戦国異伝
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第二百二十一話 肥後の戦その九
「三郎はよき者になる」
「徳川家の次の主ですか」
「徳川百六十万石は次はあ奴じゃ」
また言った信長だった。
「任せる」
「では」
「うむ、その様にな」
こう言ってだった、信長はそれをよしとした。そしてだった。
そうした話をしてだった、そのうえで蘭丸にこうも話した。
「わしもじゃ」
「はい、奇妙様は」
「戸次川ではよき戦を見せてくれた、しかしな」
「島津との戦はですな」
「もう一戦あるであろう」
「島津も諦めませんな」
「島津は九州を手に入れるつもりじゃ」
まだそれを諦めていないというのだ。
「それ故にな」
「まだ、ですな」
「戦うつもりじゃ」
織田家と、というのだ。
「それでじゃ」
「まだ戦うことになりますな」
「そうなる」
間違いなく、というのだ。
「おそらく耳川の辺りで戦うことになる」
「耳川ですか」
その川の名を聞いてだった、蘭丸のその整った顔が曇った。そのうえで信長に対してこう言ったのだった。
「あの川は」
「大友家が戦いな」
「無残に敗れましたな」
「そして大友家は傾いた」
まさにそうした場所だというのだ。
「因縁の場所じゃな」
「まさに」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「その耳川でも」
「奇妙に任せる」
信忠、彼にというのだ。
「次もな」
「左様ですか」
「後継も決めておかねばならん」
「奇妙様に」
「奇妙がわしの跡を継いで天下を収められるか」
「それを見極められるのですな」
「この九州攻めはそのこともある」
信忠を見る戦でもあるというのだ。
「だからじゃ」
「ここはですか」
「あ奴に任せてじゃ」
「上様は」
「後詰におる」
今いるこの場にというのだ。
「そして見せてもらう」
「そうなりますな」
「耳川でも見るだけじゃ」
「奇妙様をですな」
「よく人を使えておる」
信長は信忠のそうしたところにも感心していた。
「手足の様にな」
「そういえば奇妙様も」
「そうじゃな、人を使うことがわかっておる」
「一人では出来ることが限られていますな」
「天下を取れば人をじゃ」
「どう使うかですな」
「それが肝心なのじゃ」
まさにというのだ。
「だからな」
「奇妙様が見事に人をお使いになられている」
「それもいいことじゃ」
信忠自身の資質が優れていると共にというのだ。それもまたいいというのだ。
そう話してだ、信長は今は戦を見ることにしていた、信忠の戦を。
織田の軍勢は肥後からも日向からも順調に攻めていた、だが。
ここでだ、その軍勢を闇から見てだった。
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