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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン31 未知の鉄砲水と帰ってきた『D』

 
前書き
前回のあらすじ:清明、パワーアップする。関係ないけどグレイドル入りの新生デッキを早速リアルで使ってみたら、すっごい友人に苛立たれた。青眼使いの友人Aがイラつくのはよくわかるけど、身内環境で平然とHAT(ハンド&アーティファクト&蠱惑魔)を世界大会で準優勝になる前からずーーっと使い続けてる友人Bに舌打ちする資格はないと思う。 

 
 ………もう、朝か。
 ふと気がつけば窓の隙間から差し込んできている日の光に目を覚まされ、ぐっと体を持ち上げる。机に突っ伏した姿勢で寝ていたのと昨日のデュエルのせいで最初のうちは若干ぎこちなかったが、少し手足を動かすうちにどうにか調子が戻ってきた。

「……できた」

 誰に聞かせるでもないが、ぽつりとつぶやく。机の上には大量のカードが広げられ、その中心にはきっかり59枚のカードの束が置かれている。気がつけば寝落ちしていたけど、ほぼ一晩かけて組み上げたこれが僕のデッキ。純粋なパワー勝負では他の属性に一歩劣る水属性がそれに対抗すべく生み出した、全く新しいコンセプトを基にする新デッキだ。
 そしてこのデッキを作り上げた今、僕がすることは決まっている。手早くデッキとカードを所定の位置にしまってからくるりと身をひるがえし、とっとと部屋から出て行った。………まずい今何時だこれ、さっさと朝ご飯作んないとみんなに迷惑かける!





「そういえばさ、皆ジェネックスってどんな感じなの?」
「このメンバーの中では、俺が一番メダルは多いだろうな。もう数十個は集めたから、持ち歩くのに不便でしょうがない」

 ふと気になったので朝食を食べながら話題を振ってみると、やはり万丈目がトップらしい。その言葉通り、ちょっと服を広げると内ポケットにはぎっしりとメダルが詰まっていた。あーあそんな乱暴に詰め込んで、ポケット破けたら誰が縫い直すと思ってるんだか。
 それは向こうから頭を下げてくるのを待つとして……待てよ、万丈目のことだから敗れたら即新品を買う可能性もあるのか。それはともかくとして、他に気になっていたことを聞いてみる。

「そもそもこのジェネックスってさ、いつまでやるんだっけ」
「さあな。ただ、こんな機会が次もあるとは限らないんだ。できるだけたくさんのプロとデュエルしないとな!………ヘルカイザーだって、いつまでこの島にいるのかわからないし。今結構仕事の予定があって、ジェネックスに参加したのも本人の希望があったかららしいぜ?」
「へー。まあ、今レッド寮で生き残ってるのは十代と万丈目だけなんだから、あんまし無茶はしないようにね?」

 こう言いはしたけれど、この2人がことデュエルに関して僕の言うことを聞くわけがないからあまり気持ちがこもった言葉ではない。僕だって同じこと言われたら当然のごとく無視するだろう。もっとも、自分たちの好きにやらせたって実力で勝ち残るタイプだからそれ以上の追及はしないでおくけど。
 あとは他愛無い話をしながら朝食を終え、洗い物まできっちり済ませてから出発準備中の2人に声をかける。

「さてと、僕もこのデッキ試したいし、ちょっとプロに頭下げて対戦してもらってくるねー」
「ん?それなら俺が相手に……」
「そう言ってくれるのはありがたいんだけどさ、やっぱり僕もこの機会を逃したくないんだよね。全国のデュエリストがこの島に揃ってる、こんなデュエルの神様がくれたみたいなビッグチャンスをさ」
「そうか、わかった。じゃあ、お互いワクワクするデュエルをしてこような!」
「もちろん!じゃ、お先ー」

