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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第125話 目的は世界樹



 それは、ドラゴが暫く考え込んでいた時だ。

「って、ちょっと! 聞いてるっ!?」
「っ!?」

 耳元で、大きな声が聞こえてきた。
 それは、先ほどの様なものではなく、はっきりとした声。

「大丈夫なの? そろそろ行くけど?」
「……どうしたんだ?」
 
 声の主は、リーファ、そして その後のは キリトだった。
 キリトとのやり取りを終え、翅を広げて…… 『さぁ いざ、行かん!』としていた時、ドラゴの反応が遅れたから、そう聞いたのだ。飛んでいて、ちょっと離れていたから、聞こえていないのか?と思い、傍にまで寄ってきた様だ。

「……あ、ああ。大丈夫だ。すまない」

 ドラゴは、ゆっくりと頷くと、背中の翅を広げ……ゆっくりと浮上させる。

 その一連の動作。

 あまりに優雅に見えて……思わず見とれてしまうリーファ。

 翅を広げて、そして羽ばたかせ、大空へと向かう。
 銀色に輝くその翅を見て。これまで、何度も妖精が空を舞う所を何度も見てきている筈なのに。

「……はぁ、本当に初心者なのかな? キリト君は戦闘面に関してだけだけど。ドラゴ君の飛びっぷりは、どーにも……、なーんだか、軽くショックかも。いきなりそれだけ上手に優雅に飛ばれちゃったらさ……」
「む、悪かったな。だが、随意飛行のコツは大体掴んだんだぞ?」

 キリトは、リーファの言葉を聞いて少し、ゲーマーとしての血が激った様だ。……正直、比べられる事にはあまり慣れてない。これまでは、個人的に勝手にライバル視をしてきたからだ。

「さて……待たせて悪かった。良いぞ」
「ん、おっけー! それじゃあ、スイルベーンにまで飛ぶよ! そろそろ賑やかになってくる時間だわ。ついてきて!」

 視界の端にある時刻表示を確認すると、今のリアル時間は午後4時を示している。時間的にまだ潜っていられるし、夕刻のこの時間でログインしているプレイヤーは多いだろう。

 リーファはくるりとタイトターンをして、方向を見定めると、森の彼方目指して、巡航に入った。

 それに続いて2人もリーファを追いかける。

 片方の飛び方には驚いたが、流石に速度を出すのはきついだろう、と思っていたリーファだったが、ドラゴは勿論、キリトもすぐ真横にまで追いついてきているのだ。

「もっとスピード出してもいいぜ?」
「ほほぅ……そっちは?」
「問題ない」

 2人の言葉を聞いてにやりと笑うと、翅を鋭角に畳み、緩い加速に入った。空気を切る様に高い音とともに加速に入っていくが、2人ともほぼピッタリとついてくる。

 ……正直、リーファはまた驚きを隠せなかった。自身MAXスピードの7割にまで到達したというのに、2人とも追随してくるのだ。

 人間は翅で飛んだ事は当然ながら無い。
 普通であれば、この速度で高度で飛ぶと、心理的圧迫を感じて加速が鈍るものだ。現実で言えば、初心者自動車ドライバーが突然F-1レース並みの速度を出そうか、としている事に相違ない。

 普通なら、出せないだろう。

 速度が上がるにつれ、恐怖心も出てくる。それが、空の上なら尚更だ。


――……尋常な精神力じゃない。


 リーファは、そう感じながら、口元を引き締め、最大加速に入った。未だかつて、この速度領域で編隊飛行をした事はない。それは、耐えられる仲間がいなかったからだ。

 速度を増すにつれて、景色があっという間に変わっていく。眼下の樹海。それが先ほどまで緩やかな小川の流れ……緩流だったのが、まるで激流となったかの様に、吹き飛んでいく……。それでも、驚いたことに、2人は涼しい顔でついて来た。

 でも、流石にあのコには辛かった様だ。

「はうー……、わたしもうだめです~」

 キリトの傍にピッタリと張り付いて飛んでいたユイは、すぽんっと再びキリトの胸ポケットに飛び込んだ。やはり疲労感がハンパがない様だ。AIだと言う事を忘れたリーファは、その姿を見て笑う。
 そのユイの姿を見てリーファに続き、他の2人も軽く笑った。


 そして、樹海の景色が変わり、その先の色とりどりの光点の群が姿を現した。それは、リーファの言うとおりだ。一目瞭然、目の前に光のタワーが伸びている事が直ぐにわかった。
 あの辺りがシルフ領の首都なのだろう。

「おっ、見えてきたな?」

 風切り音に負けない大声でキリトが言った。

「光の塔……だな。確かに」

 ドラゴも街を象徴している光の塔を見ながらそう呟いていた。その塔の元に集っている光。まるで、宝石をばら蒔いているかの様な景色。

「さーて! 真ん中の塔の根元に着陸するわよ皆っ! ……って、あ……」

 リーファは、不意にあることに気づいて、笑顔を固まらせた。確かに飛ぶことは問題ない様だが……、これはどうだろうか?

