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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第133話 再戦の誓い



 ちりっ……っと、離れているのに感じる。
 それは、何か?と問われれば、はっきりとした答えは返せなかった。

 闘気?覇気?殺気?気迫?

 形容するとしたら、そう言う言葉が並ぶだろう。ただ、それを戦ってる相手、当事者以外にも、他の者にまで伝える事が出来るのだろうか?

「……む」
「へっ……」

 キリトとユージーンも、それは鍔迫り合いの最中でも伝わってきた。

「あんなの、見せられたら気合が入らざるを得ねえってなっ!!」

 キリトは、巨大の剣をまるで短剣の様に、手足の様に使いこなし、連続攻撃をユージーンに加えた。ずばばっ! と言う衝撃音と共に、斬撃によるエフェクトがユージーンの身体に刻まれる。
 
 ユージーンは、この時ばかりは侮っていた、と言わざるを得ないだろう。
 あの気配に目を奪われてしまったのだから。キリトは、ドラゴの事を知っている。……知っているからこそ、隙などは見せず、即座に攻撃に転じた。ユージーンは、これまでであれ程のもの、お目にかかった事が無かったから。

「一先ず、貴様の首をとることに集中しよう! 貴様は落ちろぉっ!!」
「やってみろ!!」

 空中で体勢を整えたユージーンが素早くキリトと突進し、キリトもその攻撃を躱しながら攻撃を返していった。






「……勝負は、ここから?」
「ああ」
「つまり、今までのは手加減をしていた、と?」
「そう言う訳でもない。……ただ単に集中力。その違いだ」

 ドラゴは、そのままゆっくりと、剣を構えた。それは突きの構え。

(……集中力)

 このゲームにおいて、それは全てを左右すると言っていい。脳でプレイする以上、この世界の身体を動かすのは、脳から発せられる信号だ。それに、切れ味が増せば増す程……、身体能力に変化が現れるだろう。だが、それは気休めだと解釈をしていた。
 なぜなら、この世界での身体能力はステータスと言う数字に縛られているからだ。

 例えるなら、『魔法スキル1の者が、魔法スキル100の者に太刀打ちなど出来るはずがない』など。

 それが一般的なこの世界での常識。……だったのだ。……だが。

「なっ!?」
「………」

 ひゅっ……!と言う音が聞こえたか?と思った瞬間。ドラゴに瞬時に距離を詰められた。まるで、瞬間移動をしたかの様に。一瞬で近づかれ。

 どがぁぁんっ!!! と言う爆音が発生。それは凄まじい速度のままに、剣を振り下ろされ、ジェイドの身体を吹き飛ばした音だ。受け身を取る事も叶わず、ジェイドは台地に叩きつけられる。

「ぐぅっ……!!」

 ジェイドのHPはまだまだ問題ない量だが、思考はぐちゃぐちゃだった。


――……なぜ、突如あそこまでの力を?
――……なぜ、一瞬で目の前に?


 その聡明とも言われる頭脳でも、まるで 思考がまとまらない。

(……こんな事が合って良いのか!?)

 強くそう思ってしまうのも仕方が無かった。これまで、無敗と言う事はなく、破れた事は確かにある。が、それでもここまでのものは感じなかった。だが。

(……)

 ジェイドは考えるのを止め、立ち上がった。飛翔して、ドラゴを見定める。

「……私もこのサラマンダーの部隊の副将としての誇りがあります。……簡単には殺られない!」

 流暢で、淀み無く、何処か余裕さえみせていた当初の口調から一変した。裂帛の気合と共に叫びを上げるその姿に、固唾を飲んで見守っていた周囲のサラマンダー達でさえ、思わず仰け反りそうに成る程。

「……あれか!?」

 ドラゴは、素早く構えた。ドラゴの言う《あれ》とは、ジェイドの持つ伝説級武器であるニルヴァーナ。

「基本性能では、完全に私の負け。……ですが、唯一のアドバンテージである、この武器で、……ケリをつけます!」

 一振りで、炎の魔法を生み出す魔法兵器と言っていい杖。詠唱などはなく、予備動作(ノーモーション)。唯一の有利性(アドバンテージ)だと言っているが、それが唯一にして絶対のものなのだ。近づかなければ攻撃が出来ないドラゴの剣と、遠距離攻撃を速射出来るジェイドの杖。

