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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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33.君を想う人を忘れないで

 
前書き
更新速度が安定しなくてすいません。 

 
 
 リングアベルが幼女とフラグを育んでいるその頃、ベルとエイナのデートもそろそろ終了しようとしていた。夕焼けに照らされて明るくも切ない光彩に染まる町の中、別れの時が訪れる。

「じゃ、そのブーツをちゃんとリングアベル君に届けてね?」
「はい!先輩きっと喜びますよ!!」
(本当はそれを買ったお金で手甲でも買ってあげたかったんだけどなぁ~……)

 ベルは当然エイナがそのブーツに出したお金で本当は何を買おうとしていたのかなど全く知らない。それだけに彼の笑顔には複雑な気分にならないでもなかったが、これもしょうがないかと割り切る。次の機会があればその時にすればいいだけだ。

「ベル君。これはリングアベル君にも伝えてほしい事なんだけど……」
「伝えてほしい事……?」
「二人とも、生きて帰ってね?」

 その時のエイナの笑顔は、ベルの眼には暗くに映った。
 憂鬱とも悔悟とも違う、無常なこの世界に何所かうんざりしたような顔。

「本当に……冒険者なんていつ死んじゃうか分からない。笑顔で送り出されて、そのまま帰ってこなかった冒険者だって大勢いるの。だから……戻ってきてほしいな」
「エイナさん……」
「今日ベル君をあそこに連れて行ったのも、リングアベル君に装備を買ってあげたのも、帰ってきてほしいから……まぁリングアベル君の分は同僚の代理みたいなものだけど、それでも帰ってこないと寂しいでしょ?」
「………大丈夫ですよ」

 ベルは、リングアベルのような似合わないニヒルな笑顔を浮かべて、エイナにウィンクした。

「僕も先輩も女性を悲しませない事をモットーにしてますから!」
「………ぷっ、あはははは!何それ、格好つけちゃって!全然似合ってないよ?」
「うぐ!まだスマイルの修行が足りないっていうのか……!」

 だが、恰好は付かなかったがエイナの不安は払しょく出来た。それが証拠にエイナさんはお腹を抱えて笑っている。……そんなに似合わなかったのかな、とベルはちょっと落ち込んだ。リングアベルのような男になるには余りにも経験値不足のようだ。
 しかし、今はまだそれでいい。
 不格好でもなんでも、泣かせるよりは100倍マシなんだから。


 大笑いされたエイナと別れを告げ、ベルは街の細い路地を歩く。
 既に日がかなり沈んでいるせいか光よりも影が濃くなっている通路は微妙に見通しが悪い。

「何だかんだで遅くなっちゃったなぁ……神様を心配させなきゃいいけど……ん?」

 ふと、路地のどこかから足音が響いている事に気付いたベルは歩行速度を緩める。
 こんな一通りの少ない路地なのに、足音は随分慌てているようだった。
 と、考え事をしていたためか、路地から飛び出てきた小さな影に一瞬反応が遅れる。

「はぁっ……はぁっ……キャアッ!?」
「うわっと!?」

 結構な速さで走っていた筈なのに、ベルの身体にぶつかった影はとても軽かった。
 唯の子供でないのなら小人族だろうか。ぶつかってバランスを崩した彼女はうつぶせに転倒した。
 悲鳴から相手が女の子であることに気付いたベルは慌てて声をかける。

「ご、ごめん!怪我はない?」
「くっ……こんな時に、また……!」
「え?またって、一体――」
「――もう逃がさねぇぞ、クソ小人族(パルゥム)ッ!!」
「え?うわっ!?」

 突然割り込んできた声の方を向くと、そこには剣を掲げて怒り狂う冒険者らしき男が走り込んでくる姿があった。手に剣を持っていて、しかも小人族と叫びながら斬りかかってくるという事は――まさか、こんな街中で彼女を斬るつもりなのか。

 咄嗟に腰からヘスティア・ナイフを抜き取ったベルは、ほぼ反射的にその刃を真正面から受け止めた。
 ガキィン!!と金属同士が衝突する。武器の重量では不利だったが、ヘスティア・ナイフの特性によってステイタス分上がった性能が拮抗状態を生み出す。

