ソードアート・オンライン〜Another story〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ALO編
第127話 ゲームでも遊びでもない
~中立域・古森 竜の谷境目~
世界樹央都アルンを囲む高山。
シルフ領からアルンに入る為には、高山にある洞窟、《ルグルー回廊》を通らなければならない。故に、アルンを目指すものはその場所を必然的に目指すのだが、今回は違う。
「……この山に沿って、竜の谷側に向かえば目的地付近……か」
「そうね」
取り合えず、ドラゴ達は山を目指して進んだ。そして、そこから山沿いに谷を目指す。光点は、森、谷、山その隣接地帯にあるのだから。
「んー……、やっぱし この辺には何かあるって報告は一切無いのよね……」
リタは、ウインドウにマップを表示させてそう呟く。サラマンダー達との仲の悪さは周知の事実だし、サラマンダー領に近づかないと言う意味ではあまり、この辺りを探索してはいないだろう。だが、それはここ最近の話であり、サービス開始してから1年程経っているのに、何か発見できてないと言うのは考えにくいのだ。
「ん。行けば判るだろう。っと、……やれやれ、この辺りのPOP率は異常なくらい高いな?」
ドラゴが前を注視すると、そこには狼が数匹いた。
まだ視界にはっきりと写っている訳じゃないが、明らかに、向こうは気づいている様だ。タゲも取られた様だ。
「ふーん。ま、あの洞窟が近いから、って訳だと思うけど。それにしても多いわね」
リタも気づいた様で、愛用の鞭。……鞭、と言うより帯といった方が正しい様な武器。鮮やかな緑色の輝きはシルフを象徴しているかの様だ。このスカーフと同質の色だ。
「……あれに攻撃力があるは不思議だな、やっぱり」
傍からは布を振り回している様に見えるのだが……、そこはゲーム仕様だ。その鮮やかな緑色の帯には、風の系譜の力を秘めているのだろう。鞭の様に攻撃した後、真空の刃の追加攻撃がある。
……それを見たら、普通の鞭よりも酷い気もする。
「コラ、あたしにばっかりさせないで、さっさと攻撃する! あ、勿論魔法攻撃ね」
「……戦いの最中でもしっかり見てるな。OKOK」
リタに指摘されたドラゴは、詠唱に入った。様々な文字が踊るように現れ、ドラゴを包み込む。
……それはまるで、光の塔の様に螺旋上に回りながら更に増えていく。
「よしよし……って、はぁっ……!?」
リタは横目で見て、思わず二度見して……驚きを隠せなかった。
さっきまでは、久しぶりの近接戦闘のせいか、ドラゴが詠唱している所を見ていなかった。今回、……改めて、詠唱を見てみるとその異常性に直ぐに気が付く。
――……唱える文の異常な多さに。
包まれる文字の数が通常の2倍……いや、3倍以上はあるだろう。だが、それは包まれる文字の光の柱の高さから算出した数だ。……包まれている文字数を考慮すれば2乗、3乗したとしても不思議じゃない。
その中で、正確に詠唱文を選んでいるのだ。
一言一句、間違える事なく、選び組み合わせていく。
その膨大な数、恐らく何百、何千通りもの詠唱文ができる事だろう。それを全て覚えている……、と言うのだろうか?
