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真・恋姫無双〜中華に響く熱き歌

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第17話 晋陽ライブ

 
前書き
ー晋陽の西にて現れた赤き馬、赤兎。
并州刺使、董卓の軍師である賈詡は、300程の軍勢を率いて、赤兎を捕獲しようとしたが、次元の違う赤兎の身体能力により失敗する。
呆然とした賈詡と晋陽の軍勢を尻目に悠々とする赤兎。
そこへ現れたバサラは、赤兎におのれの思いをぶつけるかのごとく歌う。
それは、赤兎に、晋陽の馬に歌わせることとなる。
驚愕する賈詡、晋陽の軍勢を置いて、赤兎はバサラをその背に乗せ大地を駆ける。
ーーーーーーーーーーーー 

 

「すげえ。すげえぜ、赤兎!」
そう、赤兎の背中で叫ぶバサラ。
赤兎の背中に跨り、その体の生み出す速さを、風を、そして生命を感じていた。
(空や宇宙を飛ぶバルキリーとは違う。同じ大地を走るバイクとも違う。こんなに生命を感じるなんて!これが、これが赤兎か!)
「うおおおお!!感じるぜ!!お前の生命を!そして、お前も感じろ!おれの生命を!想いを!!いくぜ!おれの歌を聴けええええ!!POWER TO THE DREAM!!」

『ギャオ〜ン!!』

そして、バサラが歌う。それは、赤兎にだけではなく、この大地に、中華に、世界そのものにおのれの情熱を、想いを、生命をぶつけ、感じさせる。
そう聴こえるものだった。
それを聴きながら、赤兎はなおも駆け、さらにその速さを上げていく。
バサラの歌を聴き、さらに生命力が増す、そう思わせる程だった。
そして、バサラと赤兎はまだ歌い足りない、まだ走り足りない、それぞれがそう言うかのごとく激しさを増していき、何処へと走り去って行った・・・


