箱庭に流れる旋律
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
歌い手、何も言えない
「ハァ!?あのバカがあの城に乗り込んで行っただぁ!?」
ご主人様が勝手に城に行ったことを伝えると、まあ予想通りの反応が返ってきた。そうなるわよね・・・私だってそう言う反応するもの。
「一応、レヴィちゃんについて行ってもらったから大丈夫だとは思うんだけど・・・」
「レヴィさんに・・・でも、ロロロさんも一緒に行ったのでしょう?さらに子供たちもいることを考えると、さすがに難しいんじゃあ・・・」
「う~ん・・・それはたぶん、なんとでもなると思うよ?」
と、ユイのその言葉で十六夜と黒ウサギ、飛鳥の三人が首を傾げる。そう言えば、この三人にしてみればレヴィってユイと一緒にいたから連れ帰った、その流れで(ノリともいう)隷属した護衛役のニンジャ、だったわね・・・
「まあ、それはいいのよ。事実ご主人様は大丈夫だろうし、もし何かあったら私やユイにはすぐに分るもの」
「ああ・・・“共鳴”のギフトか」
「ええ。死ぬまで行かなくても、重症だったり何かあれば“共鳴”の効果は薄まる。万が一に死んだのなら、私はユイから離れられなくなるわね」
「・・・最悪の事態が起こったかどうかについては、それで判断がつくってわけだな」
冷静な判断ね、これは。さすがは十六夜だわ。
まあ、それに・・・
「相手に音楽シリーズのギフトも違いない、とも限らないもの。歌い手と打楽器奏者の二人が向こうに行ったのは、必ずしも間違いではないわ」
「確かに・・・そう言う意味合いでは、四人いる“音楽シリーズ”が二人ずつになったのはいいのかもな」
・・・そう、ね。でも・・・
「ろくな戦闘能力のない二人が城に行って、戦う手段のある私たちが地上に残った。これがよかったと・・・本当に言えるのかしら?」
そこだけが、不安要素なのよね。
♪♪♪
「さ、どんどん行くっスよー!」
そう言って飛び出して、とても身軽に跳び回るレヴィちゃん。さすがに動きづらくなったのか、服装が変わってますけど・・・それにしたってすごすぎます。いや強いことは知ってたんですけど、まさか。
「まさか、跳び回りながら一瞬で仕留めていく、なんてことが出来るなんてなぁ・・・」
「レヴィお姉ちゃんが冬獣夏草の前、に一瞬、立ってから切り刻まれるまで・・・時間が空いて、ます」
「どうなってるんだろうねぇ・・・」
まあ、うん。そう言う状況なわけで。
ロロちゃんに聞いたところ、あの相手の核のような部分は鉄塊ぐらいの硬さがあるそうなのに、どんどん切り刻まれていって、本気で相手がかわいそうに見えてくるレベルです。
「普段ふざけてたり弄ってきたり、そんな面が多かったからなのかな・・・僕のニンジャさんが、こんなに強いとは思ってもなかったよ・・・」
「ロロも、予想外です・・・」
「ねえ、勝手なイメージなのかもしれないけどさ。猫って身軽じゃない?」
「です、ね・・・」
「猫族の人も、あんなことが出来たりするの?」
勿論ながら、そう言って指さすのはレヴィちゃんです。もう彼女一人いれば全部解決するんじゃないか、と思ってしまうレベルです。
「無理、です・・・身軽に跳び回って戦う人がいなかったわけじゃない、ですけど・・・あそこまでは、さすが、に・・・」
「だよねぇ・・・」
うん、やっぱり箱庭から見てもレヴィちゃんは強いそうです。あれですね、そろそろ本気で僕、“ノーネーム”の中で肩身が狭いです。
「お、新しいのがいるッスね」
「新しいの、ですか?」
「ええ、これまでに見たのとは全然違う見た目ッスよ。あれは・・・カボチャ?」
カボチャ、カボチャですか・・・あの相手ってみんな植物がベースの中にあるみたいなんですけど、それがカボチャよりとかそう言うことでしょうか?
「・・・他には、何かありますか?」
「そうっスね・・・こう、カボチャの頭に目と口っぽい穴が開いてて、体の部分は襤褸切れをマント見たくしてるっスよ」
「ふむふむ・・・」
なんででしょうか、どこかで見たことがある気がします。それにしても、どこでなのか・・・
「まる、で・・・ジャック・オー・ランタンみたいです、ね・・・・ハロウィン、の」
と、ロロちゃんのその一言で思い出した。そうだ、ハロウィンのジャック・オー・ランタン。春日部さんが出場してたゲームの決勝戦での相手の子が連れてたのが、そのひとだったはず・・・と、思い出したときにはもうレヴィちゃんは走り出してた。
「ちょ、ちょっとレヴィちゃん!ストップ!その人、敵じゃないです!!」
慌てて呼び止めつつ、レヴィちゃんの向かった方向に走る。本当に慌ててたから全力疾走して、完全に息を切らした状態で追いついた時には・・・
「ん?どうしたんスか、奏さん?自分としては急に呼び止められたので、ギリギリ止まったところなんスけど」
「い、いえ・・・ちょっと、思い出し、まして・・・」
膝に手をついて、肩で息をして、それでも体が疲れ切って悲鳴を上げていて耐えられなかったので、崩れるように座り込んでから水樹の幹で水分補給をして、ようやくレヴィちゃんの方を見れました。あと、
「どうもお久しぶりです、アーシャさん」
レヴィちゃんの足で押さえつけられて首筋にクナイを当てられているアーシャさんと。
「それに、ジャックさんも。どうもお久しぶりです」
「ヤホホ・・・これはこれは奏さん。お久しぶりですね」
と、レヴィちゃんに逆の手で押さえつけられつつ、レヴィちゃんのくわえた糸で全身が捉えられている、次の瞬間にでも切り刻める形になっているジャックさんに会いました。
レヴィちゃん・・・貴女、本当にどれだけ強いんですか・・・何も言えませんよ、ここまでなると。
ページ上へ戻る