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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第142話 世界の核心まで



 レコンと言う男は、リーファの中では《お調子者》、《ほっとけない弟の様なもの》だった。

 何時も頼りなく、そのくせに勘違いもしやすく調子に乗りやすい。そんなレコンが真剣な表情で、瞳で、リーファを見ている。

――ここまで真剣な彼は見た事ない。

 リーファの中で感じたことだった。だが、それも一瞬。直ぐにレコンは真剣な目つきのまま、話を続ける。

「僕、よくわかんないんだけど、よくわかんないまま、こんなトコにまで来ちゃったけど、これって、大事なこと、なんだよね?」

 レコンは、真っ直ぐにリーファの目を見てそう聞いていた。彼女の言う事なら信じられる。この世界の誰よりも、信じられると思っているから。だから、リーファに聴きたかった。
 ……自分の中での覚悟を決める為に。彼等に続く為に。

「――……そうだよ。多分、ゲームじゃないのよ、今だけは」

 リーファはそう言って頷いた。そして、今も尚、天に戦いを挑んでいる2人を見上げた。普通であれば、圧倒的な物量差で瞬く間にその身体は四散する筈だが、懸命に抗っている。レコンは、リーファの言葉を聞いて、そして2人を見て。

「……あの2人には、どうやっても敵いそうにないけど、……ガーディアンは僕が何とかしてみる」

 ここ一番で見せた気合、そして彼の男気だった。……答えは置いといても、好きな子に告白も出来た。例え、恐怖心があろうとも、あの時の勇気のそれに比べたら、こんな事、軽いものだ。

 レコンは、そう言うやいなや、随意飛行もままらないから、コントローラを握り締め、空高く飛び上がった。いきなりの事で、リーファは虚を突かれてしまう。

「ばっ! ばかっ!!!」

 リーファは、アイツの空中戦闘の技術ではまだまだ歯が立たない、と思った。辞めさせようともしたが、もう追いつけないほどの距離ができており、そのレコンと自分との間にも敵が湧出している。

「も、もうっ……!!」

 リーファは、レコンを追いかけようとしてが、その時、更に頭上で戦っている2人の内、キリトのHPバーがわずかに減少しているのが判った。回復役が1人もいなくなるのは現状ではリスクが高すぎると判断し、追うのを一先ず諦め、治癒魔法を放つ。

「せいっ!!」

 レコンは、空中で予め詠唱しておいた、風属性の範囲攻撃魔法を正面からガーディアンに打ち放つ。
緑色の刃。扇状に放たれた刃は、ガーディアンの複数を斬り伏せた。ユイが事前に言っていた一体一体のステータスは高くないと言う事。そして、近接すると言うリスクがあるが当たれば、高威力となる。
レコンの一撃は、ガーディアン数体の身体が2つに分け、爆散させていった。

「く……なっ!?」

 キリトは眼前の敵が、突然下降していっているのに、驚き下を見た。そこでは、治癒術師に専念すると言っていたレコンが奮闘していたのだ。その決死の叫びと魔法で、僅かながら キリトとリュウキの2人に向けられていたタゲを自分自身に向ける事に成功していたのだ。

「無茶を……」

 レコンの事は、リーファから聞いている。レコン自身の戦闘スタイルについてもだ。今回の様なクエストでの戦いには思い切り不向きだと言う事も知っている。だが、その事実もまるで一蹴するかの様に、レコンは声を振り上げ、魔法を打ち放ち、敵を屠り続けた。随意飛行もまだマスターしてなく、己の指先で翅を動かしているというのに、驚くべき集中力で、殺到しているガーディアンの剣、槍をかいくぐり続けていた。

「……下を向くな、キリト!」

 リュウキは、打ち合わせと違う行動を取っている彼を見て、様々な思案が浮かんだのだろう、数秒だが動いてなかったキリトにそう言った。彼は自分たちの為に、行動をしてくれている。……どちらかといえば、リーファの為、と言うのが大きくウエイトを占めているだろう。だが、結果的に自分たちの為にでもあるのだ。その彼の頑張りを無にする訳にはいかないだろう。

「あ、ああ!」

 キリトも、リュウキの言葉で直ぐに体勢を整え直した。あの根性に報いるためにも、自分たちが上へと登らなければならないから。レコンに敵の気が向いたなら、僅かにだが攻撃の手も緩まる。


