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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
ありふれた冒険譚◆初めての絶望、そして希望
  第十一話 月夜の黒猫団

 
前書き
さてさて、ついに月夜の黒猫団の登場です。
マルバがキリトより先に彼らと接触したために、彼らの運命は大きく変わります。
今のところマルバくんはちゃんと『主人公』やってますね。 

 
『円月斬』の最大の長所は投げ方によって軌道がある程度コントロールできる点にある。
横に振りかぶって投げればブーメランのように広範囲を旋回するし、直線的に投げれば投げた手に吸い込まれるように戻ってくる。だから、敵が大量にいるときには振りかぶって投げ、クリティカルを狙うには直線的に投げるのが効果的だ。
よってこのように大量の敵に囲まれた時などは横投げが非常に有効である。

「うおおおおおおおッ!!!」
マルバは叫び声で敵を怯ませようとしているかのように吠えた。実際は自らを侵そうとする恐怖心を追いだそうとしただけなのだが、敵が一瞬動きを止める。その瞬間を逃すようなマルバではない。

「せえいッ!!」
横薙ぎの一撃。『円月斬』が五体の敵をまとめて消し飛ばした。振り返ると背後の敵を短剣で連続攻撃し、そのままワンツーパンチ。体術スキルの『双牙』だ。撃ちぬいた右手に先ほど投げたチャクラムがびしっと音をたてて収まる。直後の僅かな硬直に沢山の敵が襲いかかるが、ユキが走り出るとマルバと敵の間の空間が白く塗りつぶされた。敵が戸惑う、その隙にすかさず右手と左手の武器を交換。

「はッ!」
もう一撃、左手から縦投げの『円月斬』。縦に並んでいた敵二体が同時に消し飛んだ。サイドステップを踏んで円月斬の軌道を誘導する。迫る敵の攻撃を短剣と籠手で弾き返すと攻撃を防がれた敵が硬直する。その瞬間に背後から飛来したチャクラムが見事に敵の後頭部にクリティカルヒットした。チャクラムは再び音をたてて左手に収まる。



「ふう、これは精神衛生上よろしくないなあ……」
マルバは敵を一掃してから呟いた。ユキが駆け寄ってきてマルバの脚にまとわりつく。合計十五匹になるだろうか、飛行型モンスターのフェザードラグを利用したMPK(モンスタープレイヤーキル)もどきに引っかかったのである。最も、走って逃げていったパーティーは本当に余裕がなかった様子なので故意的なものではなかったようだが、だとしても決して褒められた行為ではない。これが攻略組のマルバだからよかったものの、普通のソロプレイヤーだったら一瞬でオダブツだ。

苦いレモンジュースのような味のするポーションでHPを回復させながら歩き出したマルバは、すぐ先の安全地帯から話し声を聞いた。

「……ばいってさ、……ぜっ……じゃんよ。」
「……もさ、……しょ?」
「だからって見殺しにするわけにはいかないだろ!?」

小さくてよく聞こえない会話のなかから叫び声が聞こえた。見殺しという穏当でない単語も気になるが、言い争いとはあまりよろしくない。喧嘩になるなら止めないとな、と思いマルバは足を早めた。安全地帯手前でユキの姿が掻き消える。マルバは未だに念のためユキの存在を隠し続けているのだ。

「ねえ、君たち、どうしたの?」
と話しかけてみる。

「いや、さっきここまで逃走してくる途中でどうやらソロプレイヤーにモンスターを押し付けてきちゃったらしくてさ、このままだとそのプレイヤーが危ないから助けに行こうか、って話してたんだよ。」
「危ないって、無理よそんなの。だってわたしたちは勝てないから逃げてきたんだよ?また行ったって逃げ帰ってくるだけよ。」
「だからって押し付けた人が死んだらどうするんだよ!?」

