少年は魔人になるようです
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第103話 少年達は終わりへ踏み出すようです
Side ネギ
「えー、それでは今夜開かれるパーティに行くメンバーを発表します。」
会議開始から二時間。紛糾に紛糾を重ね、その都度脱線しまくったせいで時間がかかってしまった
けれど、漸く新しい計画を動かせる前段階が終わった。
計画の変更点は三つ。旧王宮へは全員ではなく旧王宮と夜会組に別れ、それぞれ行動を完遂。
二つ目は"墓守人の宮殿"の攻略法。三つめは新たに加えられた項目。
「夜会に行き提督の話を聞いて来るのは、僕・のどかさん・朝倉さん・千雨さんの四人。
残った皆は下に降り、先行しているゼクトさんと合流して指示を仰いでください。
こちらの決着がつき次第連絡をしますので、その後合流。"墓守人の宮殿"に向かいます。」
「成程、高確率…ってか確実に戦闘になるだろうから全員纏まって行くのは良いとして。」
「はい、何か?」
「なんで!私が!あんたらと一緒に行くんだよ!!」
会議の結果を話しているのに、尚も可決された事に異を唱える千雨さん。
何かおかしいかな?のどかさんは総督の嘘を見抜けるし、朝倉さんは全員で情報を共有する為に
不可欠な人材だ。千雨さんは―――
「千雨さんが傍に居てくれるとありがたいのですが。」
「オイコラ待てふざけんなよマジでそんな事言ったらお前の嫁がキレんだろうが!?」
「よ、嫁だなんて、そんなー……。」
「自覚あんのかよってかそっちに反応すんのかよ、めんどくせぇぇええええ!!
………あぁ、もうどうでもいいや。分かった分かった、私も行けばいいんだろ。」
赤くなったのどかさんに絶叫したけれど、それで落ち着きを取り戻してくれたのか不承不承
頷いてくれた。・・・良かった。何だかんだ僕を精神的に一番支えてくれているのはこの人
だし、それに多分、僕の勘が正しければ。戦闘になってもこの人なら十二分に立ち回ってくれる。
だから――
「それでは皆さん、最後の準備に取り掛かりましょう!」
『『『おーーー!!』』』
皆の力を信じて。"守る"のは僕の役目だけれど、"助け合って"前に進もう。
Side out
Side 千雨
きゃーー!きゃーー!わーわー!
「ちょっとー、早く寝なさいよー!夜中動かなきゃいけないんだから!」
「マジうるせぇ……。」
午後三時を回った頃。自分らの使う防具もろもろを用意し終わった旧王都行き組はお肌がどうとか
言い出して寝ておく事にしたらしい・・・んだが、興奮してやがるのか既に一時間以上騒いで、
私も眠れずもう出発まで三時間を切ってる始末だ。
少しでも体力を回復しておきたかった所だったけど、仕方なく寝床を出て辺りを散歩する。
「あれ、千雨さん。お休みするって言ってませんでしたか?」
「他の連中がうるさすぎて眠れなかったんですよ。そう言う先生は休まないんですか?」
「いえ、僕は……休んでしまうと覚悟が鈍ってしまいそうで。」
「そうですか。」
言い難そうに目を伏せながら告白する先生に、それだけ言って散歩を再開する。
素気無くされた先生は・・・何故か私の後をおっかなびっくり着いて来る。本当に何でこの人は
私に懐いているのか分からない。ドMと言うよりは、まるで犬みたいだ。・・・ああ、だから
宮崎とお似合いなのか。つーか甘えるならその宮崎にすればいい。そうすりゃまどろっこしい
関係も一気に進むだろうに。
「で、まだ私に何か用があるんですか?」
「へっ!?あ、いえ、特別何があるって事ではないのですが……あっ!ほ、ほら千雨さん。
魔法世界の大きい地図ですよー!」
「誤魔化すの下手過ぎんだろあんたは。」
睨まれた先生は目を反らし、その先で偶然見つけた縦2m、横4m程の大きい魔法世界の地図に
駆け寄る(逃げる)。そのまま放置しても良かったんだが泣かれても困るし、仕方なく後に付いて
眺める。今居るオスティアを中心に、アリアドネー・グラニクスとMMに挟まれる形。それで
ちょい上に旧オスティア。他に聞いた事ある地名つったら、映画の中で出て来た"夜の迷宮"と
ケルベラス、あと先生の親父らが使ってた隠れ家のあるオリンポス山―――ん?
