黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
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27部分:第二十七章
第二十七章
「この二つはただそれだけでもかなりの力を発揮するけれど」
「それだけではない」
「そう仰りたいのですね」
「そうよ。見ていなさい」
依子がこう言うとだった。自然と部屋の中に霧が立ち込めてきた。それはかなり深いもので忽ちのうちに視界を完全に遮ってしまったのであった。
「霧ね」
「見えなくなってしまいましたね」
沙耶香と速水、お互いもである。
「部屋の中で使うと余計にね」
「見えなくなってしまいますね」
「言っておくけれど」
その見えない霧の中で依子の声だけが聞こえてくる。
「この霧は炎では消えないわよ」
「蒸発はしないというのね」
「私の霧なのよ」
自身の霧なのだと。ここであえて言ってみせてきたのであった。
「それでどうして火位で消えるのかしら」
「そう簡単にはいかないということなのね」
「つまりは」
沙耶香りも速水もその場を動かずに依子に言葉を返した。
「一筋縄ではいかないのはわかっていたけれど」
「こう来られますか」
「そして」
また声が聞こえてきた。
「それだけではないわ」
「むっ!?」
最初にそれに気付いたのは沙耶香だった。地走りにそれは来た。
氷であった。氷の並がまるで鮫の背鰭の様に迫って来たのだ。沙耶香がそれに気付いた時にはもうその氷はすぐそこまで迫って来ていた。
「氷の刃が」
「さあ。どうするのかしら」
依子の声がここでまた問うてきた。
「その氷の刃。かわせるかしら」
「そうね。まずいわね」
こうは言っても口元には余裕の笑みをまだ浮かべている沙耶香だった。
「少しばかりね」
「少しなのね」
「そうよ。ほんの少しよ」
言葉を付け加えさえしてみせたのであった。
「だから。こうするわ」
「それは」
沙耶香が今出したのは氷の剣だった。右手に青いその剣を出してきた。それで自身に迫るその氷の刃を正面から突いてみせたのである。
それで沙耶香の氷の剣が砕け散った。しかし依子の氷の刃も砕けて消えてしまった。氷で氷を相殺してしまった、そうしてしまったのである。
「これでいいわ」
「氷で氷をなのね」
「炎では消せなくても氷が相手ならね」
「消せるというのね」
「そうよ。同じものは無効にできないわよね」
「それはね」
その通りだと。依子も認めることだった。
霧はまだ深いままである。相変わらず何も見えはしない。そしてその中で二人だけの声がする。今は速水は沈黙を守っているのであった。
「その通りよ」
「それをしたのよ。私は」
「それもまた見事よ」
また依子の言葉が笑っていた。
「それができるのはね」
「褒めてもらって嬉しいわ」
「それでは今度は」
声を向ける相手が変わった。
「貴方ね」
「私の番ですか」
「そうよ。行くわよ」
言うとだった。何かを放ったのだった。また何かをであった。
「これをね」
「さて。何が来るのか」
速水は声は余裕を見せながらそのうえで既に構えていた。霧の中でその姿は見えないがそれでも構えを取り備えているのであった。
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