ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか
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神会
神会とは元々、一部の神が退屈しのぎに企画した一種の集会だった。
ある程度自派閥の実力と地盤を築き上げた神は苦労を忘れて堕落期に突入しがちになる。その暇を潰そうと同郷のもの同士で集まるようになった。
やがてその集会は参加する神が増えるにつれて規模を広め、時代を経るごとに、目的を変えた、駄弁が情報共有となり、ギルドと提携して都市全体を巻き込む催しとなった。その影響力は冒険者にまでおよぶ。
そして、今の神会に集まる神達の主な目的はずばり、【ランクアップ】した冒険者達の称号を決めることだ。
例をあげるなら式の【秘剣】がそれに当たる。
ちなみに、神会への参加資格も、【ランクアップ】した冒険者がいるファミリアに限られる。
さて、何故僕が自らこんな話をしているのかというとだ。
今日がその神会の日なのだ。
ーーーーーーーーーー
式が【ロキ・ファミリア】と遠征に出発してからもう三日。
三ヶ月に一度開かれる神会はその間に【ランクアップ】した冒険者の二つ名を決める催しだ。
今回も僕のファミリアから二人、パディと式が【ランクアップ】したから神会に参加しなくちゃダメなんだけど……
「はぁ、鬱だ……」
正直、行きたくない。
一ヶ月前なら楽しみにしていた神会だが、今じゃそんな気持ちが微塵もない。
理由は簡単だ。式だ。
数年かけて【ランクアップ】したパディだけならまだいい。他のファミリアの冒険者と同じような年数をかけてるからいい。
なんだよ、Lv5からの【ランクアップ】で半年って。いくらなんでもやりすぎじゃないかな?
もちろん、式が頑張ったのは分かってるし、式が少し他の子供達と違うのは分かっている。
けど、それとこれとは話は別だ。
もう慣れたけど、確実にあの疑惑の目を他の神から向けられる。
なんで世界最速記録を大幅に更新しちゃうかなぁ!
ロキには言ってるからなにもいってこないとは思うけど、前の時は大変だった。
神の力使ったんじゃねぇのか? みたいなこと四方八方から言われた。その時はウィザルとかイルマタルが助けてくれたからよかったけど……
あと、カーマ。ここぞとばかりにいちいち突っ掛かってこないでよ!! 僕、君にちょっかいだしたことなあからね!?
「あぁ……行きたくないよぉ……」
自室のベッドの中で布団にくるまりながら現実逃避。
でも式は兎も角、パディの念願の【ランクアップ】だ。行かないわけにはいかないんだよなぁ……
はぁ、と大きくため息をつく。
神会までまだ時間はあるけど、それまでに腹をくくっとかないと
ーーーーーーーーーー
「はぁ……」
「なんじゃお主。ため息なぞつきおって。幸せが逃げるぞ?」
神会が開かれるバベルの三十階へ向かう途中に出会ったイルマタルにそんなことを言われた。
いつも通りの男装に身を包んだ僕の友神が隣でかっかと笑うのを横目に肩を落とす。
僕も、これくらいポジティブになれたらいいんだけどなぁ……
「ほれ、そんな顔するでない。お主は上位派閥の主神だろうに。シャキッとせんか」
「……そうだよね。ありがと、イルマタル」
そういわれると少し元気になるかな。
今はオラリオでも有数の派閥になってるし、最近は以前のようにあからさまに悪口を言ってくるのも減ったしね。……カーマ以外は。
イルマタルと最近どうだとか、近況報告をしている間に会場についた。
僕が少し躊躇っている間に、イルマタルが扉を開けてずんずんと入っていく。僕も覚悟を決めて扉を潜り、空いた席につく。
途中、もうすでに集まっていた神からの視線を受けたが、気にしたら負けだ。式もそう言ってたし
