元虐められっ子の学園生活
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行き先の想定
修学旅行。学生である者の最大の行事である。
主にあげられる行き先としては、京都、奈良、北海道等であるが、とある地域では沖縄も視野に入れている学校もある。
そんな修学旅行だが、近来の学生たちは修学旅行の本来の目的を忘れ、遊戯目的として向かっている節がある。
あながち間違ってはいないのだが、学生としてそれはどうなのだろうか?
勉学のために向かう先で遊ぶと言うのなら、プライベートで家族と一緒に行くのが筋ではないのだろうか?
例をあげるのなら、京都における金閣寺や銀閣寺、清水寺や虎石など、見学名所が多々あると言うのに、その付近にあるアトラクション…遊園施設に入り浸っているではないか。
そう言った者達が羽目を外し、問題行動を起こして中止、若しくは行き先却下の礎となってしまうのだ。
仮に修学旅行が遊びの場であると言うのなら、修学旅行に行きたくても行けないで、自宅で勉強の処置を取るしかなくなっている学生はどうすれば良いのか?
皆が楽しんでいる間に自主学習や自主登校を課せられ、あわよくば教員の手伝いや準備で自分の自由な時間を無くされる。そんなことが許されても良いのだろうか?
人は生まれたときから優劣が決まっていると言う。
ならばそんなものを取り払えるよう、努力するべきではないだろうか?
そんなことも解らないものがいるのなら、小学生からやり直した方が良いと思ってしまう。
学校行事もその波を潜め、数日も立てばその高揚感も収まり始める。
ここのところ寒くなりつつある季節に、俺を取り巻く環境は一層の寒さを感じさせた。
「修学旅行何処行くん?」
「あーし隼人と回るから」
「そりゃないでしょー!俺も楽しみにしてんだしー!ハブにされるとか、それって何滝君~?」
俺の席の後方で何時ものように騒ぐアホども。何処からか流れた『鳴滝九十九は貧乏である』と言う情報を持ち、それを笑い話に話題を膨らませるやり口を見るに、やはり低脳なのだと改めて確信付ける。
確かに俺は修学旅行等と言う行事に参加したことはなく、そう言った日に限ってはバイトや自宅学習で時間を潰してきてはいるが、逆に修学旅行に行きたいなどと思ったことは今までに一度もない。
名所を歩いて回るなんぞプライベートでも行けるし、その場所の知識なんてのも行かなくても仕入れることくらい簡単だ。
苦学生である俺からすれば、奴等こそ時間を浪費しているのではないかと鼻で笑ってしまえる。
「つくもん、ちょっと良い?」
「由比ヶ浜か。何だ?」
窓の外を見ながら、修学旅行期間で何をしようかと模索する。そこへ由比ヶ浜が訪ねてきた。
「あのね、つくもんは修学旅行行かないってホント…?」
成る程。このクラスで誰よりも優しい由比ヶ浜は俺が行かない…いや、行けないことを信じられていない様に体現している。
「ああ。行かない。
その日は家の用事があるからな」
「そうなんだ…ならさ!お土産何が良い?!何でも言ってよ!」
心配掛けないように家の用事と言ったのだが、逆効果だっただろうか?
「そうだな。何でも良い…と言いたい所だが、行き先の写真で良いぞ」
「写真…?」
「そう、写真だ。
どうせお前たちは奉仕部で回る時間を考えているんだろ?ならその時に言った場所の写真を所望したい。
どんなところだったとかの説明もあると良いな」
「~っうん!
楽しみにしててね!いっぱい撮ってくるから!」
そう言って由比ヶ浜はアホどもの渦中へと戻っていった。
そのいっぱいの写真の1枚1枚に確りと説明付けられるのか不安を刈られるな。
時は進んで奉仕部。
何時ものように席に座って本を読む比企谷、ニコニコ笑って雪ノ下を見る由比ヶ浜。
各自に紅茶を振る舞う雪ノ下。そして――
「ん?鳴滝、携帯買ったのか?」
最近持つようになった携帯…スマートフォンだったか?を操作している俺だ。
「いや、バイト先の店長とか編集の人とかが持てって聞かなくてな。
半強制的に持たされた」
何気にこれ、現行を打ち込むにも勝手が良いのである。
因みに料金は編集者持ちである。
「ならさ!アドレス教えてよ!」
「ああ。えっと…ほれ」
手渡しで由比ヶ浜に携帯を渡す。
何か携帯デビューと同時に誰かのアドレスを習得するために歩き回った気分だな。
何か恥ずかしい。
「普通に渡すんだ…ヒッキーとおんなじだね」
携帯を受け取り、由比ヶ浜は早速打ち込みを開始する。
「…はい!一応ヒッキーのも入れといたから!」
「おい。俺のプライバシーは何処に言った。
別に困る訳じゃねぇがそれなりに断りを入れろよ」
勝手に教えられたことに比企谷が抗議の声をあげる。
由比ヶ浜は何処吹く風の様に「だってヒッキーだし」と返した。
「大体、どのみち教えるんだし、良いじゃん」
「…まぁ、良いけどよ」
言い負けたように鳴りを潜める比企谷。
何か申し訳ない感を覚えてしまう。
「ゆ、由比ヶ浜さん。私のは教えたのかしら?」
「ううん。だってゆきのん、嫌がるかなって思ったし」
何処か狼狽えたように質問した雪ノ下。
そうか。入れてないのか。
「由比ヶ浜さん。それは私だけ仲間はずれと言うことかしら?」
「ええ!?ち、違うから!そんなんじゃないからぁ!」
何故か冷めた目で由比ヶ浜を問い詰める雪ノ下。何をそんなに怒っているのだろうか?