「……あんたは、一体っ」
リタは、そう思わずにはいられなかった。平然と詠唱を続けているのだから。
「リタっ!!」
「っ!!」
無数に存在する俊敏で獰猛な獣がいるのに、リタは立ち尽くしている様だった。その隙をつかれ、攻撃されようとしたのだが……。
「ふんっ!!」
素早くドラゴは接近し、剣で撃退する。一撃で、その狼の身体は2つに分かれ、炎となって消滅した。
「今は戦闘中だ、油断するな」
「わ、わかってる! もう、油断しない!」
リタは、気を取り直し、鞭を振るった。リーチも長く、しなる攻撃は通常攻撃でも範囲攻撃となる。
二匹纏めて、叩きつける事ができ、吹き飛ばす事が出来ていた。油断しないと言った言葉に嘘偽りは無いようだ。それ以降は、攻撃も防御も文句なしだったから。
「……よし、リタ! そこを離れろ!」
準備が出来た様で、ドラゴはリタに叫んだ。
本来、通常戦闘で、魔法による攻撃はそこまで広範囲で放つものではない。何故なら、近接戦闘をしている仲間達に当たれば、ダメージこそは通らないが、偶発ヒットとして、認識され障害物扱いとなる。即ち、偶発ヒットしてしまった、プレイヤーの行動の全てがキャンセルされてしまうのだ。
アイテムの使用や移動、そして通常の攻撃。それらが、全てキャンセル……途中から強制的に無かった事にされる。
その上、遅延も起きてしまう為、はっきり言って、広範囲の攻撃魔法はパーティプレイでは、デメリットの方がでかい場合が多い。大規模なBOSS戦をする際は別だとしても。
だが、今回の場合は 2人のみ、という事もあり、そして 相方が見たいと言ったから、と言う理由がある為だった。
「……言われなくても離れる、と言うより逃げるわ……。あんなの見たら……」
リタは、苦笑いをしつつその場から素早く跳躍し、離れた。すぐ傍にまで……迫ってきているから。
隕石の様な、人間大程の塊が迫ってきてるから。
流れ星の様に輝き、瞬いてる星であれば、幻想的で良い……と思うが、あれは違う。……現実世界の天災を目の当たりにした気分になってしまうのだ。すぐ頭上に隕石が現れるなど……。
狼達も、気づいた様だが時は既に遅く……。
“ずどぉぉぉぉぉんっ!!!!”
一発の隕石が、降り注いだ。
それは、着弾点に爆風と火柱を発生させ、衝撃波を生み、地表にクレーターを作った。基本的に、大地も破壊不能オブジェクトに位置するものだから、単純に視覚的効果だと思われるが……、あれなら、破壊しても不思議じゃない、と思ってしまっても無理はないだろう。
「……無茶苦茶ね。あんた」
「……あんた、とは何だ。それを言うなら この魔法が、だろうに」
呆れた様にそう言うリタに、苦言を言うドラゴ。
この魔法がおかしいのは認めているが、括られたくないのだ。だけど、リタは首を振りながら。
「あの異常な詠唱文の数を見たら、……それに、その異常な詠唱を全く間違えずに終えれるんだから十分異常よ」
「ん、暗記系は大得意だからな。……デジタルコードの数に比べたら、魔法の詠唱文の数は、温すぎる」
「そ、そりゃそーかもだけどね。……はぁ、あたしも結構得意分野だと思うけど、あれを即座に対応するのは無理だわ。……なんかショックだわ。でも、絶対に自分のものに……それには時間がかかりそうだけど、一先ずは……ぶつぶつぶつ」
「……はぁ。また始まった」
……なんだか長くなってしまいそうだ。やれやれ、と首を振りながら、歩きだした。
「ぶつぶつぶつ……あ、ちょっと!待ちなさいよっ!」
……置いていかれそうになっているのに気づいたリタは、足早にドラゴの方に追いかけた。
「って、わっ!!」
追いかけた時だ。再び、足元注意。リタの傍にモンスターが現れ、飛びかかってきたのだ。
そして……。
「やれやれ……、目が離せないな。どうやら、しっかりしてる様で、そうでもないらしい」
ドラゴは、素早くリタとの距離を詰めると、素早く彼女を抱え上げた。そのリタがいた場所に、獰猛な爪がめり込む。あのままだったら、リタは攻撃を受けただろう。
……お姫様抱っこの要領でドラゴはリタを救ったのだ。
「わ、わわっ!!」
「こら、暴れるな。……ちゃんとある程度距離取ったら、下ろすから」
「っ!!(ち、近いっ///)」