 最後にもう一度だけディスクとデッキを確認し、他のメンバーより先に外に出る。せっかくだし、所属のラーイエローで先のデュエルのダメージを癒してる翔の見舞いにでも行こうかな。
 ………と思ってからたった数分。なんだか妙にこそこそしているエドの姿を見つけ、いつも堂々とした態度の彼がこそこそと動いている異質さにいっぺんに興味がそっちに移ってしまった。ごめん翔、と心の中で一度謝ってから、その後をゆっくりついていく。

「………何の用だ?今は取り込み中なんだ、あとにしてくれ」
「なんだ、ばれてたのね」
「プロになると、マスコミやパパラッチのせいで嫌でも感覚が鋭くなるからな。お前の尾行に不備があったわけじゃない、むしろ僕が会った中でもトップレベルだ」
「昔はもうちょい完璧だったんだけどねー、こっち入学してからすっかり鈍っちゃったかね。ま、それはまた考えればいいか。どうせばれたんならはっきり聞かせてもらうけど、何やってんの?」

 ちょっとした崖の下の砂浜、普通に道を歩いていればまず見えない位置にわざわざ立ち寄ったかと思ったら、その場で振り返って開口一番にこれだ。遠まわしに聞こうとする余裕はなさそうなので、ずばりと本題に入る。だがエドは馬鹿にするように鼻を鳴らし、元の方向に戻ろうとした。

「なんでそれを言う必要がある?だいたい、センパイはつい昨日僕に負けたじゃないか。力もないくせにむやみに首を突っ込みたがるのはやめておくことだ」

 うぐ。まったくの正論に一瞬言葉が詰まるが、腰につけたデッキの重みにすぐに気を取り直す。そう、僕はもうこれまでとは違うのだ。エドも背を向けた状態ながらその自信を察したらしく、ほんの僅かに不敵な、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべながらもう一度振り返る。

「どうやら、何か掴んだようだな。面白い、予定変更だ………と言いたいところだが、生憎僕にも外せない用事がある。斎王の相手が終わったら、また相手になってやろう」
「斎王の……?」

 どういうことだろう。確かにちょいちょい気になる部分はあったけど、それでもエドは表だって斎王に刃向うような真似はしないと思っていたのに。本人も僕の顔を見て少し喋りすぎたと後悔したらしく、これ以上余計な情報を出すまいとさっさと退場しようとした。その前にさっと回り込み、ニコニコと笑いかける。

「……もうこれ以上話すことはない」
「まあまあ」

 案の定のつれない言葉にもにこやかに返し、そのタイミングでスッと表情をまじめなものに変える。この切り替えが肝心で、うまいことやらないと相手を怒らせるだけで終わってしまうが成功すればぐっと精神的に優位に立つことができる。言い換えれば、相手が勝手に警戒したりビビったりしてくれるのだ。今回は成功したらしく、明らかにエドの表情が変わった。

「斎王には僕も色々と恨みがあるんでね。もちろん僕だけじゃなくて、十代や万丈目たちだって立派な被害者さ。それを差し置いて自分だけで突っ込んでこうだなんて、ちょーっとムシがよすぎるんじゃない?」
「くっ……」

 ここでもしエドがほんの少しでもいつもの冷静さを取り戻したら、多分僕がいくら探りを入れても無駄だったろう。というかそもそも、今僕が言っている理論にかなり無理があることにだって気づけたはずだ。もしエドが斎王を止めようとしているのなら、付き合いが一番長いエドにその権利があるだろうし。だけど、この時のエドはほんの少しだけそれが足りていなかったのだ。正確に言うと、足りなくなるように誘導したんだけど。
 ただ正直なところ、僕としては近々光の結社に殴り込みをかける予定だったからエドにもそれに参加してほしかっただけなのだ。今のままだといくらなんでも人数差がありすぎるから、ここでエドほどのデュエリストが味方になるとぐっと頼もしさが増す、そんな程度の考えだった。だけどエドの一言で、また自体は僕の予想外の方向へ動き出してしまう。

