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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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12部分:第十二章


第十二章

「だからよ。会えなくてどれだけ寂しかったか」
「私は貴女にとってそれだけ寂しいというのね」
「ええ。貴女が他のどんな方を寝てもいいわ」
「それでも貴女となのね」
「気が向いたその時でいいから。その時に会ってくれたらそれで」
「それでいいの」
「今の様に」
 やがてメニューが運ばれて来た。まずはパスタである。パスタはフェットチーネであった。オマール海老とトマトクリームソースのものであった。うず高く巻かれその上も奇麗に飾られている。それを食べるのだった。
 それからサラダ、そしてオードブルの盛り合わせだ。沙耶香はそのオードブルの中のテリーヌを食べながらだ。社長夫人に対してまた問うた。
「会えたらいいのね」
「ええ。会えないのが一番辛いわ」
「こうした趣味は最初は知らなかった筈なのに」
「教えてくれたのは貴女よ」
 また沙耶香に言ってきたのだった。
「そう、貴女よ」
「私がだというのね」
「貴女があの時私を誘い。そうして」
「いい思い出ね。覚えているわ」
 今はメインディッシュだった。フォアグラソースを乗せた和牛のハンバーグを食べている。その他にもピッツァも頼んでいる。相変わらず健啖家の沙耶香だった。そして彼女はワインも二本目であった。
「甘美だったわね」
「その甘美さを覚えているから。だから」
「ここに来たのよ」
「では今からまた」
「ホテルはもう予約してあるわ」
 社長夫人は今は手を止めていた。そうしてそのうえで沙耶香に対して言ってきたのである。そのうえで話をしているのである。
「だから」
「そう、用意がいいわね」
「駄目かしら」
「いえ、いいわ」
 ハンバーグを食べながらの返答だ。肉の旨みが口の中に満ちるのを楽しんでいる。そのフォアグラソースの味も実にいいものであった。他にはカルパッチョも食べていた。
 沙耶香はそうしたものも食べながらワインも楽しんでいた。そうしてそのうえで夫人に対して妖艶な感じでこう言ってきていたのであった。
「ではこの後は」
「お部屋で」
「ええ、楽しみましょう」
 後の話をするのである。
「久し振りにね」
「そうですね。ただ貴女は」
「私は?どうしたのかしら」
「いつもそうして飲まれていますが」 
 ワインを飲み続ける沙耶香に対しての言葉であった。
「それで宜しいのですね」
「何か不都合があるのかしら」
 今度の沙耶香の言葉は平然としたものである。自分自身に対して何もおかしなところは見出してはいない、そうした言葉であった。
「今の私に」
「いつもそれで大丈夫ですから」
「私はお酒は楽しむわ」
 その沙耶香の言葉である。
「ただ」
「ただ?」
「酔うことはないのよ」
 目を細めさせてだ。そのうえでの言葉であった。
「お酒ではね」
「酔うことはないと」
「そうよ、ないのよ」
 また言ってみせたのだった。
「楽しむことはあっても酔うことはないのよ」
「お酒ではですか」
「お酒は私にとっては血と同じ」
「血と」
「そう、ワインでも何でもね。血と同じものなのよ」
「だからこそ幾ら飲んでもなのですね」
「そうよ」
 そしてだった。またワインを一口飲んだ。グラスの中のそのワインはもうなくなっている。ボトルのワインもだ。それを飲み干したその時にデザートが来た。今度はティラミスだった。
「それで甘いものもまた」
「そうよ。楽しむわ」
 実際にその手にスプーンをすぐに取ってだった。ティラミスも食べる。その黒と白のコントラストを為している上品な菓子を食べる。口の中の甘みを楽しみながらそうして言った言葉は。
「私にとっては甘いものも辛いものね」
「どちらも」
「そうよ。そして男性も女性もね」
 どちらもだというのだ。退廃そのものの言葉で話していくのであった。
 
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