話がようやく見えてきたマルバは彼らに笑いながら言った。
「ああ、それなら僕がさっき一掃してきたよ。フェザードラグの大群でしょ?」

「え!?」
驚くパーティーたち。

「あんなにたくさんいたのにこんな短時間で倒してきたなんて……あんた何者だ?」

疑惑の視線に晒されたマルバは真面目に答える。
「何者ってわけでもないさ。ここで戦えるほどのレベルは十分にあるってだけで」
「あんた、攻略組だな?なんだってこんなところで狩りなんてしてるんだ。攻略組が経験値稼ぎするような場所じゃねえぞ」

一応は命の恩人に対していう台詞じゃないだろうに、と心のなかでつぶやく。
「素材集めにきてただけだよ。」
「素材集めだぁ?高レベルの素材がこんなところにあるわけねえだろうが。嘘ついてんじゃねえよ。」
「嘘じゃないってば。」
「いいや、嘘だ。ポップが枯れたらどうすんだよ。俺らが得られる経験値が減っちまうだろうが。非常識だぞ」

まさか非常識という単語がこのパーティーから聞けるとは思わなかったマルバは苦笑して答えた。
「非常識って……さっきのMKPは君たちがやったんだろ?非常識は君たちのほうだと思うけどなあ。」
「ふん、開き直りやがったか。」
「いやいや、開き直ってるのは君たちのほうでしょ……」
「話をまぜっかえしてんじゃねえよ!!」
「だから混ぜっ返してるのは君たちのほうだって……」
「ふざけんな!」

もはや話にならないと思ったマルバはため息をつく。相手はさらに続ける。
「おまえ、さてはビーターだな!?お前たちのせいで俺たちは出遅れたんだよ!!責任とれよ!!」

ビーター、か。そういえば最初にこれを言われたのはキリトだったな、とマルバはつい四ヶ月ほど前の出来事を思い起こした。震えを隠した声で笑うキリトの声が脳裏に蘇る。あいつの思いを知らずに、こいつらは……

もはや彼らの言うことは聞きたくなかった。マルバは足早にその場を離れる。後ろで喚く声が聞こえるが、無視だ。あー、聞こえない聞こえない。


すたすたとその場を通り過ぎたマルバは、フェザードラグの羽根がすでに十八個溜まっているのに気づいた。あとはジャイアントアントだ。奴らは迷宮区にいる。マルバは迷宮区を目指した。







第十六層迷宮区は植物が生い茂り、巨大な虫のモンスターがたくさん出現するエリアである。ここの敵は斬撃も刺突も打撃も有効なため非常に戦いやすいことで有名なのだが、今マルバの目前で戦っている人達はその限りではないようだ。

盾持ちのメイサーが一人、HPゲージがもうすぐイエローになるといった程度に消耗している。しかし、他のメンバーは長槍使いが二人と棍使い、短剣使いのみで、前衛ができるのが一人だけなので前衛が回復する暇がないらしい。ずるずると後退する形になってしまっている。このスキル構成はちょっと無理がありそうだ、とマルバは思った。ユキに隠れるようにと指示を出すと彼らに近づく。

「前衛、支えようか?」
マルバはリーダーらしき棍使いに声をかけた。棍使いは少し驚いたように目を見張ると、一瞬ためらい、しかしすぐに頷いた。
「お願いします。危なくなったら逃げていいですから」
「了解!」

そうと決まればマルバは短剣を構えると前衛のメイサーとスイッチした。
マルバは短剣使いにしては珍しく武器防御スキルをけっこう上げている。さらに盾ほどの防御力はないものの籠手を装備しているため見た目に反しそれなりに防御もできるのである。本来ならチャクラムの的確な一投や正確な短剣の一撃で敵を倒すこともできたのだが、マルバはひたすら防御に徹し、彼らに攻撃のチャンスを与え続けた。何故か、と訊かれればすぐに答えることは難しいが、おそらく先ほどのように非常識だと罵られるのが嫌だったからかもしれない。マルバはわざと一度も攻撃せずに彼らがモンスターにとどめを刺すのを見届けた。