「わかった。なら、今すぐここでデュエルしよう。僕が勝てば、今度こそ誰にも邪魔はさせない。それなら文句はあるまい」
「あー、いや……」

 参ったな、そう来たか。微妙に言っていることがずれていることを教えようとして、寸前で思いとどまった。心のどこかに、昨日のリターンマッチがしたいという思いがあったのも否定しきれない。どれだけあーだこーだと言ったとしても僕もエドも本質はデュエリスト、常に戦いを求めるタイプなのだ。

「……そう来なくっちゃ。それじゃ、デュエルと洒落込もう!」
「フン。どうせやるからには、また昨日のように無様な真似を見せるなよ?」

「「デュエル!」」

 昨日のエドとのデュエルではエドが先攻だった。だからというわけではないだろうが、今度は僕が先攻だ。本当はドローできる後攻の方がよかったけど、まあ贅沢は言ってられない。

「まずはこのカード。グリズリーマザー、守備表示!」

 グリズリーマザー 守1000

「これでターンエンド」
「良くも悪くも無難な立ち上がりだな。僕のターン、ドロー!カモン、終末の騎士!このカードは場に出た時、デッキの闇属性モンスター1体をセメタリーに送ることができる。この効果で、ダッシュガイをセメタリーへ」

 この次に繋げるための布石であろう一手を止める手段は、ない。だけど、ここでエドには選択の余地が生まれた。すなわち、グリズリーマザーに攻撃するか否かだ。属性リクルーターであるグリズリーマザーで引っ張ってこれる最高打点は1500、そして終末の騎士の攻撃力は1400。普通に考えれば、攻撃したら返しのターンで返り討ちになる。

「終末の騎士で、グリズリーマザーに攻撃!」

 ギラリと光る一刀が振り下ろされ、青い熊が両断される。エドは攻撃してきた。それはつまり、彼にその後の策が何かあるということに他ならない。
 だけど、こっちだって馬鹿じゃない。何か企んでいるというのなら、新しい力で相手するまでさ。

「グリズリーマザーの効果でデッキから攻撃力1000、グレイドル・コブラを特殊召喚!」
「何、攻撃力1000だと!?」

 地面に銀色の水たまりが染み出し、ぶくぶくと泡立ちながら赤いコブラの姿になる。

 グレイドル・コブラ 攻1000

「グレイドル……?なるほど、それがお前が手に入れた力か。いいだろう、カードを1枚伏せてフィールド魔法、幽獄の時計塔を発動!」

 修学旅行でも見た、不気味な夜の時計塔。今はまだ12時を指しているけれどあの時計は僕のターンが来るたびに3時間ずつ時を刻み、再び12時を指した時に恐ろしい囚人が解放される。

「これで、ターンエンドだ」

 清明 LP4000 手札:4
モンスター:グレイドル・コブラ(攻)
魔法・罠:なし
 エド LP4000 手札:3
モンスター:終末の騎士(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:幽獄の時計塔(0)

「僕のターン、ドロー」
「この瞬間、時計塔の針が動く!」
「いいや、針は動かさせないね。相手フィールドのカードが発動したことで手札から幽鬼うさぎの効果発動、手札またはフィールドのこのカードをリリースしてそのカードを破壊する!ドレッドガイのギミックはよく知ってるんだ、そう簡単に開放はさせないよ」

 時計台の前に立つ銀髪の少女が、ゆっくりと動き始めた針めがけて腰に差した鎌を投げつける。見かけからは想像できないほどの力で投げられたそれは一直線に文字盤に突き刺さり、時計台はゆっくりと崩れ落ちた。それを見た少女は無表情ながらもどこか満足げに頷き、時計台の残骸には目もくれずに引き返す。
 これでエドのペースはだいぶ崩せたかと思ったが、いまだその表情に変化はない。確かにエドのエースはまだもう1体、ドグマガイが控えている。

