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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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34部分:第三十四章


第三十四章

「私の娘がいます」
「そうね。いるわね」
 沙耶香も彼の言葉に頷いてみせた。
「貴方の娘さんが」
「ですが」
 しかしであった。彼は俯いて言うのであった。
「それは」
「貴方とは血がつながっていないというのね」
「はい」
 こう言うのであった。
「妻の連れ子です」
「そうだというのね」
「そうです。それは事実です」
 このことを認めるのだった。そうせざるを得ないことでもあった。
 そうしてだ。船長はさらに言うのであった。
「しかし私はです」
「娘さんをどう思ってるのかしら」
「愛しています」
 確かな声での言葉だった。
「娘としても」
「そうね。愛しているのね」
「その通りです。ですが娘は」
「娘さんがどう思っているかがわからない」
「若しかして私を嫌っているのでは」 
 こう考えているのだった。
「やはり。私が血のつながっていない相手だから」
「そう思うのね」
「それはどうなのでしょうか」
 このことをまた言うのであった。
「娘は。果たして」
「知りたいのはそのことね」 
 沙耶香は彼のその言葉を確かめた。
「そのことなのね」
「はい」
 そうだと答えた。
「その通りです」
「わかったわ。それじゃあね」
「それでは?」
「顔をあげればいいわ」
 こう彼に告げるのだった。
「顔をね」
「顔をですか」
「そうよ。あげればいいのよ」
 そうしろというのだった。具体的にはそうだった。
「顔をね。そして見てみればいいわ」
「それで全てがわかるのですね」
「そうよ」
 その通りだという。告げる言葉はそれだけだった。
 そうしてだ。さらに言ってみせたのであった。
「それじゃあ。いいわね」
「はい、それでは」
 こうしてであった。船長はその顔をあげた。すると前にいる美しい少女がだ。にこりと笑って彼に歩み寄ってきた。そのうえで何時の間にかその手に持っている花束を差し出してきて彼に手渡したのだ。そのうえでの言葉であった。
「いつも有り難う、お父さん」
「お父さん・・・・・・」
「これが娘さんの返答よ」
 また言う沙耶香であった。
「これがね」
「そうだったのですか」
「愛すれば愛されるようになるわ」
 沙耶香はその二人に対しての言葉になっていた。
「そういうことよ」
「愛すればですか」
「貴方は娘さんに純粋な愛情を持っているわ」
 まさにそうだというのである。
「父親としてね」
「私がですか」
「だから。娘さんもね」
「私を愛してくれているのですね」
「その通りよ。それが純粋な愛ならば」
 沙耶香はまたこの言葉を出して話してみせた。
 
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