戦闘が終わると彼らは歓声をあげて勝利をたたえ合った。ソロのマルバにとっては非常に珍しい光景である。戸惑いながら求められた握手に応じる。
そのまま流れで一緒に街まで向かうことに。まだジャイアントアント狩り終わってないんだけどな……と思うものの、そんなことを言ったら非常識と言われることになりかねない。



迷宮区から脱出し、主街区に到着したマルバたちは酒場で一杯やりませんかという棍使いケイタの誘いに乗り、一緒に祝杯をあげた。さすがにここまできてユキの存在を隠すのは無理なので、マルバはユキと一緒に自己紹介を終えた。彼らのギルドは『月夜の黒猫団』というらしい。
彼らは短剣使いが見事に前衛を務めたことに驚いていたらしく、非常に聞きにくそうにマルバにレベルを尋ねた。

「あのー、大変失礼なんですけど、マルバさん、レベルいくつくらいなんですか?」
「あー、うん、それなんだけどさ、その前にちょっと質問があるんだけど、いい?」
「はい?別に構いませんよ。なんですか?」
「敬語はなしでいいよ。それで……攻略組、ってどう思う?」
マルバは直球で聞いてみた。彼らは突然の質問に戸惑ったようだ。ケイタが口を開くまでに少し時間がかかった。

「ええと、質問の意図がすこし分からないのですが……分からないんだけど?」
「そのまんまだよ。攻略組になりたいとか思う?それとも経験値をたくさん取ってズルした嫌な連中だとか思う?」
「あぁ、そういうことなら、僕たちはいつかは攻略組の仲間入りをしたいと思ってるよ。仲間の安全が第一だけどさ、それなら始まりの街でじっとしていればいいわけで、それでもこうして迷宮区まで出かけてレベル上げをしているのはやっぱりいつかは攻略組に入りたいからなんだ。」

そっか……とマルバはつぶやく。マルバは彼らを信じることに決めた。彼らなら、マルバのレベルを聞いても非常識だと言って罵ったりはしないだろう。

「うん。それじゃあ最初の質問に答えるね。僕のレベルは32。ここにはボス戦でドロップした防具の強化素材を探しにきてたんだ。」
「え、それじゃ……攻略組、なんですか?」
「うん、そういうことになるね。」

改めてマルバを見つめる月夜の黒猫団のメンバー。すると、サチと名乗ったギルドメンバーの紅一点の長槍使いが驚いたように声をあげた。
「あ、もしかして……《双剣》のマルバさん?」
「うわ、その呼び方って広まってるの?嫌だな、実力もないくせに二つ名がついてるのなんて僕くらいなもんだよ。」

再び口を開くケイタ。
「攻略組、だったんですね。それじゃ、僕たちは攻略組の戦いを間近でみたことになるんだ。いや、もしレベル帯が近いのならメンバーに誘おうかと思ったんだけどね、さすがに無理そうだな……」
「うーん……、君たち、攻略組になりたいって言ってたよね。でもそのスキル構成じゃあ上層まで行くのは厳しいと思うんだけど、どうする気なの?」
「ああ、それはほら、サチのメインスキルは長槍なんだけどさ、まだスキル熟練度が低いものだから、今のうちに盾持ちの片手剣士に転向させようと思ってるんだよ。」
「なるほど……そうだな。じゃあさ、ついでにもう一つ質問。君たちと攻略組ってなにが違うんだと思う?レベル以外に。」
「意志力、かな。彼らは何が何でも仲間を守り、全プレイヤーを守ろうっていう意思に満ちているんだと僕は思う。そういう力があるからこそ、ボス戦に立ち向かえるんじゃないかな、って思うんだ。」
「それじゃあ、君たちは意志力が足りないから攻略組になれないってこと?」
「……いや、僕たちはこのままレベル上げを続けていつかは攻略組になろうと思っている。気持ちだけでは彼らに負けているとは思わないよ。」
「じゃあ、やっぱり意志力以外にも攻略組を攻略組たらしめている何かがあるってことになるよね。」
「そう、だね。」