「なんか火星みてーだな、この世界。」
「そ、そそそそうです……ね……………?」
会話が無いのもどうかと思い、ふと過った考えを言ってみると緊張しっぱなしの条件反射の
返答が返って来た。気を使っただけ徒労感がのしかかり、流石に付き合い切れなくなった私は
ダイオラマ球で一眠りするべくこの場を去る事に決めた。
「んじゃ私は戻って寝ますんで「あ、あぁああの、千雨さん!?」……なんすか?」
「い、いえ、今言った事、続けて貰えませんか!?何かが引っかかって……!」
「別に構いませんけど……私もうろ覚えの何となくですよ。学祭で超が火星がどうとか言ってた
時に、ネットで何回か火星の地形やら調べた事があって。それでこの世界の地名やら形やらが
やけに似てんなー、って思っただけですよ。」
「…………か、火星……?まさか、もしかしたら―――」
・・・元々考えがあったのか、私の話を聞いてからブツブツ独り言を始める先生。
普段抜けまくってる分、真面目になると自分の世界に入り込むよな。良い事かって言われりゃ
この人の場合は大抵がマイナス方向になるってのがなぁ・・・と考え込んでいたら、他の
連中まで集まり出した。あぁ、やだなぁ。
「お?なになに二人して、逢引き?」
「ちげーよ。今先生が―――」
こいつ等馬鹿だから説明するのめんどくせぇんだよ。
………
……
…
「火星!そして魔法世界!!つまり、我々が魔法世界と思い込んでいたこの場所は、
実は火星だったんだよ!!」
「「「な、なんだってーー!?」」」
なんとか再起動した先生と共に、いつの間にか全員集合したパーティに授業を開始。
とは言っても情報は私の思い付きだけで、提示できたのはこの世界が火星である可能性のみ。
火星であるなら風魔法とか重力魔法とかを併用して宇宙をパーッと飛んでいけないかなー、
などと馬鹿丸出しの考えをした事は隠している。
「ってそんな訳があるかー!火星ってのは岩だらけで砂だらけであっついのよ!」
「いえ、僕はただ可能性をですね……。しかし地名や地形に無視出来ない程、似た所が
あるのも事実なんです。」
「あのー……良いでしょうか?」
荒唐無稽な話を皆が信じられない中、宮崎が控えめに手を上げる。
「この魔法世界は"異界"、現実に重なり合う様に、或は一歩ずれた所にある物にあるとされて
ました。日本では竜宮城とか高天原、場合によっては天国とか地獄とかもですが。
問題なのは広大な異世界には、それに見合った広大な現実世界の土地が必要と言う点です。」
「…………ほう?」
「私と夕映がここに来る前疑問に思っていたのは、広大な世界に対応する現実世界の空間は
どこか?と言う事だったのですが……その答えがこれ。」
―――私達の住む地球と同じ時空にある火星を媒介に、その上に重なる様に存在する世界、
それが今いる『魔法世界』と言う推論が成り立つって事か。
「す……すっごーい!つまりここはホントに火星ってわけね!」
「いつの間にか宇宙旅行してたって事ね、凄いわよ!大発見!!」
「凄いアル!私とうとう宇宙進出アル!」
「待って、大変だよ!ここが火星って事はつまり!!…………つまり?」
・・・騒いでいた連中が、漸くその答えに行きつく。そう、ここは世界軸は違えど火星。
地球から遠かろう。帰るのも大変だ。凄い発見でもある。つまり――
「……つまり、何?」
「……………火星だからどーだって言うのよ!?」
「意味無ぁああああああい!無駄知識ジャン!明日使おうとしてもどこも使うところないよ!」
あいつらが騒ぐがその通り。そんな情報が入った所で使う手段は私達にはない。
現状を打開して地球に帰るなり、はたまたフェイト達を倒す手助けになる事も無い。
言ってしまえば無駄な情報だ。横で愕然としている、この人以外にとっては。
「―――"つくられたせかい"。」
「え?どしたのネギ君?」
「そうだ、その可能性は極めて高かった。何故今まで気付かなかったんだろう。
つくられたのは何時だ?それによって全てが………全部、繋がっている?」
自分の中で答えを見つけかけた先生は声をかけられても気付かない程、完全に思考の海に
沈んだ。よーしよし、意味不明トンデモ事象の答えを出すのはあんたの仕事だ。
だから私は私の仕事をする為に。
「…………まず寝よ。」
………
……
…
「あーやばい、なんか緊張して来た。」
「そりゃ緊張もするでしょ……こんなセレブリティな空間にいきなり来たら、私達小市民は
縮こまるのが世の常………。」
「朝倉さん絶対嘘ですよね、記者らしくもない。」
しっかり八時間寝て、ダイオラマ球から出て一時間。目立たんようにロリ化して、似合わねぇ
ドレスに身を包んで総督府に続く広い階段をせせっこましく固まって、しかも小声で話しながら
昇る女性陣に対し、一人堂々と先陣を切る先生。なんたるウザさ・・・よりも、だ。
「先生、いいか。」
「はい?と言うか千雨さんはロリ気に入ったんですか?可愛いと思いますけど。」
「あんたロリコンの気が……って、あんたもショタだったな。まぁそれはどうでも良い。」