「ねー……、2人とも。ランディングのやり方……判る?」

 恐る恐るリーファは、2人に聞いた。すると、直ぐに1人からは、返答が返ってくる。

「Landing……着陸、着地か。速度を落として、あの塔でって事だろう?」
「そ、そう! そのとおりだよ! ドラゴ君 発音イイね! ……でも、ちょっとミスっちゃったら、激突するんだけど、大丈夫そうねー……?」

 リーファは、ドラゴと色々と話しているけど、キリトからは声が聞こえてこない。さっきまでは、風切り音に負けないくらいの大きな声だったのに、今は聞こえないのだ。今度は、キリトの顔を見てみると……、顔面が蒼白になっているのが判る。
 顔も強ばらせているし。

「………オレは、判りません」
「えーっと……えっとね~、翅をこうやって……って、あ」

 リーファは、既に視界の半ば以上が巨大な塔に占められている。
 急加速・急停止と言った飛行の仕方は思いっきり上位難易度だ。随意飛行よりもずっと難しい。激突する瞬間は、普通に考えたら、速度を上げていくよりもずっとずっと恐怖心がかかるだろうから。先ほどの速度についてきたと言っても……幾らキリトでも……。

「ゴメン、もう遅いや。幸運を祈るよ」
「……? 鋭角に向けた翅の角度戻して、減速させれば良いんじゃないか?」

 リーファは、にへへっと笑い ドラゴはさらっとそう答える。……そして、リーファは急減速に入った。ドラゴも、リーファ程ではないが、しっかりと速度を緩める事は出来ている。
……危機回避は出来るだろう。

 だが、キリトはそうはいかない。

 突然、『早くしないと、激突するよー』って言われても無理だった。

「そ、そんな簡単にいうなって!! お、おいぃ!!」

 塔の下へと降りていく2人を見て、キリトは唖然とした。

 だが、もう後悔しても遅く……。


「そ、そんな……バカなぁぁぁ―――――」


 キリトの絶叫がこの幻想的な光の都の空へと響き渡り、そして塔の外壁めがけて、突っ込んでいく。それは、キリトが初めて随意飛行をしようとした時のロケットスタートの再来だった。

「……これは、もう無理だな」

 ドラゴは、もうほんの数m先にある塔にキリトが突っ込んでいくのを見て……軽く苦笑いをしていた。あそこまで近づいて、そしてあの速度なら、あの後 幾ら、減速したとしても……無理だろう。

「あ……ははは。成仏してねー……キリト君」

 リーファは、心の中で合唱しながら呟いていた。その数秒後、期待通りの音。

 びたぁぁぁんっっ!!! と言うギャグとも取れる様な大音響が空気を震わせていた。
 ……ギャグっぽい展開だが、紙切れの様な感じになるわけでなく、そのまま、キリトはひゅるひゅるひゅる~~、っと地面に落ちていった。


「うっうっ、酷いよ2人とも……飛行恐怖症になるよ……」

 塔の根元に落ちていったキリトの下に行くと……、花壇に座り込んでいるキリトが恨みがましい顔で言っていた。

「……いや、壁が近づいてるんだ。速度を緩めないと激突するだろ? 現実(リアル)でも、車とか自転車とかだったら、追突する前に減速するだろうに……」
「む、無茶いうなっ!! あの土壇場で! ……それに、なんでお前はあっさりと出来るんだよ!」
「……? 別に、普通じゃないか?」
「ぐむむ……」

 キリトは何も言えなかった。
 最初に会った時に判ったけど、ドラゴも初心者なのは間違いなさそうだから。

――……でも、この悔しい感じはやはり懐かしく思える。

 なんで……だろうか。
 どう見てもドラゴがリュウキにしか見る事が出来ないんだ。だけど……、ユイの言うとおり、もし間違いなければ リュウキであれば知らないふりをするのは有り得ない。あの場所で固く交わした約束を、忘れている筈が無い。

――……あの燃えるような朱い空の下で交わした約束を……。


「ったく……敵わないなドラゴには」
「何言ってるんだよ。……別にまだ何も競ってないだろ」

 苦笑いをしている2人を見てリーファも混ざる。

「ま、キリト君が激突しちゃったのは、調子に乗りすぎって言うのが原因だよねー、一番の! やっぱり、冷静さは、持っておかないとさ? 常に冷静(クール)で有れ! ってね。でも、それにしてもよく生きてたねぇ。あたし、絶対に死んだ。って思った」
「って、リーファ! それも あんまりだろっ!?」
「衝撃映像だったからな。無理もない」
「コラァっ! ドラゴまで!!」

 あの最高速度のまま、減速することのないまま壁面に激突していたのだ。
 
 おまけに、ここはシルフ領。

 スプリガンであるキリトにとっては、圏内ではない為、ダメージは勿論通る。なのに、キリトのHPバーはまだ半分以上残っている。運がいいのか、受身がそれなりに上手いのか。

