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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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12部分:第十二章


第十二章

「我が国に代々続く陰陽道の家でして」
「それも裏になるのですね」
「陰陽道にも表と裏があるわ」
 今度は沙耶香が彼に話した。
「それで彼女の家はね」
「その裏ですか」
「こちらの言葉で言うと黒魔術ね」
 沙耶香はあえてモンテスに対してわかりやすいように述べてみせた。
「陰陽道はかなり乱暴に言えば日本の魔術なのよ」
「魔術ですか」
「かなり乱暴に言えばよ」
 それを承知のうえでの説明なのである。
「そうなるのよ」
「ふむ、魔術ですか」
「それで普通の陰陽道が白魔術で」
「裏のそれが黒魔術になるのですね」
「そう考えてもらっていいわ」
 こう彼に話した。
「つまり彼女はね」
「黒魔術師ですか」
「そうなるわ。もっとも私の魔術も黒魔術だけれど」
「何か話が複雑になってきましたね」
「いえ、それはそうではないのです」
 速水は微笑んで考えを混乱させようとしていたモンテスに対して告げた。
「確かにこの方は黒魔術師です」
「はい」
「しかしその魔術は己の目的の為に使うことはありません」
「そうなのですか」
「異性や同性を魅了することはあってもです」
「それについてはあまり強い魔術を使ったことはないわ」
 沙耶香は微笑んで今の速水の魅了のことについて言葉を返した。
「そうする必要がないから。目を光らせて魅了した位ね」
「そうですね。貴女ならば」
「そういうことに使うのも好きではないし」
 微かに己のポリシーというものも見せる沙耶香であった。
「だからね。そういうことはね」
「ええ。それでは」
「しないわ。それで話を戻すけれど」
「はい」
 再びモンテスに顔を向けてきたのだった。彼もそれに応える。
「私は仕事して黒魔術を使うことに専念しているわ」
「そうなのですか」
「そうよ。あくまで仕事として」
 このことを強く述べるのだった。
「私の主義として自分の感情や目的で他人を害したり殺めたりするのはね」
「お嫌いなのですね」
「主義ではないわ」
 そうだと返すのであった。
「あくまでね。それは私の主義ではないのよ」
「左様ですか」
「だから。それはしないわ」
 そしてまた言うのだった。
「決してね」
「その辺りはしっかりとされていますね」
「黒魔術であっても使う者によって違ってくるのよ」
 語る沙耶香の声の色が変わってきていた。
「それは裏の陰陽道も同じよ」
「ではあの高田依子は」
「代々続く裏の陰陽道の家なのは言ったわね」
「ええ、それは」
 既に聞いていることであった。モンテスはすぐに頷いて答えた。
「もう。聞かせてもらいました」
「代々歴史の裏で暗躍もしてきた曰くつきの家でもあってね」
「中々厄介な方なのです」
 ここでまた話に加わる速水だった。
「これがまた」
「厄介なのですか」
「そうなのです。実はあの方と対峙するのはこの巴里がはじめてではありません」
 速水はこの事情も話した。
「以前にも何度か対峙して術で戦ってきているのです」
「そうした御関係でしたか」
「あの方も祖母にも」
 不意に彼女の血縁者の話も出した。
 
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