人の事をロリ呼ばわりした(本体は)ショタ先生にツッコミを入れたい気持ちを抑え、何とか
真面目な顔を崩さず、目の前に立つ。
「先生の言う"世界の秘密"ってヤツな、どうも嫌な予感がする。キナ臭いなんてもんじゃねぇ。
今ここで一歩を踏み出せば、あんたはもうあの馬鹿馬鹿しい、平和な学園に戻れない……そんな
気がする。帰還不能地点って奴だ。……もう一度聞いておくぜ、ネギ先生。」
この先生はあの連中と関わるべきじゃねぇ。日向であの馬鹿共と馬鹿やって笑っているのが
似合うんだ。・・・私の思い上がりだ、そんな事は分かってる。けど――
「あんた、本当に両親の事知らなきゃダメなんだな?あの学園に戻って、皆と楽しく馬鹿
やってるだけじゃ、やっぱりダメなんだな?」
「……………ありがとうございます、千雨さん。いつも何故か僕の事を気遣ってくれて。」
私の問いをどう解釈したのか頓珍漢な礼を先生は言って来る。
気を使って・・・無い訳じゃないが、多分先生が考えている様な良い理由じゃない。
「でも違いますよ、千雨さん。僕はあそこに戻る為に進むんです。
この世界に両親とあの人達が戦い、挑んだ秘密があるなら、僕はそれを知らなきゃいけない。
あの人達の出した答えと………僕が出さなければいけない答えの為に。
ここで引き返してしまったら、例え麻帆良学園に戻ってもきっと僕は後悔すると思います。
だから、ここは進ませてください。僕が僕である為に。」
「へっ。」
「鼻で笑われた!?」
先生があまりに先生らしい事を言うもんだから、思わず笑ってしまった。
別に馬鹿にした訳じゃなく、事ここに至っても信念とか覚悟とか・・・まぁ色々と曲げずに
来てるのを称賛しての事だ。だから私は照れ隠しとか色々混めて先生の背中を思いっきり叩いた。
スパァンッ!
「あぶぁっ!?」
「なら行こうぜ先生。もう覚悟がどうとか聞く事はしねぇ、最後まで付き合ってやるよ。」
「ち、千雨さんカッコいい……!私もどこまでもお供します、せんせー!」
「撮影は私にお任せあれー!」
「皆さん………ありがとうございます!では行きましょう、虎の腹の中へ。」
「不吉な事言うなよ………。」
Side out
Side ―――
「ナギ様、是非今度私の家にお越しいただければ。」「独占取材の申し込みを…!」
「帝国拳闘協会の者ですが――」「ナギ様、ナギ様ぁぁん!」「コジローくふぅんはぁ!?」
「え、や、あのー……あはははは。」
覚悟を決めて夜会に参上したネギ達であったが主賓たるクルトの姿は無く、有名人となった
"ナギ"の所へは参加者が挨拶なのか勧誘なのか、取り入ろうとする貴族達が次々と押し寄せ、
慣れないネギは四苦八苦し、押しやられた女性陣は壁の花となるしかなかった。
「(参ったなぁ、こういう席って初めてだし、この人達何言ってるのかさっぱりだし・・・!)」
「ナギ様。」
「うわぁ!?……って、君は。」
驚いたネギ(と貴賓達)のすぐ横に現れたのは、昼間クルトの傍にいたネギと同じくらいの歳の
少年だった。漸く目当てに近い人物を見つけた事で、萎えかけていた気を引き締め直す。
「ご歓談中の所申し訳ありません。クルト・ゲーデル総督が特別室でお待ちです。
同行者は三名まで……のようですね。どうぞこちらへ。」
「分かりました。行きましょう、皆さん。」
「待ちくたびれたぜ……二度とこんな場所こねぇ。」
場所を弁えない千雨の発言に全員が苦笑しながら先導する少年の後をついて行くと、少し歩いた
だけで、先程の煌びやかな空間とは打って変わり、薄暗く足音だけが響く廊下になる。
まるで神殿の様な廊下を暫く歩くと、大きな門の様な扉に当たる。
「こちらです。」
その扉の先が目的の場所であることを伝え、少年は扉に手をかけ、押し開き――かけた所で止まる。
謎の行動にネギ達が首を傾げた時、それまで無駄に喋らなかった口を開いた。
「……良いお仲間達ですね。」
「え……?」
突如告げられた、恐らくはここにいない者も含めての仲間への賛辞に戸惑いを濃くする三人。
少年は自分でも失言と思ったのか、いえ、と断りを入れて、やや早口で続けた。
「あの村の悲劇から出発した貴方が、あのような友人達を手にしている事を少し羨ましく
思いまして。……今も世界には悲劇が満ち溢れていますからね。旧世界・新世界を問わず。」
「君は……どこでそれを………いや、どうしてそんな…事を?」
「……総督がお待ちです、どうぞ。」
呆けたネギの問いに答える事無く、特別室の扉を開く。
またしても答えを得られず苦々しく思うネギであったが、その向うにいるであろうクルトの
姿を思い浮かべ、緊張の糸を張り詰め―――
ゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオォ!!
「ようこそ私の特別室へ、ネギ・スプリングフィールド君。」
展開された、燃え盛る見慣れた街並みと石化した人々を見て瓦解した。
Side out
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