「やぁぁぁ!!!」


 魔法を2度、3度と 打ち放ち、もう10体程のガーディアンを討ち沈めたレコン。その懸命な戦いに、リーファは思わず胸を衝かれたが、それがいつまでも続くとは到底おもえなかった。何よりもここは空中だから。苦手な戦闘空間であそこまで戦えている事自体が驚嘆なのだから。

 レコンのMPバーもHPバーどんどん減っていく。

「レコン! もういいよ! 外に逃げて!!」

 もう見てられなくなり、リーファはそう叫んだ。一度戦闘に入っても、入口さえ抜ければ脱出は出来る。……無論、一度でも抜けた者は、中の戦闘が終わるまで復帰する事は出来ない。だから、もう1人で彼等をフォローする覚悟を決めたリーファは、限界ギリギリまで奮闘するレコンにそう言っていた。

 だが、レコンは退こうとはしなかった。

 その代わり……、リーファの方をちらりと向いていた。何その顔にはある種の決意に満ちた笑みが浮かんでいる。リーファは、そう感じ これ以上声を上げる事が出来なかった。

『今はゲームじゃない』

 そう言ったのはリーファだ。
 そんな世界の戦いで、決意を、覚悟を決めた者を止める事など、もう彼女には出来なかった。

 レコンは、両手を翳し、詠唱に入った。コントローラを投げ捨てる様に消し去る。

 もう、ここから先には飛ばない。……ここから先に行くことは諦めた。

(……たまには格好良いって一度くらいは思われたいから)

 レコンの中で、何処かにそんな仄かな想いがあったのかもしれない。見る見るうちに、レコンの身体が深い紫色のエフェクト光が包み込んだ。

「っ……!?」

 それが、風の系譜の魔法を得意とするシルフの魔法ではなく、闇属性の魔法の輝きであることに気づくのは一瞬だった。詠唱の長さ、そしてその魔方陣の大きさ、それらから、その魔法がかなりの高位の魔法だと言う事はわかるが、あまり目にする機会の無い闇魔法だ。一体どんな効果があるのか検討もつかなかった。

(感謝するよ……リタっ!)

 詠唱を続けながら、頭の中の彼女に礼を言うレコン。この魔法は、洒落で教えてもらえたもの。……何度もリーファに助けられたから、何か強力な魔法を教えてもらおうと思って彼女に師事した。

『あんたに出来る根性があれば……って言いたいけど、コレを遣う様な場面は滅多に無いって思うわ。……ゲームって言っても費やす時間は、無限じゃないんだし。禁呪とはよく言ったものよ。……代償がえげつなさすぎる』

 リタもそう言って笑っていた。彼女もこの魔法は使った事はないし、これからも遣う事の無い魔法だから。当のレコンも、これを教えてもらおうとなんて思ってもなかったし、使うつもりも全然なかった。

 ……リタが言うこの魔法が禁呪と呼ばれる所以。それは……。

〝ごおおおおおおおおおおっ!!!!!!〟

 凄まじいエフェクト音を放ちながら、魔方陣がいくつかの軸を作り回転を繰り返す。その回転の速度が加速し、みるみる内に巨大化。強大な魔法に注目を集めた敵たちも群がってきたその瞬間。

〝ずがあああああああああああっ!!!!!〟

 凄まじい威力の大爆発が起こった。
 それは、リュウキの使うあの隕石をはるかに凌駕し、無限にすら思えていたガーディアンの群れ、壁に文字通り風穴を開けたのだ。

「――自爆魔法っ!?」

 レコンが巨大な球体状の塊になり、爆散した所で、リーファはあの魔法の正体を悟った。リーファも、彼女から聞いた事があったから。

「そんな……、あれは、あれは相当な死亡罰則(デスペナ)の筈なのに……、あんた、ホント馬鹿だよっ!!」

 リーファの叫びが、リメインライトと化したレコンの下にまで届いていた。……この魔法が禁呪と言える所以はそのリーファの言った言葉の中にあった。威力は確かに凶悪極まりない、リュウキが使う新種の魔法も含めた全魔法中の中でも間違いなくNo.1の破壊力だろう。
 だが、それを使う為の条件、それは消費するMPの代わりの代償が経験値と熟練度を失う。