「さらにこのターンに、ハリマンボウを通常召喚」

 ハリマンボウ 攻1500

 さて、どうしようか?このターングレイドル・コブラで自爆特攻して終末の騎士のコントロールを奪い、2体でダイレクトアタックすれば総ダメージはだいぶ高くなる。一応そういう戦術もあるにはある。でも、やっぱり自爆特攻はやりたくないな。

「バトル、ハリマンボウで終末の騎士に攻撃!」
「いいだろう、受けよう」

 ハリマンボウ 攻1500→終末の騎士 攻1400(破壊)
 エド LP4000→3900

「コブラでダイレクトアタック!」
「それは通せないな。速攻魔法発動、スケープ・ゴート!4体の身代わり羊が現れ、プレイヤーへの攻撃を妨害する」

 グレイドル・コブラ 攻1000→羊トークン 守0(破壊)

「1枚セットして、ターンエンド」

 不本意ながらもターンを明け渡す。これでエドの場には3体のトークンが揃ってしまったわけだ。……でも、うさぎちゃんを使ってしまった今となっては今度こそ手札誘発はない。

「僕のターン、ドロー。カモン、ダイヤモンドガイ」

 D-HERO(デステニーヒーロー) ダイヤモンドガイ 攻1400

「そしてダイヤモンドガイのエフェクト発動!デッキトップのカードが通常魔法ならば、その効果のみを次のターンに発動することができる、ハードネス・アイ!」

 デッキトップは……通常魔法、火炎地獄。高いバーン性能を持つ厄介なカードだ。だけど、今はそんな先のことを心配している余裕はないわけで。

「羊トークン2体とディーヒーローであるダイヤモンドガイをリリースすることで、このカードは特殊召喚できる!カモン、ドグマガイ!」

 D-HERO ドグマガイ 攻3400

 ……早い!いつか来るかとは思ってたけど、こんなに早く召喚されるとは。昨日のデュエルで嫌と言うほどその強さを見せつけた最強のDが、今再びその悪魔の翼を開いた。

「攻撃力の低いグレイドル・コブラに攻撃したいところだが……何かあるのは間違いないだろうな。ハリマンボウに攻撃、デス・クロニクル!」

 D-HERO ドグマガイ 攻3400→ハリマンボウ 攻1500(破壊)
 清明 LP4000→2100

「さすがに痛い……だけど、ハリマンボウが墓地に送られたことでモンスター1体の攻撃力を500ダウンさせる。ドグマガイには攻撃の報いを受けて貰おうじゃないの」

 D-HERO ドグマガイ 攻3400→2900

「もう1枚カードを伏せる。これでターンエンドだ」

 清明 LP2100 手札:1
モンスター:グレイドル・コブラ(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
 エド LP3900 手札:1
モンスター:D-HERO ドグマガイ(攻)
      羊トークン(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン、ドロー!」
「ドグマガイのエフェクト発動!ライフ・アブソリュート!」
「ぐぐっ……」

 清明 LP2100→1050 

「半分吸われて、残りはこれだけか。だけど、ここから反撃開始!リバースカードオープン、グレイドル・スプリット!このカードは自分モンスター1体の装備カードになって、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 グレイドル・コブラ 攻1000→1500

「今更たかだか500の攻撃力アップだと……?」
「僕が狙ってるのは、このカードのもう1つの効果さ。スプリットは自身を墓地に送ることで装備モンスターを破壊し、デッキから名前の違うグレイドルモンスターを2体特殊召喚できる。これでイーグル、そしてコブラを特殊召喚!」

 コブラの体が中央から真っ二つに裂け、裂けたそれぞれが泡立つ銀色の水たまりになったかと思うと次の瞬間、そこから黄色の鳥と先ほどまでと寸分たがわぬコブラが姿を見せた。