思いっきり、自分の顔の傍にドラゴの顔がある。その距離に思わず暴れてしまったのだ。……こんな事、初めてだったから。それは、恥ずかしくて、くすぐったい。そんな初めての経験。
でも、間違いないのは、相手がこの男、ドラゴじゃなくレコンとかだったら有無言わず、ぶっ飛ばしていた、と言う事実だけだった。
そして、翅を休めつつ、滞空制限時間が回復したら飛ぶのを繰り返す事十数分。目的地に到着した。その場所は、丁度森の切れ目。マップ上の通り、すぐ先には険しい谷、竜の谷があり、一面が砂漠の様な色。
「ふぅ……。取り合えずこの辺りだな」
「みたいね。この辺りはサラマンダー領の傍だし、あまり来ないから、あんまし知らないけど、何かあるのかしら?」
リタは、辺りを見渡す。見た所、得に変わったものは無いようだ。
「ん……無駄足っぽい? まぁ収穫はあったから別に良いけど。」
西に広がるのは森、東にと北に広がるのは険しい山々。別段変わったものは無かった。
「ふぅ。……そうだ。あんた、じゃなくドラゴ。魔法って他にも何かあるの? ……ん? ドラゴ?」
リタが振り向くと……ドラゴは、何やら1点を凝視していた。その先にあるのは大きめの樹木と岩だった。
「って、どうかしたの? 何があんのよ?」
「いや……」
ドラゴは、凝視したまま、ゆっくりと近づいた。そして、その樹木と岩に近づたその時。
突然、岩が光り、輝きだしたのだ。
「なな、なんなのっ!?」
突然の目も眩む閃光周囲を照らした事に、リタは驚きを隠せれない。通常のイベント発生であるのなら、その場所に《!》マークが現れてから、進んでいくのだから。だが、これは違う。まるでトラップの様に突然現れた。……この場所で今まで こんな事は一切無かったから。
「……これが、プレゼント……か?」
ドラゴは、目を逸らさずにその光点を見ていた。……それが、記憶の手掛かりになるかもしれない、と思ったから。そして、光が止み……そこにとある物が現れた。
「ん? 何これ……?」
リタも漸く目が慣れてきた様で、その光源元が何なのかを確認した。ドラゴの隣に立ち、見てみる……けど、判らない。この森や谷、自然エリアにはそぐわない物、だと言う事は判った。
それは、黒くて、四角い物。
「黒い立方体。無機質型モンスター……?」
リタはそう呟く。
そう、目の前にあるのは、黒い物体……立方体。宝箱かとも思えたが、色がまず違うし、何よりこの物体は宙に浮いている。
擬態モンスターである《ミミック》に似たものを感じたが、どうやら、そうではなさそうだ。何故なら、視認して、更に凝視しているのにも関わらず、カーソルが現れない。だからこそ、モンスター等では有り得ない。単なるオブジェクトの可能性の方が高いが、何故ここにあるのかが判らないのだ。
「……違う」
ドラゴは、リタの呟きを聴いて否定した。
「え? ドラゴはこれが何なのか判るの?」
リタは、驚いてドラゴに聞いた。話しによれば、ドラゴはこのゲーム初心者と言う事を聞いている。
なのに、確信している様だ。
この黒い箱状のモノが一体何なのかを。
「………」
ドラゴは、何も返答をせずただただ、その黒い立方体をただ視ていた。
「ちょっと、聞いてる……っ」
リタは、ドラゴの方を見て……思わず息を飲んだ。いや、厳密には彼の《目》を見て……。その目は通常の輝きではない。この世界でのスキル、《暗視》、《双眼鏡》等、目を使用するスキルを使用する場合は、使用時に瞳の色が変わる。
『そのスキルを使っている』と判る様に変わる。
だから、瞳の輝きが変わるのは別段驚く事ではないが、この男の瞳は真紅の輝きを放っているのだ。この様なエフェクトはこれまで見た事が無い。……この男は本当に何者なのだろうか、と改めて想うと共に、リタは何処か圧倒されてしまっていたのだ。
「……システム・コンソールだ。これは、この世界の根幹と繋がっている」
「……へ? 制御卓? このALOの?」
「ああ。……間違いない」
ドラゴは視線を周囲に向けた。
この立方体から、まるで木の根の様に大地にデジタル・コード。その小さな立方体に、無数の数列の波が押し寄せる様に集まり、そして 再び大地へと還っていく。……視れば一目瞭然だった。