(本当に謎の多い初心者だよね……。ま、あの速度で、涼しい顔でライディングに成功して、隣に立ってるドラゴ君も、そうだけどさ)

 とりあえず、半損しているキリトのHPを回復させようとリーファは右手を向けてかざした。

「まぁまぁ、回復してあげるからさ」

 リーファの周囲に、この世界の言語であろう、奇妙な形をした文字が踊るように周囲を回る。無数の文字、リーファが唱える度に、文字が光、形を成していく。そして回復スペルを唱えると、青く光る雫が手のひらから放たれ、キリトに降り注いだ。

「おっ! 凄い。これが魔法か……」

 興味津々、という風に、キリトが自分の体を見回した。降り注ぐ光は、本当に安らぎを与えてくれているかの様にも感じる。

「高位の治癒魔法はウンディーネじゃないと中々使えないけどね?やっぱり、回復な方は必須スペルだから、君達も覚えておいたほうがいいよ」
「へぇ、種族によって魔法の得手不得手があるんだな。……ん、なら、スプリガンはどうなんだ?」
「トレジャーハント関連、それに幻惑魔法かな? どっちも先頭には不向きだから、このゲームじゃ不人気種族No.1なんだよね」
「うへぇ…、やっぱり下調べは大事だな……っと」

 キリトは、視線をドラゴに向けた。
 どうやら、ドラゴはウインドウを見ている様だ。

「ドラゴの種族は、何だか判ったのか? そう言えば」
「ん~、それはあたしも聞きたかった事だね? どう? さっきからウインドウ見てるけど、判った?」

 ドラゴに視線が集中する。
 ドラゴは、ウインドウから目を離すと。

「《フェンリル》……だそうだ。随分と妖精とは そぐわないな」

 ドラゴは、ウインドウを見ながらそういった。


――……フェンリル。

 ……北欧神話に登場する銀狼。
 普通の狼だったのだが、次第に力をつけて神々にも慄くほどになり、災いをもたらすと予言されたこともあって、主神の命により封印……。とあまり良いイメージではない。

「どちらかと言えば、敵側になりそうな種族……と言うか妖精だな。リーファが知らないとなれば、オレだけみたいだが……」
「あははー、みたいだね? ひょっとして、間違えて敵キャラに設定さちゃった……、とか?」
「敵キャラか。って事は、なるほど!なぞは解けた。ドラゴもAIか! NPCか! だから、あんなに飛行出来たんじゃないのか?」
「そんな訳あるか、アホ。……まぁ、証拠を出すつもりはないが、一応違うとだけ言っておく。リアルの情報を提示するわけにもいかないからな」

 ドラゴはため息を吐きつつも、証明の仕様も難しいから、そう言っていた。
 何を言っても、敵キャラが、こうやって各種族に入り込む仕様にする為に、プレイヤーと変わらないウインドウを用意したり、と出来る。だから、本当に証明しようと思ったら、現実で会う以外は無いだろう。
 ネットゲームで、それはタブーだから、文字通り不可能だ。

「ま、そこまではしないって。言ってみただけ言ってみただけ」

 キリトも苦笑いを返した。

「あたしは、フェンリルって言われて、何処かなっとくしたなぁ、容姿……と言うか、その髪の色でさ?綺麗な銀色だしね」
「髪の色って、ある程度は種族の色がありそうだが、簡単にカスタマイズ出来るんじゃないか……?出来る範囲でなら」
「ま、まぁ、そうだけどさ?いきなり空から降ってきたんだし。この世界じゃ飛べるから珍しくもない気はするけど、容姿が見た事なかったもんね。だから、なっとく出来たんだ」

 リーファも笑っている。

 種族もはっきりして、一通りした後。

 このシルフの街の話題に移った。リーファにとっては、見慣れて、住み慣れているホームタウンだけど、2人は初見だ。

 この街、スイルベーンは、別名《翡翠の都》と呼ばれている。

 華奢な尖塔郡が空中回廊で、複雑に繋がり合って構成されている街並みは色合いの差こそあれ、皆艷やかなジェイドグリーンに輝いている。……飛んでいる最中にも思った事だが、幻想的の一言に尽きる。

 そんな時だった。

 街並みに行き交う人たちは、やはりスプリガンがいるから、何事かと目を向けている者達はいたが、隣にシルフの女の子がいるから、別に騒いだりはしなかった。そんな中で、話しかけてきた者がいたのだ。