「……確かに、厄介極まれりだ。遠距離では、分が悪すぎる」

 剣の勝負ではなく、純粋な戦闘力で言えば、彼がサラマンダーNo.1だと言っても過言ではないのだ。

 ドラゴは眼を使い、相手の全てを視る。

 視た上で、相手の全てを丸裸にするのだ。集中させたその眼は、相手のデータ。身体を構成しているデータでさえも読み、次に移る行動、どの部位を動かすのかでさえも視切る。そこから、完全に予測しつつ攻撃に入る為、相手には異常なまでの速度だと体感してしまうのだ。……が、魔法の打ち合いの様な戦いでは距離がありすぎる為、そこまでの効果は発揮出来ない。
 あれ程までの武器ならば、尚更だった。




 戦闘を見守っていたリーファ達は思わず息を飲んでいた。

「拙いな……、黒の彼とユージーン将軍、そして、銀の彼とジェイド。プレイヤー間の実力差は、互角、優勢、と思える。……が どちらも武器の性能が違いすぎる。魔剣といい、杖といい、どっちもバランスを崩しているとさえ、思える代物だ」
「そ、そんな……」
「……リーファだって、わかってるでしょ? キリトの方だって。……今は無茶苦茶な反応速度で回避出来てるけど、アイツの攻撃は防御不能。そんな攻撃が出来る剣で攻撃してくるんだから、何れ均衡は崩れる可能性が高い。……ドラゴの方はホーミング性の魔法の連発を受けてる。……魔法は、殆ど必中。詠唱って言うリスクを排除したあの杖は、近づかなければいけない。正直、あたしはあの魔剣グラムよりも……。あの杖の方が厄介だと思う。……いや、事実上全ての最強の武器と行って良いかも……」

 リタもそう付け加えながら言う。魔法と言うものを知り尽くしているからこその言葉だ。ドラゴが負けるなんて、思えないし、思いたくない。……だけど、どうしても身体能力・武器性能の差と言うのはどうしようもないのだ。

「……確かにネ。ユージーン将軍のあのグラムも十分反則級だと思うけど、あの杖モ……。杖なのに、モーティマーの懐刀、とはよく言ったものだヨ」

 アリシャも同様の様だ。
 自身がテイムし、育て上げたドラグーンを率いたとしても、対抗する事ができるか?…正攻法では、まず無理だ、と思えてしまう。

「それでも……それでも……キリト君は……」
「……あのバカ……ドラゴなら……」

 武器の性能の差を聞いて、圧倒的なその差を聞いても、二人は信じていた。リタも、口では最強の武器等の性質を言っていたが、それでも最後に立っているのは、2人だと信じていた。

『絶対に……勝てる、勝ってくれる』

 だが、その言葉は口には出さなかった。だけど、想いは同じだった。






「ちぃっ……! 厄介な武器をッ……」

 キリトは、ユージーンの攻撃を弾き防御をせずに、全て反射神経のみで、回避をしている。……が、完全に防ぎきる事はどうしても無理だ。長引けば長引くほど、こちらが不利なのは見て取れる。

「ちっ……こんな時こそ、アイツの眼があれば、って思う事は無いな……」

 やや、情けない発言だ、と思ってしまうが、彼のその眼はそれ程魅力的だったのだ。何度、あの世界でほしいと思った事か……数えられない。あの眼、……アイツだったら、或いはこの男の剣技を全て見切っているかもしれないから。

「まだ粘るか!」

 キリトと打ち合っているユージーン。彼の方がHPの残は多いが、最初の余裕は微塵もなくなっている。公約した30秒はとっくに過ぎ、今はもう2分程経過している。……が、それでも仕留めきれないのだ。

 その時だった。

 ユージーンが睨みを効かせていた時、キリトにドラゴがぶつかったのだ。ドラゴが、魔法を受けて飛ばされた、のだと推察出来る。が、相殺しているようで、HPはあまり減っていない。それでも、相手のそれよりは、発動が遅かった為か、ノックバックはドラゴ側で発生し、弾き飛ばされてしまったようだ。