ああ、そう言うことか。
「雪ノ下。お前のアドレスも教えてくれ」
「えっ!?」
「部活間の連絡に困るだろ?ほら」
俺は雪ノ下に携帯を手渡し、そう言った。
対する雪ノ下は何故か落胆したような雰囲気で受けとる。
「…そうね。そうなるわね…」
何か粗相をしでかしたのか?
打ち終えたのか、携帯を雪ノ下から受け取り、ポケットにしまう。
席へと戻り、雪ノ下が入れてくれた紅茶を一口。うむ、旨い。
閑話休題。
「はぁ…て言うかうちの学校も沖縄とかが良かったな。京都とか行ってもどうしようもなくない?」
話題は修学旅行にシフトチェンジ。
そうか。俺は空気に徹すれば良いんだな?
「することなら幾らでもあるでしょう?
この国の文化を直に見て、触れて「そう言うもんじゃないと思うぞ、あれは」…?」
比企谷が雪ノ下の言葉を遮る。
まぁ確かに修学旅行ってのは見て触れて学ぶの目的があるが、それだけじゃないと言うのも確かだ。
行けない知人や家族に名産物を持って帰ったりするのも一つの醍醐味と知れるだろう。
その点、比企谷は分かってるな。
妹がいるし、何かしら頼まれていても不思議じゃない。流石だな。
「あら、では何のために修学旅行に行くのかしら」
ふむ。ちょっとした心理だよな。
何のために…俺なら人それぞれだと返すけど。比企谷は結構良い返答を出すと踏んでいる。
「あれは社会生活の模倣なんだよ。
上司と出張にいけば、泊まるところも晩飯のメニューも自分じゃ選べねぇ。
でも妥協すればそれなりに楽しいんだと自分を騙すための訓練みたいなもんだ」
「…俺の期待を返せ」
「なっ、何だよ…何がだよ…」
「ヒッキーの修学旅行、超楽しくなさそう!」
そうだったな。比企谷の考え方は斜め下を我が儘に進むものだったな…逆の意味で感心したよ。
「貴方達だって、楽しみにしていることの一つや二つはあるでしょう?」
その貴方達に俺は含まれているんでしょうかね雪ノ下さん?
「まぁな」
「私はまだ全然調べてないからなぁ…ゆきのんは?」
「そうね、龍安寺、清水寺もそうだけど…鹿苑寺、慈照寺等の有名どころも押さえておきたいわね」
何故挙げられた候補が寺オンリーなのかは触れないでおこう。
恐らく雪ノ下は楽しみで舞い上がっている。今は目をつむっていて分からないが、確実に楽しみにしまくって舞い上がっているに違いない。
「鹿苑寺…しょうじ?」
「混ぜるなよ。何かちょっと格好いいキャラ名見たいになってるぞ」
「もう少し歴史について勉強することをお勧めする…」
「ふ、二人して馬鹿にして!ちょっと間違えただけじゃん!」
「一般的には金閣、銀閣と言う方が通りは良いかしら?」
「ほぇ…なら最初からそういえば良いのに」
仮に最初から言っても分かるかどうかが分からないがな。
「あとは――――」
この後、雪ノ下による観光名所のあれやこれやをたんたんと語られた。
明らかに舞い上がっている。これ以上ないくらいに。
普段とのギャップを感じなくもないが、詳しすぎるのもどうなのだろうか?
