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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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第百十七幕「夏休みの課題」

 
前書き
更新のお時間ですよー。 

 
 
 太平洋戦線、対福音・ゴースト戦線。
 見事福音とゴーストの両方を無力化した一夏、シャル、ラウラ、箒、セシリア……帰還。

 国内戦線、対使徒及びベルくん救い隊。
 ベルの救出と使徒の撃破に成功した鈴、ジョウ、言葉、自衛隊の面々、佐藤さん……帰還。

 海岸戦線、脱走兵愚連隊。
 なんやかんやで謎の襲撃者の撃退に成功したユウ、簪、そしてつらら……帰還と同時に説教。

 結局は怪我人を出しつつも誰一人欠けることなく、事件は犠牲ゼロで終了した。
 しかし、奇しくもその全てが当事者たちにとっては消化不良でしかない。
 合流して開かされる謎もあれば、謎のままであることも多かった。


 時刻は既に夜を回り、外の草むらでは蛙や虫がかしましく騒いでいる。
 旅館の臨時医務室。そこには一夏とユウ、そして体調不良で気だるげな鈴が布団に横になっている。

「ユウ、お前また無茶したのか?」
「失礼な!今回は骨に罅は入ってないよ!そういう一夏だってなんか寝かされてるじゃん!」
「俺はあれだよ。千冬姉に半ば無理矢理寝かされて……別に怪我はしてないけど、一回意識不明になったから念の為だってさ」
「アタシに至っては大分長い事意識無かったうえに目が覚めたら終わってたんだけど?」
「つまり総合すると……俺達いつも通り(ろく)でもない目に遭ってるってことだな」
「身も蓋もないね………」

 ちなみにベルーナ救出後、鈴は意識を覚醒させると同時に猛烈な尿意に襲われてやむを得ず山の中で御花摘みをするという羞恥プレイを強いられた。何故かと言うと………そもそも甲龍が勝手に動き出す前、彼女はトイレに行こうとしていたからだ。なんやかんやでIS展開中は抑えられていた膀胱が正気に戻ると共に………である。
 実際にはISには排泄物を勝手に量子化してパイロットの衛生状態を保つハイテクおむつ機能があるのだが、ハイテクだろうとおむつはおむつなので鈴には大きな抵抗があったらしい。その辺の事情は彼女の名誉の為にベルくん救い隊の中で箝口令が敷かれたため一夏たちはそのことを知らない。

 なお、現在佐藤さんは別室でベル―ナの面倒を見ており、ジョウはとっくの昔にユウに(一方的な)熱い抱擁を交わした後に先生に状況報告へ。箒も先生に聞きたいことがあると早々に医務室を後にした。
 彼らの近くにはそれ以外の専用機持ち達が集まり、情報を交わしている。

「では……つらら。貴方はわたくし達を驚かせるために最上重工からのIS受取日が今日であることを黙っていて、しかも騒ぎに気付いて『出番があるかも』と宿をコッソリ抜け出したと………?」
「はいっ!!おかげでユウさんと不審者の戦いに間に合いました!我ながらナイスです!ファインプレーです!」

 自画自賛しまくるつららだが、残念ながらそう思ってるのは本人だけである。

「この情勢下で教官の指示なしで勝手に行動するなど……軽率としか言えんぞ?」
「うっ」
「……そもそも襲撃の隙を与えた原因が、つららの捜索」
「ううっ!」
「………上手くいったから良いものを……もし怪我でもしたらどうするつもりだったのです?現場に余計な混乱が起こるどころか下手をすれば貴方の命も危うかったかもしれませんのよ!?」
「ううう~~~………ごべんなざ~い……」

 ラウラ、簪、セシリアのジェットストリーム追求にあれよあれよというまに気勢が削がれたつららは無残にもノックアウトされた。
 まぁ当然と言えば当然の反応である。この非常時に集団行動を乱して行方不明になり、次に現れた時には襲撃者の真上に試運転も済ませてないISで登場。しかもその間に何どをうやってか更識製ステルス装備をチョロまかすという軽い機密漏えいまでしているのだ。これで怒られないと考える方がどうかしている。
 次第につららの視線は愛しのセシリアお姉さまから外れて、寝転がっているユウの方へ流れていく。

「ユウさぁん……つらら、役立ちましたよねぇ……?」
「んー……まぁ、終わり良ければ全て良しってことで、みんなつららちゃんの事は許してあげてくれない?」
「ああっ救世主(ユウ)さまっ!」

 この空間で恐らく唯一の味方につららの笑顔がパッと花咲き、周囲が「うおっまぶしっ」と目を背けている。しかし多分つららの眼にはユウの背後に菩薩の如き後光が差している筈である。最もその後光は次の瞬間、簪とシャルの追求で消滅するのだが。

