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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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21部分:第二十一章


第二十一章

「スポーツをする趣味はないから」
「先程のお言葉通りですね」
「その通りよ。だからね」
「わかりました、それでは」
「プールがあるのがわかったのはいいわ」
 それでいいという。そして話を戻してきた。その戻された話は。
「それでなのだけれど」
「はい、今度は一体」
「お酒はあるかしら」
「お酒ですか」
「ええ、何があるかしら」
 朝から美酒をというのである。沙耶香は悠然とした笑みを浮かべそこに濃厚な退廃さえ見せてそのうえで話してみせたのである。
「朝は」
「シャンパンがありますが」
 ボーイはそれを話に出してきたのだった。
「それにされては」
「そう。それじゃあね」
「飲まれますか」
「ボトルで持って来てくれるかしら」
 それをボトルでというのだった。この辺りが実に沙耶香らしかった。
「一本ね」
「それでしたら別料金になりますが」
「いいわ、それでも」
 その悠然とした笑みはそのままだった。
「それでね」
「左様ですか。それでは」
「ワインもいいけれど」
 沙耶香は目元に笑みを浮かべさせながら述べた。
「シャンパンもまたいいものだから」
「そちらもお好きなのですね」
「お酒は。何でも好きよ」
 目を細めさせてさえしてみせた。
「何でもね」
「そうですか。お好きですか」
「ええ、好きよ」
 また述べる沙耶香だった。
「だからね」
「シャンパンもまた」
「そうよ。持って来て」
「わかりました」
 こうしてであった。沙耶香のところにシャンパンが一本持って来られた。そしてその他にサラダやフルーツ、それにハムやソーセージにチーズ、テリーヌ等といったオードブルの朝食を摂った。その量も質も豪勢な朝食を終えてから席を立ちレストランを出た。出る時にあのボーイにまた問うのだった。
「それでだけれど」
「プールの場所ですね」
「それは何処かしら」
 このことを問うのだった。
「それでそこは」
「船のマップをお渡ししましょうか」
「船のなのね」
「はい、それを」
 渡そうかと提案してきたのである。
「それで宜しいでしょうか」
「ええ、御願いするわ」
 沙耶香はすぐにその問いに頷いた。
「それではね。それで御願いね」
「では」
 こうして沙耶香はその船のマップを受け取った。それを見ながらプールに辿り着いた。今は朝だがそれでももうそこは開いていた。
 見ればかなり大きなプールだ。五十メートルである。屋内にあり水色の床が実に美しい。それぞれのコーナーに区切られており観覧席とは窓で隔てられている。
 そこにいるのは一人だった。競泳水着の女が一人泳いでいる。沙耶香はそれを見て笑うのだった。
 そしてだ。カウンターにいる若者に声をかけるのだった。
「ねえ」
「はい?」
「私も中に入っていいかしら」
「泳がれるのですか?」
「そういうところよ」
 ここでは微笑んで述べるのだった。ただし真実は言ってはいない。
 
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