 グレイドル・イーグル 攻1500
 グレイドル・コブラ 攻1000

「なるほど、アドバンス召喚のためのカードを揃えたか?」
「何勘違いしてんのさ、これだけで済むわけないでしょ?戦闘またはトラップの効果で破壊されたグレイドル・コブラは相手モンスター1体に憑りつき、そのコントロールは僕が得る!カモーン、ドグマガイ!」
「僕のディーヒーローのコントロールを奪うだと!?」

 その通り。地面から伸びた銀色の網がドグマガイの全身を覆い尽くしてその体内に吸収され、額に銀色の紋章が浮かび上がった。

「これでバトル、まずはコブラで最後の羊トークンに攻撃!」

 グレイドル・コブラ 攻1000→羊トークン 守0(破壊)

「イーグル、ドグマガイの2体でダイレクトアタック!」
「まだだ!トラップ発動、ピンポイント・ガード!セメタリーに存在するレベル4以下のモンスター、ダイヤモンドガイを守備表示で特殊召喚し、このターン戦闘でも効果でも破壊されなくする!」

 D-HERO ダイヤモンドガイ 守1600

 一斉攻撃で逆転勝利、と洒落込みたかったのだが、さすがにプロ相手にそれは甘かったようだ。再び出てきたダイヤモンドガイを破壊する方法がない以上、別の手を考えるしかない。

「スプリットで出したモンスターはエンドフェイズに破壊されるから、ここは壁を増やすためにフィッシュボーグ-アーチャーを守備表示。これでターンエンド」

 エンド宣言と同時に、イーグルとコブラが形を保てなくなってその場に崩れ落ちる。これは、予想以上に厳しい戦いだ。

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300

「僕のターン、ドロー。メインフェイズ、ダイヤモンドガイのエフェクトで出た火炎地獄の効果発動!相手に1000のダメージを与え、自分も500ダメージを受ける!」

 清明 LP1050→50
 エド LP3900→3400

「そしてこのターンも、ダイヤモンドガイのエフェクトを発動。ハードネス・アイ、デッキトップは通常魔法の貪欲な壺だ。これで次のターンに2枚のドローが約束された。もっとも、それまでお前のライフが持てばの話だがな」
「まだ僕のライフは残ってるからね。油断してるといくらでも足元すくわれるよ?」
「これだけのライフ差で言っても説得力がないがね。とはいうものの、ドグマガイを倒す手段はない。だが、わざわざ倒さなくてもこんな手段もある!カモン、デビルガイ!」

 D-HERO デビルガイ 攻600

「デビルガイ……」
「デビルガイのエフェクト発動、相手フィールドのモンスター1体を2ターン後の未来に飛ばす。そこをどけ、ドグマガイ!ディスティニー・ロード!」

 ドグマガイのコントロールは、グレイドルの力で一時的に奪ったものにすぎない。つまりその枷から外されたドグマガイは帰還した時、一瞬だけ僕のフィールドに来たのちすぐに元々の持ち主であるエドのフィールドに帰ってくることになる。まさかこんなに早く、グレイドルの弱点に気づかれるとは。

「デビルガイのエフェクトを使用したターン、僕はバトルフェイズを行えない。カードを伏せ、ターンエンドだ」

 清明 LP50 手札:1
モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:1(伏せ)
 エド LP3400 手札:0
モンスター:D-HERO デビルガイ(攻)
      D-HERO ダイヤモンドガイ(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン!」

 気になるのは、攻撃表示のデビルガイとあの伏せカードだ。確かにデビルガイは攻撃表示でしか効果を使えないが、返しの戦闘ダメージを警戒してあのカードを伏せたのかもしれない。単なるブラフなのか、それとも罠が仕込んであるのか。いずれにせよ僕のライフに余裕はない、一回でも読み間違えたらその時点でアウトだ。

「だけど、アーチャーが生き残ったのは嬉しい誤算、か。僕の墓地の水属性モンスターはグリズリーマザーにコブラ2体、それにイーグルとハリマンボウの計5体。墓地の水属性モンスターが5体のみの時、このカードは特殊召喚できる!来い、氷霊神ムーラングレイス!」

