異界の王女と人狼の騎士
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第十七話
「結界を張るためにどういったことが行われたかを考えれば簡単よ。
人柱、生け贄、人身御供……いろいろとあるけど、結界とは常に誰かの命を犠牲にすることで形成されてきたの命を代償として世界は閉ざされる。
結界はそれぞれの世界の内側で作られる。中の世界を護るためだから当然ね。向こう側の世界で施術された結界は向こう側からでないとこわせないし、もちろんこちら側の結界だって同じ。
いくら強大な力を持つ者がいたとしても、違う世界に設置された結界は外側からは破壊することは、まず、できないのよ。誰かがその世界に入り込み、中から破壊しない限りはね」
「そんなことをやった連中なんているのかい? 」
俺は興味本位で聞いてみる。
「遙か昔、両方の世界は普通に行き来できていた。やがていろんな争い事が起こるようになり、双方にとってあまり利益があるとは思えなくなった。そしてある時……双方の世界の賢人がそれぞれの世界の権益を護るために結界を張ったの。それにより行き来は無くなったんだけど、たまにこちらの世界に来る必要が生じたりすることがあって、一部の王族がこちらの世界の人間と魂を交流させることで彼らと血の契約を結び、自らをこちらの世界に召還させて結界を解いたことがあったと聞いているわ。
とはいっても必要でない時は結界を閉ざすことになっているし、もはやこちらの世界の協力者もおそらく死に絶えている。だから、わたしたちの世界の結界を解いたとしても、こちら側の結界は依然として残ったままだ。それゆえ、世界を行き来するためには結界の解除が必要となる。
でもそんな芸当はサイクラーノシュたちにはできないし、そんな知識も無い。そして奴らと共闘している王族だって、あまりに昔の事だから、その方法があったことさえ知らないみたいね。
ヤツらにできることは寄生根をこちらの世界に送り込み、そいつを人間に寄生させることで操り、こちらの世界に施術された結界を一つづつ潰していかなければならない」
それにしても話を聞いていると、こちらの人間によって召還されて結界を解いたって? まるで彼女が悪魔の子孫のように思えてしまう。まじか?
「その結界を解除するために、寄生根は何をやろうとしてるんだい」
「方法は向こうの世界もこちらの世界も同じだから、サイクラーノシュ本体も知ってるわけ。結界を作るのと同じ方法を用いるのよ。つまり結界の施術に使われた生命体の命を潰すことで中和崩壊させるわけ。こちらの世界では人間になるわね。
一つの結界を潰すのに何人の命がいるかはその施術によって違ってくる。かなりの数の人間の命が必要となるでしょうね。それはわたしにもわからない。でも寄生根はその作業を淡々とそれをこなしていくでしょうね」
当然、沢山の人が犠牲になることになる。
「その通りよ。時は待ってはくれない。お前のように自分の無力さを嘆いてる時間は無いのよ」
確かに嘆いていたって仕方がない。
寄生前の寄生根を叩くことはほぼ不可能。どっちにしても誰かが犠牲になるということなんだ。……辛いことだけど。それは仕方がないんだな。
「ふと思ったんだけど、君がこの世界に入ってくることはどうして可能だったんだい。結界に阻まれて誰も侵入できないんだろ? 」
「それは、わたしが王位継承順位一桁の王族だからよ」
「継承順位が一桁だったら可能なのか」
それ以前に一桁って何なのという疑問もあるが、おとなしく話を聞くこととする。
「一桁の王族は他の王族とは存在の次元が違うのよ。生まれながらにしてそれは定められている、完全なる序列・秩序というものなのよ。
結界というものは、そもそもわたしたち王族の一部が作ったモノで、それをこちらの世界の人間達に伝えてやっただけ。つまりはただの物真似。ならばそんなものにわたしたちが影響されるわけなどないでしょう? そしてそもそも、一桁の王族にはいかなる強力な結界も効力を持たないし、結界を無視することができるようになってるの」
「なんと便利な体だ」
「それが王族の王族たるゆえんだ。そういう存在だから当たり前のことでしょう? 理由などは所詮後付のものでしかないわ。すべては【そうなっている】だけなんだから」
ごくごく当たり前のように彼女は言う。
「ひえ」
「でも、それは過去の遺産のようなものしかないわ。今のわたしたち王族には、それ以外は特筆するような能力はないのよ。他の王族と呼ばれるもの達と力の差がそれほどない。わたしたちは先祖が作り上げた遺産を食いつぶして頂点に君臨していただけかもしれない。そしてそれを退化というのかはわからない」
その話し方はどこか寂しげだった。
「結局はやらなきゃなんないってことだよな。解ったよ。……でも俺は諦めないよ。明日は朝一番で学校に行って、寄生根を探すよ。……難しいってことはわかってるけど、何もしないで誰かが犠牲になるのは耐えられないからね。とにかくできることはやってみたいんだ」
おそらくそれは徒労に終わるだろう。でも、何もできずに誰かが犠牲になるのはもう耐えられないんだ。
自分の無力さはわかってる。それでも何かをやらずにはいられない。
そんな俺を悲しそうな顔で王女が見ていたが、俺は何も言わなかった。
唐突に携帯が鳴る。
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