会場となっているこの場所は、フロアを丸々使っていて、存在していた全ての仕切りが取り払われている。
広い空間には巨大な円卓が中央にポツンとあるだけだ。壁際も硝子が張り巡らされていて、そこから空の様子が伺える。
「バルドル、ここに来ての逃避はよさんか」
「アハハ……ごめん」
乾いた笑いのあとに謝ると、謝るでないわ、ととなりの女神に頬をつつかれた。
イルマタルって、なんかお姉さんみたいなんだよなぁ、と内心で勝手に呟く。
それからも続々と神がやって来る。
どうやら、今回は【ランクアップ】した子供は多いようだ。よく見る顔ぶれの他にも、今回初めて出てきた神の姿も見える。
「バルドル、隣、よいかの?」
「ん? あ、テュールじゃないか」
入室してくる神たちに視線がいって気付かなかった。
僕の隣の席に陣取った(と言っても、間隔は空いているが)のは懇意派閥である【テュール・ファミリア】の主神、テュール。この間も遠征を行った間柄だ。
腰まである白髪を揺らして、ご機嫌な様子のこの女神。
僕が知る限りではダントツでトップの幼女である。
神達の間でロリ神ならヘスティアを指すけど、幼女神ならこのテュールだといってもいい。
見た目は子供たちの年でいうと十歳に満たない子供だ。
神友も、テュールとなら話せるんだけどなぁ
「ほぉ、珍しいこともあるもんじゃな」
「お? イルマタルも来ておったか。久しぶりじゃの」
「ここにおるということは、お主の子も【ランクアップ】したようじゃな」
「まぁの。半つ……三年待って漸くじゃ。これでデイドラにも格好いい名前をつけてもらえるぞ」
「「……ああ」」
そう言えば、そうだった。幼女神、子供たちとおんなじ感覚なんだよなぁ……
純粋無垢だからか、他が笑い転がるような二つ名でも、素直に格好いいと思ってしまう。
喜んでるならそれでいいんだけど、第三者からみるとうわぁ……てなる。
ノエルちゃんのときも嬉々としてたけど、僕は何も言えなかったし。
……あれ? でも、デイドラって子、ファミリア入って三年も経ってたっけ? ……ま、いっか。
式に比べたら、ほとんどのことが軽く見えてしまう。
「しっかし、今日はまた一段と増えとるのぉ」
「そうなのかえ?久しぶりの参加じゃからよくわからんのじゃが」
……今気づいたけど、同じような言葉が両サイドから聞こえてくるとなんか妙な気持ちになってくる。
見た目も声も違えんだけどなぁ
「じゃ、始めるでー」
三十くらいの神が集まったところで円卓についていた神の中から間延びした声が響いた。
今日はロキが司会進行を務めるらしい。遠征でほとんどの子がいないから暇なんだと思うけど。
「第ン千回神会開かせてもらいます、今回の司会進行役はうちことロキや! よろしくなー」
『イェー!』
立ち上がったロキに同調するように他の神も騒ぎ出し、やんやの喝采と一緒に拍手も起こる。となりの二柱もノリノリだ。
仕方なしに僕も拍手だけ送っておこう。一応、仲良くはさせてもらってるし
『何でロキが司会進行役なのさっ』
どうやら、ロキが進行役というのに納得していないのもいるようだった。あれは……ロリ神こと、ヘスティアか。初参加のようだ。
てか、よくみたらフレイヤまでいるし。珍しい
「よぅし、サクサクいくで。まずは情報交換や、面白いネタ報告するもんおるかー?」
「ハイハーイ! ソーマ君がギルドに警告食らって、唯一のご趣味を没収されたそうです!」
『なんだってぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』
ソーマって……あの趣味神のことか。
いつやらかすかなーとは思ってたけど、とうとうやらかしたのか
「で、ソーマの趣味ってなに?」「全く知らねえ」
「確かお酒作りだったと思うよ」
「あー、もしかせんでも、エイナちゃんの仕業かぁ……」
「まさかの孤独神様ネタが来たー!」
「続きはどうなったんじゃ?」
