ウスニイ=ハブチャール
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第三章
「力が弱い相手にそんなことをしてモンゴル人か」
「モンゴル人はどうなんだ、か」
「そんなの誇りのある奴のすることじゃない」
ジュチははっきりと言った。
「俺もしないさ」
「ならいい」
「ああ、嫁さんは殴るなだな」
「そのこともしっかりとな」
「それでか」
「今度その娘連れて来る」
ジュチの結婚相手をというのだ。
「見付けてきてな」
「じゃあ待ってるな」
「それじゃあな」
こう話した半年後だった、ジェベは羊の世話をしていたジュチのところに来てだ、そのうえで彼に言って来た。
「前に結婚の話をしただろ」
「ああ、半年位前だったな」
ジュチも祖父に顔を向けて言葉を返した。ジュチは立つと背の高さがわかる。黒髪も眉も太くてだった。身体つきも逞しい。ジェベは彼よりも幾分背は低く痩せているが髪や顔立ちは白いものが多くても姿勢はしっかりとしている。
「言ってたな」
「相手見付かったぞ」
「それでどんな娘なんだ?」
かなり単刀直入にだ、ジュチは祖父に尋ねた。
「一体」
「今度連れて来る」
これがジュチの返答だった。
「すぐにな」
「また半年後じゃないな」
「そんな筈があるか、見付けて話をつけるのに半年だ」
「そして連れて来るまでに半年はか」
「そんなにかかるか、馬ですぐだ」
草原をそれで移動してというのだ。
「少し待っていろ」
「ああ、それじゃあな」
ジュチは祖父のその言葉に頷いてだ、そしてだった。
実際に数日待つとだ、ジェベは馬に乗ってこの時も羊の世話をしていたジュチのところに来た。そしてその彼の後ろに。
赤いモンゴルの服を着て馬に乗った女性がいた、小柄で黒髪を長く伸ばしていて後ろで辮髪の様なおさげにしていてだ。
眉は細く奇麗なカーブを描いていて黒く大きな瞳を持っている。
唇は小さく奇麗な赤でだ。少し細面で鼻は丸くてだ。肌は雪の様に白い。
その彼女を見てだ、ジュチはすぐに見惚れた。その彼のところにだ。
ジェベは馬で来て下馬した、女も自分の馬から降りた。
そしてだ、ジェベがその女を指し示してジュチに言った。
「この娘がな」
「俺のか」
「ああ、俺の昔からの友達の孫だ」
その彼女がというのだ。
「ホグニという」
「はじめまして」
その紹介された女もジェベに挨拶をした。
「ホグニといいます」
「宜しく、ジュチだ」
「ジュチさんですか」
「話はもう決まっていて」
「はい、それでですね」
「じゃあ俺達はな」
「結婚しますね」
二人共幾分気恥かしそうにだ、やり取りをした。
「お祖父ちゃん達が決めて」
「そうだな」
「私いきなり言われて」
「俺もな」
「結婚はこうしたものだろ」
ジュチが戸惑いを見せている二人に話した。
「他のところは知らないがな」
「モンゴルではか」
「そうだというんですね」
「家と家の結婚でな」
それで、というのだ
「こうして家の年寄り同士で決めるものだろ」
「最近違う場合もあるみたいだな」
「ああ、恋愛結婚か」
「街じゃそれが多いらしいな」
「そうらしいな、しかしな」
「草原だとか」
「昔からこうだ」
それこそだ、匈奴の頃からというのだ。
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