時間が経ち、その日の夕刻頃、晋陽の城にて、賈詡が主君である董卓こと月に昼間の件を報告していた。
「報告は以上よ、月。」
「お疲れ様、詠ちゃん。」
そう会話が終わり、2人は沈黙する。
沈黙したのは、昼間の報告の件についてだ。
「それにしてもあの男、何者なのよ・・・あの赤兎に、それだけじゃ無くて私たちの軍馬にまで歌わせるなんて・・・」
どうやら赤兎よりもバサラのことが気になるようである。
(自分たちではどうしようも無かった赤兎を、歌で心を通わせた。
それだけではなく、あの赤兎を、自分たちの軍馬までも歌わせた。
こんなこと、この長い中華の歴史でも聴いたことが無いわ。
本当にあの男は何者なのよ?)
もし今後障害になるなら、排除することも考えたが、この親友でもある私の主は許さないだろう。
では、取り込むか?
それも無理だろう。
この10日間、あの男のことはまた聞き程度でしか知らないが、あの男は政治への興味も、意欲もまるで感じない。自分の歌を聴かせること、そして感動させることしか考えてない。
なにより国や軍に縛られること、利用されることを嫌う。
そんな男らしい。
(まったく、厄介だわ。)
そこまで考えてから溜息をついた。
そこへ月が
「ねえ、詠ちゃん」
と呼びかける。
「ん?なに、月?」
「詠ちゃんは、バサラさんのことをどう思う?」
「ど、どうって言われても・・」
賈詡は、親友の質問に戸惑いを隠せなかった。
なぜ、こんなことを聞いてくるのか。
もしや、あの男に惚れてしまったのか?
そんなことを考えてしまう。
「わ、私は別に、な、なんとも思ってないわよ。どうしたの?月?」
とりあえず否定はしてみたが、もし、惚れていたらどうしよう。その時は、全力を持って阻止しなくては!
「バサラさんって、すごいよね。」
「な、なにが?」
これはいよいよまずいようだ。
「なにって、歌だよ。」
「う、歌?」
しかし、考えていたことはなさそうでとりあえずほっとはしたが、新たな疑問が出てきた。
「確かにあの男の歌はすごいとは思うけど、いきなりどうしたの?」
そう、先ほど昼間の件で報告をした際にあの男の歌のことも報告している。
それに、あの男はそもそも月が連れてきたのだ。
なら、わざわざ自分に言うまでもない。
なんでまたこのタイミングで?
「だって、さっき詠ちゃんも報告してくれたけど、人だけじゃなくて、馬にも歌ったんでしょ?その馬もバサラさんに歌い返して、背中に乗せて走り出したって言ってたし。」
「え、ええ、赤兎を捕まえようとしたけど捕らえられなくて、私たちを尻目に悠然と草を食べてる赤兎の前にいきなり走ってきて、歌いだしたの。
その歌を聴いてると、なんかこう、心が熱くなるというか、力が湧いてくるような、だけどどこか安心するような感じだったわ。」
「兵達なんかは、士気が低かったのに、あの男の歌を聴いてからは元気を取り戻したかのような感じだったわ。
それでしばらくあの男が歌ってたんだけど、歌が終盤になってきたのかと思ったところで、赤兎が、いや私たちの軍馬までもが歌いだしたのよ!
こんなことが起きるなんて思わなかったから唖然としたけど、今思いだしてもあり得ないと思うわ・・・」
賈詡はそう言いながらも、思いだしたのか、苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
だがつきはふふ、と笑う。
「報告を聞いた時は驚いちゃったけど、バサラさんらしいなって思ったよ。だって、バサラさんその前に街に一緒に出かけたんだけど、街の人に赤兎のことを聞いて、赤兎に歌うために駆け出したんだから。」
「私が出会った時も、恋さんに出会った時も、バサラさんは歌ったんだけど、私は落ちこんでて、恋さんは警戒してて。でも、いずれも自分の想いを相手にぶつける、そして、相手を歌で感動させ、分かり合う。そんな想いが伝わってきたんだ。だから、バサラさんの歌を聴いて赤兎もバサラさんとバサラさんの歌を気に入ったんじゃないかな?」
賈詡は月の話を聞き、どれだけバサラの歌を気に入っているか改めて思い知った。
(まあ、確かに、赤兎と歌った時はすごいと思ったけど、って、なに考えてんのよ私は!)
賈詡が1人で悶々と考えている時に1人の兵士が部屋に入ってきた。
「し、失礼いたします!至急、申し上げたきことがあります!」
兵士はなにやら慌てた様子であり、そこからなにか起きたことが予想できた。
「何があったの?!早く言いなさい!」
「何があったんですか?」
月と賈詡が兵士に聞く。
そして兵士が口を開く。
「ね、熱気バサラが、あ、あのせ、赤兎に跨り、晋陽の街に戻ってきました!」
「はあ?!」
「え?!」
2人はその報告に驚く。
「そ、その後は、街の者たちが熱気バサラを見て、大歓声を上げ、熱気バサラのことを褒め讃えていましたが、いきなり、
『よっしゃあ!こんなに人が集まったんだ!みんな!おれの聴いていけえ!熱狂ライブの始まりだあ!』
と叫び、街の中心部付近で歌いだしました!ほ、報告は以上です!」
兵士の報告を聞いて、賈詡は頭を抱え、月は半分呆れたような笑顔であった。
「な、なにやってんのよ、あの男は!今すぐその場所まで案内しなさい!」
「は、はい!」
賈詡が兵士に指示を出し、兵士も返事をする。
そして月も
「私も同行します。よろしいですね?」
「月?!」
「詠ちゃん、私もどうなっているか把握したいの。あと、バサラさんの歌も聴きたいなって。だから行くね?」
言外に反論は許さないと言うように賈詡に言う。
賈詡はこうなっては何を言っても無駄だろうと思い諦めた。
そして2人は兵士に連れられ、部屋を後にする。


兵士が月と賈詡の部屋に報告にくる少し前ー

バサラは大地を駆ける赤兎の背中に跨り、歌っていたが、夕刻頃には晋陽の街の近くに戻っていた。
バサラは赤兎の背中から降り、赤兎に
「お前の歌と走り、最高に熱かったぜ!ありがとな!」
と褒め、礼を言う。