「そんな馬鹿な話ある? コンソールって言えば、GM。管理者がこのゲームのバランスを整える為に使う為の物でしょ?そんなもんって、普通 プレイヤーの往来する様な場所に設置なんかしないでしょ? まぁ、PASSとか設定してたら、安易にアクセスなんか出来ないと思うけど」
「……そう、普通はこんな場所に有る筈の無いものだ。この世界を作った者がこんな場所に設置する訳ない。……だけど、あの声が……」
「え? 声??」
「いや……、悪い、リタ。少々時間がかかるが良いか? と言うか、悪かったら一度帰っていて貰いたい。……今はコンソールに集中したい」
ドラゴは、コンソールに触れ、ホロウ・キーボードを呼び出した。そして、両手の指で素早くキーボードを叩く。
「え、ええ? なんなの? 一体!?」
リタは状況について行けず、面食らってしまっていた。……そんな状況に黙っている筈もなく。
「あーもうっ! 説明してくれるまで、あたしはここから動かないからね!! ってか、GM権限もないのに、アクセスなんか出来るのっ!? まさかとは思うけど、不正をするつもりじゃないでしょうね!? 一体何するつもりなのっ?」
リタはそう言いながら、ドラゴの隣に立った。ドラゴは答える。
「……上手く説明出来ない。ただ、これだけは言っておくよ。……この世界のバランスを崩そうとしたり、このゲームでの不正の類は、絶対にしない。……ただ、ここにあるかもしれない」
「……一体何が?」
「オレの……記憶の手掛かりが……」
「記憶?」
ドラゴは、キーを叩きながら、リタにこれまでの事を説明した。
自分には、空白時間があると言う事。
……時折、まるで走馬灯の様に声や映像が頭の中にながれてくると言う事。そして見つけた物の事を……。
「ナーヴギア……」
「……ああ。オレが今使ってるのはアミュスフィアだ。だけど、メモリだけは違う。ナーヴギアにつけられていたメモリを使ってる。……十中八九、このスキルや種族はその影響……もあると思う。……信じられないなら、無理に信じなくてもいい」
「……まぁ、あの無茶な魔法やあんたの性能も見ちゃってるし、《フェンリル》って種族も実際に見てるしね。……信じざるを得ないって感じ」
リタはそう言って苦笑いをしていた。……だが、驚いた所はそこ以外にもある。
――あの機械は、例の事件以来、市場には出回っていない。
……仮に出回っていたとしても、例の事件のせいで、それを使おうとする者などいないだろう。安全性を最大限に考慮したアミュスフィアなら別としても。それを持っていると言う事は。
(あの事件の当事者……生還者って事?)
その結論に達した。
なら、異常な性能は別にしても、如何なる場合にも冷静に対処出来る、手腕。……戦いの際の百戦錬磨っぷりも理解出来る。間違いないのなら、約2年間も仮想世界で暮らしていたのだから。戦ってきたのだから。
「……何だ? これは」
ドラゴは声をやや荒げながらそう言う。
「え? どうしたの?」
「……いや」
ドラゴが見つけたのは、ある記録。あの世界のサーバーに細工をしたと言う記録。細工、それは、出口の設定を変えたと言う記録だった。本来ならば、現実へと戻れる筈なのに……それを遮断したのだ。
あの世界……《SAO》から、ここ《ALO》へと。
ただ単に、今自分やリタ、キリトやリーファ達がプレイしているALOの世界にと言う訳ではない。また、文字化けしている様で、読み取りにくいが……、幽閉されているも同然だと言う事が理解出来た。
そして、その理由が……。
「………ッ!!!」
ドラゴの表情は、一気に暗く染まった。その最新部で見つけたこの記録……見紛う筈もない。所々、文字化け以外にも虫食いの様な状態になっているが、この記録は…。
「……有り得ない。これは、この研究は全て……っ」
ドラゴは、拳をぎりっ……と強く握り、コンソール目掛けて思い切り殴りつけた。破壊不能オブジェクトだが、そのシステムアナウンスも出ることは無かった。これがここに存在すること自体がイレギュラーだから、だろう。
認識出来てなくてもおかしくない。
「……ここだけじゃ、判らない。……行くしかない」
「……後で教えてもらうわよ。一体どこに行くつもり?」