「リーファちゃぁん! 無事だったの!」

 声がする方に顔を向けてみると、手をブンブンと振りながら近寄ってくる、黄緑色の髪の少年、シルフが見えた。

「あ、レコン。うん、どうにかねー」

 リーファの前で立ち止まったレコンは目を輝かせていた。どうやら、あの戦いの時にやれれてしまった仲間の様だ。そして、リーファも流石に負けてしまうと思っていたらしい。

「すごいや! アレだけの人数から逃げ延びるなんて、さすがはリーファちゃん……って……!!」

 今更……と思えなくもないが、リーファのそばに建つ黒衣の人影に気づいて慌てていた。

「なな、す、スプリガンじゃないかっ!? なんで、ここに……!?」

 慌てて、飛び退くと、腰に差してあるダガーに手をかけようとする。レコンの行動を見たリーファは、慌てて制した。

「あ、良いのよレコン。さっきの件だけど、この人達が助けてくれたの」
「へ……? 達?」

 唖然とするレコン。
 そして漸く気づいた様だ。……ここにいるのはスプリガンだけじゃなく、見た事のない容姿の人物がいるのを。

「あー、こいつはレコン。あたしの仲間なんだけどね、丁度、君達と会う前にサラマンダーにやられちゃったんだ」
「成る程、そりゃ助けるのが遅れてしまって悪かった。オレはキリトだ」
「……ドラゴだ」

 初対面でも、気さくに話せるキリトと、やっぱり何処か人見知りなドラゴが実に対照的で、リーファは思わず吹きそうになるのを堪えていた。

 そして、レコンも、キリトの差し出す右手を握り、ぺこりと頭を下げる。

「あ、どもどもって、いやそうじゃなくって!! 大丈夫なの? リーファちゃん! スパイとかじゃ?? って、この人……何??」
「……俺のことを、何?っていうか?まぁ、仕方がないんだろうけど」

――……キリトへのスパイ疑惑。

 それは判らなくもない。
 ここ、シルフ領はシルフでなければ、圏内じゃないし、一方的にキルする事も出来る。そんな他種族にとっては、危険地帯としか思えない場所にシルフであるリーファといれば……、何かよからぬ事を企てているのでは?と思っても仕方がないだろう。
 レコンはリーファについてはよく知っているから。悪い意味で騙される事だってありえるのだ。《レコン談》

――……この人、何?

 ……正直、これも無理もない事だ。
 最初はNPCだろうか?と思った。でも 何処か違う様子だ、とレコンは感じたようだ。

「え? リーファちゃん、ひょっとして何かのイベント・クエストでも発生させたの??」
「違うって、この人は……あーっと、あたしも上手く説明できないけど、プレイヤーなのは間違いないよ。それに、こっちのスプリガンの人の件だけどね……、あたしもちょっと最初は疑ったけど、スパイって感じが全くないよ。だって、天然ボケが入りすぎてるから」
「って、ひでぇ! オレだけ何でそんな辛口??」
「えー、言わないと、わかんないかな?わかんないのかなっ?」
「う゛……」

 リーファは、いやに笑顔で指をさしながらそう言う。
 その先には、苦笑いをしていたが、街が気になる様で色々と観察をしているドラゴの姿。やっぱり、妙にクールだから キリトの方が子供っぽくおもえてしまうのは無理もないことだろう。

 そんなやり取りも目を丸くしていたレコンだったが、とりあえずリーファが2人のことを大丈夫という以上は、多分大丈夫なんだろうと、この件は終わらせて、本題に入る為咳払いをした。

「リーファちゃん。シグルドたちは先に《水仙館》で席とってるから、分配はそこでやろうって」
「あ、そっか……ん~~」

 このゲームでPK推奨とされる由縁、それは、もし敵プレイヤーに殺されたら、持っている非装備のアイテム30%をランダムで奪われてしまうと言うシステムにあった。
 勿論、奪われる事を阻止する為にも様々な方法があり、勝つ・逃げるを除けば保険枠と言うものがある。もしも殺された場合、奪われずに指定したプレイヤーに自動的に転送されると言う仕組みだ。
今回は、腕もシルフ領では上位であるリーファがその保険枠となっていた為、しつこくあのサラマンダーの連中に狙われたと言う理由もある。

 ……狩りが終わった後、このレコンとの練習に付き合ったおかげで、あの連中に見つかったと言う最大?の理由もあるが、それはとりあえず置いとこう。レコンは死んだが自分はキリトやドラゴのおかげで逃げる事が出来たから。

 兎も角、今回の狩りの稼ぎは全てリーファが持っている為、それの分配を馴染みの店でしよう、と言うのがレコンの話だ。

「あたし、今日の分配はいいわ。スキルに合ったアイテムもなかったし、あんたに預けるから4人で分けて」
「へ……? リーファちゃんは来ないの?」
「うん。今日助けてくれたお礼に、2人に一杯おごる約束があるしね?そのおかげでもって帰って来れたし」
「………」

 先ほどとは多少色合いの異なる警戒心をにじませているレコン。

「ちょっと、妙な勘ぐりしないでよね!」

 リーファはレコンのつま先をブーツでこつんと蹴った後、トレードウインドウを出し全てのアイテムを転送した。……最後まで、レコンは納得した様子は無かったものの、リーファは強引に話を切り上げて離れようとしたのだが……。