「何言ってるの……ユウは勝手な行動した人、二号……同じ穴のムジナ」
「そうだよユウ。ジョウは許したみたいだけど君も簪の粛清対象に変わりはないよ?」
「粛清!?ちょっ……シャルさん!?救いはないんですか!?」
「ニンジャ殺すべし、慈悲はない」
「忍者はどっちかというと襲ってきた方ですけどーッ!?」

 手を握り合ってがたがた震えるユウとつらら。しかしこれがマズかった。何がマズいって、ユウと女の子が急接近しているという構図が簪の心の琴線に触れてしまったのだ。ちょっと行き過ぎてるくらいユウに友情(某同級生の所為でかなり曲解されたものだが)を注ぐ簪にとってユウが自分以外とイチャつく状況はかなり面白くない。

「離れて」
「え?」
「ふたりとも離れて……!!」
「ヒッ!?か、簪さん!?」
「怖いです!怖すぎて逃げ出したいです!!」

 有無を言わさぬ阿修羅のような気配に二人の恐怖は加速して更に怖さを紛らわすように抱き合い、それがまた簪の嫉妬心に火を注ぐ。
 自分を差し置いて手を繋ぎ、あまつさえ抱き合う?………結論、有罪。

「カンザシ一等粛清官、これよりユウとつららをイレギュラーと認定して排除する」

 心の中で「死刑!死刑!死刑!」と謎のコールが沸き起こる簪の腕にISが部分展開された。

「ユウは親友……私だけの、親友……裏切りは許さない……ふ、フフフ………!!」
「独占欲強すぎませんかねぇッ!?あ、ちょ……ぎゃあああああああああああ!?」
「うきゃあああああああああああああああああ!?」

 やはり僕の友達がヤンデレっぽいのは間違っている。アイライトが消えた瞳は二人をあっという間に部屋の隅に追い詰め、見せられないよな血で血を洗う粛清が開始された。……まぁ、誇張表現だが。そんな三人のどこか間違ったじゃれ合いを見物する鈴は、ドン引きした顔でぽつりと呟く。

「親友って、そんなんだっけ?アタシの知ってるのとなんか違うんだけど」
「うーん、なーんか簪に余計な事を吹き込んで親友と恋人の意味をすり替えようとしてる子がいるみたいなんだよねー……」
「あら、無知を利用して人心を誑かすとはあまり良い趣味とは言えませんわね」
「でもさぁ………なんだかんだで簪がユウの事好きってのは大体あってるんじゃね?ホラ、あれ」

 布団の中から一夏が指さした先。そこには即効で締め落とされて力なく倒れるつららと、簪に柔術で体を完全に固定されたうえで耳を甘噛みされて悶えるユウの姿が。

「ユウの弱点を知ってるのは、私だけなんだから……!……かぷかぷかみかみ」
「ンぁ……ふひゃあ!?や、やめ……耳は弱いんだって!耳は……あっ、ああっ!」

 くすぐったさか顔を赤らめて悶えるユウに張り付いて耳を甘噛みする簪の表情は、どこかうっとりしたような優越感に満ちている。イメージ的に兎が毒蛇に絡め取られるようであり、ライク的な好きの一言で片づけるにはちょっとねっとりしすぎである。

「嫌いだったらあんな風にじゃれ合わないだろ?」
「まぁそれは確かに……あれはあれで愛の形と言えなくもないけど、ちょっと危ない方に発展する奴じゃない?」
「簪の奴め、恥ずかしがりな性格の癖に何故こんな時だけ自重しないのだ?」
「自覚がない時は何でもやっちゃう。それが鈍簪(ドンカンざし)なんだよ」

 その後、ユウが禁断の切り札「助けて兄さん!」を叫んでジョウが「俺の知らない弱点だとぉッ!?」と叫びながら部屋に飛び込んでくるまでこのねっとりとしたじゃれ合いは続いたとか。



 = =



 どうも皆さん、英雄王(カラーリング的な意味)の佐藤です。
 現在私はベル君を宿の専用部屋に寝かせて子守唄を聞かせるという重大な任務を受けています。

「べーるくん♪べーるくん♪あーしたわたしがおこすまでー♪ゆーめでたくさんあそんでねー♪」

 作詞作曲は佐藤稔である。故に極めてテキトーだ。
 ……え?私の脳内イメージが某ダンジョンの紐神様になった?ごめん、意味わかんない。
 ベル君は結局自分の身に何が起きたのか分からないまま、疲れて眠ってしまった。頭を撫でてみると小さなたんこぶが出来ていた。可哀想に……くっ、誰がこんなひどい事を……!!