「――と言うところかしらね」
「詳しい…」
「何お前、ジャランなの?」
「京都についての知識なんて、一般常識の範疇でしょ」
そう言って紅茶を飲む雪ノ下。
その目の前には観光ガイドの雑誌が置かれている。
「……くくくっ」
「ぷっ…」
「へっ……」
それを見た俺、比企谷、由比ヶ浜は一緒になって吹き出す。
「…何か?」
「な、何でもない、何でもない」
…こんな楽しい時間も、貴重と言えるんだよな。
もっと長く、それでいて大切に過ごせれば良いんだけど。
「フラグだったか…」
少し経って、部室には葉山と戸部…?が訪れた。
「何かご用かしら?」
一瞬で空気が針積める。
何処か雪ノ下も声のトーンが落ちている気がする。
「ちょっと相談事があって…連れてきたんだけど」
「いや、やっぱ無いわ…この二人に相談とか無いわぁ…」
「……あぁ?」「…あ?」
「た、頼みに来たのはこっちだろ…?」
「いやでも二人にこう言うことははなせないでしょぉ…信頼度ゼロだわ」
入ってきて早々に俺と比企谷を迫害する戸部。
その言葉と素振りは俺の怒りを買うのに充分だったと言える。
「なら帰れ。
いっそのことその生け簀かない顔面に拳めり込ませて窓から紐無しバンジーで追い出してやろうか?
それ以前に頼み事をする立場でありながらその態度は相手を挑発する最高の一手だぞ。もともとそう言うつもりなら買ってやるよその喧嘩。
今の俺は確実に殺れるぞコノヤロウ」
俺は立ち上がり、ツカツカと戸部の元へと歩いていく。
葉山が間に入り、庇うように身を呈したのでその前で止まったが、怯える戸部を睨み付けることは止めていない。
「止めなさい鳴滝君。
確かに信頼を持ち合わせていない二人が悪いのは分かったわ。
この場合は仕方がないもの。では、出ていってくれるかしら」
「………そうかよ…なら終わったら呼んでくれ。
少し頭冷やしてくる」
「待ちなさい。何処へいくの?」
は?いやだから出ていくって…
「出ていくのは貴方たちの方よ。
礼儀も知らない。礼節もわきまえない。そんな輩のお願いを、快く聞き入れるとでも思っているの?寧ろ聞く必要が皆無だわ。
早々にお引き取り願うわ。寧ろ出直す必要もないわね」
「何かやな感じ!」
…雪ノ下、由比ヶ浜…。
「……確かに、俺たちが悪いな。
戸部、戻ろう。この事は俺達で解決するべきだ」
「いや、もうここまで来たら後には引けないでしょぉ!」
退室を試みた葉山の腕を振り払い、戸部は決心を目に宿らせて1歩前に出る。
「ホントにゴメン!実は俺さっ――――」
戸部は上半身を折り曲げ、謝罪をしてから話始めた。
「――マジ?!」
「つまりあれか。告白して海老名さんと付き合いたいと…」
戸部が持ってきた依頼は、思いを寄せている海老名に告白し、付き合いたいと言うもの。初の恋愛絡みな依頼で俺自身なんと言えば良いのかわからない。
昔告白されたことはあるけど即座に振ったし。
「そうそう、そんな感じ!
流石に振られるとかキツいわけ!」
「はぁ…振られたくない、ねぇ…」
そもそもの話で振られるかもしれないと言う要因が自分の中にある時点で駄目なんじゃないのか?不安要素とか知らない内に持ってたりするし。
仮に自覚がないとしても、対象からしてみたら欠点がある相手はノーサンキューで終わるんじゃないのだろうか?
「何かそう言うのすっごく良いじゃん!応援するよー!」
「…やっぱり、そう簡単には行かないかな」
「そりゃまぁな」
「簡単に行くなら少子化問題も勃発してねぇ。大体、そんなに好きなら振られる覚悟して告白してくれば良い。
振られるのが怖いのなら、告白しなければ良い」
「でもそうなるとこれから気まずいでしょぉ…俺、今回はマジなんだよ…」
マジ…ねぇ?
それは普段の騒がしいと言う欠点を自覚したってことなのか?