「あれ? ドラゴ君は?」
「あ、ああ。アイツならあそこに……」

 キリトは苦笑いをしながら指をさす。
 その指した先には妙な人集りが生まれていた。

 さっきまでは、レコンと色々と話したりしてて、気付かなかったが、主に女性プレイヤーが輪を作っているのだ。

「ねーねー、君、NPCじゃないんだよね?シルフでも無さそうだし……見た事ないね~。なんでシルフ領にいるの? って言うよりどこから来たの?? 種族はなーに?」
「わぁ、そのアバター可愛い! ちょっと一緒にお茶しない??」
「銀髪って、珍しいよね……、何だかクールって感じっ! わっ お顔も綺麗ーっ!」

 ドラゴを囲っているのはシルフの女の子達。
 このシルフ領土では、アイドルの様な男プレイヤーはいない。寧ろ逆であり、リーファの様な可愛い女の子プレイヤーに寄ってくる男達が多いのだ。……レコンは顔見知りっぽいけど、完全に後者位置だと言えるだろう。そんな中、あのドラゴの姿を見て、興味がわいた様で人だかりが出来た様だ。おまけに、種族が判らない事もそれに拍車を掛けている。
 話が通じる以上は、NPCじゃないから。

「あの……ちょっと悪いけど、先約あるし、そこ通して……」

 強くいう訳でもなく、穏便にとしているのだけど……、中々解放されずに もみくちゃされてる寸前のドラゴ。相手が女の子だという事もあり、蹴散らすわけにもいかないし、何よりここはシルフ領だから相手にダメージは通らないからそもそも無理だ。キリトも、手助けをしようか、と思ったのだが 気づいた時には囲まれてたので、リーファを頼りにしようとしたのだ。

「あはは……ま、確かに、うちにぱっとする男の子っていないからねぇ……」

 ため息をしながらも、助け舟を出すリーファだった。

(……そう言えば、あの時のアイツもこんな感じだったよな)

 遠い記憶の様に今のドラゴとあの男を重ねて見るキリト。確かに彼のことは気になるし、今も引っかかりが取れないのも事実。あの時だって、リーファとの話が終わったら自身の素性を明かし、本当に言おうかと決意を持とうとしたが……、やはり、怖くなったと言う事もあり、言えなかったし、聞けなかった。

 ……ユイが思っていた事は、間違いではなかったのだ。

 それに、キリトにはまだやらないといけない事がある。
 どうしても、やらなければならない事がある。それが、この世界に降り立った最大の理由。

 《アスナ》を助ける為に、ここに来たのだから。

 その事が頭の中を過る。
 ドラゴの件は、100%だと確信を持てない以上は……、今はアスナに集中しようと、キリトの中で決め直した。

(……アスナ。……そしてリュウキ、いや、隼人。お前のことも絶対に見つけてやる。玲奈にはお前が必要なんだから)

 まだ見ぬ親友に向かってキリトはそう思い馳せていた。




 そして、その後。
 何とかドラゴを回収?する事が出来た一行は、リーファが御贔屓にしている《すずらん亭》と言う酒場権宿屋へと来ていた。

『さっきの様な事があるなら、も、いい。……もう行く』

 と、別れようとしたドラゴだったが……、リーファは引き止めた。この時間帯なら、大丈夫だという事と、そこには離れた個室もあり、問題ないといったのだ。……何処かその仕草が可愛いと思ったリーファだった。

「ね? ここなら大丈夫でしょ?」
「……そうだな。なんだったんだ? さっきのは……」

 席に着くと、ため息をしながら げんなりとしていたドラゴ。
 この時……昔こんな事があったような気もしないでもなかったが、さっきの事を思い出したくなかったから、と深く考えなかった様だ。

「たはは……」
「皆さん、ドラゴさんの事が好きなのでしょうか?」

 ユイがキリトの胸ポケットからひょこっと顔を出してそう聞いていた。

「好き? 今日初めてあったんだぞ? 知らない相手から、そんな事ありえないだろう……」
「あ、それもそうですが、さっきの人たちを見てたら そう思いまして」
「あはは、珍しかった、って事もあると思うよ。本当にぱっとしない男ばっかりだし。……それにしても本当にすごいね? このナビゲート・ピクシー。……そんな事まで判るんだ」

 ある程度の感情の機微にまで話に加わってくるユイを見て目を丸くさせるリーファ。

「あ、ああ。こいつはちょっと変なんだよ」

 キリトは、慌ててユイを胸ポケットに押し込んだ。
 ユイは、厳密にはナビゲート・ピクシーとは少し違うし、あまり触れて欲しくない事だからだ。

「まっ、良いわ。それより改めて……」

 リーファは、注文した死なじなをテーブルの上に並べると、不思議な緑色のワインをそれぞれに配る。そして、ワイングラスを手に持ち。

「助けてくれてありがとね? 2人とも」

 グラスをかちん、と合わせてそういった。
 こういった事に慣れてないのだろうか、少しぎこちない仕草のドラゴだったが、キリトとリーファに習い、少し遅れてグラスを合わせた。