――……人はたかがゲームの経験値だ、と言うだろう。

 だが、その為にレコンがこのゲームに費やしていた努力と熱意だけは本物の犠牲だ。……時間は、無限じゃないのだから。

 だからこそ。

 もう、撤退の二文字は完全に頭の中で削除をした。例えあの2人が、逃げろと。……なんと言おうと、リーファは退かないと決めた。あの頼りない男が最後に、根性を見せていったのだから。


「……レコンがくれた勝機だ!」
「無駄にはしないっ!!!」

 レコンが作った天への軌跡。無限とも思える軍勢に風穴を開けた唯一の道。その場所めがけて、2人の戦士は一気に飛び上がった。リュウキの隕石でも耐えられた敵の壁。そして、レコンが捨て身で放ったあの強力な爆発の魔法も連発出来ない以上……他に方法は無い、とキリトは強く思っていた。

――……否、方法は他にもある。

 リュウキから事前に聞いていた魔法。……真の切り札をまだ切っていないからだ。だが、それを実行するのが不可能だった。何度もそれを実行しようと試みていたが、敵の数が多すぎる事と、その効果時間が極端に短いこと、そして何より詠唱時間が鬼畜だと言う事だ。隕石の魔法よりも数倍もの詠唱文であり、かかる時間も相応なものだ。

――……得られるリターンは果てしなくでかい。……だが、その間に敵が待ってくれる筈もなく、キリトがカバー出来る時間も限られているからだ。

「「うおおおおおっ!!!」」

 今は、ただ、あの穴目掛けて只管飛び続けた。開いた穴はその先の光が差し込んであり、まさに光の道となっていた。……だが、その光も瞬く間に、闇が侵食していく。

〝がきぃぃぃぃぃ!!!〟

 己の身体を盾とする様に、まるで、一体の巨人になるかの様に、無数のガーディアンたちが、仲間同士の身体をぶつけ合いながら、一つに固まり、2人の突進を防いだのだ。2つの閃光を、軽々弾き返すそれはまさに無敵(イージス)の盾。

「拙い!」

 弾き飛ばされた瞬間、リュウキは見た。壁として配置されていたあのガーディアンの背後に、もう既に控えているのを。

「キリトォッ!!!」

 リュウキは、落下するキリトの手を掴み、敵がいない……、比較的少ない場所を瞬時に見極め、その方向へと投げた。

「っ!? りゅぅっ!」

 リュウキがキリトを思い切り投げ、逃がしたその瞬間。

〝どすどすどすどすっ!!!〟

 リュウキの身体に無数の剣が突き刺さった。

「がはぁっ!!!」

 鈍い痛みが身体の髄にまで駆け抜ける。四肢の全て……五体全てを貫かれ、HPをレッド値まで削りきられたのだ。

「っ!! こ、こんなのって……」

 その衝撃を目の当たりにしたリーファは思わず絶句をしてしまった。レコンが決死の覚悟で作った、特攻で作った道をもう殆ど白い闇が覆い尽くしてしまっている。2人の突進が簡単に防がれてしまっている。

「リーファっ!!」

 キリトは、直ぐにさけんだ。リーファも、声と殆ど同時に、回復をかけるが、……これから一体どうすればいいのか判らなかった。敵の多さと強大さを目の当たりにして……。

「もう、無理だよ……無理だよ……こんなのっ」

 思わずリーファは涙を流していた。

 ……絶対に退かないと言う決意を、根こそぎ奪われそうになってしまっていた。

 当初、キリトが言っていたこの世界で魂を囚われているかもしれないという事実、その話をそのまま信じられたわけではなかった。……だが、リーファは今初めてこのシステムの悪意を直に感じた。決死の覚悟を一蹴し、己の命までを使った一撃も、無かった事にされ、そして理不尽なまでの攻撃。
 救いの糸すら許さないその攻撃。

