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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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20部分:第二十章


第二十章

「さあ、だからね」
「もっとですか」
「次のお料理も来るわ」
 それもだというのだ。
「それもね」
「お豆腐だけではないのですか」
「美酒の友は美食よ」
 こう言ってみせるのである。
「だから。お豆腐だけではないわ」
「では次は」
「お野菜よ。そろそろね」
 ここで二人はその豆腐料理を食べ終えた。すると丁度いいタイミングでその次の膳が運ばれてきた。それは野菜を中心としたものだった。
 おひたしやそういったものだ。沙耶香はそれも食べるのだった。
「お野菜もですか」
「ええ。こうしたものも好きだから」
「お野菜も食べられるのですか」
「そうだけれど。意外だったかしら」
「いえ、それは」
「よく言われるわ。お肉ばかり食べそうと」
 実際に肉もよく食べる。しかしなのだ。
「実際は違うわ。何でも食べるわ」
「何でもですか」
「パスタも好きだしサラダもスープもシチューもね」
「そうしたものもですか」
「中華料理でもよく食べるわ。出されたものは基本的に全て食べるし」
 これが沙耶香の食べ物に対するやり方だった。それを言ってみせるのだ。
「それはね」
「それでは今も」
「そうよ。お野菜にはお野菜の味がありそれを楽しめるから」
「そうですね。このお野菜もかなり美味しいですね」
「最高の素材を最高の腕で料理する」
 この言葉を出してみせた。
「そうして調理されたものだからね」
「だからこの味なのですね」
「その通りよ。さて次は」
 野菜料理も食べていく。そうしてであった。
 次は海の幸だった。運ばれてきたのだ。
 刺身に天麩羅、それに唐揚げに酢の物だった。幸も貝に海老に蛸に烏賊、魚はキスにハマチ、それに鯛だった。そうしたものが出されてきたのだ。これまで出された膳の中で最も豪華なものであった。
 沙耶香はその素材を見てもだ。また言うのである。
「これも同じよ」
「最高の素材をですか」
「そして最高の腕でね」
 調理したものだというのだ。
「天麩羅にしても唐揚げにしてもね」
「オコゼもありますね」
「そうよ」
 見ればオコゼもあった。外見は醜いが味は絶品である。そうした不思議な魚である。
「オニオコゼよ」
「これがですか」
「食べたことはあるかしら」
 まずは刺身を食べていた。山葵醤油にその切り身を入れてだ。そうして食べながらの言葉だ。
「オニオコゼは」
「いえ、はじめてです」
「なら余計に食べるといいわ」
 こう言って勧めるのだった。
「余計にね」
「はい、それでは」
「美味は味わってこその美味よ」
 沙耶香の言葉である。
「だからね。オコゼもまた」
「食べろというのですね」
「そうよ、遠慮はいらないわ」
「わかりました」
「今日は何でも食べていいから。そして」
「そして?」
 また沙耶香の言葉を問うたのだった。
「何でしょうか」
「勿論お酒もね」
 沙耶香はそれもだというのだ。
 
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