そこで一旦言葉を切るマルバ。少し考えてから、再び口を開く。

「君たちにかけているものは二つだと僕は思う。まず、君たちがさっき言った、『意志力』。でもこれは君たちに欠けているもの、っていうよりは欠けていたもの、だと思う。攻略組の多くはこのデスゲームが始まってすぐに強烈なスタートダッシュを決めたんだけど、それによって周囲と大きなレベル差ができたんだよね。この差を埋めるのはなかなか難しいと思う。」

月夜の黒猫団の皆はマルバの言葉に頷く。
「そうだね。僕たちは第三層がクリアされるまでは怖くて始まりの街から出られなかった。そのときの攻略組とのレベル差を埋められないまま今に至る、って感じだから。」
「うん。それじゃあ、二つ目。それは『情報力』。攻略組が持っていて下層のプレイヤーが持っていないものは、下層の情報だ。攻略組にとって情報は力になる。他の人が知らない情報を自分が持っている、それが自分を他のプレイヤーより強くできる要因になるからね。それは攻略中の層ばかりじゃなくて、下層の情報も同じ。仮にもう自分には必要のない下層の情報でも、他のプレイヤーが持ってない情報を持っていれば渡したくなくなるものだよ。」
「うん、それはなんとなく分かる。」
「それだけどさ。一つ目は取り返しがつかなくても二つ目はなんとかなるんじゃないかな、その提供者さえいれば。」

「提供者……?」
ちょっとびっくりしたようにケイタは呟いた。

「そう、提供者。もしよかったら、僕がその提供者になろう。ただし、期限は付けさせてもらうよ。次のボス攻略が終わるまで……そう、だいたい二週間から三週間くらい。一回くらいなら攻略サボっても大丈夫だと思うしね。」

月夜の黒猫団の全員が目を見張った。

「それは僕たちにとってとってもありがたい申し出だけど……いいの?」
「もちろん。これは僕だけの問題じゃないから。二十五層ボスの戦いで感じたんだけど、攻略組の人数が少なすぎる気がするんだ。君たちが本当に攻略組になれるのなら、攻略もかなり楽になるはずだ。だから、僕からもお願いしたい。攻略組に、なってほしいんだ。」

あまりに信じられない提案に、黒猫団のメンバーは一旦集まって相談を始めた。
マルバはユキを抱きながら答えが出るのを待つ。やがて……

「話はまとまった。君にコーチをお願いしたい。攻略組を目指して精一杯がんばるから、よろしく。」
「うん、よろしく。」

マルバは再び月夜の黒猫団の全員と固い握手を交わした。 
 

 
後書き
最初に出てきた『フェザードラグ(Feather Dragon)』はピナの種族である『フェザーリドラ(Feather Little-Dragon)』が成長したような感じのやつです。ドラグってドラグーンじゃなくてドラゴンであってますよね……?
円月斬の一投で五体まとめて消し飛ばしてますが、これは飛行型モンスター故に防御力が低く、またマルバがこの層の敵に対してかなりレベルが高いからです。

今回の裏設定を紹介しておきます。
マルバ:Lv.32。《双剣》の二つ名を持っていますが、本人は実力ではなく変わったバトルスタイルが評価されただけだと感じています。顔も名前も知られていません。こんな戦い方をするプレイヤーもいるんだよーって新聞に紹介されて以来二つ名だけが少し有名になりました。
前線のレベルは平均35。マルバはレベルが低めですが、これはレベルよりスキルを重視してレベリングよりスキルの訓練を優先した結果です。
月夜の黒猫団のレベルは23~26。

マルバが月夜の黒猫団のコーチングをするということは、キリトがトラウマを抱えないということで、今後のシナリオは原作とはかなり変わってくる予定です。 
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