「っ……、悪いな」
「あ、ああ。……互いに厄介なヤツとやってるな」
「……ああ」

 背中合わせになるキリトとドラゴ。

「……怪物、ですね」

 汗を拭う仕草をするジェイド。圧倒的な速射性と火力を持っている武器で攻撃をしているのに、仕留めきれない。自分が圧倒的に攻めれている筈なのに、嫌な汗が止まらなかった。

「……あの武器の弱点。アイツの武器を振るう速度、圧倒的に遅い事だ」

 ……杖は普通であれば軽量武器だが、それなりに筋力値(STR)を要求されるんだろうか?何度か両方視たが、ジェイドが槍を使う時の速さと、杖を振るう時の速さでは圧倒的に遅い。もう一度、接近戦に持ち込む事が出来れば勝機は十分過ぎるほどある。

「……なら、任せろ! ドラゴ!」

 キリトは背後で、素早く詠唱を始めた。文字がキリトの周囲に湧き出て、光り輝くと、ボン、ボボボン!と、周囲に漆黒のけむりが出現した。それは、まるで意思を持っているかの様に、ジェイドを、そしてユージーンを捕らえて、更に広がる。最終的には、見守っている他の皆の場所にまで続いたのだ。

「ちょっと借りるぜ? リーファ」
「わっ!? き、キリトくん!?」

 突然、耳元でささやき声が聞こえてきた。煙幕の魔法を発動してから、数秒もたっていない。
なのに、リーファの背後にまで来ていた様だ。気配がまるで、感じなかった。……影から影へと忍び寄る様に背後へ。

 影妖精(スプリガン)とはよく言ったものだ。



「煙幕!? 目くらましか!」

 ジェイドは素早く杖を構え、そして振り下ろした。生まれた炎の熱気は、漆黒の煙を上方へと吹き飛ばす。

「時間稼ぎのつもりかぁ!!」

 ユージーンも、その魔剣グラムを振りかぶり、剣で煙をずばっ!と切り裂いた。その風圧により、煙は瞬く間に晴れていく。

 煙幕が晴れた場所には2人の姿は無かった。影も形もなく、まるでこの場から煙と共に消滅したかのようだった。

 空中にいるのは、サラマンダーの将軍と副将の2人。それぞれが、周囲を注視しているようだが、見つけられない。


「まさか、あいつら、逃げたん……」

 背後で、ケットシー部隊の1人がそう呆然と呟いた。その言葉を言い終わらさない!と言わんばかりに、リーファは叫んだ。

「そんなわけないっ!!」

 絶対にそれだけはない、とリーファはそれを信じられた。なぜなら、あの時。あの絶望的な状況の中。キリトは言ったのだから。

『絶対に、自分が生きている内は、パーティメンバーの誰ひとり死なせはしない』

 その眼は、このゲームで遊んでいる者の眼ではなく、生きている者の眼だった。

 それは、ドラゴだって同じだ。あの時、見捨てろと言ったのに、拒否した。その時の眼は、キリトのそれと殆ど同質のものだと判ったから。

「……そんなのは有り得ない。絶対に」

 リタも、周囲を見ながら、探しながら言葉を繋いだ。彼女も、見捨てない、見縊るなと言った彼の姿を見ている内の1人だから。

 その時だった。



 天より輝く太陽の中。そこから2つの光が現れた。



 それは、太陽の輝きにも負けない光を放っていた。それは、漆黒と白銀、対照的な輝きは、この世界の全てを照らしている光よりも鮮やかで、そして鮮明に輝いていた。


 その輝きの正体、2人には直ぐに判った。

『キリトとドラゴだ。』

 だからこそ、思わずリーファも、リタも、2人の名前を口に出していた。

「ちっ!」

 強烈なライトエフェクトをバックに付けた、2人の突進。思わず、ユージーンもジェイドも手をかざしたが、決して水平移動をして、光を回避しようなどとはしなかった。そこは、流石というべきだろう。移動をしようものなら、相手の急降下の速度の方がどうしても勝るため、間違いなく上から叩き落とされるのだ。