『ぶるう』

赤兎は鼻息で返事を返す。
様子を見るに満更でもないらしい。
「へへ。じゃ、またな!」
とバサラは言い赤兎と分かれようとするが、赤兎はそんなバサラに着いて行こうとする。
「ん?」
バサラはそれに気づき、
「・・・お前も一緒に来たいのか?」
赤兎に聞く。
赤兎は首を縦に振り、意志を示す。
バサラはそれを見て、赤兎に背中を向け、歩きだす。
そして手を振りながら
「好きにしな。」
と言う。
赤兎は、それを見てバサラの後ろを着いて行く。
どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうかと思わせるほどだった。

晋陽の城門前まで来て、兵士には大そう驚かれるが、兵士は
「あんたならしょうがない。」
と笑顔で諦めたように言い、バサラと赤兎を通す。
バサラと赤兎は街に入る。
街に入るとしばらくは何もなかったが、街の人は赤兎に視線を向ける。が、なぜここにいるのか、を考えるとバサラについて行くように歩いているのを見て、
またバサラがなにかやったのか。
まあ、バサラだからしょうがない。
そう思ってしまう。そして同時にバサラの元へ駆け寄り、赤兎のことを聞き出そうとする者が現れる。
すると我も我もとバサラの元へ駆け寄り、事情を聞き出そうとする。
それにバサラは
「こいつにおれのハートが伝わった、それだけだ。」
そう答える。
歌う時以外は案外クールな彼である。
だが、それでも
「ならおれらにも聴かせろ!」
「そうだ!そうだ!」
「まだ今日はお前の歌を聴いてねえぞ!」
「私たちにも聴かせてえ!バサラあ!」
「バサラ〜!」
「ボンバー!」
街の人たちがバサラにせめて歌ってくれと、そう呼びかける。
その声はやがて大きくなり、ついには街中の人たちが呼びかける。
それにバサラは
「へへ!ここまでコールされたなら歌うしかねえぜ!いいぜ!お前らみんなノリがいいじゃねえか!」
と答え、街の中心部へ駆け出し、ギターを構える。
そして、
「よっしゃあ!満員御礼大感謝!ド派手にいくぜえ!お前らまとめておれの歌を聴けええええ!PLANET DANCE!
過激にファイヤー!!」
『ボンバー!!』
『ギャオ〜ン!』
バサラが歌い、街中の人、赤兎がそれをノリノリで聴く。その時は確かに街一つがライブ会場になり、街中の人たちがバサラの歌に魅了されていた。


そして、月と賈詡に兵士が報告に行き、それを聞いた2人が駆けつけた。
2人は街の様子に驚く。
街の中心部にはバサラが歌っており、それを街中の人たちが聴いている。
その中にはあの赤兎までも入っている。
賈詡は戦慄した。
こんな、歌だけでこんなにも多くの人を魅了し、骨抜きにするなんて。
恐ろしい。
賈詡の軍師の部分は、この男はいつか始末せねばならないと、そう告げるが、賈詡の他の、人としての部分は、こんなにも多くの人を魅了することができるなんて、なんてすごい男なんだ!殺すなんてしてはならないと告げてくる。
どうすればいい。
そう思いながら月の方を見る。すると、月はバサラの歌に聴き入っている。その顔には生気が溢れており、まだ、まだ聴かせて。そう言っているかのようだった。
そして周りを見てみる。
街の人たちも、先ほど案内させた兵士すらもバサラの歌に夢中になっている。
まるで、この歌よりもすごい歌なんて無い!
そう感じさせるほどにだ。
賈詡は、バサラに対してあんなに難しく考えていた自分が馬鹿らしくなった。
(あいつは、あいつは本当にすごいやつね。この10日で、こんなにも多くの人たちの心を掴んだんだから。
あいつには裏表なんか無い。ただ己の想いや情熱を歌に乗せて聴かせる。相手が聴いてるかなんて関係無い。それだけ歌に己を掛けてる。そんなやつ相手に難しく考えても無駄だわ。)
そんなことを考える。
そして改めてバサラの方を見て、
「あんたには負けたわ・・・」
誰にも聞こえないように、ぼそりと呟く。
視線の先にいるバサラは、ノリノリで歌っていた。




(ふふ、聞こえたよ、詠ちゃん。)
そう月が心の中で呟き、あとで弄り倒さなきゃ、と考え、賈詡はこの夜、親友に弄られるのであった。


 
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