異界の王女と人狼の騎士
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第十三話
「じゃあ、あの如月の体を乗っ取ってた生き物はその君たちの敵なのか? 」
少女は首を振った。
「違うわ。異形のものはこちらの世界とわたしたちの世界の境界を越えてくることはできない。強力な結界が双方の世界から張られているから。越えようとしても、命あるものはその結界に阻まれて近づくことすらできない。……境界を越えてこられるのは王族の中の本流のごくごく一部のものだけだ」
「じゃあ奴は何なんだい? 」
「異形のモノ達の体から生えている、ただの根っこみたいなものだ。生物と物質のちょうど中間にあるような存在でしかない」
「根っこ? 」
「そう。サイクラーノシュの寄生根と呼んでいる」
「サイクラーノシュ? 」
「サイクラーノシュとは、わたしたちの世界にある星の名前だ。
異型のモノがその惑星の方向から来たとされることからそう呼ばれるんだけど、寄生根は彼らの体の一部であり、使い魔的なものなの。ごくごく小さなもので、髪の毛程度の太さ大きさ重さしかない。
見た目はただの細い根っこみたいなものだけど、それはフワフワと浮遊し、宿主となるものを発見すると吸い寄せられるように着床する。そしてそれはそこに根を張り、宿主の体の中へと根を張り巡らせ、力を吸い取り支配する」
「なんだそれ、気持ち悪いよ」
「寄生根は意志を持たない。ただ、プログラムされた【目標】の為だけに動く。今回の奴はわたしを捕らえる事と、張られた結界を破壊することの2点のみだ」
「それが如月に寄生したっていうのか? でも如月は話をしたし、自分の意志で動いているようだったけど」
「その通り。寄生根には意志はないが、その宿主の魂を捕らえて自らに取り込み、そのまま行動するのよ。だから思考は宿主である生物と変わらないけど、プラスして寄生根の【目標】がそれに上書きされてしまうの。いつもと変わらない行動をしているようでも、己の欲望に異常なまでに執着するようになり、かつその根底では寄生根の望む【目標】実現のために行動するようになってしまうの。
だから一見して、如月という少年の存在が凶暴になっただけに見えたわけよ」
完全に支配するわけでなく、とりついて自分の目標を達成させるために利用する存在。乗っ取った宿主のキャラクターそのままに行動ができる存在なのか。
「そして、さらに問題なのは……」
彼女は一呼吸置く。
「寄生根の宿主には、寄生根を護るために宿主の能力の強化という特典が与えられる。その姿は宿主が心の奥底で望む欲望を実体化したような形状・能力となる。
やがて寄生根は宿主を食い尽くし、宿主の記憶、能力全ての自らの物として吸収したまま、さらに新たな宿主を求めて移動するの。宿主を変える毎に寄生根は宿主の能力記憶を得ていくし、その形態も変化する。当然どんどんと強大なものになっていく。これがどういう意味かお前にわかる? 」
「強くなるのはわかるけど……」
「そのとおり。お前とわたしで戦ってなんとか勝てそうなレベルだったアレは、もう次の宿主を手に入れているかもしれない。もしそうだとしたら、あたりまえだけど、前の宿主である如月流星という少年の能力も記憶も何もかもを手に入れている。それはつまり、今度戦う時、相手はさらに手強くなっているということ。そしてもたもたしていると、もう勝ち目が無くなるかもしれないってこと。
それだけじゃない。それはもっと大事なこと。奴は目的のもう一つであるこちらとあちらの世界の結界を破壊する行動を並行して行う。もし結界が壊れて向こうから本体が来たら……もうわたしたちに勝ち目は無いだろう」
世界は大変な危機に瀕している。
俺はそれを否応なしに実感せざるを得なかった。
はたして、次に如月、もしくは次の誰かに寄生していた奴が現れたとき、俺は勝つことができるのだろうか?
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