 小さな小さな寝息を立てて眠りについたベルくんのほっぺをいつものようにぷにぷにしつつ、今日はいろんなことがあったなぁ、と考えこんでしまう。

 まさかのエヴァ&マクロスからの使者。
 覚醒鈴ちゃんと暴走ベルくん。
 海ではワンサマーが中二病の力に覚醒し、ユウ君は原作にない敵と原作にいない味方と共に大乱闘。
 山田先生は何か知ってる風だし、同じく知ってそうなレーイチ君はその辺の疑問にはノーコメントだ。
 え?天災(バカ)?シラネ。我ながら大人気ないとも思うけど、アレはどうせ聞いても素直には答えないだろうから無視することにした。かまってちゃんに最も有効な策はスルーである。

 『世界の束ちゃんをまた無視しやがった!』という幻聴が聞こえた気がしないでもないが、どーでもいい。ともかくここで重要なのは――いよいよを持って原作知識が充てにならなくなってきたことだ。

「この世界に生まれて早15年……これからもきっと平穏な日々が続くと思ってたのになー……」

 残念なことに私の淡い期待はツァーリ・ボンバーで地球の果てまで吹き飛ばされてしまったらしいことを悟る。いや、むしろそれ以上にややこしい事になってないだろうか。

「ベル君のアレは何だったのか………今の所一番気になるよねぇ………」

 暴走べル君の背中から噴出したあの巨人の手は、ISを調べた所『亡霊の巨腕(リマニデルファンタズマ)』という第三世代兵装らしい。本国に問い合わせると、内部に封入された形状変化式液体金属をイタリア独自の特殊技術で操り、常識はずれのパワーで敵を粉砕する装備だそうだ。他に盾として周囲に展開したり、操縦者の発想によって様々な運用方法が期待されるとか。

 ただ向こうも戸惑っていたのが、『IS適性がCに過ぎないベル―ナにこれが扱える訳がない』という点だった。この第三世代兵装はまだコントロールシステムの開発が不完全で、BT同様極めて高い親和性を持った操縦者にしか扱えない筈だったらしい。

 寝る前に調べたかに検査の結果では、ベルーナのIS適性はCからBになっていた。
 それでも『亡霊の巨腕(リマニデルファンタズマ)』を発動させるには足りない適正だが、問題はそこではない。
 通常、適正というのは数年間の努力で漸く1ランク動くか動かないかというレベルの代物であるにも拘らずだ。

 ベル君の中で、何かが起きている。
 しかし、苛立たしい事に私にはその正体が分からない。
 それどころか、ベル君はその力で使徒さえも殺したのだ。原作エヴァではでは同じATフィールドを持ったEVAシリーズでしか事実上撃破不可能と言われたあの怪物を。これは言うまでもなく唯事である筈がない。

 安らかな寝顔を見せるベルの現在、過去、未来に立ち塞がる謎の数々。
 これから迎える夏休みにはそれを一つでも理解しないと――このままだとベル君が私の手の届かない所へ向かっていく気がする。そんな背筋をなぞるような悪寒がする。

「しょうがないな………こうなったら――夏休みはイタリア旅行決定だ!」

 謎を解くには、謎を知る人物に出会うしかない。
 ベルの身体に現状一番詳しそうな存在と言えば、彼の家族。

「お父さんとお母さんにも伝えないとねー………ダメって言っても行っちゃうんだけど」
「へぇ、新婚旅行かい?おアツいねぇ若いのは……」
「ヤダもう!新婚旅行だなんてまだ結婚もしてないのに気が早………………ん?」

 え?誰今の?ベル君が急にダンディーに成長して喋って……はないか。レーイチ君の声でもない。
 まさか、後ろに・・・いる!のか?
 そう思ってそろーりと振り返ると――そこには、見覚えのある一人の男がいた。

 くたびれた白衣に、どこか寝不足そうな気だるげな顔。
 壁際のいぶし銀と言わんばかりに壁に背中からもたれかかるポーズが妙に様になっている。
 私がこの世界で知った一番最初のイレギュラーにして、この世界で恐らく2番目にISに詳しいナンデモ博士。諸悪の根源にして、悪のマァッドサイエェンティィィスト!!

「金ぴかの悪趣味IS押しつけてきたチカさんじゃないですか。不法侵入で訴えて良いですか?」
「えっ、出会うなりイキナリ辛辣!?せっかく君の疑問にちょっとは答えようかと遠路はるばる馬鹿(たばね)の警戒網を潜ってこの部屋に来たのに!!」
『チカ様ぁ、多分自業自得だと思いますよー?』

 何やらレーイチ君にちょっと似た人工音声にツッコまれてトホホ……と腰砕けになる博士に、私は驚くと同時に気付く。

 そうだ、考えてみれば――この人に一番最初に聞くべきだったんだよね。
  
 

 
後書き
次回、とうとうこの作品の秘密の一端が開かされる!! 
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