 公平なバランスのもと、世界を動かしている筈……、そんな世界の筈なのに、見えない血塗られた大鎌を振り回されている様なそんな気がした。

『……この上に上がってきて欲しくないんだろう』

 確かに、彼の言った通りだった。ここから先には、どんな事をしても上がらせない。
そんな神の殺意を感じた。……神のだからこそ、強く思った。

――誰も、抗うことは出来ないのだと。

「ぐっ!!?」

 そんな時、キリトも、逃がされた筈のキリトの場所にも、無数の弓矢が放たれていた。あれは、初戦でキリトが食らわされていた光の矢の魔法。攻撃を喰らえば、ダメージを受けるだけではなく、一時停止効果もある凶悪な魔法だ。それも無数に打ち放たれている。

『――……たかが愚民共が昇る事など出来はしない。図が高いぞ』

 まるで、そんな事を言われているかの様に、リーファは感じていた。あれを食らってしまえば、キリトもリュウキの様に無数の刃に串刺しにされてしまうだろう。……そして、もう自分自身のMPも殆ど無い。2人とも助ける事は絶対に出来ない。

 ……もう、瓦解してしまった。

 リーファはそう思った瞬間、自らの身体の一部である翅が動かなくなってしまった。

 その時だった。

 突然背後から、唸り声の様なものと共に、突風が吹き抜けた。それは、リーファたちの身体を天へと押し上げるかの様な風。

「っ……!?」

 慌てて、振り向いたリーファの目に入ったのは……、開かれた大扉から密集隊形をとって突入してくる緑色に輝く鎧を身に固めたシルフ族の戦士たち。

「シルフ隊……っ。きゃっ!!」
〝ずごおおおおお!!!!〟

 そして、リーファの身体を霞める様に、特大の火炎の塊が噴出された。

「っ……、これは……。この炎は……」

 その炎は、リュウキの傍で着弾した。火炎は、リュウキを狙っていた無数のガーディアンたちを瞬く間に吹き飛ばし、燃やし、爆散させたのだ。

「……あんた達の中に諦めるなんて言葉、あるの?」

 何処か強気な口調で、それでいて体の芯にまで響く透き通った声。そして、その影は一瞬の間に、リーファの隣にまでやって来た。

「り、リタっ!!」
「……真打の登場ってヤツね。こういうポジってガラじゃないんだけど」

 そう言いながらも、何処かまんざらでもなさそうにそう言うリタ。

「な~に言ってんのヨ。ノリノリだったジャン!」

 そして、そばにまでやって来たのは、リタやシルフの戦士達だけじゃなかった。やって来たのは、とてつもなく大きなモンスターに跨ったアリシャの姿もあった。

「ひ、飛竜!?」

 リタが来てくれた事も驚愕だったが、それに負けないくらい驚愕な事だった。頭から尾の先までの大きさは、プレイヤーの数倍はあろうかという鉄灰色の鱗をもつドラゴンの集団。そして、その後優雅に中を泳ぎ、横につけた美しい女性、サクヤ。

「ふ、ふんっ……!」
「ふふ、そうだな。だが、遅くなってすまなかった。リーファ」
「ごめんネー、レプラコーンの鍛冶匠合を総動員して人数分の装備を鍛えるのに、さっきまでかかっちゃったんだヨ~。彼等のおかげで出来た事だけど、おっかげで、もうすってんてん!ダヨ」
「まあ、つまりここで全滅したら、両種族ともに破産だな」
「そうなったら、魔法の講義代も跳ね上がるから!」
「アハハ、リタっちには今度美味~しいお酒、おごってあげるヨ!」

 陽気なおしゃべりが聞こえる中……、リーファは震えた。

「さ、サクヤ……アリシャっ……」

 皆が、皆が来てくれた事に。
 このゲームはプレイヤーの欲を試す陰険なものだと何処かで自分も思い始めていたんだ。だけど、それらを全て一笑のもとに振り払い、そして領主達はその地位を失う危険も顧みなかった。これは、この世界が生まれて、これまで一度たりともなかった事だろう。