「私の杖を甘く見ない事だ!」

 ジェイドは、手をかざすどころか、かっ!と見開いて、そして杖を振るった。

 次に現れたのは巨大な炎の塊。

 これまでとは比べ物にならない程の代物だった。杖にマナを加える事で、記憶させた魔法の威力を上げる。連射性にはどうしても落ち、且つ通常よりも遥かにマナを消費し、その後使えなくなってしまうが……。

「ここで終わりです!」

 ジェイドは、2人諸共、炎で消し飛ばす事を狙い、放とうとしたのだが……。

「ぬ!!?」
「なっ!?」

 現れたのは、2人だけではなかった。それは、ジェイドの炎よりもでかい代物。ユージーンの身体を楽に超える大きさの物が突如空中に出現したのだ。数は、2つ、そして2人に正確に落ちてきている。

『……い、隕石……?』

 周囲もあまりに不可解な現象に、呆然とそうつぶやいていた。そんな魔法、隕石を落とす様な魔法は見た事もなければ聞いたこともないから。

 ジェイドもあまりに衝撃的な魔法をみた為、思わず固まりそうになったが。

「ジェイドぉぉ!!相殺しろぉ!!」

 そう叫びながらユージーンも剣を構えた。魔法と魔法であれば、威力にもよるが、ジェイドの魔法なら相殺出来る。そして、自身も。あれは見た事もない魔法だが、必ず防げる。

 自身の愛剣であれば、防げる。

 ユージーンは自分にそう言い聞かせる様に剣を構えたのだ。

「っぁぁぁ!!」

 ジェイドもユージーンの言葉に反応し、炎を一気に飛ばした。マナを全て放出する様に。

「ドアアアアァァっ!!!!」

 天地を揺るがす気合と共に、太陽から降り注いでくる、隕石に向かってサラマンダーの真骨頂でもある重突進をかけ、炎魔法を剣に纏い、ずがぁぁぁっ!と言う凄まじい爆音を発生させながら、隕石を2つに割いた。

 ジェイドも炎の魔法、杖での最大の攻撃魔法をぶつけた。こちらも、どごぉぉぉぉっ!と言う凄まじい爆音。まるで、25tトラックが猛スピードで衝突したかの様な凄まじい爆音が発生し、空気もその魔法の威力で弾けとんだ。

 片方は、2つに割かれ、片方は相殺したのか、爆発を起こし粉々になった。それを、見た2人は一瞬だが、油断した。いや、油断と言う程のものではない。僅かな気の緩み、巨大な攻撃を防いだ事で生まれる微かな安堵感。まだ、敵は生きている筈だから、完全に気を緩めたわけではない。

 ……が、そんなか細い一瞬の隙が勝敗を決する。

 割れた隕石の間から。爆散した隕石の後ろから。

 2人の男が飛び出したのだ。

 キリトが構えるのは、2つの剣。リーファから借りた剣を合わせた二刀流。

 太陽にも負けない程の閃光の輝きとなって、ユージーンの身体に突き立てたのだ。

“どすぅぅぅ!!”

 2本の剣は、ユージーンの胴体を貫きながら落下する。まるで、その軌道は先ほどの隕石、流星を彷彿させる物だった。


 ドラゴは、爆散した隕石の背後から、瞬時に距離を縮めた。ジェイドとの距離は、もうほぼゼロ距離。そこから、自身の持つ剣をキリト同様に突き立てたのだ。

「「がぁぁぁぁぁ!!!」」

 殆ど同時に、断末魔の悲鳴が上がり、そしてそのHPはみるみる内に減少していく。この戦いで一番のクリーンヒットであり、大ダメージだ。ジェイドは、ダメージを受けながらも、武器交換を行い、槍を取り出そうとしているが、この極限の状態であり、彼の戦闘スタイルは基本的に魔法が多い。……近接戦闘で、そして一瞬にして強攻撃を受けた状態で上手くスキルを発動させる事はやはり難しいらしく、そのまま吹き飛んで地面に落下してゆく。