「悪いけれど、お役にたてなさそうね」
「ええー!良いじゃん、手伝ってあげようよぉ~」
断ろうとする雪ノ下にすがり付く由比ヶ浜。
何か子供が物をねだるときの一画に見えてしょうがないんだが。
そして俺を見る雪ノ下。
「え?俺が判断するのか?正直きついぞ?」
ほら見ろ、由比ヶ浜も一緒になって目線送ってくるし…。
「鳴滝君…いや、鳴滝さん!オネシャスッ!」
「張り倒すぞコノヤロウ…」とは言えないこの状況。
しかしこの展開で発展していくのは結構な確率で破滅をたどることが何となく分かる。
「ゆきの~ん、戸部っちも困ってることだしさぁ~」
「まぁ…そこまで言うのなら考えてみましょうか…」
「ちょっと雪ノ下さん。最近由比ヶ浜さんに甘すぎじゃないですかね?」
「寧ろ由比ヶ浜に甘い分、辛さが俺達に回ってきている気がするまである」
「「「「…………」」」」
「「ぐっ……」」
全員から向けられるジト目に、俺と比企谷が怯む。
「はぁ…やってみますか」
結局やることになってしまったその日の放課後だった。
「で?具体的に何をすれば良い?」
「いやぁだからさ?俺が告る訳じゃん?そのサポート的なこと?」
サポートにも幅があるだろうが。
おいそこ。由比ヶ浜こら。照れと歓びを体現するな。乙女か。
「お前が海老名を好きだってのはわかった。
……………比企谷、告白して振られた場合、挙げられるデメリットはどれくらいある?」
「振られる前提なんだ!?」
そりゃそうだろ。
物事はまずデメリットを考えてから行うものだ。
「そうだな…まぁ告白した次の日にクラスの奴等が知っているのは当然だよな。
まぁ知ってるだけなら良い。けどなぁ…ちらほら聞こえてくるんだよ」
『香、比企谷にコクられたらしいよ~』
『え~嘘~香可哀想~』
『私メルアド教えてなくて良かった~』
「――と、愉快な話のネタにされ、ちょっぴり傷つくことになる」
「…忘れろ。それはお前にとって最悪の局面でしかない」
「残念だが、そう簡単に忘れられたかトラウマは抱えてねぇんだよ…」
久々ながら、その場がトレースできてしまった…!
「て言うか、またヒッキーの話だった…」
「まだまだあるぞ。
中の良いやつに告白するとこれまでの関係性にヒビが…」
「ああ、それは分かるな。
闇討ちされたり、虐め受けたりとかな」
あの日の思い出。俺は絶対に忘れられないだろう。
「ま、まぁまぁ。そこら辺は何とかするからさ」
……何とか?
こいつ。まるで戸部が振られる事がわかってるみたいな言い方を…。
「じゃあ、俺は部活あるから…またな戸部」
そう言って退室していく葉山。
「取り合えず、考えを話し合いましょうか」
「うん」
はぁ…何でこんなことになったんだか。
「では、取り合えず戸部君のアピールポイントを探してみましょう」
「…………隼人君と友達?」
「早速人頼みだし!」
そもそもその頼みが使えるかと言えばそうでもない。
先日の一年が俺と葉山の関係性を尋ねてきた。恐らくそれは何かを不振に感じたからではないのかと、俺は思っている。
万が一それが事実なら、校内の少数がその不審を抱えていることになるだろう。
とは言え、それでもアイツを信じているやつだって居なくはない。
そう考えれば割りと使える方向に傾いていると言える。
「他に何かないのか?」
「えっと…明るい、とか?」
「明るいで持てるならハゲ大人気だろ。雪ノ下は?」
「そうね。騒がしい…いえ、騒々しい…喧しい…賑やかな所……かしらね?」
「オーケーわかった。鳴滝は?」
「一言で言えば煩いの一言に尽きる。
仲間内であるのなら、ムードメーカーとして役立つだろうが、それは逆に空気が読めていないことに繋がる。
例えば誰かの心に入り込み、荒らすだけ荒らして帰っていくと言う具合か。
言ってしまえばムードメーカーとは良点と欠点が入り交じっていると言うことだろう。判断材料には向かないな」
「…そうだな。作戦変更だ。戸部の良いところを探すより、海老名さんの好みに合わせていこう」
その方が手っ取り早いか。
「…ところで、海老名さんは戸部君のことをどう思っているのかしら?」
「ええっ!?えっと…どうだろうね…?」
…………………これ、答え出てるだろ。
つーか分かりやすいな由比ヶ浜。
「ちょっとそれ気になりマクリングでしょぉ!」
「おい良いのか?これはあれだぞ。ファイナルジャッジメントだぞ」
「聞かなきゃ先に進めないでしょぉ!」
こいつホンとに大丈夫なのだろうか?
「……でば、どうぞ」
「………いい人だと……思ってるんじゃないかなぁ……?」
ああ。ダメなやつだこれ。
もう査定どころの話じゃねぇな。確実に門前払いだ。
「これ、プラス査定じゃね?」
へし折りたい。その心。
もう振られる所しか想像できなくなったな。
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