「膝を抱えて部屋の隅から動かないらしい!」
「見てぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
「俺ちょっとソーマ君慰めに行ってくる!」
「オイ」「傷口に塩ぬる気満々じゃねーか」
「すまない。話の腰を折るようで悪いんだが、真面目な話、王国がまたオラリオに攻め込む準備をしているらしい」
「ほんと突然だな」
「じゃな」
「ていうか、また軍神かよ」
「あのバカ神そろそろ何とかした方が良くないか? 正直うっとおしいぞ」
「何で国の中じゃあんな信仰あるんだ、アイツ」
「どこか憎めない性格してるからかな。子供たちはああいうの好きそう」
「容姿が抜群だからだろ。普通に『美の神』ともためを張れる。あ、俺はフレイヤ様一筋ですよー!」
「むしろ、同じ男神ならバルたんが上だな」
『だな!!』
「そこ! 僕を引き合いに出さないでくれ!」
「脳ミソは筋肉なのにな」
好き勝手な内容が円卓の上で行き交い、二転三転。弛緩した空気のままに進められていく中、ああ、いつも通りだなーと思ったところで、「よし一回黙れ!」というロキの声で周囲の声は嘘のように途絶えた。
「うっし。まとめとくと、今気にしとかなあかんのは王国の方やな。一応ギルドに報告しとく。まぁウラノスのジジイのことやから、独自に情報はつかんでそうなもんやけど。ここにいるもんの【ファミリア】は召集かけられるかもしれんから、よろしくな?」
『了解』
ロキのその言葉に一同が判事を返す。
王国か。また面倒くさそうな情報が入ってきたものだ。多分、うちも巻き込まれる。
その後も淡々とその場を進めていき、もうあらかた話題が出尽くしたことを確認したロキは一泊あけて、ニッと口を吊り上げた。
「なら、次に進もうか。命名式や」
その言葉に、緊張が走ったのは今までろくに口を開かなかった数名の神。
そして、そんな神を見てニマァ、とゲスな笑みを作る神。
そんな様子を見ていた僕は、うわぁ、とそれに引いた。
これから、悲劇が始まる
「資料は行き渡ってるなー? ならいくでー? んじゃあ、トップバッターは……セトのとこの、セティっちゅう冒険者から」
「た、頼む、どうかお手柔らかにっ……!?」
「「「「「「「「「断る」」」」」」」」」
「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
今日もまた哀れな神の嘆きが響き渡る。
神達と子供たちの感性は似たり寄ったり。僕らも超越存在だからといって子供たちのそれと大差はない。
でも、命名の感覚はその限りじゃない。
僕らが変なのか、子供が愚かなのか。
僕らが前衛的すぎるのか、子供たちの時代が追い付いていないのか。
よくわからないけど、子供たちが目を輝かせる裏で神達が身悶える痛恨の名が存在する。
『ーー決定。冒険者、セティ・セルティ、称号は【暁の聖竜騎士】』
「イテェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!?」
そんな痛恨の名が神会では大量生産される
一部の神達が、酸欠に陥りかねない笑いの衝動を得たいがために、子供たちには畏敬さえ抱かれている二つ名を連発していくのだ。
称号もらっめ誇らしげにする子供と、悶絶する神々を指差して、今日も床を転げ回るのである。
……まぁ、こうやって回想してる僕も、昔は同じような道を通ってきたんだ。洗礼だと思って頑張ってね。
「【暁の聖竜騎士】……格好いいのぉ……!」
「はぁ、君は相変わらずで羨ましいね」
「全くじゃ。こんな風に喜べるならどれだけよかったことか」
テュールが隣で椅子の上に立ち上がり(それでも、大人サイズが座っているようにしか見えない)大興奮しているのを横目に僕とイルマタルはため息をついた。イルマタルも幸せが逃げるよ?