 だが、主に近接を主としてきたユージーンは違う。

 その圧倒的な体幹。
 重装備も苦にならない程筋力値をあげているのだろうか、キリトの落下する流星の如き突きを受けながらも。

「がああああああ!!」

 猛者に相応しい雄叫びを上げながら右手でキリトの顔面を鷲掴みにして抗う。そして、その一瞬の隙をつき。

「ぬおおおっ!!」

 爆炎の魔法を駆使して、キリトを吹き飛ばした。

「お前が落ちろぉぉ!!」

 身体の体を入れ替えようと、飛翔しようとしたその瞬間。

「……っ!!!??」

 ユージーンは凄まじい殺気を感じた。それは、キリトの方からだけではなく……下から。

「忘れるな。これは、2対2だ」

 ドラゴは、ジェイドに突きをしながらも、魔法詠唱をしていたのだ。




「っ!?(こ、この状態で……!?)」

 ジェイドは炎になる刹那の瞬間、……はっきりと見た。自身に全力で攻撃をしながらも、あの詠唱文の螺旋が流れているのが。

 それは、ドラゴの魔法スキルである。

□ 詠唱行動
□ 高速詠唱


 これらを駆使し、組み合わせたスキルだった。他の行動をしながらも、素早く魔法の詠唱が出来るスキル。

 そこから生まれた隕石は、下から上に向かって打ち上がる。重力を無視し、ユージーンに向かって打ち上がったのだ。流石に上から下へ落下する速度に比べれば遅いものの、それでも驚異と言わざるを得ない。

「何ィィ!!?」

 まさか、落下方向から隕石が来るとは思っていなかったユージーン。

「うおぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 キリトは、凄まじい気迫、気勢に乗せてユージーンの身体にあの巨大剣とリーファの刀を同時に振り下ろす。

「ぐぉぉぉぉぉ!?!?」

 両肩にかけて、剣を受けたユージーン。そして、隕石とキリトの剣に挟まれ。

“ずごぉぉぉぉっ!!!”

 空中で大爆発を起こし、ユージーンの身体は、爆散して赤い炎となり……落下していったのだった。



 場に存在するのは、2つの炎。
 当初は誰もが、シルフ側の炎になるとばかり思っていただろう。それは、シルフ・ケットシー側も例外ではない。純粋に勝利を信じていたのは、恐らくリーファとリタの2人。

 あまりの光景に、皆が言葉を発することが出来ず、呆然と立ち尽くす。まるで、魂でも抜かれたのだろうか?とも思える程凍りついていた。

 ……それ程までのハイレベルな戦いだったのだ。

 いや、ハイレベル。という言葉だけでは、収まらないだろう。

 通常のALOでの戦闘は近接ならば、不格好に武器を振り回し、遠距離であれば、芸もなく魔法をぶつけ合う。

 聞こえは悪いかもしれないが、それがスタンダードの形だと確立されているのだ。防御、回避といった高等技術を使えるのは、全種族の全プレイヤーを合わせたとしてもひと握りであり、そして見栄えがする戦いと言えば、月例大会として行っているデュエル大会の上位戦だろう。

 ……が、今回の最大の魅力は、正に剣と魔の融合にあった。

 サラマンダーの剣と魔の最強の2人。スプリガンとフェンリル(相手側は知らない)の剣と魔。

 魔法ならば、魔法のみ、剣ならば剣のみと、どちらかに偏るものなのだが、今回のそれはどちらもインパクトが強すぎる。隕石の魔法も周囲の度肝を抜くものだったが、ユージーンの身体を一気に切り裂いた二刀流にも負けない程のものだった。

 天地を砕かんばかりの豪剣と閃光と思える超高速の二刀流。炎神とも言える怒濤の魔法と天災を引き起こす神々の魔法。

 ……最初にその沈黙を破ったのは、シルフのサクヤ。扇子を掲げながらハリのある声を上げる。


「見事! 見事!!」


 高らかに扇子を掲げた。
 それに続く様に、ケットシーのアリシゃも拳を突き上げながら。


「すごーい! ナイスファイトだヨ!」


 そう称賛を送った。2人のすれが合図となり、全体の盛大な拍手へと変わる。
『ブラヴォー!』『すげーーよ! すげぇぇよ! お前らっ!!』などと叫ぶは騒ぐはのドンチャン騒ぎ。