 神の意思を、思惑を超えた力を発揮するに違いない。

「みんな……ほんとうに、ありがとう……ありがとう……!」

 震える声でそう言うリーファ。どうにか礼を言う事が出来た。3人とも、ゆっくりと頷く。だが、あまりゆっくりとする時間はなかった。

「さて――我々も暴れよう!」

 サクヤの一声の元、3人は散開した。

 既にガーディアン達は、乱入してきた者達を敵と認識したようだ。

「ドラグーン隊! ブレス攻撃用ーー意っ!!」
「シルフ魔法使い隊! 魔法攻撃用意!」
「シルフ戦士隊! エクストラアタック用意!」

 3手に分かれたその集団は、その先頭に立つ指揮官達の指示の元、其々の攻撃体勢に入った。ドーム中央部をケットシーのドラグーン隊が、そしてその左右から、シルフの戦士、魔法使い隊が挟むように、攻撃を構える。
 敵を限界ギリギリにまで引き付け、数多くの敵を屠り、その絶対数を削る為に。めいいっぱい引きつけた後、アリシャは、大きく右手を振り、声を張り上げた。

「ファイアブレスッ!! 撃て―――――っ!!」

 直後、飛竜の軍団、示してその数、十騎。それらのドラゴン達が一斉に溜め込んだ紅蓮の劫火を撃ち放った。クリムゾンレッドの炎の光線が、瞬く間に敵を焼き尽くしていく。

「フェンリル・ストーム! 放て!!」

 サクヤの号令で、シルフの戦士たちの剣から、眩い雷光が迸った。其々の武器は全て古代武器(エンシェント・ウェポン)。1つ1つに付与されている魔法効果を盛大に見舞ったのだ。

「サイクロン・トーネード! 放て!!」

 アリシャとサクヤ達の部隊が殲滅・足止めしている最中の時を利用したのが、シルフの魔法使い達。強力な魔法は、それだけに発動に時間がかかってしまうが、今は関係ない。……頼りになる前衛がいるから。複数の魔法使い達が撃ち放った雷と竜巻が融合した様なその魔法は、1つの巨大な竜巻となり、再度湧出したガーディアン達も瞬く間に蹂躙していく。


「……凄いな」

 リュウキも思わず舌を巻く程の攻撃とその連携。ソロでは決してたどり着く事の出来ない極地。その精密な連携攻撃、波状攻撃は美しくさえあった。

「皆……、ありがとう」

 キリトも、リーファと同じようにそう礼を言っていた。声は届かないだろう。だけど、言わずにはいられなかったのだ。

 一先ず、無数にいたガーディアンを吹き飛ばした所で空白の時間が生まれ、そこでリーファはリタ、サクヤ、アリシャの3人に近づいた。

「本当に、ありがとう。みんなっ!!」

 今度ははっきりと、声に出すことが出来た。そのリーファの言葉に反応し、サクヤは振り返った。

「なに、礼には及ばんよ。彼等には大きな借りがあるからな」
「それにネー、この攻略の準備だって、あの2人から預かった大金があったからこそ、だシ! そ・れ・に」

 アリシャは、ドラゴンから飛び降りると、その勢いのままにリタに抱きついた。

「リタっちとも親密な関係になれたしネ~?」
「って、何すんのよ!! こらっ 引っ付くなっ!!」

 リタはいきなりだったから、驚いて悪態はついているものの……、そんな本気で振り払っている様にも見えない。

「ふ……ふふ……」

 大変な時だと言うのに、心に余裕が出来た様だった。

「さて、我々の再会を懐かしむのはこれくらいにしておこう」

 サクヤは、手に持っていたセンスを構えた。

「ほら! あんたもしっかり指揮すんのよ! このドラゴン達を!」
「いててて、リタっち~、力強いヨ」

 頭を摩りながら、アリシャは飛び、再び竜の背に飛び乗った。おちゃらけていたアリシャだったが……、竜の背に乗った瞬間、彼女の目つきは直ぐに変わった。
 そう、戦う者の表情に変わった。

「全員! 突撃!!」

 サクヤの号令の元、ケットシーもシルフも一斉に飛びかかる。縦横無尽に繰り広げられる戦い。

 それは、間違いなくこの世界で行われた最大の戦闘だろう。

 サラマンダー達との戦いよりも、その他の種族達の戦いよりも……何よりも。2つの種族が、協力し合い……一つの巨大な敵に挑む。プレイヤー同士で争うよりもずっと、ずっと良い。

