キラ
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第五章
ジツェンは目を剥いてだ、カルマに言った。
「ちょっと、これは」
「ああ、これだけの金を一度に見たのはな」
「私はじめてよ」
「俺も久し振りだよ」
流石に娘より長生きしているだけにそうした経験はある、だがそれでもだった。
「凄いな」
「これだけでうちの何ヶ月分かの売上よ」
「そうだな」
二人で驚いて話す、だがだった。
日本人はそれだけの金を出してもにこにことしていた、何でもないといった顔でだ。
それでだ、二人でまた話した。
「凄いな」
「そうよね」
金の話だった。
「あれだけぽんと出してな」
「それで涼しい顔って」
「日本人はああなのか?」
「皆お金持ちなの?」
「この人はまた別です」
また笑って言うクリシュナだった。
「お金がありますから」
「その日本人の中でもですか」
「別なんですね」
「そうですよ、まあこれでいいですよね」
「売れましたからね」
「それはもう」
二人も店の人間だ、それでだった。
それでいいとしてだ、二人でだった。
服を渡した、ヅツェンは店の奥で着替えて服をクリシュナに渡してだった。
そしてだ、こう言ったのだった。
「どうぞ」
「はい、それじゃあ」
クリシュナは笑顔で日本人に渡し日本人もだ、にこにことしてヅツェン達に深々と頭を下げてだった。そうして。
クリシュナと共に去った、そうなってからまた言ったカルマだった。
「売れたな」
「そうね」
ヅツェンも応える。
「まさか売れるとはね」
「思わなかったけれどな」
「ええ、それでもね」
「売れた、よかったことだ」
しみじみとして言ったカルマだった。
「今日はこのお金でな」
「お祝いね」
「家族四人でな」
母も兄も入れてというのだ。
「楽しもうな」
「それじゃあね」
「さて、それでだけれどな」
カルマはヅツェンにこうも言った。
「服売れたな」
「あっ、それで」
「ああ、もっと高い服買ってな」
「それを私が着てよね」
「看板になってもらうからな」
「それじゃあね」
ヅツェンも頷いた、そしてだった。
その日一家でお祝いをしてだ、前の服よりもさらに新しい服を買った。ヅツェンはその服を着てあらためて言った。
「この服も売れるかしら」
「さあな、またあの日本人着てくれたらいいな」
「流石に来ないでしょ」
「来ないか」
「そうそういいことはないわよ」
くすりと笑ってだ、ヅツェンは父に言った。
「仏様も幸運は沢山用意してくれてないわ」
「そういうものか」
「そうよ、まあそれでもね」
「また幸運が来るのを待つか」
「その時まで着てるわね」
そのキラをというのだ、こう話してだった。
ヅツェンはその新しく買ったとびきりのキラを着て店にいた、そうしてまた誰かがそのキラを買ってくれるのを待つのだった、その幸運を。
キラ 完
2015・8・29
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