この神会において、特に酷いのは新参の神の扱いだ。
上位派閥を率いる格上の神たちが、一日の長があるのをいいことに、ここぞとばかりに新人なぶりを始めるのだ。
絶叫しては崩れ落ちる者とゲラゲラと笑う者を見比べて、やっぱ変わらないなーと傍観した。
だが、そんな新参の神にも痛恨の名を回避する方法がある。
一つは神会が始まる前から有力者に金品を貢ぐ方法。だがこれは、大抵法外な額を要求されるので発展途上で財産力のないファミリアには難しい。
多いのは、今、タケミカヅチの子のように人物像がよっぽど神達に気に入られた場合だ。これは女性が多い。
だが、主神、タケミカヅチが気に入らないとのことで最終的に【絶†影】に決まった。
頭を手で抱えて慟哭を散らすタケミカヅチに、心の中で合掌しておく。
君も、もうすこしその天然ジゴロを治した方がいいよ。
イルマタルのところは、それなりに大きい派閥であるためそれほど酷いことにはならなかった。が、問題は……
「次は妾じゃな!」
隣で元気なこの幼女神だ。
今までも、他の新参の神が崩れ落ちるなかで笑うわけでもなく、ただ純粋に格好いいとかいって目をキラッキラさせていた。
「えーっと、テュールのとこはデイドラ・ヴィオルデっちゅー子やな」
手元の資料を見ると、先日顔を会わせた男の子の似顔絵が描かれている。
黒髪に緑翠色の瞳。武器は短刀。
「んー、テュールのところか……」
「幼女神だと面白味がないんだよなー」
「だな。逆に喜ぶし……」
「いいじゃないの。可愛いし」
「そうよ。テュールちゃんは女神達のアイドルよ?」
なんか、称号とは関係ない話がダラダラと続いている。隣に座るテュールはワクワク、ドキドキといった様子で事の成り行きを見守っていた。
「んじゃ、決定な。煉獄の執行者やな」
「ほぉおおおおお!!! すっごく格好いいのぉ!!」
『…………』
もう、僕はなにも言わない
中小のファミリアが出尽くすと、今度は僕を含めた上位派閥の出番となる。
【ガネーシャ・ファミリア】や【ヘファイストス・ファミリア】と、誰もが耳にする有名派閥の団員名が列挙されていく。
「次は……お、バルたんとこやな」
「だね。よろしく頼むよ」
手元の資料にはパディの姿が描かれている。
その資料をみて、パディを見たことのある神達が、「ああ、あの」と言葉を漏らしていた。
「これはもう決めずとも決まってるようなもんでしょ」
「だな。てか、この執事君も【ランクアップ】したのね」
「むしろ他の名前があるのかって話だな」
ガヤガヤと言葉が発せられるなか、パンパンッ、とロキが手を叩く。
「んじゃ、決定な。パディ・ウェスト、称号は【従者】」
『けってーいっ!!』
恥さらしの称号を回避する手段のひとつに、ファミリアの勢力もあげられる。ようは、こいつに逆らうとやばいと思わせればいいのだ。
報復があると知って、自爆するのはいないからね
「で、次もバルたんとこやけど……ほんま、この子成長早いよな」
「二つ三つくらい前の神会でみた気するんだが……」
次の資料にのっていたのはやっぱり式だった。
「Lv5からの【ランクアップ】を半年で……バルたん本当に【神の力】使ってないんだよな?」
「それについてはこの五年間でみっちり議論したはずだよね?」
「いや、疑うわけやないんやけど……やっぱりなぁ……」
席についている神からいろんな意見が交わされる。やっぱりおかしいだの、でも調べたら白だっただのといった内容だ。
……あぁ、この雰囲気、ほんと苦手だ。
「どうせインチキでもしてるんじゃないの?」
そんな中、一際響くとある女神の声
「うわぁ……カーマも来てるよ……」
「お疲れじゃな、バルドル」
隣のイルマタルから慰めの言葉を頂いた。
「やっぱ【バルドル・ファミリア】は怪しいわよ!」
キッとこちらを睨み付けてくる紫髪に赤い瞳の女神。なんか知らないけど、いろいろと僕に突っかかってくる神の代表格だ。
正直、もう放っておいてほしい。
「しかしカーマよ。そういって一度バルドルを審議し、結果は白。ちゃんと証明はされたろうに」
「フンッ、友情ごっこはいらないわよイルマタル。そんなの、それが抜け道見つけてたら分かんないわよ」
僕をそれ扱いしたことに怒ってもいいかな?