「ほら! 行くわよ!」

 リーファは、そう考えていた為、出だしが遅れた。そんな彼女の手を引いたのがリタだった。

「行く……?」
「あたしら、パーティだったでしょ。……アイツ等んとこよ」

 一時離脱をしたけど、短い時間だったけど、自分たちは4人のパーティを組んでいたんだ。だから、最後は。

「うんっ!」

 リーファは笑顔で頷いた。リタもその顔を見て、ニヤっと笑うと。

「たまには、あいつらにぎゃふんと言わせたいでしょ!」
「勿論!」

 ずっと前へ前へと進んでいる2人。手の届かない所で戦い続けている2人。だけど、そんな2人でも貫けない相手がここにいるんだ。

 リタとリーファは、翅をはばたかせ、空へと翔んだ。

「……あんたもよくやったよ」

 リタは、そう呟いた。言った相手は、……この大規模戦いに繋がる働きを見せた、シルフの戦士に対して。もう少し……もう少し早く突破出来ていれば、救い出せたかもしれないけど、もうその命の炎は消滅してしまっている。

「まぁ、何時も何時も間が悪いしね。あんたは!」

 リタは、そう言うと更に速度を上げた。

「本当に男、見せたからね。レコンの分もやらないと、あたしの気がすまないよ」

 リーファも聞こえていた様だ。頷き、リタと並ぶように翔んだ。この場にはもういないが、レコンにとって最高の褒め言葉だろう。……聞けなかった事を考えても本当に間が悪い……。と思ってしまった。


「お兄ちゃん!!」
「スグっ!」

「ほら、やるわよ!」
「……やっぱり、あの炎はリタだったか」

 リーファは、キリトの元へ。リタは、リュウキの元へと翔んだ。4人は集まり、そして1つのチームとなる。

「……良いのか? あいつらの魔法使いの部隊リーダーなんだろ?」
「はぁ? そんなんじゃないし。ちょっと色々と教えてただけよ」
「ふふ、ノリノリだったみたいだけどね?」
「うっさい!」
「お前ら……、今結構、と言うかかなり大変なんだぞ?」

 和んできているが……、周囲はそんなわけ無い。

 周囲には敵しかおらず、まだ味方の部隊はやや低い位置で奮闘しているのだから。そんな状況をわかってない事は勿論ない。

 リュウキは、天を見上げた。

 まだ、敵は無数に存在し、光を遮っている。だが、完全に遮っている分けではない様だ。
光りが斑に見えはじみたから。無限の軍勢も……減り始めた証拠だ。

「……ここで 一点突破だ」
「ああ!」

 キリトとリュウキは構える。リタとリーファは。

「さぁ、行くわ!」
「猪突猛進は、あの馬鹿たちに任せて、回りのを片っ端から落とすわよ!」

 背中合わせで戦う。

「キリト、リタ、リーファ。今なら行ける。奥の手を出す! 頼むぞ!」
「……ああ! 任せろ!」
「皆がいるんだから、大丈夫!」
「……凄く気になるわね。その奥の手とやらは。だから、ちゃんと見せなさいよ!」

 キリトとリーファ、リタは、リュウキを守るように三角陣形をとった。中心のリュウキを護る様に、構える。リュウキはそれを見て……両手を空……天へと掲げた。

 恐ろしい程の詠唱文が現れ、縦横無尽にそれは広がっていく。先ほど、レコンが見せた闇の魔法のそれよりもはるかに大きく、踊り出る文も異常なまでに多い。

「……覚醒魔法。スグっ! リタっ! 1分だ。なんとしても持ちこたえるぞ!」
「うん!」
「1分も詠唱に必要なのね……」

 リーファはしっかりと返事しているが、リタは……リュウキの魔法に興味津々な様子。が、リタの事はキリトもよくわかっているから、そこまで心配はしてなかった。あの魔法を見る為に必要な事は何なのか……、それをリタはわかっているから。そして、それを邪魔する輩は……。

「燃え尽きろ!!」

 全て、炎の魔法で吹き飛ばす。

「せいっ!!!」

 リーファも、襲い来るガーディアンを次々と切り伏せていった。キリトも、敵を屠り続けいく。圧倒的な反応速度を持って、全ての攻撃を受け流し、そしてそのままカウンターを叩き込む。



