、次の瞬間。 


「「「「「はぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」


 今回ばかりは皆が大きな声で騒いでいた。ランスも例外ではない。

「ひゃひゃひゃひゃ!!!!」
「やっぱり可笑しかったか?かなみ」
「ちち、ちがいますよ!!うまく、くちがまわりゃないだけでっ」
「落ち着けって」

 噛みまくりのかなみ、ちゃんと息も出来ていない様子だったから、落ち着かせようと促していると。

「コレばかりは落ち着いていられませんね、リア様?」
「勿論、早く!」
「ユーリ様、こちらの書類にサインをお願いします」

 突然、マリスが取り出したのは1枚の書類。細かい文脈が続くが最後の一文を見たらこれが何かが直ぐに判明した。≪リーザスに生涯忠誠を誓う≫と言う一文。

「……コラコラコラ、何を勝手に人をリーザス軍に入れようとしてるんだ。オレはキースギルドの冒険者だぞ?」
「それ程の使い手が小規模ギルドに所属なんて、宝の持ち腐れです! 今なら望むこと、全て叶えて差し上げます。副将は勿論、実戦次第で将軍の地位も準備できます。行く行くは総大将も」

 何やら、マリスは失礼な事を言ってる……。絶対に今頃キースはくしゃみをしているだろう。溜飲は下がると言うものだ。

「しょ、将軍……って、べ、別に不思議じゃないですよ……ね? 100台なんて……あ、ま、まさか!」
 
 シィルが、やや後ろに後ずさる。

「ん? どうしたんだ?シィルちゃん?」
「ゆ、ユーリさんは……、ユーリさんの正体は、実は魔人さんなんじゃ……」
「えええっ!」
「人類の敵のっ!!!」
「きゃあああ!!」
「……なんでそうなるんだよ。俺は正真正銘の人間だ。魔人じゃないって。きゃああ! ってなんだ! きゃああ! って」

 魔人には特有の結界を保有しており、そして独特の雰囲気をかもし出している。一概に区別はつけられないが、大体のものは一目でわかるのだ。かなみにいたっては叫び声を上げてしまってる。
 でも、怖いとかそんな感じではなく、ただただ混乱をしているからの様だ。

「はぁ、少し落ち着いてくれ」
「落ち着けんわ! なんだ、その出鱈目な数値は! そうか、貴様ズルだな? いや ウィリスも言っていた通り、バグか! ……いや、チートだチート!! この卑怯者!」
「んな訳あるか! ゲームじゃないんだ! それに、バグとか、ズルとか、卑怯とか、お前にだけは言われたくないわ!」

 ランスのつっこみにユーリはそう返していた。

 ユーリの意味不明のレベル。
 これは、本人にも、正確には(・・・・)わかっていないし、何より強さもそこまでは無い。初めて判明したとき、強さも簡単ではあるが調べたが、レベルに見合った強さは前半の数値であり、後半のそれでは無い。だが、前半のレベル同様に後半のレベルも速度は違えど、上がってきているのだ。

 その正体は、レベル神でも判らない。

 故に、見てもらう時には、レベル屋は皆≪不明レベル≫と、そう呼ぶ。


 そして、どのレベル屋でも、レベル神にも言う事だが…… 口外無用を頼んでいる。今回が異例なのだ。


――……他の神類達に、知られない様に





 そして、今日一番の叫び声、それは中々止まず絶えず酒場内で響いていた。

 それなりの大声だったから、店をしては迷惑極まりない。……が、今日の訪問者達はVIPもVIP。その正体を知って、更にいろいろあって、結果的には店が潤う事になり、感涙極まっていた、店長ハニーだった。





 
 

 
後書き
人物紹介〜


□ ウィリス・藤崎(02)

つい最近に、昇格試験があり見事レベル神に昇格を果したリーザスの元レベル屋。
ランスの担当になったせいで、レベルアップ儀式の回数は増え、その事自体は良かったのだが、色々と苦労は絶えない真面目な性格である。


〜アイテム紹介〜


□ 世色癌2

世色癌より回復が見込めるハピネス製薬会社が製造、販売している体力回復薬。
世色癌より高純度である為 更に効果が見込めるようになったが……苦味も増したとか。


□ 蘇生薬

戦闘不能状態になった味方を回復させる奇跡の薬。
勿論、飲むくらいの事が出来なければ、助ける事は出来ないから要注意。
……バラバラになったら、どう蘇生するんだ?と名前にクレームがきたりしたらしい。


□ 竜角惨

中口造船所が販売している気力回復薬。本人の精神力にも直結している為、魔法力回復にも役に立つ薬。黄色い錠剤であり、飲むときはくしゃみに要注意。


□ ホレ薬

その名の通り、特定の相手に自身の体液を1滴程垂らした状態で飲ませれば相手に惚れてもらえる。
効力は、薬を飲んだ者の魔低力に依存する為、一概には言えない。
意中の相手に望みが無いのなら、短く淡い夢をどうぞ。と言う優しい?文が混じっている時も在るとか。因みにミリが配合したとの事。

□ 媚薬

狭義には再淫剤とも呼ばれる性欲を異常に高める薬。
因みに、人間以外にも効果はあるらしいが、滅多に使われない。(危険だから)
こっちもミリが配合している。
……性欲を異常に高めるこの媚薬より更に強力な媚薬もあるらしい。


□ 精神破壊薬

その名の通り、精神を一時的に破壊してしまう薬。
ノーマルなプレイでは満足できない人用。でも相手に同意を求めてね?と、簡単な注意事項があるが……。 守られているかは不明であり、使う人次第である。
こちらも 使った相手の魔抵力に依存する。
こっちもミリ以下略


□ 精力増強剤

男性に使用すと最も効果を発揮する薬。
一度の性行為で、何度も出来るようになります。ハードプレイにオススメです。と書かれている。
これをランスが使ったら……と思ったら末恐ろしいものである。
対抗馬はミリ? 
こっちもミ以下略 
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