 氷をつかさどる霊神の1体、ムーラングレイス。本来なら特殊召喚時にハンデス効果を持つこのカードも、あいにく今はただのバニラでしかない。だけど、今はそれで十分だ。フィールドに頼もしくそびえる白と金の姿に向かってこの局面でよく来てくれたね、と感謝の念を送る。

 氷霊神ムーラングレイス 攻2800

「バトルだ、ムーラングレイス!デビルガイに攻撃しろ、ムーンライトレーザー!」

 ムーラングレイスの額の角から青い光線が放たれ、デビルガイが一瞬で消し飛ぶ。

 氷霊神ムーラングレイス 攻2800→D-HERO デビルガイ 攻600(破壊)
 エド LP3900→1700

「やった!」
「それはどうかな?トラップ発動、ダメージ・ゲート!自分が戦闘ダメージを受けた時、その数値以下の攻撃力を持つモンスターをセメタリーから蘇生できる。僕が蘇生させるのは攻撃力2100、ダッシュガイだ!」

 D-HERO ダッシュガイ 攻2100

 長い足にはまるでロボットかサイボーグのように車輪がついた、流線形のボディーを持つディーヒーロー。全く、いつになっても全然戦線が途切れない。そのしぶとさには舌を巻くけれど、ダッシュガイは所詮攻撃力2100。これならムーラングレイスで押し切れるはずだ。
 そう思った直後、チャクチャルさんからテレパシーが走った。

『いや、無理だなマスター』
「(あれチャクチャルさん。なにが無理なのさ)」
『ダッシュガイの効果だ。奴はフィールドのモンスターを1体リリースすることで、攻撃力を1000ポイントアップさせる効果を持っている』
「(1000ポイント!?そんなことをしたら攻撃力3100になって……ありがとうチャクチャルさん、それならそれでまだ手はある!)」

 そこで会話を切り、デュエルに神経を集中させる。確かに通常ならこの時点で積みかもしれない。だけど、まだこの手札には可能性が残っている。ダッシュガイの効果は聞いた感じ起動効果とかいう奴っぽいし、だったらこれで止められる。

「さあ、これでターンエンドか?ならばさっさとエンド宣言をしてもらいたいが」
「……いいや、まださ。メイン2に魔法カード、死者蘇生を発動。幽鬼うさぎを守備表示で特殊召喚するよ」
「ほう?ダッシュガイのエフェクトを知っていたのか」
「ちょっと訳あってね。これでターンエンドさ」

 幽鬼うさぎ 守1800

 ダッシュガイが効果を使った瞬間、幽鬼うさぎ自信をリリースすれば攻撃を受けずに済む。これだけで止めきれるとはこっちだって思ってないけど、確実にこのターンの抑制力にはなっているはずだ。

「僕のターン、ドロー。ドグマガイが帰還するのは次の僕のスタンバイフェイズだが、その前に僕の新たなエースを見せてやろう」
「新しいエース……?」
「お前も僕にグレイドルを見せてくれたからな。これが僕なりのデュエリストとしてのせめてもの礼儀だ。メインフェイズ、ダイヤモンドガイのハードネス・アイが見通した貪欲な壺の効果でカードを2枚ドロー。カモン、ドゥームガイ」

 D-HERO ドゥームガイ 攻1000

 片腕が大型のサイコガンのような形状をした、カラーリングといい羽の形と言い全体的に戦闘機のようなイメージを抱かせるディーヒーロー。見たことないヒーローではあるけれど、だけど、こいつじゃないだろう。

