黒魔術師松本沙耶香 天使篇
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26部分:第二十六章
第二十六章
彼の後ろから異形の者が出て来た。それは蝙蝠の翼を持ち鬼の顔をして三叉の槍を持った禍々しい赤い姿をした者達であった。
「見たことがあるわ」
「この者達もか」
「神曲だったかしら」
ダンテの作品である。古典的名作として今も尚知られている。
「それに出て来た地獄の鬼達ね」
「私はこの世に地獄を出すことができる」
アルスターは自信に満ちた笑みを出しながら述べてきた。
「だからだ。こうしてこの者達も使うことができるのだ」
「それは見事ね。それでも」
「この者達も倒せるというのか」
「来るとわかるわ」
そうだというのである。
「それだけでね」
「では。行くがいい」
その赤い鬼達に対して告げる。すると彼等は一斉に沙耶香に対して向かってきた。翼を羽ばたかせてとび急降下を仕掛けて来たのであった。
そして前からもだ。複数の方角から来たのである。
「さて、これはどうするのだ」
「どうして倒すかというのね」
「またその翼で倒すというのだな」
「そうよ。見るといいわ」
沙耶香が言うとだった。その背にある翼が増えた。一対二枚から三対六枚に。それだけのものを自らの背に出してきたのである。
そしてそれを羽ばたかせだった。その赤い鬼達も焼いた。翼が触れるとそれで黒い炎に包まれその中に消えていったのである。
それで終わりであった。彼等もまた、である。
「これで終わりね」
「何とでもないようだな」
「この程度ではどうということはないわ」
そのことをはっきりと言ってみせた。
「全くね」
「そうか。この程度だというのだな」
「そうよ。私の相手を今ここですることができるのは」
「私か」
アルスターはここで言った。
「私だというのだな」
「そう思うのならわかるわね」
「そうだ。それはわかる」
あらためて言う彼であった。
「実によくな」
「では来るといいわ」
六枚の巨大な漆黒の翼を羽ばたかせながらの言葉である。
「そうでなくては。面白くとも何ともないわ」
「私もだ」
「来るのね」
「そうだ。行かせてもらう」
言いながらだ。アルスターは己の周りに無数の青白い炎を出してきた。鬼火を出しそれで己の周りを包み込んでみせてきたのである。
「これはだ」
「召喚したものではないわね」
「私の術だ」
それだというのである。その青白い鬼火達は生き物の様に動いていた。燃えるその様子がその様に見えているのである。
「これは紛れもなくな」
「私の炎は地獄の奥底の炎」
その翼となっている漆黒の炎のことである。
「それに対して貴方の炎は何かしら」
「私の炎は私のものだ」
それだというのである。
「それ以外の何者でもない」
「そうなのね。じゃあいよいよね」
「私の炎はこれだけではない」
言うとさらにであった。鬼火の数が増える。それは忍、そして彼女の上にいて守護をしている沙耶香の周りも包んできたのである。
鬼火の数はさらに増えていく。一秒ごとにだ。アルスターはその中でまた沙耶香に対して問うてきたのである。自信に満ちたその声で。
「さて、これだけの数の炎にはどうするつもりだ」
「私の翼でもどうにもできないというのね」
「私の炎は一つ一つがまず違う」
それ自体がだというのだ。
「そしてこれだけの数は。どうだ」
「確かに凄いわね」
沙耶香もそれは認めた。
「それはね」
「そうだな。では私のこの炎、どうするつもりだ」
「これを見ればわかるわ」
翼は羽ばたかない。しかしそれでも羽根が出て来た。そうしてそれが触れると彼女の周りに漂うその鬼火達が一つ、また一つ消えていくのだった。
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