「二人とも、落ち着けっちゅーに。カーマの言うことも分かるけど、バルたんとこはなんもしてへん。うちが言うとくわ」
一瞬、ロキと視線が合う。
なるほど、これを見越して式の同行の借りを作ったのか。三日で返されちゃうとは思ってもみなかったよ。
カーマも都市最大派閥の主神の言葉に黙るしかなかったようで、こちらを睨み付けてから着席した。だから怖いよ!
「で、この子の称号やけど……もう、変えんでもええんちゃう?」
『だな』
うん、僕もそう思う。
下手に変えてもいいことないしね。むしろ、無難だと思ってるんだけど、式はこれでも恥ずかしいらしい。
てことで、式はそのまま【秘剣】に決まった。
その後、なんかフレイヤとイシュタルの美の神によるやり取り(ロキ曰く茶番)が起き、【ロキ・ファミリア】の【剣姫】の二つ名はそのままということで話がまとまり、次が最後の資料となる。
「あ、ヘスティアのところか」
ベル・クラネルという少年らしい。ギリギリに作られた資料なのか情報が少なすぎる。
今まで全く無名だっただけに興味深い。
ただ、ヘスティアも新参だから周りの神が下品な笑みを浮かべていた。
……にしても…
「一ヶ月半って……僕のとこよりも早いじゃないか……」
問題はこの少年の【ランクアップ】にかけた期間だった。
いくらなんでも早すぎる。式も最初は一年かけたんだし。
「テュールはどう思う?」
「ナンノコトカワカランノォ」
「なぜならカタコトなんだい……」
動きがぎこちない幼女神を無視し、視線をヘスティアに向ける。
ちょうどロキがヘスティアに詰め寄ってるところだった。
……ああ、あの光景、昔の僕にそっくりだ……
うちらの恩恵はこういうもんやない、とヘスティアに詰め寄るロキ。一度、同じ立場に立った身としては助け船を出してあげたいが、それはロキに意見することになる。
最近は交遊もあるから、あまり口を出したくないのが僕の本音だ。
押し黙るヘスティア。詰め寄るロキ。そんな中で動いたのは、意外にもとある美の女神だった。
「あら、別にいいじゃない」
美しいソプラノの声に視線が集まった
「ヘスティアが不正をしていないというなら、無理に問いただす必要はないでしょ? ファミリアの内部事情には不干渉、とりわけ団員の能力は禁制なのだから。それに……」
美の女神、フレイヤは僕に視線を向ける。
「それをいうなら、バルドルのところもそうよね? 一方は良くて、もう一方はダメなんて、それはどうなのかしら?」
一筋の銀髪をすくい、耳へ流す。
「……一ヶ月やぞ? この数字の意味がわかっとんのか、色ボケ女神」
「ふふ、どうしてそこまで強情になっているの、ロキ? 私には、今の貴方の態度の方がよっぽど不思議に思えるけどれど。……焼き餅かしら? 自分のお気に入りの子供の記録が、ヘスティアの子に抜かれたから?」
「んなわけあるか。それやったら、もうとっくにバルたんに突っ掛かっとるわ」
吐き捨てるロキに、フレイヤは微笑を崩さない。
何か言おうとして黙るロキだったが、多分それが正解だろう。
反論すれば、今度はロキが誘導されて丸め込まれるかもしれない。あの女神は、それくらい危ないやつなのだから。
その後も、フレイヤの発言は続けられた。
曰く、Lv1にして奇跡的にあのミノタウロスを倒したのだから可笑しくない、と。
これに神会参加の神達は納得することになる。なんせ、こな下界には、僕らがまだ知らない可能性が眠っているかもしれないからだ。