「自分フィールド上の3体のモンスターをリリースし、このカードは特殊召喚できる……出でよ、究極のD!D-HERO Bloo-D(ブルーディー)!!」

 エドの足元に酸化した血のように赤黒い空間のひずみが生まれ、その中にエドの場にいた3体のディーヒーローが吸い込まれていく。まるで本物の血の池のように波紋が立ったひずみの中心から、僕がこれまで見てきたヒーローと名のつくモンスター群からは全く異なる異質な、未知の恐怖とでもいうべき男が浮かび上がってきた。人間らしい顔とはまるでアンバランスな、まるで目のない化け物の頭部のように鋭い牙がびっしりと生えた右腕。明らかに悪魔のそれである鋭い鉤爪と、それを支えて振り回すための太い左腕。闘う前からすでにボロボロになった両の翼はその悠久の戦績を物語り、太い尾がますます悪魔的印象を強めている。

 D-HERO Bloo-D 攻1900

「な、なんだこれ……」
「驚いたか?まあそうだろうな。光栄に思え、このカードは僕も使うのは初めてだ。そしてこれこそが、僕が斎王に戦いを挑むことを決意した最大の理由。あいつには人知を超えた力があるが、このカードならそれに対抗できると僕は信じている。バトルだ、Bloo-D!幽鬼うさぎに攻撃、ブラッディ・フィアーズ!」

 悪魔の翼を異形のヒーローが広げると、そこから文字通り血の雨が降り注ぐ。幽鬼うさぎの綺麗な銀髪が、その中へ消えていって見えなくなった。

 D-HERO Bloo-D 攻1900→幽鬼うさぎ 守1800(破壊)

「これで邪魔者は消えたな。メイン2にBloo-Dのエフェクト発動、クラプティー・ブラッド!」

 攻撃を終えて翼を畳んだBloo-Dの影が背中から無数の筋になって伸び、それぞれに意志があるかのごとく蠢いてムーラングレイスの巨体を縛り付ける。全力で抵抗するムーラングレイスの奮闘虚しくその体は自分よりもはるかに小さいBloo-Dの方へと恐るべき力で引きずり込まれていき、なんと明らかに質量の小さいBloo-Dに丸ごと吸収されてしまった。

「こ、これは……!?」
「Bloo-Dは1体のみ、相手モンスターを吸収して装備カードにすることができる。そしてその攻撃力の半分を自らの攻撃力に加算する」

 D-HERO Bloo-D 攻1900→3300

「だが、これだけでは固定値が上がった代わりにずっと出しにくくなった劣化サクリファイスにすぎない。Bloo-Dを究極のDたらしめているもう1つのエフェクトは永続効果、このカードが存在する限り相手フィールドのあらゆるモンスターエフェクトは無効となる」
「こっちだけに作用するモンスター効果無効効果……そんな無茶な」
「例え誰がいかなるモンスターを繰り出そうと、そのエフェクトをすべて無効にするこのカードの前では無力。これだけの攻撃力があれば、戦闘で突破するのも難しいだろう。さらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 清明 LP50 手札:0
モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:1(伏せ)
 エド LP1700 手札:0
モンスター:D-HERO Bloo-D(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

 もはや僕に手札はない。場に存在するモンスターはアーチャーただ1枚のみ。そしてこのセットカードは、永続トラップのバブル・ブリンガー。レベル4以上であるBloo-Dの直接攻撃を完全にシャットダウンできるのみならず自身と引き換えに墓地のレベル3以下水属性同名モンスター、グレイドル・コブラを蘇生できるカードではあるが低レベルが多いディーヒーロー相手では守りの効果も微妙に心もとないうえに、蘇生効果もネタがばれている以上何らかの対策を取ってから出ない限り攻撃はしてくれないだろうから過信はできない。どちらも決め手になれない以上は最後のこのドローに、全てを賭けるしかない。

「トップ勝負、上等ってね。ドローッ!」

 恐らく最後のチャンスであろう1枚のカードを引き、祈りつつそれに目を向ける。そのカードは………。

「おや、先輩?確か先輩はもうジェネックス参加資格がないはずですが……何してるんですか?」
「あ、葵ちゃん!?」

 鋭い声を頭上から投げかけられ、咄嗟にエドとほぼ同タイミングでデュエルディスクの電源を落として手札を隠す。その声の主は、今では光の結社の中でもトップクラスの地位にいるほどの実力者である葵・クラディー。元・僕の弟子だった娘だ。
 そして、かなり鋭い子でもある。おまけに僕のことをよく知っている。つまり、誤魔化すのは困難と言うことだ。厄介な相手にあったもんだという内心を表に出さないように気を付けながら、できる限りいつも通りに応対する。