「ま、成り行きだったしな?」
「それを言えば、オレなんか突然あの場所に落とされてあの場面に遭遇したんだ。……それを考えたら、運営側に文句を言いたい気分だよ」

 2人は苦笑いをしながらそう言う。キリトは自分と似たようなモノだったのか、と一瞬思った。
こんなバグもまたありえるのだろうと、何処かで納得したようだ。
 普通は有り得ない。……だけど、これまでにVRMMOで様々な体験をしていたキリトには、そこまで深くは考えなかった様だ。

「へー、それも珍しいよ? スプリガンのキリト君は迷ってきたって言ってたけど、それに負けないくらい。まぁ、その容姿、フェンリル、だっけ? 新しく実装される予定の種族が、手違いでドラゴ君の所に来たのかもしれないし、考えようによってはラッキーだったかもしれないね?」
「ん……。まぁ、別に問題はないが……、もう、目立つのは勘弁だな」
「あはは、んじゃあさ」

 リーファは、アイテムストレージから、ある頭装備品を呼び出した。それは、鮮やかな緑色のマフラーの様な布。いや、マフラーよりは随分と大きい。

「これ、スカーフだけど、バンダナみたいに頭につける事もできるし、目立つの苦手なら、有りかも。この装備品プレゼントするよ」
「……ん? あ、ああ。ありがとう」

 ドラゴはきょとん、としたが、とりあえず手に取って、頭に装備してみると……、あの髪は隠せるし、顔も隠す事ができそうだ。
 《ウィンドル・スカーフ》と言う名前のもの。


 そして、色々と話をする内に、話題はさっきのサラマンダーたちの話になった。

「もともとサラマンダーとシルフは仲が悪いんだよ。領地が隣り合ってるから、中立域の狩場じゃよく出くわすし、勢力も長い間拮抗してたしね? でも、ああいう組織的なPKが出るようになったのは最近だよ。……きっと、近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな?」
「ああ、あの理不尽な難易度、と言っていたクエストか」
「そう、そのクエスト。まだ糸口を見つけたっていう情報は無いんだけどね」

 リーファとドラゴが、世界樹のクエストで話ている時、キリトが乗り出した。

「ちょっとまった。ドラゴも知ってるのか? あの世界樹のこと。オレはそれが知りたい。教えてくれないか?」
「ん? ああ。キリトが空を縦横無尽に飛んでた時、リーファに聞いたんだけど」
「……う゛」

 キリトは、ドラゴにそれを聞いて、何やら喉に引っかかったように声を唸らせた。
丁度、練習中の時の事であり……、ちょっとした黒歴史になってしまってるものだ。

「あはは! あれは、傑作だったわね!」
「し、仕方ないだろ? 初心者だったんだから。こいつがちょっと異常なんだよ」
「コツがある、って言ってたしな。……誰が異常だ。失礼な。 それに異常と言えばキリトもそうだろ? 初心者がサラマンダーのあいつらを圧倒できるのか? お前の熟練度までは把握しきれていないが」
「……あたしから言わせたら、どっちもどっちなんだけどなぁ」

 リーファは2人のやり取りを見て苦笑いをしていた。
 方や、圧倒的な速度と力で、サラマンダーの重装備を一蹴。方や、まるで目が3つあるかの様に、全ての攻撃を見切ってしまって、その上で一蹴。
 ……どっちも、サラマンダー側からしたら、たまったものじゃないだろう。

 まさに未知との遭遇だ。UMA出現だ。

「それで? キリト君。君はなんで知りたいの?」
「世界樹の上に行きたいんだよ」

 キリトのその回答に、リーファは少々呆れていた。ドラゴは、少し前にリーファから、そのクエストが この世界のグランド・クエストと言う事を聞いていたから、リーファが少し呆れているのにも理解出来た。全ての種族が目指している場所だからだ。
 ……でも、キリトのその目を見たら、その真剣な目を見たら……、冗談の類で言っているとは、リーファは思えない様だ。

「……世界樹の上ね。それ、多分全プレイヤー……っとと、ドラゴ君はまだ初めて間もないから仕方ないにしても、ね。だって、それがこのALOっていう世界の目標地点。……グランド・クエストだから」
「へぇ、と言うと?」
「この世界で飛翔ぶ制限時間。……滞空制限がるのは知ってるでしょ? それって、どんな種族でも連続して飛翔べるのは、精々10分ってトコなの。でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、《妖精王オベイロン》に謁見した種族は、全員《アルフ》って言う高位種族に生まれ変われる。そうなれば、滞空制限は、なくなって、いつまでも自由に空を飛ぶことができるようになる……」
「……なるほど。確かにそれは魅力的な話だな。世界樹の上に行く方法っていうのは判っているのか?」
「うん。世界樹の上にいくには、その内側、根元のところは大きなドームになってるの。その頂上に入口があるってされてて、その上に向かうのがクエストなんだけど……、凶悪極まりないガーディアン軍団が守っててね。誰1人、どの種族も到達出来てないの。みーんなあっけなく全滅。それで、現時点ではサラマンダーが最大勢力だからね。だからなりふり構わずお金を貯めて、装備アイテムを整えて、次こそはって思ってるんじゃないかな」