 背後から小さく息をのむ音と、ナイフに注がれる視線を感じるが、それを気にするより先に刃を振るった男が顔を顰めてベルに怒鳴り散らした。

「な、何だテメェ……そこの小人族の仲間か!!」
「え、いや、初対面ですけど……」
「ハァ!?じゃあ何で庇ってんだよ!邪魔するんじゃねえ!!」

 男は相当頭に血が上っているのか、怒りと不快感を隠そうともせずに怒鳴り散らす。
 しかし、何故庇ったのかと言われれば、ベルは堂々と答えるしかない。

「剣を片手に人を追い回す危ない奴がいたら普通庇うでしょ!追われてるのが女の子なら尚更ですよ!」
「ちっ……訳わかんねぇこと言ってんじゃねえぞクソガキィ!!」
「げっ……力づくでも来る気ですか……!?」
 
 激昂した男は再び剣を振りかざす。どうやら本気で斬りかかるつもりらしい。
 ベルは逡巡する。狙われている女の子はまだベルの後ろにいる以上、下がるのはもっての他。かといって斬り合いになれば怪我をするかもしれないし、ファミリア同士の諍いの種にもなりかねない。ならば、答えは一つ。怪我をさせずに追い払うしかない。

(出来るか……?いや、いける。あの人はリングアベル先輩と比べれば隙だらけだ)

 模擬戦を頼んだ時のリングアベルと男の姿を頭の中で重ねると、すぐに実力差が浮かび上がった。構えらしい構えもなく、ただ筋力任せに剣を振るっているという印象が強い。リングアベルも戦いの際はリラックスしているような動きを見せるが、実際にはどう攻められても動ける最低限の姿勢を崩さない。最初の一撃といい、それほど実力差の開いた相手ではないらしい。

 それにこの路地は剣を振り回すには少々狭い。対してこちらは機動力の高いナイフ。リーチの差はあるが、あながち不利でもない。狭い通路なら恐らく射程の長さを生かして突きを放って来る可能性が高い。それに対応できれば――

「そこまでです」

 凜とした声が、その場を制した。

「街中で剣を交えるとは、穏やかではありませんね」
「あ……リューさん?」

 そこにいたのは『豊穣の女主人』の従業員、エルフのリュー・リオンだった。
 買い物中だったのかその手には買い物袋が抱えられているが、激昂する男に向けられた鋭い敵意が感じられる。一瞬戸惑った男はしかし、すぐに高圧的な態度を取り戻した。

「何だぁ?口出しすんじゃねえよ!とっとと失せろこの――!」

「――吠えるな」

 その一言と共に、リューの瞳の奥にどす黒い殺意が男を貫いた。
 次に口を開いた時にはその喉元が掻き切られているような幻覚を覚える、恐ろしいまでの殺意。

「あ……な……」
「手荒なことはしたくありません――『やりすぎてしまう』ので」
「グッ……クソがっ!!」

 気圧された男は何も言い返せず、悪態をつきながら剣を収めて足早に路地へ消えていった。
 その後ろ姿を見送ったリューは、ふぅ、とため息をついてベルの下に歩み寄る。

「怪我はありませんか?ベルさん」
「ええ、大丈夫です。それにどうやらあの子も無事逃げられたみたいですし……」
「あの子?」
「さっきの人に襲われてた女の子です。リューさんに相手が気を取られた隙に路地裏に逃げたんだと思います」

 先ほどまでへたり込んでいた少女の姿はもうない。何故あのように追われていたのかは定かではないが、位置的にさっきの男とは真逆の方角に逃げたので恐らくは大丈夫だろう。話を聞いたリューはどこか不信感を募らせたように目を細める。

「ふむ、助けてもらった相手に礼の一言も無しとは……些か義に欠けるお方ですね」
「何か事情があったんでしょう。隠し事は深く詮索しないのが男の……って、これ先輩の受け売りでした」
「相変わらず仲がいいようで何よりです。しかし、余り無茶はしない方がいい。怪我をしたと知れればシル達も悲しみます」
「心配かけてすいません……あの、ありがとうございました!」

 リューは会釈をすると、店の方角へと消えていった。
 あの時の殺気――実はリューは凄く強いのだろうか、とベルは疑問を抱く。剣も抜かずに威圧だけで相手を追い払うとは只者ではない。
 しかし、それを追求しようとは思わなかった。元々『豊穣の女主人』は訳ありの従業員が多いらしいし、無理に聞きだすのは紳士的ではない……とリングアベルは言うだろう。
 
