真田十勇士
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巻ノ八 三好伊佐入道その十一
「それで問題はないな」
「はい、そして安土を通って」
「都に入ろう」
「わかりました」
伊佐は幸村の言葉に静かに頷いた、そしてだった。
一行の中に入り幸村達と共にまずは安土に進んだ、安土には何の問題もなく着いた。だが予想通りにだった。
安土の町はかつての賑わいはなく寂れようとしていた、店は幸村達が見ている前で畳まれてだった。町を去ろうとしていた。
それは寺社もだった、安土に多くあった寺や神社もだ。
次々にだ。閉まって去ろうとしていた。その寺の一つの前にだ。
幸村は来てだ、その寺の僧に尋ねた。
「この町を去られるか」
「はい、もう前右府様がおられないので」
信長が、とだ。僧侶も答えた。
「ですから」
「もういても仕方ないと」
「はい、都に行きます」
「都にか」
「そうします、拙僧共は」
僧は幸村に寂しそうに答えた。
「都に新たな寺を築きます」
「もうこの町の世ではないか」
「城もなくなりましたし」
僧は安土山の方を見た、かつては見事な天主があったが。
今はない、石垣や城壁、櫓が残っていた。そして人の気配はなくなっていた。
「もうここにいても仕方ありませぬ」
「それは御坊達だけではないか」
「はい、他の神社やそれに耶蘇教の伴天連の者達も」
「都に移るか」
「若しくは大坂か」
そうした場所にというのだ。
「そのどちらかにです」
「世は都、そして何より」
「大坂じゃな」
「そうかと、羽柴殿の世になります」
「ふむ。耶蘇教の伴天連達も大坂に移るか」
由利はその話を聞いて言った。
「あの者達も」
「そう言っていました、たどたどしい言葉で」
「そうなのか」
「そうそう、この安土で色々学んでいた者がいましたが」
ここでだ、僧は幸村達にこんなことも言った。
「古今東西の学問を学び術も学んでいた」
「術もとな」
「既に忍術を学んでいるとのことですが」
「忍術もか」
「そう言っていました、本人が」
「言っていたというと」
海野はこのことから察して言った。
「御坊もその者と会っていたか」
「はい、若いですが随分と立派な者で」
「あらゆる学問を学んでいたのか」
「そして術も」
「では伴天連の術も」
「学んでいました、しかしここでの術を学び終えたので」
その者の言葉で、というのだ。
「今度は何処に行こうか考えていると」
「左様か」
「それでその者は何という名前じゃ」
根津は僧にその者の名を問うた。
「一体」
「はい、筧十蔵殿といいまして」
「筧というのか」
「そう名乗っておりました」
「筧十蔵。聞かぬ名だが」
望月はその名を聞いて述べた。
「面白そうな者である様だな」
「とかく学問が好きな方です」
「学問のう。殿もお好きだが」
「殿、宜しければ」
穴山は幸村に確かな声で言った。
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