「4人に続け!!」

 4人のいる場所よりも、やや下部で戦っていたサクヤも、負けてはいられない。

「ヨッシャー! 焼き払え!! リタっちたちに続くヨーー!!」

 火炎ブレスを放ち、焼き払っていく。

 この規模の戦いであれば、敵を殲滅し切れるだろう。と思ったが、それは希望的観測だった。当初、ユイが観測した的の湧出数、キリト1人に対し、秒間12体と言う数は遥かに超えている。今では、この場にいる人数に反応しているのか、秒間にしてゆうに100を超えているのだ。予測していた通り、こちら側の戦力の規模が変われば……それに比例して増していく様だ。そして、そのツケの多くは最前線にいる4人に降りかかっているのだ。

 
 キリトとリーファ、そしてリタの3人の少数の戦士達だった。だが、圧倒的な物量の差をものともしない様に、3人は凌ぎ切った。リュウキが提示した1分と言う絶望とも思えるその時間、60秒を凌ぎ切った。単純計算で、6000体もの敵の数の猛攻を、4人とシルフ・ケットシーの部隊は凌ぎ切った。それだけでも、奇跡と言えるかもしれない。1人1人のプレイヤーが恐ろしいまでに集中し、最高のパフォーマンスをしていた。



 そして、時が来て、……鮮やかな銀色の光が、キリト達を包み込んだ。


 それは、魔法付与効果のある光。だが、一体なんの効果なのかは、リーファは勿論、リタもわからない。わかるのは……、光が包み込んだ後、視界の右端に見えているHPバーが点滅していると言う事。

その数値が、銀色に輝きながら点滅しているのだ。

「覚醒時間は20秒。……如何なる攻撃も、HPを削ることは無い!」

 リュウキの怒号にも似た言葉が迸った。
 キリトもリーファもその効果については、事前に聞いていたから、今更驚きはしなかったが、リタは流石に唖然とする。……所謂、無敵付与と言うヤツだろう。色んなファンタジーRPG作品では、この手の魔法、アイテムは珍しいものではないが……、この世界ではそんな魔法は……勿論無かった。確かに、リスクは極大だし、効果範囲は物凄く狭く、リュウキの周囲にいた、リュウキを含めた4人にしか与えられないが、それでも20秒間の無敵時間はチートだと言っていい。

 だが、それは口にしたくない。

 チートと言うのは対して、大変な思い、苦労をしていないのに、強大な、不正の様な力を得る事だ。
だが、自分たちは違う。極限までに集中し、そして戦い……そして、その先に得られたものだから。

「突破するぞ!!」
「おお!!」

 キリトとリュウキは攻撃体勢を作り、一気に飛び上がった。幾ら、HPが減らないとは言え、攻撃力がなければ、あの敵の壁は突破出来ない。凶悪な巨人の壁を突破するには……!

――……あの2人しかいない。

「お兄ちゃんっ!!」

 リーファは、剣を投げ飛ばした。リーファの愛刀、長剣はキリトの左手に吸い込まれる様に、向かっていく。



――……どこまでも、高く飛んで。あたしの分まで。



「いけぇぇぇ!!!!」

 リーファは、ここから先の領域はついて行けないと瞬時に悟り、本能的にせめてと自身の分身とも言える刀を投げたのだ。




「あたしの全魔力。受け取りなさい!」

 リタは、他人にMPを譲渡する魔法を全開で放った。この力は、HPバーを無敵にするだけで、MPバーは違う様だ。あの覚醒魔法と言う代物を使った事で、リュウキのMPバーは0になっていたのだ。

「落ちてくるんじゃないわよ……」

 リタは、リーファの様に叫んだりはしなかったが……、その目には強い炎が宿っていた。自分が信頼する、信じているとさえ言っていた魔法を、MPの全てをリュウキに託したのだ。

「ちゃんと、見つけてきなさい!!あんたの全てをっ!!」

 リタの発破もリュウキの背中を後押しする。

 キリトは、自身の大剣とリーファの長剣を重ね、突進していく。リュウキは、リタから譲り受けた、託された魔力を使い、詠唱行動を駆使し、魔法を発動させる。


 2つの輝きは1つに交わり、漆黒と白銀の閃光となり……、押し寄せるガーディアンの大群を吹き飛ばしていく。



――飛べ、行け、届け!
――この巨樹を貫き、空をかけて……!



『世界の核心まで!!』



 全ての想いを剣と魔法に込め……、2人はついに、神の意思に抗い、神の領域を侵し、そして貫いた。

 ……この世界の頂まで。
 
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