「ど、どうしたの葵ちゃん。僕みたいに光の結社の『素晴らしさ』がわかんない相手なんぞに話しかけてさ」
「私も先輩と話してるとどんどん人間の格が下がる気がするから嫌なんですけどね、先輩はあんまり放っておくと何するかわからないタイプですから時々何してるのかだけは押さえとかないといけないんですよ」

 そしてこの相変わらずなきっつい物言い。これに関しては前からそうだったしそれが彼女の魅力でもあったんだけど、僕と一緒にケーキ作ったりクッキー焼いたりチョコ溶かしたりしてるうちは少なくとも他人のことを一方的に見下すようなことだけは言わなかったのに。
 でも、少なくとも何をしてるのかは理解できた。僕の監視とは、ずいぶんと特別扱いされる身分になったもんだよ。僕のグレイドルもエドのBloo-Dも、いわば対光の結社のために手に入れた切り札。こんなところでみすみす明かすわけにはいかない大事な手の内だ。だからとっさにソリッドビジョンを消すために電源を落としたんだけど、葵ちゃんの今の物言いから考えて僕らのデュエルは見ていないらしい。危ない危ない。

「別に、たいしたことじゃない。彼が僕に対してサインを求めてきてね、ペンも色紙もないからどうしようかといっていたところさ」

 ここでエドのナイスフォローが入る。いくらプロだからってエドのサインは別にいらんのだけど、ここでそんな空気の読めてないことを言ったら余計にこじれるだけなので大人しく頷くのみにしておく。まだ胡散臭そうな視線を向ける葵ちゃんを尻目に、若干芝居がかった態度でエドがスーツの内ポケットから1冊の手帳を取り出した。そこにどこからか取り出したペンでさらさらと何事か書き、そのページを破って僕に押し付ける。

「ほら、とりあえずはこれでいいだろう?」
「何となくスッキリしないですが……まあいいでしょう。エドさん、斎王様が探しておられましたよ」
「斎王が、ねえ。わかった、今から向かおう。そういうわけで、悪いが僕は先に失礼するよ」
「そうですか。では、私もこれで。さようなら、先輩」

 最後にこちらに目配せをして、エドが去っていく。ここは、エドに助けられたか。ふと渡された紙に目を向けると、そこには無駄にきれいな字で、

『勝負は預けた。伏せは秘密だ』

 と書いてあった。まったく、気障なもんだ。

「せっかく引いたってのに、ねえ?」

 もう片方の手に持っていた最後のドローカード、お互いの受けるあらゆるダメージがターン1往復の間だけ問答無用で0になる通常魔法カードの一時休戦に声をかける。まあ、向こうの伏せが分からない以上今回は引き分けということにしておこう。結局エドが先に独りで斎王のところに行ったけど、彼は勝てるだろうか。わからないし僕にはどうすることもできないけど、せめてエドが勝てるように祈っておいてあげよう。
 ……決してここでエドが斎王を止めてくれたらこっちが何もしなくていいから楽だなー、とかそんなことを考えたわけではない。うん、そんなわけではない。実はちょっぴり思ったりもしたけど、それはメインの思いじゃないからギリギリセーフ。ただ、十代の言葉を借りれば、エドは僕とデュエルしたんだから僕の仲間だ。仲間が勝つのを祈るのは、当たり前のことだからね。 
 

 
後書き
フラゲ見ない人もいるでしょうから詳細は書きませんが、どうしても一言だけ書かせてください。
来年のエクストラパックがそれはそれは楽しみです。 
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