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真田十勇士

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巻ノ七 望月六郎その七

「残念じゃが手加減は出来ぬ」
「わしは手加減されるのが一番嫌いじゃ、有り難いことじゃ」
「見たところ御主は相当な者じゃ」
 その腕はとだ、根津は望月を鋭い目で見つつ言った。
「わしも手加減すれば負ける」
「わしは素手じゃがな」
「素手といってもじゃ」
 望月の腕はというのだ。
「わしの刀術にもひけは取らぬ、死んでも恨むでないぞ」
「恨むものか、むしろじゃ」
「むしろか」
「わしも手加減は出来ぬ」
 こう根津に言うのだった。
「御主、天下でも何番目かの剣の腕じゃな」
「ほう、数おる剣豪の中でもか」
「五本の指に入る位じゃな」
 根津の腕はそこまでだというのだ。
「そこまでの者には手加減は出来ぬ」
「だからか」
「全力でかからせてもらう」
 こう言うのだった。
「よいな」
「ではな」
 こうお互いにやり取りをしてだった、そして。
 両者は間合いに入ってだ、そのうえで。
 すぐに勝負に入った、まずは根津が左から右に一閃させたが。
 しかしだ、望月は。
 その刃を上に跳んでかわした、ただ跳んだだけでなく。
 そこから急降下して根津の顔に踵を落として蹴りを浴びせてきた。だが。
 根津はその一撃を身体を右に動かしてかわした、そこから。
 着地した望月に今度は上から唐竹割りにせんとした、すると。
 望月の身体を斬ったかと思えばそれは残像だった、斬ったのではなく。
 後ろに動いてかわしていた、そこからだった。
 斬ったばかりの根津に今度は前に突進してから幾度も拳を繰り出した。根津はそれを足の動きだけでかわしつつだった。
 一瞬の隙を見てまた一撃を出した、望月は今度は左にかわした。
 その攻防を見てだ、幸村は言った。
「得物を持たぬというのに」
「はい、あの望月という者」
「かなりですな」
 穴山達も応える。
「動きが尋常ではありませぬ」
「我等に匹敵します」
「まさに動きは攻防一体」
「言うだけはありますな」
 他の者達に真剣に言う。
「甚八の剣にあそこまで闘えるとは」
「素手とはいいますが」
「いや、見事な体術ですな」
「互角ではありませぬか」
「甚八は確かに強い」 
 このことは幸村が見てもだ。
 しかしだ、望月もというのだ。
「だがあの者もな」
「相当にですな」
「強いですな」
「何か妙にです」
「間合いが広いですな」
 見ればだ、望月は拳を出しているがその距離の倍位のところでだ、根津はかわしていた。それは何故か、四人はすぐに察した。
「気、ですな」
「あの者気を放っていますな」
「それで間合い以上の攻めを放っている」
「そうですな」
「うむ、拙者も御主達も気は使えるが」
 このことは根津もだ、彼等程腕の立つ者ならば気も使える。それを勝負の場での攻めや守りにも使えるのだ。
「あの者は特にな」
「気を上手に使っていますな」
「それで刀の間合いの分を補っていますな」
「普通刀と素手では刀の方が断然有利ですが」
「気で互角に闘っていますな」
「そうじゃ、だからこそ強い」
 望月、彼はというのだ。
「これは互角じゃ」
「ですな、あの者相当にです」
「強いです」
「我等と同じだけ、ですな」
「強さを持っていますな」
「そうじゃな、このままいけば互角じゃ」 
 根津と望月の勝負はというのだ。 
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