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真田十勇士

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巻の十 霧隠才蔵その七

「わしは燕青じゃぞ」
「御主の何処が燕青じゃ」
「それも図々しいぞ」
 水滸伝きっての美男だ、通り名を浪子即ち伊達男という。
「全く、そもそも刺青され入れておらぬではないか」
「それで何処が燕青か」
「顔じゃ」
 堂々と言う清海だった。
「わしのこの顔がじゃ」
「まだ言うか、この者は」
「全く、花和尚が嫌なら行者になっておれ」
 武松である、この者も梁山泊の豪傑だ。
「とにかくじゃ、確かにな」
「これはまた整った顔じゃ」
 由利と海野は清海から霧隠を見て言った。
「その顔ならばな」
「おなごも放ってはおかぬわ」
「うむ、それで人の多い街では困るのじゃ」
 霧隠は苦笑いで述べた。
「おなごが周りに集まってな」
「おなごは嫌いではなかろう」
 穴山が言って来た。
「別に」
「うむ、嫌いではない。しかしな」
「それでもか」
「周りに集まられると困る」
 そうなってしまってはというのだ。
「だからじゃ」
「それでか」
「こうして虚無僧等に化けたりして隠しておるのじゃ」
「そうしておるか」
「この方が目立たぬしのう」
「顔がよいのも考えものだということじゃな」
「目立つことは忍としてよいことではないしな」
 望月は霧隠もまた忍の者であることから言った。
「それは道理じゃな」
「変装もしておる」
「そうもしてか」
「顔を隠しておるのじゃ」 
 そうしているというのだ。
「だから変装にも自信がある」
「それはよいことじゃな」
「そう言ってくれるか」
「うむ、わしは変装は今一つ苦手じゃ」
 忍であってもというのだ。
「そこは何とかせねばな」
「変装は数をすれば上手くなる」
「では数しておくか」
「そyじゃな」
 こうしたことを話してだった、一行は。
 霧隠を加えたうえで大津を後にしてだった、また都に向かうのだった。
 その途中でだ、伊佐は近江の道を歩きつつ幸村に言った。
「殿、何かです」
「どうかしたか」
「はい、どうもです」
 顔は正面を向いている、表情も穏やかなままだ。
 しかし先に先に進みつつだ、こう言ったのだ。
「獣の気配がしてきました」
「うむ、この気配は」
「殿もお気付きですか」
「狼じゃな」 
 この動物の気配だというのだ、幸村も。
「狼の気配じゃな」
「そうですな、しかし」
「狼ならよい」
 別にとだ、ここで言ったのだった。
 そして根津もだ、腰の刀に手をかけはしたが。
 抜く素振りは見せずだ、彼も幸村に言った。
「狼は案外人を襲いませぬ」
「相当餓えていなければな」
「熊も同じ、猿なら違いますが」
「左様、狼は別に恐れることはない」
「そういうことですな」
「では先に行こう」
「それでは」
「さて、先に進みな」
 そしてとだ、また言った幸村だった。 
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