黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
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30部分:第三十章
第三十章
二人はそれぞれの色で輝く目を露わにしたうえで。今見るのだった。
すると二人の前、霧の彼方にであった。青い二つの輝きが見えたのだった。
「そうね。そこね」
「そこですか」
紅い二つの輝きと黄色い一つの輝きがそれを見据えた。
「場所はわかったわ」
「それならば」
沙耶香はその右肩から巨大な漆黒の翼を出した。
速水はカードを出した。太陽のカードをだ。
「これで」
「どうでしょうか」
言いながら沙耶香は漆黒の翼を青い二つの光に向けた。
速水が太陽のカードを出すと彼の頭上に輝かしいその太陽が現われた。そしてそこから無数の光の矢を青い二つの光に向けて放ったのだった。
闇と光が向かう。そうするとだった。
「くっ・・・・・・」
その光から依子の声がした。明らかに苦悶の声だった。
その声が漏れると共にだ。霧が瞬く間に消え去った。ふう、と煙が消える様にだ。
そしてあの無数の氷の刃と翼もだ。何もかもが消えてしまったのだった。
「抜かったわ。私の目の光を見ていたのね」
「そうよ」
「その通りです」
沙耶香の目の色は元の黒に戻っていた。速水の左目は髪の毛に隠れてしまった。そのうえで苦い顔になっている依子に告げるのだった。
依子のその左手の肩から血が滲んでいた。右手でその傷口を抑えてはいるが白い服が紅く滲んでいた。そしてそれは右の太股の辺りもだった。明らかに深手であった。
「チャンスは一瞬だったわ」
「そしてその一瞬を、ということです」
「そうね。その通りね」
彼等のその言葉に頷く依子だった。何とか立っているがもうこれ以上闘うことはできない。それが明らかな今の彼女の姿だった。
「それはね」
「ではこれで」
「諦められますか?」
「ええ」
微かな苦笑いと共の言葉だった。
「仕方ないわ。こうなってしまったらね」
「今回も私達の勝ちだったわね」
「さて、後は」
「美女達は解放するわ」
それはするというのであった。
「ただ。私は」
「消えるというのかしら」
「これで」
「そうよ。悪いけれど捕まるつもりはないわ」
笑みが元に戻っていた。あの余裕を見せる妖しい笑みになっていた。
そうしてその笑みで。二人に対して言うのであった。
「巴里での楽しみは潰えたけれど」
「まただというのね」
「私達の前に現われると」
「ええ。またね」
その通りだと返した言葉であった。
「会いましょう、何処かで」
「そうね。また縁があれば」
「御会いしましょう」
二人も依子を捕まえることは諦めていた。それができるものではないとわかっていたのである。彼女のその力を知っているからこそである。
「またね」
「これで」
「残念だったわ」
依子は言いながらその右手に何かを出してきた。見ればそれはスミレの花である。一輪の黒に近い濃厚な紫のスミレの花を出してきたのである。
それを前にかざすとだった。彼女の周りを無数のスミレの花達が覆った。そうして彼女はそのスミレの中に姿を消したのであった。
しかしだった。声は残っていた。その声で二人に告げてきた。
「折角の美女達がね」
「けれど。またするつもりね」
沙耶香は依子のその声に対して悠然と笑みを浮かべて彼女の言葉を返したのだった。
「美女達を集めて」
「そうよ。また気が向けばね」
するというのである。
「そうさせてもらうわ。また何時か」
「そうなの」
「今は傷を癒して」
それが今の彼女の考えだった。
「また会いましょう」
「ええ、それじゃあ」
「またの機会に」
二人は旧友に対する様な声で彼女に応えた。スミレの花が全く消えたその時には気配も何もかも消えてしまっていた。後に残ったのは二人と美女達だけだった。
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