EFFECT
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友人 4-5
道中、遭遇したMrs.ノリスにマクゴナガルの居場所を聞き出し、中庭の石像の前で待ち伏せている。
数分後出て来たマクゴナガルに声を掛けると、予期してなかったらしく若干驚いた顔を見せた。
「どうしたのです? 校長に何か用事でも?」
「いや、マクゴナガルに用がある。急遽、変身術を行わなければならなくなってな。手ほどきをお願いしたい。......文句は爺様に言ってくれ」
彼女は困惑気味に聞いていたが、最後の一言に納得したのか「ああ...」と声を漏らす。
予め爺様から何か言われていたのかもしれないが、あの一言だけで納得される程、爺様の奔放さは昔から変わらないという事を示した態度だった。
「いいでしょう。ところで、いったい何に変身するつもりなのです?」
「変身するのは俺ではない」
「では、誰を...?」
「それはーーー」
翌日。夕刻に差し掛かり、私服姿の生徒達が広間へ集まる。
友人と固まっているグループもあれば、男女で楽しそうに寄り添う者もいる。テーブルには、七面鳥やブッシュドノエル、その他様々な国や地域のクリスマス料理が並べられた。
全ての生徒が席に着いたのを確認し、爺様の号令を合図にパーティが始まった。
ヒキガエル合唱隊を拍手で送り、広間が再び雑談で賑わい始めたのを遮るように、爺様の無駄に響く手拍子が静寂を生み出した。
そろそろ出番か......。
「ここで、トール・オルフェウスから歌のプレゼントじゃ」
その言葉に反応して様々な声が上がった。
女子による黄色い歓声。男子による野太い歓声。一部から聞こえるブーイング。
それら一切を気にする事なく、俺は設置された壇上に足を掛ける。
一人の女性を引き連れて。
「今宵の宴に相応しい歌を贈ろう。では、挨拶を...」
俺の隣に立つ女性が頭を下げる。
銀色の柔らかい長髪に、満月のような金色の瞳。人形のように整った顔。絹のように滑らかで白い肌。
生徒だけでなく先生の席からも聞こえるざわめきが、俺の心の達成感を満たした。
「私(わたくし)の名は、シュア・アルクス。僭越ながら、私も皆様方に歌声をプレゼントさせていただきます」
「では、三曲続けて歌わせていただく」
俺の声を邪魔しないが、劣らず美しい歌声に誰もが耳を傾けている。
曲名は忘れたが、いずれも異なる世界の“聖夜”と呼ばれる政(まつりごと)で歌われていたものだ。
これを彼女に憶えてもらうのに一日を費した。結局、全てを憶える事は出来なかったが、シュアの透き通った高音の歌声は心地よく響いた。
「トール!」
パーティも終わり、部屋へ戻ろうかと腰を上げた俺を誰かが呼び止めた。
俺の名を呼んだ少年は、人混みを掻き分けながら走り寄る。その後方から何人か付いて来るが、全員に見覚えがあった。
「リーマスか...。それに、ブラック。ポッター。ぺティグリュー。...彼女は、エバンズだな」
「君の歌、やっぱり凄いね! 外国語だったみたいだけど、凄く綺麗だった!」
「ありがとう。...あと、少し落ち着け」
深呼吸を促すと素直に応じる。その姿にクスクスと声を漏らすシュアを、全員が取り囲んだ。
初対面である人間を再確認するように、頭から爪先までじっくり観察する。そして、そのパートナーである俺の方に視線が集まった。
「オルフェウス! こんな彼女がいたのか!?」
「彼女ではないが、同じ部屋で暮らしてはいるな」
「ええ!?」
「ええ!?」
「ええ!?」
リーマス、ぺティグリュー、エバンズの声が揃う。
まあ、無理もない。寮生同士でも男女は別の生活スペースがある。同じ部屋で暮らす事は不可能なのだ。
「おいっ! そこの一年は早く寮に戻るんだ!」
監督生の生徒が声を荒らげる。
ローブを着ていない為どこの寮の生徒かは分からないが、確かにもう遅い時間だ。俺やシュアが気になるのは理解出来るが、今は早く戻るべきだろう。
上級生からの注意に反発せず、素直に従い各自寮へと進み出す。
互いに「おやすみ」と声を掛け合い、それぞれの足取りで帰路に付いた。さて、俺も帰るとしようか。
誰もいない冷え切った石畳の廊下をシュアと並んで進む。
会話は無い。コツコツと足音のみが響いた。
無言の世界に痺れを切らしたのか、シュアはやや立腹した様子で口を開いた。
「眠い」
「文句は爺様に言え。それと...鱗が見えているぞーーーリズ」
「貴様が未熟者だからだろう。それこそ、文句はあのジジイに言うのだな」
なびかない者に文句を言っても意味は無い。
俺は、深い深い溜息を吐くのだった。
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