黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
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27部分:第二十七章
第二十七章
その花々を従えるようにしてだ。沙耶香は言うのだった。
「これよ」
「面白い花達ね」
「私の愛する花達よ」
その花達をいとおしげに見下ろしてだ。そのうえでの言葉だった。
「全てね」
「そしてそれでその花達をなのね」
「貴女を虜にするわ」
「ふふふ、面白いわね」
「面白いというのね」
「そうよ、花で来たのならね」
こう言う沙耶香だった。
「私もまた見せないといけないわね」
「私は花。では貴女は何かしら」
「花よ」
返答は一言だった。
「私もまたね」
「さっき言っていた花なのね」
「そうよ、私の愛する花達」
楽しむ笑みをここでも見せていた。明らかにだ。
「それを見せてあげるわ」
「楽しみね。それではね」
花達が沸きあがった。無数の花びら達が死美人の足元を覆った。そしてそれは瞬く間に鏡すらもすり抜けて迷宮を覆い尽くしたのであった。
そしてだ。また沙耶香に対して言ってみせるのであった。
「さて、私はこうしたけれど」
「花達にあるのは妖ね」
「そうよ、妖よ」
まさにそれだというのであった。
「それなのよ」
「妖しの花。それでは私も」
「貴女も出すのね」
「そうよ、今度は花には花よ」
笑いながらの言葉だった。
「それでいかせてもらうか」
「わかったわ。それではね」
死美人もそれを受けた。だが彼女は今は動じてはいない。
そしてである。彼女は沙耶香がすることを静かに見ていた。今は何もしようとしない。あえて見届けそのうえで手出しはしようとしないのであった。
そしてだ。沙耶香はその周りに薔薇達を出してきていた。
その薔薇は五色の薔薇だった。紅だけではない。
白もあれば黒もある。それに黄色に青だ。その五色の薔薇である。
五色の薔薇が複雑に絡まり合う様に咲いている。五色の薔薇達が足元にある。
そしてだ。彼女はその薔薇達の中で言うのだった。
「これが私の花達よ」
「薔薇だったのね」
「花は他にもあるわ。それでもね」
「今は薔薇なのね」
「ええ。貴女のその花達の美しさに勝てるのはこの薔薇だと思ったから」
だからだというのだ。
「だからよ。それでね」
「ではその薔薇をどうするのかしら」
「普段はその薔薇の色でそれぞれ使い方があるわ」
それはあるというのだ。
「しかし」
「しかしなのね」
「今はこうして五色の薔薇を使うわ」
まさに五色入り乱れてである。赤もあれば青もある。そうした様々な色の中に身を置いてである。その中に身を置きながら言葉を出しているのだった。
「貴女は。そうした相手だからね」
「私はそうなのね」
「相手に相応しい闘いをする」
妖艶な笑みでの言葉だった。
「それは基本ね」
「そうね。それでは」
「ええ、ではまたはじめるわ」
闘いは今は一時中断していた。だがそれも終わりだった。
動いたのは沙耶香だった。その咲き誇る薔薇達の花びらが一斉に舞った。
「行くわ」
「薔薇の花びらが」
「無論只の花びら達ではないわ」
沙耶香はそれをすぐに否定してみせた。技を放ってからだ。
「只のね」
「そうね。魔性の花ね」
「貴女と同じく私もまた。魔性の中にいるわ」
「だからこそなのね」
「そうよ。だからこそ私の花も」
「魔性の中にいる」
そうした意味では二人は同じだった。魔の中にいるという意味ではだ。
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