今川風流
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第二章
雪斎もだ、義元に言うのだった。見れば雪斎は法衣と袈裟の上から具足を着けている。そうして言うのだった。
「殿、この度は」
「どうするかでおじゃるな」
「確かに失態ですが」
「あまり厳しいことはでおじゃる」
具足と陣羽織姿の義元も応える。
「麿もどうかと思うでおじゃる」
「そうです、しかし」
「ただ。許すだけではでおじゃる」
「どうかともなりますし」
「難しいところですな」
「ここはあの者を見るでおじゃる」
その失態を犯した家臣をというのだ。
「そうするでおじゃる」
「ですか」
「それ次第でおじゃるな」
許すか処罰するかはというのだ。
「そうするでおじゃる」
「では」
雪斎は義元の言葉に静かに頷いた、そのうえで。
彼を連れて家臣達の前に出た、家臣達の間で無言の言葉が出た。
だが義元はその言葉をあえて無視してだ、そのうえで。
その家臣の前に座してだ、彼に問うた。傍らには雪斎が控えている。
「さて」
「はい」
「この度のことでおじゃるが」
家臣を見つつだ、義元は言っていった。
「どうするかでおじゃるが」
「そのことについては」
ここでだ、その家臣は。
頭を垂れたままであるがだ、静かに。
言葉を出した、その言葉を聞いて他の家臣達は言った。
「これは」
「和歌か」
「何と、ここで和歌を詠むか」
「そうしたのか」
「殿に対して」
「あえて」
和歌に通じている義元に対してとだ、彼等も言った。
「何と」
「ここでそうするとは」
「若しここで殿のご不興を被れば」
「重い処罰となるが」
「それでもか」
「あえて詠うか」
彼のその心意気に驚いた、だが彼等は。
その歌の中身についてはだ、いぶかしんで言うのだった。
「しかし」
「この歌はいいのか」
「よい歌か」
「いいにしても」
「殿は伊達に日々公卿の方々と共におられる訳ではない」
義元のそのことも話すのだった。
「歌はな」
「かなり通じておられる」
「我等なぞ及びもつかぬ」
「それこそ家中で殿に比肩する歌を解する人となると」
「まさに」
誰もがだ、ここでだった。
その義元の傍らにいる雪斎を見てだ、こう言ったのだった。
「雪斎殿のみ」
「あの方のみ」
「我等ではわからぬ」
「そこまでは」
こう言うのだった、それでだった。
誰もが義元を見た、彼がその歌をどう評するのか。そしてどういった断を下すのか。彼等ではそこまで歌がわからぬ故に。
固唾を飲んで見守った、義元の口に。すると。
義元はゆっくりだ、その口を開き。
そこから微笑んでだ、こうその家臣に言ったのだった。
「よき歌でおじゃる」
「有り難きお言葉」
「本来なら許さぬところでおじゃるが」
微笑みながらだ、義元はさらに言った。
「その歌に免じて今回は大目に見るでおじゃる」
「殿・・・・・・」
「この汚名は次で返上するでおじゃる」
こう言ってその家臣を許したのだった、これでこの場は終わりとなった。
この夜だ、義元は雪斎と二人で陣中で飲んでいた。そのうえで般若湯を飲む彼に対して微笑んで言った。
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