 それは、敵側であるサラマンダー達も例外ではなく、まるで伝染したかの様に、自分たちが持っている槍を天に掲げる者、脱帽する者、盛大に声を上げる者がいた。

 将軍、指揮官と副官が討たれた事で、心中穏やかじゃないだろうな、と思っていたリーファだったが、それは取り越し苦労だったようだ。

「わぁ……」
「……男って、こうよね。……ふふ、バカっぽい」

 リーファとリタは思わず笑みを浮かべていた。リタは相変わらずの物言いだったが、それでも今日一番とも言える笑顔。今までのサラマンダー側からの仕打ちを考えたら、敵であり、略奪者。
 そして、今回は領主サクヤを狙った憎むべき敵、としてしか見てなかった。だけど、そんな彼らも同じALOのプレイヤーだった。敵も味方も皆の心を揺さぶる程に、彼ら……キリト・ドラゴ・ユージーン・ジェイドの2対2が素晴らしかった、と言う事だろうか。

 不思議な感動につつまれる。リーファは、必死に両手を叩き、何処か呆れた様な顔もしているリタも、ゆっくりとだが拍手を贈っていた。ユイも笑顔で、キリト達の方へと飛んでいった。



「ったく、お前、オレ事吹っ飛ばすつもりだったのか?」
「お前なら大丈夫な気がしたんだ」
「……絶対考えなしだっただろ……?」
「良いじゃないか。魔法と剣の融合。魔法剣の様で見栄えが良かったぞ?」
「お? 確かに、オレもそれ思った! 《メテオブレイド!!!》 って感じだろっ!?」
「……………………ああ、そうだな」
「って、冷めた目で見るなよ!!」

 その素晴らしい戦いを生み出してくれた2人の強者は、事もあろうに、そんな当事者だと言う事も忘れた様に、馬鹿な話をしながら笑っていたのだった。





 その後、キリトとドラゴは蘇生魔法を頼んだ。
 恐らくはサラマンダー側から来るだろうか、と思っていたのだがここで名乗りを上げたのはシルフのサクヤだった。襲われた事実もあるのだが、素晴らしい戦いを見せてもらった事の方が大きかった様だ。
 敗者であっても、あれだけの戦いだ、敬意を示さなければならないだろう。


 詠唱文サクヤは唱えた後、両手から青い光が迸る。その光は、徐々に広がって行き、ユージーン・ジェイドの身体を包み込んだ。すると、赤い炎となっていた身体が徐々に身体を取り戻していく。そして、完全に人の姿に戻った後、一際眩い先行を発し、魔方陣が消滅した。

 ユージーンは、ゆっくりと肩を振り動かすと。

「――……見事、という言葉以外見つからんな。オレが見た中で最強のプレイヤーだ。貴様らは」

 ユージーンは静かな声でそう言った。ジェイドも、軽くため息をした。

「ここまで、しんどい戦いをしたのは、一体いつ以来ですかね……。いや、本当に参りました。完敗です」

 戦いの時は二重人格?とも思える彼の口調だが、誰も突っ込まない。熱くなれば誰であっても、そうなのだろう。男なのだから。

「そりゃどーも」
「正直……オレもそうだ。彼の言うように見事だった、という言葉しか浮かばない」

 軽く応じるキリトとユージーンの言葉に同調するドラゴ。

「スプリガンに貴様のようなプレイヤーがいたとはな。……そして」

 ユージーンは、ドラゴを見た。
 彼がなんの種族なのかは、今でも判らないからだ。

「私も聞きたいですね。貴方は一体何者なのですか?」

 ジェイドがその疑問を変わりに口にした。ドラゴは、やや苦笑いをすると。

「この種族は《フェンリル》。なぜ、この種族になったかは、企業秘密、と言う事だ」

 そう言って目を瞑った。

「新しい種族。……うむ、秘密兵器、最終兵器と言う話は、強ち真実だった、と言う事か。……それにしても、世界は広い、ということかな」

 ユージーンはそう認めた。そして、それを聞いたキリトは。

「オレの話、信じてもらえるかな?」

 そう聞くが。それとこれとは話が別だった様だ。

「………」

 ユージーンは、目を細めて一瞬沈黙した。この時ばかりは、やや饒舌だと言っていい、ジェイドも同様だったようだ。この沈黙を破ったのは、2人ではなく。

「ジンさん、ジェイさん。ちょっといいか?」
「カゲムネか、なんだ?」
「ん?」

 何処かで聞いた名前、だと思ったリーファ。すると、ふと横から殺気に似たものを感じた。

「………キっ!」

 その発生源はリタだ。

 なんだか、恨めしそうに睨んでいる……。そこからでも、思い出せる者だった。リーファたちを襲ってきて、キリトとドラゴが返り打ちにした3人の(ランス)隊のリーダーだった男。……リタにちょっかいを出して来て、炙られた内の1人。
 ひょっとしたら、彼女の名前が広がったきっかけの人かもしれなかった。