 今日は長い一日だったな、とごちながら、ベルは改めてホームへの帰路についた。

 そんな自分の背中を見つめる小柄な影があることには気付かずに。



 = =



 人生には、何故か妙に厄介事に絡まれやすい日というのがある。
 多分今日の僕はそれなんだろう、とベルは思った。

「だ、か、ら!ヘスティア・ファミリアのホームに行くには右の通りに出ないと駄目なんだってば!どーしてエアリーのいうこと聞けないの!?」
「私だって右に向かっているつもりです!うう……ち、ちょっと迷子になってるのは求めます。しかし、今回ばかりはティズに頼る訳には行かないのです!」
「そう言っておいてティズに無断で飛び出した結果がこれでしょ?ああ、なんかこのままだとオラリオ内で遭難して一生出られなそう……」

 一つは甲高い少女の声で、もう一つはどこか意地になっているような声。
 その声の主は、道具袋からひょっこり出した顔と、その道具袋を抱えた長髪の美女。
 帰り道にどうも騒がしい声が聞こえると思って路地に寄り道したベルは、そこでこの前会ったばかりの知人を発見した。

「アニエスさん?それにエアリーも……こんな所で何やってるんですか」
「ひゃあっ!?……あ、なんだベルじゃないの」
「迷ってませんよ!!」
「まだ何も言ってないですけど!?……でも、どっちにしろ迷子っぽいですね……」
「ち、違います!!」

 隠そうとしても無駄である。何故ならば最初から隠せていないからだ。

「もう、意地張っちゃって……ホントに遭難しちゃうよ?」

 ヤレヤレと呆れたエアリーは道具袋の中に顔をひっこめてしまった。

 話の内容はよく聞こえなかったが、どうやらティズに黙って町をうろついたらしい。
 元気なのはいい事だが、流石にあの方向音痴でそれは無謀と言わざるを得ない。むしろ一応ながらホームにそれなりに近い位置に、しかも周囲にエアリーの存在を悟られないまま来れたのなら奇跡といって過言ではない。

「そ……それより丁度いいところで会いました、ベル。実は今から女神ヘスティアに謁見を申し込みたいのですが……」
「え、こんな時間にですか?それにティズさんもいないのに二人だけでですか?」
「……今回の話はそのティズに関する事です。本人がいてはややこしくなります」

 相変わらずどこか素っ気ない口調のアニエスだったが、遭難承知で態々ここまで来たのならばよっぽどの用事かもしれない。知らない中でもないし、多分神様もそろそろ帰ってきている筈だ。

「……分かりました、細かい事は聞きません。案内するので手を……その、はぐれられると困るんで」
「アニエス。ここは素直に手を繋ぐべきだとエアリーは思うなぁ」
「う……わ、分かりました」

 困ったように頬を掻きながら、ベルは差し出されたアニエスの手を握った。

(アニエスさんの手、手袋越しでも暖かいなぁ………っと、いかんいかん!こんな時に変な妄想は止めるんだ、僕!!)

 咄嗟に赤くなった顔をアニエスに隠すように案内を開始する。
 そんな様子を見てアニエスは、少し落ち込んでいた。

(ティズといいベルといい、案内の時は私の顔を見ようとしませんね。……よほど迷惑に思っているのでしょう)

 実際には二人とも恥ずかしがっているだけなのだが、彼女も中々の天然である。
  
 

 
後書き
おまけ:もしもリューさんがXenoの名を冠する者だったら

「街中で剣を交えるとは、穏やかじゃありませんね……」

 瞬間、リューの瞳の奥が蒼く輝き、その中に未来の映像が浮かび上がる。
 このオラリオでリューだけが持つレアスキル『未来視(ヴィジョン)』だ。
 『未来視』は全てを語らない。ただ、運命を切り開けなかった結末を、それは映しだす。
 リューがその瞬間見たのは、男が正面から切りかかってきて自分が傷を負う未来。

「誰だか知らねえが、邪魔してんじゃねえぞ!!」
「――甘い」

 未来を読んだリューは、相手の突進に合わせて一気に背後に回り込むと、背中に背負った巨大な赤い剣――『神剣モナド』を素早く抜き放ち、叫んだ。

「バックスラァァッシュ!!」
「ガハァッ!?」

 男の無防備な背中に赤い刃が叩きつけられる。しかし、血は出なかった。
 『モナド』は魔物は斬れても人は斬れない。ただ、その有り余る力が衝突すれば人を吹き飛ばす事くらいは容易だ。ベルに絡んでいた男はみっともなく吹き飛び、壁に激突して意識を失った。

 静かに剣を背中に戻したリューは振り返り、ベルに笑顔でこう告げる。

「さあ、この調子でいきましょう」
「どこにですか!?」

 みんなの(ツッコみたい)気持ちが伝わって来たよ!!

(ゼノブレイドより、主人公シュルクの口癖「穏やかじゃないですね」より) 
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