 サラマンダーたちの行動理由を考えたらそれしか無いだろうと、リーファは考えていた。領地も隣同士で、狩場の奪い合いで仲が悪いのは昔からだが、組織だった攻撃は今までに一度も無かった。
 リスクも当然ある。そんな事をし続けたら、全面戦争になってもおかしくないからだ。
そして、戦争は、互いに消耗すること必至。互いに多大な損益を出せば、世界樹攻略が遠のいてしまうのだから。

「そのガーディアン、聞いた話だと相当なものらしい。当然だろうな、ゲームのサービスが開始されて今日まで、突破出来たものはいないそうだからな」
「それは、確かにヒドイ難易度設定だな……」
「そうよ、全く。だから去年の秋頃に大手のALO情報サイトが署名を集めて、レクトプログレスにバランス改善要求を出したんだ」
「それは、聞いてなかったな」
「へぇ、それで?」

 一瞬は期待もしかけたが、現状を見れば大体察する。リーファも首を左右に振った。

「お決まりの回答っぽい。『当ゲームは適切なバランスをもとに運営されて~』だってさ。だから、最近は正面突破は絶対に無理だから、今のやり方じゃあ世界樹攻略はできないっていう意見も多いわ」
「……なるほど、何かキークエストを見落としている、もしくは単位地の種族だけじゃ絶対に攻略はありえない……」

 キリトが自分の考えを口にした時。
 横で、グラスに口をつけていたドラゴがゆっくりとグラスを離して口を開いた。

「……えげつないな。後者だとしたら」
「え?」

 ドラゴの言葉が気になったのか、キリトはドラゴの方を向いた。

「うん。だよね。だってさ? キリトくんの言うとおりだとして、協力しないと無理だったら、到達した最初の種族しか、《アルフ》になれないんだし、その時点で争いの種になっちゃってるもん。そんな後暗い協力関係なんて、あのガーディアンを前にしたら、あっという間に崩れちゃうだろうからね」

 リーファはドラゴの大体の考えを判ったようでそう答えていた。

「……じゃあ、事実上は世界樹を登るのは不可能……ってことなのか……?」
現時点では(・・・・・)、だろうな。……確かに1つのクエストだと考えたら 長い道だが。《まだ》1年だとも言える。……解放されていないクエスト、アイテム、まだまだ有る筈だ。ユーザーを手放したくないのはどこも同じだろう」

 キリトの言葉にドラゴはそう返したが……、内心では、ユーザーが離れる事は無いと確信は出来ていた。例え、世界樹の難易度がそのままであったとしてもだ。

「ま、確かにね。今の時点でも、クエストは他にもいっぱいあるし、判ってないクエストもそう。生産スキルを上げるっていう楽しみもあるけど、諦めきれないよ。この空を飛ぶ楽しさを知っちゃったんだから」

 リーファの言葉は、顕著に捉えていた。
 そう、そこがこのゲーム最大の売り。空を飛ぶ事は遥か昔から人類が夢見てきたことだった。
様々に考察されて、飛行機が生まれ……そして、進化しこの世界での飛行能力まで行きつけたのだから。

「だから、ドラゴ君の言うような事は無いってあたしは思うな。このゲームから人が離れちゃうのはさ? だから、何年かかったって」
「それじゃ遅すぎるんだ!」

 そんな時だった。
 キリトの口から、押し殺したような声で叫び声が聞こえてきた。眉間には皺が出来ており、その拳は強く、そして固く握られていた。

「パパ……」

 両手で、クッキーを抱えて齧っていたユイだが。
 キリトのその姿を見て、ふわりと浮かび上がり、そして肩に止まった。そして、なだめる様に、その頬に小さな手を這わせた。

「っ……ゴメン。驚かせた」

 キリトは、低い声で謝罪をするが……決して諦めないと言う口調で言葉を発する。

「でも、それでも、オレは世界樹の上に行かなきゃいけないんだ」
「………」



 ドラゴは、この時のキリトの目を見た。


 強い決意の目。……何かを、大切な何かを守ろうとしている様な、助けたいと思っているかのような目。それは、自分もよく知ってる目だった。

 遠い昔に見た事があるから。……もう、何年前になるだろうか。……そう。

――10年程前の……。


 ……彼女の目と今のキリトの目はよく似ていたのだ。
 ここは、仮想世界だと言うのに……、何故かキリトの目は彼女に似ていた。

 だから……。

「……キリトにも色々と事情がある、それも簡単なものじゃない。と言う事だろう」

 ドラゴはキリトにそう聞いた。キリトは、その言葉を聞いてゆっくりと頷く。

「ああ……人を、探してるんだ」
「ど、どういうこと? ALOで人を?」
「……ドラゴの言うとおり。……簡単には説明は出来ない……」

 キリトは、2人の顔を交互に見て、そしてかすかに微笑んだ。その時の目は、違う。さっきまでのそれとは違い……、絶望が占めていた。


 その目も……知っている。

 何度も、見た事があるから。そう、鏡の前で……。



(……なんで?)