「昨日、オレのパーティが全滅させられた、って話はもう知ってると思うけど、まさにこの2人だったよ」
「……ほう」
「へぇ……よく逃げられましたね?」

 ジェイドは、笑いながら聞いた。カゲムネも苦笑いをすると。

「……正直、生きた心地はしなかったよ。おまけに後ろにはウンディーネがいるときた。回復支援のエキスパートもいるんじゃ、根刮ぎ闘争心を奪われても不思議じゃないって思うでしょ?」

「……!?」

 リーファは唖然として、その話を聞いていた。キリトやドラゴも一瞬眉が上にへとぴくりと持ち上がる。が、それを決して顔には出さずに、ポーカーフェイスに戻した。

「それに、《エス》の上方で魔法部隊が追っていたのも、この男たちだ、確か。……どうやら、撃退されたらしいけど。今回の見てしまったら、無理もないよ」

 カゲムネが言う《エス》と言うのは、スパイをさす隠語。若しくは、《シグルド》の頭文字から来るのかもしれない。

「そうか」
「……ふふ。そうですね」

 ジェイドは、ユージーンのほうを見て意味深に笑うと、それに応える様に頷いた。

「……そういうことにしておこう」
「ま、最初の条件をあっさり破っちゃった件もありますし、これ以上はこちら側に非がありますよね」
「……一言余計だ」

 ジェイドの言葉にバツが悪そうにそう言うユージーン。そう言えば、確か30秒もったら、と言う話だった。それも随分昔の事の様に思える。

「確かに、現状でスプリガン・ウンディーネの両種族と事を構えるつもりは、オレ自身にも領主にも無い。この場は引こう。――……だが、貴様達とはいずれもう一度戦うぞ。……無論、今度は1対1でな」
「望む所だ。最後のはオレもちょっと納得行ってない部分もあるしな」

 キリトはそう言って、拳を差し出した。ユージーンも己の拳を打ち付ける。

「やれやれ……、私はもう勘弁願いたいのですがね?」
「……その割には、と言う顔をしてるぞ?」
「そうですか? おかしいですね、顔にはあまり出ない……と言われるのですが……、まぁ、貴方には別なのでしょう。……私はいずれ、貴方と色々と討論を交わしたい、と思いますよ」
「疲れない程度に、ならな」

 こちらは、握手を交わしていた。
 ユージーンは、キリトと拳をぶつけた後、ドラゴの方にもアプローチ。

 手を挙げて、了承するドラゴ。

 そして、翅を広げ……空高くへと飛び上がった。指揮官と副官に続き、火の妖精達は、瞬く間にこの場から立ち去っていった。

「……サラマンダーにも話が判るやつがいるじゃないか」
「先入観は持つな、か。確かに。……良い例だったな」

 2人の感想は似たようなものだった。シルフ達の話も聞いているし、実際に剣を交えてもいる。
そんなのが続いたのだから、仕方ないとも思えるが、あの2人、いや、カゲムネをいれて3人を見たら認識を改めても不思議じゃないだろう。

 リーファはそんな二人に何を言えばいいのか数秒迷った。その間に先を越される事になる。

「あんた達って、ほんっと無茶苦茶なヤツらね。類は友を呼ぶと言うのがここまで正しいとは思わなかったわ」
「はは、よく言われるよ」
「オレはそうでもない」
「あははは! そんなの言っても説得力ないって、ドラゴくん」

 そんな笑い合う4人に、サクヤは咳払いをひとつしてから声をかけた。

「すまんが……、状況を説明してもらえると助かる」

 直ぐ傍にはケットシーの領主であるアリシャもいた。

 彼女はこんな空気も大好物なのか、ニコニコと笑いながら眺めているのだった。



 
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