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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第四十五話 命名

「う〜ん、何にしようかなぁ」

 私はため息をつきながら机に頬杖をついた。

 アベル・ビアンカから任された双子の命名なんだけど……それがなかなかいい名前を思いつけない。2人からは「急がなくていいよ」って言われているけれどやっぱり早めに決めるに越した事はないから、王立図書館から借りたグランバニアの人名辞典を読んで何にしようか考えているんだけど、名前は大切なものだから考えるのに時間がかかる。

「どうしましたかな?ミレイ殿」

「ああ、マーリン。それが2人の子供の命名なんだけど、中々思いつかなくって。どうすればいいかな」

 マーリンはしばらく髭をしごきながら考えていたけど、手を髭から離して私にこう言った。

「名前を名付けるのに何より必要なのは、子供にどういう様に生きて欲しいと思う心でございますじゃ。例えばミレイ殿のご両親も何らかの想いがあってその名をミレイ殿に名付けたのじゃろう?
 であればアベル殿とビアンカ殿が子供達にどのような想いを抱いているか聞いてから、その想いに相応しい名前をつけてあげればよろしいのでは?」

「……そうだね。やっぱりマーリンは賢いね。15年生きただけの私なんかとは大違いだよ」

「それは違いますぞ、ミレイ殿」

 マーリンは諭すようなーーって現に諭しているんだけどーー口調で言った。

「確かに儂はこの歳まで生きておりますから色々な知識はありますのじゃ。
 しかし、今儂がミレイ殿に言った言葉は儂の知識ではなく儂の心によるものでございますのじゃ。理論や理屈を抜きにして、名前とはこういうものだと儂が考えている事をミレイ殿に聞かせただけですじゃ。
 そもそもミレイ殿が名付け親に選ばれた理由は知識云々よりも信頼からくるものではなかったのですか?
 ならばミレイ殿が自分を卑下する必要など全くないのでございますぞ」

 ーーもちろん賢いと言われることは嬉しい事ですが、とマーリンは笑いながら最後に付け加えた。

「わかった。ありがとうマーリン。私、2人に聞いてくるね」

「うむ。いい名前を期待しておりますぞ」

 私はアベルのいる執務室へと向かった。確かこの時間帯だったら今は休憩時間の筈だからアベルと話す機会はある。

「失礼します」

 ノックして執務室の扉を開けると、書類の処理をしているアベルが笑いながらこっちを見た。

「今は僕一人だからそんなに畏まらなくてもいいよ、ミレイ。それでどうしたのかな?」

「子供達の名前の件だけど、アベルは2人にどういう風に育って欲しいかなって想って。やっぱり子供の名前をつけるのには親の想いを知る事が大切だから」

「そうだね……。やっぱり僕は子供達には元気に育って欲しいと思うよ。それに優しくて、勇敢な子に」

「わかった、ありがとうアベル。いい名前を付けるから楽しみにしててね!後国王の仕事頑張ってね!」

「うん、がんばるよ。国の……皆の為にも」

 そう言って笑顔を交わして、執務室から私は出た。

 さて、次はビアンカだけど……今は療養中だしなぁ……。どうしようかな。

 そう私が考えていると後ろから声が掛けられた。

「あら、ミレイじゃない。どうしたの?」

 後ろを振り返ると、そこにはビアンカがいた。

「なんで?ビアンカって今療養中じゃないの?」

「確かにそうだけど、体調がだいぶ良くなったから少しは自由行動をしてもいいって許可がおりたの。これからお風呂に行くけどミレイも一緒に入る?」

「うん。入る」

 ビアンカとのお風呂ってかなり久々だなぁと思いつつ、お風呂の支度をすませると、ビアンカと一緒に城の3階にある大浴場に向かう。

「今までは濡らしたタオルで体を拭くだけだったから、お風呂に入るのとても楽しみなの」

「確かにお風呂っていいよね。サッパリするし、心も体も気持ち良くなるし」

 2人でそう話しながら入浴用のローブを着て、お風呂に入った。

 この時間だから人は私達以外にはいないからか、ただでさえ広い浴場が更に広く見える。大きな窓からグランバニア領の一帯が広がって見えていた。

「いい景色ね。ミレイ」

「うん。こんないい景色を見れてこんないいお風呂に入れていいね」

 長い間ビアンカと話す機会がなかったからこういう他愛ない話でも楽しかった。……って楽しいのは結構だけどビアンカに聞かなきゃいけなかったじゃん、危ない危ない忘れるところだった。

「そういえば、ビアンカに一つ聞きたいんだけど」

「?何かしら」

「ビアンカは、子供達にどう育って欲しい?」

 私がそう聞いたらビアンカは思案顔になった。

「私が子供達に望むのは、どんな時でも優しさや元気さを失わないこと。何事にも諦めずに立ち向かえる人。自分のするべきことをしっかりやれるような人。そんな人になって欲しいわ」

 優しい声でビアンカはそう言った。その言葉には我が子の将来への希望があった。

 それを聞いた時、私はふとこう言っていた。

「ビアンカはいいお母さんになれるよ」

「あら、嬉しいわね。これはね、元々は私のお母さんが口を酸っぱくしていつも私に言っていたことなの。最初はそんなのわかっている、口うるさいなとか思っていたけど、いざ自分がお母さんになってみると不思議なものね。昔はわからなかった親の言葉の意味がよくわかるようになったもの」

「……私もいつかはその意味がわかるかな」

 私は独り言のつもりでそう言ったんだけど、私の言葉を聞いたビアンカは笑顔で言った。

「大丈夫よ、ミレイ。あなたもいつかわかる時が来るわ」




 ビアンカと別れた後、私は改めて辞典を見て考えた。2人の想いに応えられるような名前はどういうものなのか。

 しばらく考えた後に私は2つの名前を思いついたから私は子供達に名前を付けるために執務室に行く。

「ねぇ、アベル。子供達の名前だけどこれでいいかな」

 私が名前を書いた紙を見せるとアベルは微笑みながら言った。

「『レックス』と『タバサ』か。いい名前だと思うよ」

 私が思いついた名前は勇気を意味する『レックス』と慈愛を意味する『タバサ』だった。

「本当!? 良かった〜いい名前って言われて。ありがとう、アベル」

「いや、礼を言うのはこっちだよ。ありがとう、ミレイ」

「どういたしまして。じゃあビアンカにも報告しに行くから」

 自分のつけた名前がアベルに褒められたことを喜びつつ、私はビアンカのところに走って行った。

 


 

  
 

 
後書き
次回グランバニア襲撃編(予定) 
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