リタは、黙ってドラゴの事を見ていた。全部、最後には教えてもらうと言って。ドラゴは、ゆっくりとある場所を見据えた。この世界であれば、恐らく何処からでも見えるであろう巨大な場所。
「……世界樹だ。あの場所に全ての真相がある。……この世界のグランド・クエストは、単なるゲームじゃない。ゲームなんかじゃない。そして、遊びでも……ない!」
ドラゴはそう強い言い切ると、ホロウ・キーボードを消した。その瞬間、このコンソールはまるでこの場に初めから無かったかの様に、消滅していった。
そして、暫く移動をしての事。目指している場所は、《アルン》
世界樹のある央都だ。
そこに行くには、まずルグルー回廊を通らなければならないから。
「ドラゴ、それで一体何を見たわけ?」
「……知らない方が良い」
「馬鹿言わないでよ。あんなあんたを見せられて気にするなって言うの?」
鬼気迫ると言う形容があれ程似合うものは無いだろう、と思える様な表情。……殺気に似た気配と表情を。たった数時間だけのパーティだったけど、この男があんな表情をするとは思わなかったんだ。
「その……今はパーティを組んでるんだし……」
「……何だ?」
リタは、顔を思いっきり背けると。
「あたしは……な、仲間……なんだから! その、あんな、あんた見て、ほっとける……わけ、無いでしょ……っ!」
多分、今までこんなセリフを言った事なんて、一度だって無いだろう。比較的仲が良い、サクヤやリーファ達にも……こんな恥ずかしいセリフ言った記憶は……あまりない、と思う。
「……え?」
ドラゴは、その言葉を聞いて……再びフラッシュバックが起きた。
――……これは、何処かの森の中?
その場所には、……自分の目の前には誰かが立っていた。そして……。
『わ、わたしは ■■ウキ君の事、何だか、ほっとけないのっ! すっごく心配なのっ!! だからここまで駆けつけてきたのっ!!』
そう言っていた。大声で言って……そして、自分の事を心配してくれていたのだ。
(……これは……?)
見えてきたのは、鮮やかな栗色の髪が見えた。そして、しばみ色の瞳。……それ以上の表情や姿は見えなかった。でも……以前よりも鮮明に見えてきたんだ。
そして、……この人は自分にとって大切な人だと言う事を理解出来た。
フラッシュバックは消滅し、変わりにリタが横にいる。
「ちょっと! き、聞いてんの!?」
「あ、ああ……」
ドラゴは、はっ、としてリタの方を向いた。そして、表情を綻ばせ、微笑むと。
「……そうか、ありがとう。リタ」
「ふ、ふんっ……! と、とうぜんでしょっ!! そ、その な、なかまだったら……」
ぷいっと背けつつも、ドラゴから見えない様にしながら笑う。
――……こう言うのも良いかもしれない。
リタの中で芽生えた気持ちである。
本当に不思議だった。
本当についさっき、出会ったばかりの相手だ。でも、只者じゃなくて、やる事、なす事が全部型破り。まるで、台風の様に自分を巻き込んでいく様な感じがした。……巻き込まれる様に飛び込んだのは自分だが、それは置いといて。
でも、台風の目の中には、そこには……穏やかで、柔らかい景色が見えた。心地よく感じた。
これが、サクヤ達が言っていた事、なのかもしれない、と強く感じたのだ。だから……。
「……あんたに、ドラゴにあたしは協力するわ。世界樹に行くったって、知ってのとおり、難易度SS級クエストだし、位置情報も色々あるから。だから……」
だから、リタはついて行く事を決めた。最初は魔法を見せてもらう、学ぶだけと思ってたが、最後までついて行くと決めたのだ。
――……もっと、いろんなものが見られると思ったから。
「……良いのか? この先に得られる物は何も無いかもしれないんだぞ?」
「……構わないわ」
「魔法研究熱心なリタが、そこまで言うのか? ……ああ、オレの魔法をみる、という意味では、得られる物はあったか」
「うんうん、そうそう。そう言う事っ! ……絶対にそれ、習得してやるんだからねーっ!」
リタは、探究心で覆い隠した。
……仲間と言うものの大切さを、改めて教えられたと言う事を。リーファやサクヤ達が色々言ってたのに、バッサリと、切ってしまった過去の自分を見つめ直す事が出来た事を。
ページ上へ戻る