黒魔術師松本沙耶香 人形篇
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10部分:第十章
第十章
部室の中は教室を使ったものであった。どうやらここの学校は空いている教室を部室に使うらしい。中は少女らしい装飾が施され、そして所々に様々な人形が飾られていた。日本の人形もあればフランス人形、マネキン等もある。色々と作ってあるらしい。
「どうぞ」
部室にあるソファーに座らせられた沙耶香に少女が紅茶を勧めてきた。
「紅茶ですけれど」
「有り難う」
「お砂糖はいりますか?」
ピンク色の動物の形をした砂糖を差し出して来た。だが沙耶香はそれは断った。
「砂糖はいいわ」
「そうなんですか」
少女はそれを聞いて砂糖を引っ込めた。
「なら仕方無いですね」
「御免なさいね。そのままの紅茶が好きだから」
「ストレートですか、本当の」
「まあ気分次第でクリームを入れたりはするけれど」
くすりと笑いながら言った。
「けれど今はそれもいいわ。気を遣わなくて」
「はあ」
少女はそうしたやり取りの後で沙耶香の向かい側の席に座った。
「ところでどちらから来られたのでしょうか」
「私?」
「はい。大学の方でしょうか」
「ええ、そうよ」
ここはまたしても身分を偽ることにした。
「大学院でね。文学を学んでいるの」
「学者さんですか?」
「少し違うわね。まあ研究はしているけれど」
もっともらしい嘘をつく。嘘をつくのは得意だ。嘘は言葉の魔術の一つである。人の心を惑わせる為に言葉は重要な意味を持つのである。
「イギリス文学をね。専攻しているの」
そして嘘を続けた。
「というとシェークスピアとかですか?」
「残念だけれど違うわ」
これは本当であった。
「私が研究しているのは童話とかね。妖精が出る」
「メルヘンですね」
「ところがそうじゃないのよ」
ここも本当であった。
「妖精はね、意外と怖いものなのよ」
「そうなんですか」
「ええ。人を襲って殺したりね。そういうことをするのよ」
妖しく笑ってこう述べる。
「本当は怖いものなのよ」
「じゃあ童話のあれは大人しい妖精なんですね」
「比較的ね」
それを聞いて驚いている少女に対して言った。
「まあ怖いものが好きな人にはいいでしょうけれど」
「怖いのが好きな人なんているのですか?」
「人それぞれよ」
沙耶香はまた言った。
「それに怖いというのはね、ある意味気持ちいいのよ」
「気持ちいいんですか?」
「ええ」
ここで彼女は辺りを見回した。どうやら部室には今彼女と少女しかいない。
「ところで他の部員の方は?」
「まだ来ていません」
少女は素直に語った。
「いつもこうなんです。私が来て三十分程してから皆来るんです」
「そうなの」
「ですから。暫くはこうして二人でお話が出来ます」
「だったらその怖いことの気持ちよさも教えてあげることが出来るわね」
「教えるって?」
「こういうことよ」
その瞬間沙耶香の目が赤く光った。
「えっ」
少女はその赤い目を見た。その目を見た途端動きが止まった。
「これは・・・・・・」
「今からわかるわ」
沙耶香はゆっくりと少女の側に寄って来た。
「怖いというのはね。知らないからなのよ」
「知らないから」
「そうよ。何でも知ってしまえば怖くなくなるわ。そして知らないことに怯えるのもまた」
その身体を少女の上に覆い被さらせる。
「快楽なのよ。知っていくのもね」
「何を」
「その恐怖と快楽を教えてあげるわ」
少女の制服のネクタイを外した。身体をゆっくりとソファーに寝かせる。
「はじめてよね」
「こんなこと」
強張った声で答える。まだ金縛りは効いていた。
「今まで考えたことも」
「怖いでしょ」
「止めて下さい」
少女は震える声で言った。
「結婚を決めた人とでないと」
「古風なことを言うわね」
貞操観念というものであった。だがそれは沙耶香にとって最も嘲笑すべきことの一つでしかなかった。
「けれどそれは相手が男であった場合ね」
沙耶香は述べた。
「女が相手だと。それは通じないわよ」
「そんな・・・・・・」
「いいわ、その怯える瞳」
その怯えが沙耶香の欲情をさらに高めた。
「そしてそれを越えた時貴女はどんな顔をするのか。見せてもらうわ」
こうして少女は沙耶香の腕の中に落ちた。沙耶香はこの少女の青い身体を隅々まで味わい、堪能するのであった。
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