黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
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29部分:第二十九章
第二十九章
「そして私のものにね」
「面白いわね。そう来たというのね」
「さて、どう防ぐのかしら」
花を放ち続けながら沙耶香に対して問う。花は次から次に来る。
「これは」
「防ぐ。それも面白いけれど」
「さて、どうなのかしら」
「ここは他のことをさせてもらうわ」
「他のなのね」
「魔術は何かを出すだけではないわ」
それだけではないというのである。
「そう、使うこともね」
「使うこともなのね」
「魔術は色々よ」
言葉と共にであった。
沙耶香が増えた。かに見えた。
それぞれの鏡に無数の彼女が出て来たのである。そしてそれはだ。
「分け身なのね」
「そうよ。私の使う魔術にはこういうものもあるわ」
こう言ってみせるのである。
「それもね」
「そうなのね。それでなのね」
「そうよ。それではどうすると思うかしら」
「さて。貴女は複数、私は一人」
数の話になっていた。
「一見したら私は不利ね」
「ええ。あと言っておくけれど」
沙耶香はここで言い加えてみせた。
「全ての私はね」
「ただいるだけではないわ」
「それだけではないわ」
「それはわかるわね」
それぞれの沙耶香の言葉である。
「幻影を使うこともできるけれど」
「今はそうではないわ」
「それは言っておくわ」
「わかったわね」
こう言ってみせたのである。それぞれの沙耶香はだ。
鏡に映るそれぞれの沙耶香達が動いてきた。そうしてだ。
一旦消えた。全ての沙耶香がだ。
「消えた!?」
「そう、そして」
そしてなのだった。気配が消えたその中でだ。
不意に前に出た。沙耶香自身がだ。
「出たのね」
「ええ、そして」
沙耶香の目が光った。ここで、であった。
紅いルビーの輝きを見せたのだ。その紅い目と共にであった。
右手を一閃させた。それでなのだった。
右手には白薔薇があった。それを死美人の首の後ろに刺した。薔薇は深々と弓矢の様に突き刺さった。勝敗はこれで決したのである。
「勝負ありね」
「先程の分け身はあれなのね」
「そうよ。陽動よ」
それだというのだ。それだというのだ。
「少し考えたわ。どうするかね」
「分け身達それぞれで攻めても効果があったと思うけれど」
「けれど貴女はそれでも防いでしまうわね」
「防ぐことはできるわ」
死美人もそれは否定しなかった。悠然としてだ。
「充分にね」
「そうね。だからよ」
「だからだというのね」
「そうよ、それも考えて」
沙耶香も闘いを考えていたのだ。ただ攻めるだけでは勝てはしないと見てだ。そのうえで陽動を仕掛けてきたのだ。それを仕掛けてきたというのだ。
「陽動にしたのよ」
「それは考えられなかったわ」
「私の数を見てなのね」
「ええ。それで来ると思ったわ」
彼女にしてもそう思ったのである。そしてそう思わせることこそが沙耶香の考えであった。闘いの最中のまさに紙一重の駆け引きであったのだ。
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