 ドラゴは、戸惑いを、動揺を隠せられない。ゲームの中での自分は、現実の自分とは完全に違う。云わば二重人格と言っていい程に。それに、こんなプレイヤーは恐らく珍しくもないだろうけど。
 でも、今は素の自分の表情が出ていると判っていた。

(……なんで? 今日あったばかりの人だぞ?キリトは……ッ)

 頭の中に再び映像が流れ出る。そこは、銀世界。
 雪が降り積もっている街並みのベンチ。誰だか判らない。漆黒のコートを身にまとっている男。
そして、再び景色が変わって……、声が聞こえてくる。

『何より……、お前を死なせたくない……からな』

 この声は……。


(こ……これは……、自分、の、ものだ……。オレは…誰に、対して、言ってる……?)


 あの映像の相手、だろうか?だが、後ろ姿しか見えなかった。


(――……死なせたくない。……一体、誰を?)


 ドラゴは、思考の中に身を投じていた。
 ……聞いていても、考えてみても、今回は不思議と痛みは感じなかった。現実世界での肉体に影響が出る様な事が起きれば、安全装置が働いて、強制ログアウト措置になる仕様になっているのがアミュスフィア。今も、特に問題ない以上、現実の肉体にも影響は無い筈。

 何度考えても、今はまだ判らない。

 ……判らなかった。


(……やっぱり、思い出すならALOでしか無い)

 
 ドラゴが、そう決めていた時。

「―――……じゃあ! あたしが連れて行ってあげる!!」
「え……?」

 ……話が決まったようだ。

「いや、でも 会ったばかりの人にそこまで世話になるわけには……」
「いいのっ! もう決めたからっ!!」

 話は単純明確。キリトは、もう1人で向かおうとしていた。……世界樹へと。だが、そう簡単な事ではない。なぜならば、世界樹が存在するアルヴヘイムの央都《アルン》にまで行くのは、現実世界での小旅行に匹敵する程の旅になる。
 この世界では、空を飛ぶ事が出来たとしても……距離を考えたら10分と言う滞空時間は心許ない。それに、この世界には滞空禁止エリアと言うのも存在する。その場合は歩いていくしかない。だからこそ、時間がかかってしまうのだ。

「あっ。で! ドラゴ君はどうするの?」
「………」
「あれ? おーい! ドラゴ君っ!!」
「ッ! ……あ、ああ。どうした?」
「んもー! 聞いてなかったの?あたし、キリト君のことを手伝うっていったの。世界樹のあるアルンまで連れてってあげるって! ドラゴ君は? 一応説明は全部済んだつもりだけど」

 リーファは、ドラゴがどうするか、聞いてないから視線をドラゴへと向けていた。ドラゴは、軽く首を振る。

「……今は、オレにもする事があるから」
「そう。残念だね」

 この言葉から、リーファはドラゴは一緒にこないことが判った。
 ドラゴも異常な程の力を持っているから、頼りになると思っていたリーファだったが、無理を言うわけにもいかないから、と直ぐに引き下がったが……。

「っ……、な、なぁ ドラゴ。フレンド登録をしてくれないか? お前は何だか他人だと思えなくて」

 キリトは、表情を暗ませていたのだが、慌ててもとに戻し、そしてドラゴにそう聞いていた。

「……ああ。それは構わない」

 キリトは、ウインドウをだしフレンド申請操作をする。ドラゴの元にウインドウメッセージが現れ、そしてOKをクリック。

「あ、なら あたしもしておいてくれないかな? 折角だし」

 リーファも手を上げて、そう言う。
 ドラゴは、一瞬表情を強ばらせていたが、直ぐに頷いた。

――……なぜだろうか?

 ドラゴは、この時、再び思考の渦に呑まれかけていた。

(……なんで、俺はこんな安易にフレンド登録なんて出来る?)

 考えるのはそこだった。……これまでのMMOに限らず、ネットゲームにおいて、ギルド、コミュニティーに入る事は勿論、フレンド登録等をした記憶は一切ない。
殆どソロを貫いてきていた。

――……筈なのだ。

(……なぜ、キリトやリーファ達とこんなに簡単に登録なんて出来るんだ……? 出来たん……だ?)

 その後、ドラゴは、2人と別れるまでずっと、自問自答を繰り返していたのだった。

 
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