……と、いいようには言ってみたけど、男神の大半がフレイヤに魅了さらているからってのが大きいかな。僕は例外。ウィザルは論外
一足先に帰ったフレイヤの「かわいい名前をつけてあげて」という言葉に男神達(僕は除く)が満場一致。イルマタルら女神達は生ゴミを見る目を向けていた。
で、ベル・クラネルという少年は【リトル・ルーキー】と決まったようだった
ーーーーーーーーーー
「ごめんね、ロキ。何か僕のこと口実にされたみたいで」
「かまへんよ。しだかしあの色ボケ女神、ようやってくれたわ」
神会終了後、僕はイルマタル達と別れてロキと話していた。
「それと、助かったよ。あのままじゃ、カーマがうるさかったからね」
「ほんまやで。バルたんたこはもうちょい控えめでええと思うんやけどなぁ」
「アッハハ……それは式にいってほしいかな」
現在、ロキの子供達とダンジョンに潜っている眷族の顔を思い浮かべた。
いろいろと知らないうちに首を突っ込んでるような子だからね
「それで、や。何か分かったこととかあるか?」
「数日で結果かが出るなら、もうすでに見つかってると思うよ」
「やんなー」
僕がこうしてロキと話しているのは、神会についてじゃない。最近ダンジョンで起きている出来事についてだ。
ディオニュソスとヘルメス、それに僕とロキが集まって話し合った結果、、バベルの大穴以外に最低でも一つ。ダンジョンの出入り口があるとの意見が交わされることになった。
そのため、それぞれのファミリアが独自に調査を行っていたりする。
今回、ヘルメスとディオニュソスは来ていないために、こうしてロキと二人で話しをしているのだ。
「それに、うちは団員が少ないからね。調査範囲にも限度があるんだ」
「分かっとる、協力、感謝するで」
「ああ。乗り掛かった船だしね」
ーーーーーーーーーー
「神会、もう終わったかしら……」
時計の針はもう十五時を過ぎている。
周りの職員達もいつもの雰囲気とは異なり、落ち着きがない。
かくいう私も、せわしなく動き回っているから人のことは言えないのだけれど……
原因はわかっている。皆、冒険者の二つ名が気になって仕方ないのだ。
神々が授ける称号は私たちを打ち震わせ脱帽させるまのばかりで、誰もが自分の事のように待ちわびている。
「あ、テレースさん」
「ん? チュールにフロットじゃない。班長にでも絞られたの?」
「先ぱ~い、助けてくださいっ」
ちょうど、班長の元から離れたのか、今までも呼ばれていた二人とはちあわせた。
フロットが泣きながら抱きついてくる。
どうやら、資料がひどいと言われたらしい。
「はいはい、よしよし。わかったわかった」
「何か適当ですよ!?」
だって適当だもの。
「それより、テレースさんも気になりますか? 神会の結果」
「まあ興味はあるしね。担当してる冒険者も何人か【ランクアップ】したし」
「あ、先輩もですか? 私もなんですよ」
ケロッとした様子で笑うフロットを無視して、結果を待つ。
暫くチュールと話しをしていると、ついにその時がきた。
「来た、届いたぞっ! 神会の結果!」
「やっとか!」
「おい、見せてくれ!」
他の職員の行動は速かった。けど、私の方が速かった。
先輩後輩関係なく業務そっちのけで羊皮紙を手に取った。
気になるのは【バルドル・ファミリア】の二人。
「【従者】と、かわらす【秘剣】かぁ」
思わず笑みを浮かべてしまった。
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